欲望の行末 〜愛しのアンドロイド〜 01
西暦二〇七〇年。
見渡す限りの草原の中。
三人の子供たちが、草むらの中を転げるようにして走りまわっている。
青臭い草のかぐわしい香りが、少し離れたところで眺めていた青年のところまで香ってくる。
子供のうちの一人が青年の視線に気づき、嬉しそうにこちらに掛けてきた。
その子はにこりと笑うと、こてんと首を傾ける。
「じいじ。じいじはどおして、いつまでもキレイなままなの?」
じいじと呼ばれた容姿の整った青年は、一瞬瞳を揺らす。
しかし直ぐにその瞳を優しく細めると、形の良い唇の前に人差し指をかざし、悪戯っぽい顔をして口を開いた。
「それはね――」
西暦二〇一三年。
「おっ届っけもので〜す!!」
絢(あや)が学校から帰宅した直後、玄関の呼び鈴と元気な配達屋さんの声が玄関から聞こえる。
この家の人間は絢一人だが、お手伝いロボットの『祐二君 二号』が対応してくれるだろうと、絢はセーラー服の制服を脱ぎかける。
しかしその数十秒後、部屋の扉がコンコンと、規則正しくノックされた。
「絢オ嬢様。オ届ケ物ハ、ゴ本人デナイトオ渡シデキナイソウデス」
祐二君二号のたどたどしい言葉。
「は〜い、ちょっと待ってね」
絢はまだ着替えのすんでいない制服のまま玄関を降りると、先ほど脱いだばかりのローファーに足を入れ、玄関の扉を開ける。
そこには人が良くて力持ちの典型なタイプの配達屋さんが立っていた。
「岬(みさき)絢(あや)さんでいらっしゃいますね? 岬 祐一(ゆういち)様よりお荷物をお預かりしております」
「あ、はい、そうです。パパから? なんだろ」
「重いものなので、中まで運んでよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
荷物は2メートルはあろうかという大きな木の箱だった。
「実は引き取りも承っておりまして、そちらの旧式のロボットを回収するようにとの事なのですが」
配達屋の視線が、絢の後ろに立っている祐二君二号に留まる。
「え、そうなの? じゃあもしかして、新しいロボットを届けてくれたの?」
「はい、開けてよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
配達屋は手際よく梱包を解いていく。説明書等の書類を絢に渡すと、透明なフィルムに包まれた使用人のお仕着せを着たロボットの額を指し示す。
そこにはたんこぶの様な、少しふっくらしたふくらみがあった。
「ここを絢さんご本人が押してください。そうすれば自動で動くそうです」
「はい」
言われた通り額の膨らみを押すと、そこは平らになりロボットの瞳が開いた。
ゆっくり上半身を起こしたそれは、フィルムを自分で破ると、素晴らしくスムーズな動作で口を開く。
「はじめまして、絢様。私は岬祐一教授によりつくられた、家事手伝いアンドロイド三号です。今日から絢様の身の回りのお世話をさせて頂きます」
その言葉は二号のようにかくかくとした機械ぽさはなく、人間とまったく見劣りしなかった。
隣に立っていた配達屋も息を呑んで驚いていた。
「そう、よろしくね……そっか。じゃあ祐二君二号とは今日でお別れなんだ……」
「絢様。本日マデ、大変オ世話ニナリマシタ」
「こちらこそありがとう、二号君。君がいてくれて助かったわ」
絢はそう礼を言うと、鋼鉄製の頬にそっとキスをする。
二号はお辞儀をすると、自分から木の箱に収まった。
「さようなら。本当にありがとうね。パパによろしく」
「ハイ。マスター」
二号が瞼を閉じたのを確認し、絢は額のボタンをポツリと押す。
その瞳から一筋涙が零れ落ちたが、絢は恥ずかしそうにすぐ拭った。
「配達、よろしくお願いします」
隣の配達屋にそうお願いすると、彼はまたテキパキと梱包を済ませ帰って行った。
絢はふ〜と息を吐き出すと、玄関のドア閉める。
くるりと振り返ると、そこには人間にしか見えない青年が立っていた。
「しっかし、今回の三号君は凄いね! どっから見ても人間にしか見えない」
そう感嘆した絢に、三号はにっこりと微笑む。
「ありがとうございます。このバージョンはより人間に近づけるのを目的に開発されました。まだこの世界に私の一体しかおりません。岬教授の技術の推移を集められた一体です」
「そ……。パパ元気?」
「はい。毎日意欲的に研究に取り組んでいらっしゃいます。絢さんの写真はいつも持ち歩いていらっしゃいますよ。ちなみに私の骨格等は、岬教授の二十歳の頃をモデルに作られています」
「だろうね……若いときのパパの写真って数回しか見たことないけど、瓜二つだもの」
絢の父は現在四十二歳。
早くに妻と死に別れ、現在は一人娘の絢を日本に残し、アメリカのマサチューセッツ工科大学で工学博士としてロボットの研究を続けている。
そしてたまに使えそうなロボットが出来ると、こうやって絢に送りつけてくるのだ。
「しかし自分の若い時の顔で造るなんて、パパってば結構ナルシスト?」
絢はそういうと、しみじみと三号の顔を見る。
流線型の輪郭に、優しげで少し甘さのある目元、形の良い引き締まった唇。
「いいえ。岬教授は絢様がいつも自分と離れていて寂しいだろうからと、私をこの顔に作られました。ちなみに若い理由は、『よくある娘の反抗期に、パパ嫌いと言われる現象を避けたいがため』だそうです」
「あ……そ……」
呆れた理由に嘆息しながら、自分の部屋に戻る。
制服から着替えようとして、絢ははたと止まる。
「ごめん。後ろ向くか、外で待っててくれる?」
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