背徳の楔 06


「ん……なんだ?」

 七瀬が箸を付けないのに気付いた一臣が、不審げな瞳で見返す。

「い、いいえ。何でもありません。これ私が作ったの。いっぱい食べてね」

 手元の里芋の煮つけの小鉢を指すと、一臣がさっそく箸をつける。

「……うん。うまい」

「本当! お兄様嬉しい!」

 七瀬はそう言って喜んだ後、はたと止まる。
 そう言えば、中等部まで、一臣はよく七瀬の作った料理を褒めてくれていた。
 最初の頃は失敗したりもして、他の兄達は食べるのを嫌がったりもしたが(京次は例外で喜んで食べた)、いつも美味しいと言って残さず食べてくれていた。


「ふふ」

「……なんだ?」

「ええ。昔の事思い出しちゃって。私よく失敗したのにお兄様、残さず食べてくれたなあって……」

「私は親代わりだからな……」

「え……?」

「ばあや、もういいよ。後は食器洗浄機に片しておくから。お疲れ様」

 一臣は話を途切れさせると、ばあやに休むよう促す。
 ばあやがダイニングから出ていった。


 かちゃかちゃと食事の音だけが、静かなダイニングに響く。
 七瀬は箸を置くと、少しうなだれた。


「……ごめんなさい……お兄様はいつも私の事を考えてくれていたのに……」

(私は谷町センパイに入れあげて、臣兄のそんな優しさまで見失っていたんだ――)

 高等部に入ってからの七瀬は、本当にひどかった。
 家庭教師の時間になっても戻らず、授業もまじめに受けなくなり、成績は下降を極めた。
 自分自身で始めたバイオリンとピアノの習い事もさぼりがちで、先生は怒って来てくれなくなった。


(それなのに私は、臣兄が酷いって言ってばかりで――)

 しゅんと落ち込んだ七瀬の頭に、ポスンと大きな掌が置かれる。
 驚いて顔を上げると、一臣の瞳と目が合った。
 笑ってはいなかったが、その瞳はとても優しいものだった。


「反抗期……だったんだろ?」

「反抗期……」

「七瀬は高等部に上がるまで、一回も反抗期がなかったから、逆に心配していたんだ。でも思っていたより終わるのも早かったな」

 頭がガシガシと撫でられる。
 その不器用さが一臣そのものを表しているようだった。
 七瀬の瞳から、ぽろりと涙が零れる。


「……何で泣く……?」

「だって、だって……」

 七瀬はまるで駄々っ子の様に呟く。

「昨日のお兄様……私の事を汚いものを見る様な目で……」

 髪を黒くするのを必死に抵抗した七瀬に向けられた、あの冷たい瞳。
 それを思い出して、七瀬はまた頬を濡らす。


「馬鹿……。そんなことあるはずないだろう」

「本当に……?」

 しゃくりあげる七瀬に、一臣は今度は本当に笑みを零す。

「可愛い妹だぞ。汚いなんてこと、思うわけないだろう?」

「う……ん……」

 七瀬は泣いているのが恥ずかしくなり、照れ隠しで一臣の胸に飛び込んだ。
 微かにタバコと香水の香りが漂う。
 胸の中はとっても温かくて、居心地が良かった。


「甘えん坊に戻ったのか……?」

 一臣は抱きとめながら苦笑いして、七瀬の背中をいつまでもさすっていた。









「京兄(きょうにい)ぃ……だめ、それ……」

「駄目じゃないだろ」

「ダメ……んぅ……!」

「嘘つくなよ。そんなによがってるくせに」

 室内に、ぴちゃぴちゃと水音が響く。

 髪を黒く染めてから一カ月後。

 七瀬は京次(きょうじ)の寝室で、部屋の主にベッドの上に縫いとめられていた。
 その黒髪は弧を描くようにベッドの上に広がり、その中心で薄桃色のネグリジェをずらされて露わになった白い肌を、より一層際立たせていた。


 身体をくねらせ快楽に身を捩(よじ)る妹を、京次はその腰のあたりから見上げてほくそ笑む。
 再度、秘所に長い舌が這わされる。
 その先が小さな突起に触れた瞬間。


「ひゃあ……っ!」

 七瀬は可愛い声を上げて達してしまった。
 肩ではーはーと息をする七瀬の顔を、京次が上から覗き込む。


「敏感すぎだって、なな」

「……それって……いけないこと?」

 不安そうに見上げてくる七瀬の頬は薔薇色に染まり、唇は艶々と濡れていた。

「全然。とってもいいこと」

 京次がその唇に口づけしようと顔を寄せた時。

「あ……」

 七瀬が緊迫した声を発するので気が付いた。

「ああ、ごめんごめん。初キスは好きな人に捧げるんだっけ」

「うん。ごめんね、京兄」

 困ったように見上げてくる妹を、京次はぎゅうと抱きしめる。

「そういう変なこだわりも、可愛いから許す!」










戻る 前へ 次へ