欲望の行末 〜愛しのアンドロイド〜 02


「どうしてですか。私はロボットなので、感情はありませんが」

「どうしても! なんかパパに見られてるみたいで、やだ!」

「かしこまりました」

 三号はそう言うと、くるりと後ろ向いた。
 絢はやっと着替えを始める。


「三号君。これから祐二さんって呼ぶね」

「祐二……でございますか?」

「うん。パパが祐一だから、貴方は祐二さん……やだ?」

「滅相もございません。名前を付けていただいたことなど、今までなかったもので……しかし、呼び捨てでよろしいですよ?」

「ううん、祐二さんって呼ぶ。設定年齢を考えたらそうすべきでしょ」

「分かりました。制服をお預かりします」

 着替え終えた絢から、祐二は制服を預かる。
 その際に軽く触れた肌が暖かくて柔らかいことに、絢が気付く。


「わ、凄い! 見た目だけじゃなくてさわり心地も人間と同じだね」

 絢は祐二の手を取る。

 暖かくて柔らかいけど、少し硬い。
二十歳の青年そのものの細長いけれど角ばり、少し血管の浮き出た掌。


「はい。『どこもかしこも人間と同じように!』が今回の岬教授のこだわりです」

「どこもかしこも……」

 そう言った途端、自然と絢の視線が制服を片付けてくれている、祐二の下半身に移る。

「全身をご覧になりますか?」

 祐二は少し首を傾けると、お仕着せのネクタイにグローブに包まれた手を伸ばす。

「いいっ!! 脱ぐな! 脱がないで!!」

「そうですか? では、ご用がないようでしたら、食事の支度をしてまいります」

「はい、ないです! どうもありがとう」

 赤くなった絢を不思議そうな表情で見ると、祐二は絢の部屋から出て行った。











 祐二との生活は快適そのものだった。

 彼は学習能力に優れているらしく、一日で絢の行動パターンを分析、蓄積すると、翌日からは完璧な使用人としての働きをしてくれた。
 また、人間の色んなことに興味を持つように設計されているらしく、絢に何かと構ってくる祐二にいつしか絢も心を許し、数日経った頃には、絢の話し相手にまで昇進していた。
 その日もバラエティー番組を見ている絢の斜め後ろに立つと、祐二から口を開く。


「絢様はボーイフレンドはいらっしゃらないのですか?」

「うん、いないよ」

「そうですか。統計的には十七歳の女子高生の彼氏有率は四十%ですね。絢様は素敵ですので、いらっしゃるのかと思っておりました」

 祐二は優しそうな笑顔でそう言う。

「わあ。お世辞まで言ってくれちゃうの?」

 おどけた絢に祐二は至極真面目に答える。

「私の女性の好みは岬教授の好みそのものに設定されております。ですので……」

「なるほど。お母さん似の私は、祐二さんには理想の女性に映るわけか」

「はい」

「私はしばらく彼氏は作るつもりないわ。お父さんにもそう報告していいよ」

「そうですか。しかし、なぜ彼氏を作らないのですか?」

「……男なんて……最悪なんだもん」

「最悪? どうしてですか?」

「だって、自分勝手だし、……エッチだし」

 後半はぼそっと祐二に聞こえないように呟いたつもりだが、超音波さえ聞き取る祐二には、難なく聞き取られてしまった。

「えっち……? 少しお待ちください。調べます……」

「わあっ!? いい、いい! 調べなくて!!」

 数日一緒にいて分かったことだが、祐二は分からないことがあると内蔵のコンピューターシステムで直ぐに検索し、知能を増やすらしいのだ。

「〔「変態」のローマ字書き hentai の頭文字から〕性的にいやらしいさま。また、そういう人……でございますか?」

「……そうです」

 絢は虚脱してそう返す。

「変態は困りますね……」

 しみじみとした表情で祐二が答える。

「……そうですね……」

(め、めんどくさい……)

 絢のその気持ちが伝わったのか、祐二はそれ以上追及しては来なかった。

 

 









「おはよ〜」

 翌朝、間延びした声で、絢は教室に入る。

「おはよ〜絢。なんか疲れてない?」

 既に自分の席に付いていた親友の直美が、絢の顔を見るなりそう突っ込む。

「それがさ〜聞いてよ。うちにまた新しいロボットが来ちゃってさあ」

「また? 二号君ってどれくらい居たの?」

「う〜ん、一年居たか居ないか」

「パパも頑張るねえ」

「うん?」

 直美の良く分からない相槌に、絢が聞き返す。










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