背徳の楔 04
「いや。鎖骨を舐めただけで、乳首立っちゃってるよ」
「やだ! そんなことないもん!」
七瀬はかあと頭に血が上るのを感じた。
京次はゆっくりと両の胸を周りから撫で擦(さす)り、その形を確かめる様に優しく揉んでいく。
「や……ん……」
「ほら可愛いよ、見て、なな」
呼ばれて京次の方に視線を向けると、そこには京次の掌の中にすっぽり納まった乳房があり、その先端はふっくりとそそり立っていた。
「いやあ……」
「何が嫌なの?」
京次はこの上なく楽しそうに、七瀬の耳元で甘く囁く。
京次の色素の薄い栗色の髪が頬を擽る。
両手は休められることなく揉みしだかれ、その力は徐々に強くなり、視界に入る胸はその掌の中でむにゅむにゅと形を変えていた。
「やあ…………わって……」
「うん?」
「乳首も……触って……」
「よく言えました」
くにゃり。
乳首が指の腹で押しつぶされるように捏ねられ、七瀬の身体がびくりと波打つ。
背筋を小さな稲妻が走るように、ピリピリとした気持ち良さが突き抜ける。
「何? 乳首だけで、軽くいっちゃった?」
京次の艶めかしい囁きが耳朶を濡らす。
「やあ……もう、やだぁ……」
ぴくぴくと痙攣する七瀬の胸の突起に、京次が唇を寄せようとした時――。
ピピピピピピ……。
軽いアラーム音が鳴る。
髪の毛からヘアマニキュアを流すまでの時間を、タイマーで計っていたのだ。
「じゃあ、髪の毛流すぞ〜。うん? どうした。もっとしてほしかった?」
そうからかう京次を涙目で睨み上げながら、七瀬はバスタオルを胸に巻き付けなおす。
「そんなことないもん!」
「分かった分かった。また、今度な」
お風呂から上がると、京兄が髪を乾かしたいと言うので、乾かしてもらった。
「なんかこうしてると、私って愛玩動物みたい……」
犬っぽいなあと思って発した言葉だったが、京次は違う意味に取ったようだ。
「そう? 俺のものになってくれるなら、もっと愛してやるよ」
「いい。血の繋がったお兄ちゃんだもん」
「そうなんだよな〜。なんで血が繋がってんだか……」
京次は心底悔しそうに、そう呟く。
彼は医師の卵であるから、近親相姦による弊害を十分承知しているのだ。
「ほら、乾いたぞ……って……」
「……?」
急に絶句した京次につられて視線を上げた七瀬は、自分が映った鏡を見て、目をぱちくりする。
(あ……よかった。黒髪も結構似合うかも……)
ほっとした途端、後ろからぎゅうと抱きしめられる。
「な……何?」
「いいっ! すっごくいいっ! うわ、何この清楚さ、可憐さ! 半端ない。食べちゃいたい」
「食べないでください……」
あまりにオーバーな言葉で、瞳を輝かせながらそう褒めちぎる京次に、七瀬は少しひきつった顔で冷静に突っ込む。
しかし本人は分かっていないだけで、七瀬には黒髪が良く似合った。
重すぎずなく美しく流れ落ちる、濡れた様な黒髪。
それを引き立たせるためにあるような、色素の薄いシルクの様な肌。
いつもうすピンク色の唇は、黒い色の力を借りてかいつもより色濃く、一種妖艶ささえ感じさせる程、艶めいて見えた。
「冷たい……それより、行くぞ、なな! 臣兄のやつ、絶対腰抜かすって!」
なんだかテンションが上がったらしい京次は、七瀬の腕を強引に引っ張ると、家族風呂の脱衣所から廊下へ出た。
するとタイミングよく、階段から一臣が降りてきた。
手にはタオルが持たれていたので家族風呂に入りに来たのだろう。
「お、臣兄! 見ろよこれ!」
「なんだ?」
じろりとこちらに目をやった一臣は、七瀬の姿を目にして、ピシリと音を立てて固まった。
「ほら! ちゃんと黒くしたよ! もう、文句ないでしょ?」
七瀬は先ほどの一臣との言い合いを思い出し、可愛くない言葉を吐きながら髪を摘まんで見せる。
しかし、目の前の一臣は目を見開いて七瀬を見つめているだけで、うんともすんとも反応しない。
「もう。臣兄ってば聞いてるの? ……お兄様?」
何度も呼びかける七瀬にようやく我に返った一臣は、瞬きをして一瞬狼狽(うろた)えた顔をして見せた。
「……いいんじゃないか」
一臣はそう言い残すと家族風呂に入り、後ろ手でパタンと引き戸を閉めた。
「………」
ぽかんとする七瀬の横で、京次が驚く。
「見たか、なな。臣兄のやつ、すんげえびっくりしてたぜ!」
「う……うん。なんか……意外」
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