背徳の楔 03


「そう泣くなって……て言っても無理か。なな、時期が悪かったぜ」

 家族会議から数分後、七瀬は京次の部屋で泣いていた。
 その頭を隣に座った京次が片手で引き寄せて胸に抱く。


「………」

 七瀬はされるがままで、すすり泣く。

「まあ、ななも高校生だもんな。おしゃれの一つや二つ、したいのは分かるよ」

 金色の髪にチュッとキスが落とされたのを聞いて、七瀬はぱっと顔を上げる。

「じゃあ、染めないでくれる?」

「それは無理。俺が兄貴に怒られる」

「もう! 臣兄(おみにい)も京兄も大嫌い!」

「え、俺もかよ。そんな寂しいこと言うなって。俺はななの味方なんだからさ」

「………」

 唇を尖らして膨れる妹に、京次は苦笑いして頬にキスをする。
 京次は極度のシスコン兼スキンシップ魔なのだ。


「だからさ、なな。頭使えって。取り敢えず当分はヘアマニキュアで真っ黒にしておいて、ほとぼりが冷めたころに、徐々に元の地毛の色にしていけばいいだろ」

「……確かに。京兄、頭いい」

「お前が馬鹿なんだよ。まあ、そこも可愛いんだけどな。じゃ染めていいんだな?」

「うん! ねえ、家族風呂の方がいいかな?」

「ああ、あっちの方が広いし」

「了解! ……ねえ、京兄……」

「ん?」

「ありがう……ね!」

 七瀬はそういうと京次の頬にキスをして、恥ずかしそうに小走りで退散した。

「可愛いやつ」









「塗れた? 京兄」

「うん……あともう少し……出来た!」

 モダン和風の家族風呂で、リクライニングの付いたロッキングウッドチェアに寝そべった七瀬は、腰まである長い髪を京次に染めてもらっていた。
 京次は腰にタオルを巻いた格好で、楽しそうにヘアマニキュアを塗りたくっている。


「ありがとう、京兄。自分じゃ絶対無理だったよ」

 身体を起こして礼を言おうとした七瀬を、京次が肩を押してとどめる。

「あ、動かないで。首や背中が黒く染まる」

「そだね、ごめん」

「しかし、ななの黒髪か〜。初めて見るなあ」

「すっごく似合わなかったらどうしよう。センパイに嫌われちゃう!」

「大丈夫だって。俺の妹なんだから自信持て。ななは可愛い」

 京次はそう言って頬にキスをしようとしたが、自分にマニキュアが付くと思い、バスタオルを巻いていてもむき出しの七瀬の鎖骨に、チュッとキスを落とす。

「う……ん。くすぐったいよ」

「いいじゃん。お風呂にいるななは、いつもより色っぽくて可愛い」

「嘘! 頭染めてるのに、可愛いわけない」

 七瀬は自分の今の格好を想像して、情けなくなる。

「そんなことないのに……ほら、可愛い」

 何を思ったのか、京次は七瀬のバスタオルを胸のところだけ捲ると、面白そうに笑う。
 中からは少し上向きの形のいい白い乳房が零れ落ちた。


「きゃっ……もう! どうせ胸大きくないですよ〜だ!」

 七瀬は最近やっとCになった胸を隠すように、両腕を巻きつける。
 しかし京次はその腕を解かせて片手で掴み上げると、開いた方の片手でそっと胸に触れる。


「また彼女と別れちゃったの?」

 京次はとてつもなくモテる。

 桐敷の次兄にして現在医学部のインターン。
 将来を有望視されていながら容姿も甘く、色素の薄い髪や肌・瞳も相まって、女達が放っておかないのだ。
 だからひっきりなしに彼女が出来る。


 しかし、彼女達は知らなかったのだ。
 京次が根っからの超シスコンであることを。


 デートをすれば、妹の好きそうなものにふらふらと吸い寄せられ、さらには妹に会いたいからとさっさと家に帰ってしまう。
 だからすぐに彼女に振られるのだ。


 そしてその鬱憤(うっぷん)を、京次はたまに妹で晴らそうとするのだ。

「もう、京兄。ちょっとだけだよ!」

 七瀬は諦めて、強張っていた体の力を抜く。  それに気づいて京次が腕の拘束を解いた。

 鎖骨をざらざらとした舌で舐め上げられただけで、変な声が出そうになる。
 両手で口を覆った七瀬を、京次が止める。


「なんで? 可愛い声聞かせてよ」

「だって……なんか反響しそう……お風呂だし」

「まだまだ恥ずかしがり屋だな」

 鎖骨が弱いと分かった京次は、そこを執拗に舌で辿る。

「う……ん……やぁ……」

 我慢できずに小さな声が漏れる。
 それはやはりお風呂の中で反響し、大きくなって七瀬の鼓膜を震わす。


(もう……やだ、恥ずかしい)

 くすり。  胸のあたりから小さな笑い声が聞こえて、不安になった七瀬はどもる。

「え……な、何?」










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