欲望の行末 〜愛しのアンドロイド〜 04


「はい。私は一日でも早く、絢様の全てを知りたいと思っています。それにはご友人と一緒にいらっしゃるところを拝見するのが一番早いと考えました」

「え!? そんなに絢の事が好きなの?」

「はい」

 驚いて突っ込んだ直美に、祐二は満面の笑みで肯定する。

「ちょ、ちょっと! なに恥ずかしいこと言ってんのよ!! もういいから出てって!」

 絢はそう言うと、祐二を部屋から追い出した。



 祐二がどうしても食べてくれと頼むので、食べてあげた夕食後。  気疲れした絢は早々にお風呂に入ると、就寝しようと二階の自室の階段を上っていた。

「もう、お休みですか?」

 下から祐二の声が聞こえて振り返った時。
 きちんとタオルでふき取っていなかった髪の毛から水滴が落ち、絢はそれに足を滑らせ、階段の中腹から踏み外す。


「………っ!?」

 空中をスローモーションの様に落ちていくのが見える。
 階段の映像が反転して――、


(やだ! 骨折しちゃう――!?)

 絢は恐ろしさと、これから来るであろう痛みに耐えるべく、ぎゅっと瞼を閉じる。

 どさ。  ごと。

 凄い音がしたが、思ったよりは痛くない。
 恐る恐る目を開いてみると、目の前には祐二の胸があった。


(もしかして、庇ってくれた――?)

 ばっと身体を起こし祐二の顔を覗き込むと、瞼は閉じられ、長い睫毛はぴくぴくと小刻みに震えていた。

「祐二さん!? 祐二さん、大丈夫っ?」

 頬を少し平手で叩いてみるが、瞼がぴくぴくと動くだけで、他の反応は全くない。

「ど、どうしよう。壊れちゃったのかな……あ、そうだ。パパ、パパに聞けばいいんだ!」

 絢はそう言うと、携帯電話をポケットから取り出し、父親の携帯電話に掛ける。
 三回の呼び出し音の後、父親の能天気な声が聞こえてきた。


『ハロ〜、愛しの子猫ちゃん! 元気にしてる?』

「子猫ちゃんじゃない! パパ大変! 祐二さん階段から落ちた私を庇って、意識を失っちゃったの」

『祐二さん? ああ、三号のこと。どんな状態なんだい?』

「瞼が痙攣しているだけで、他は全然反応ない!」

『ふ〜ん、瞼開けてみて。どうなってる?』

「ちょっと待って」

 絢は携帯電話を顎と肩で挟むと、両手で祐二の瞼を開いてみる。
 瞳孔は入ってきた光に反応し、きゅうと収縮した。


「瞳孔は収縮したよ!」

『ああ、じゃあ大丈夫だ。頑丈に作ってあるからね。もう一度、おでこのボタンを長押ししてごらん?』

「う…うん……」

 指示された通り、恐る恐るおでこの真ん中を押すと、ピーという音が鳴る。
 長めに押してから離すと、それと同時にゆっくりと祐二の瞼が開かれた。


「祐二さん!! 大丈夫?」

「絢様? 大丈夫ですか、どこか打たれましたか? 顔色が悪いですよ?」

 祐二は何事もなかったようにすくっと上半身を起こすと、心配そうに絢を覗き込む。

「わ、私は大丈夫。祐二さんが助けてくれたから」 

『絢、三号に代わってくれないか?』

 電話の向こうからの父の声に、絢は携帯電話を祐二に渡す。

「はい。教授お久しぶりです。ええ、大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」

 二人はその後いくつか確認をしていたらしかったが大丈夫だったらしく、電話は切られてしまった。











「直美〜聞いて、昨日、超大変だったの!」

「うん? 着替えでも覗かれた?」

 真面目に話そうとする絢に、直美がそう茶化す。

「違う! 祐二さんが階段から落ちた私を庇って、頭打って失神しちゃったの」

「え〜っ!? 大丈夫だったの?」

 口を大きく開いてびっくりして見せた直美に、絢は頷く。

「うん。大丈夫だったみたい」

「みたいって?」

 直美の追及に、絢は困惑する。

「なんて言ったらいいのか分からないんだけど……見た目は普通なんだけど、なんかより世話焼きになったというか、お節介になったというか……」

「へ? いいじゃん。楽できて」

「そんなことない。直美だってちょっとめんどくさそうって言ってたじゃない。それに輪をかけてうざくなってきたんだよ?」

 絢は眉をハの時にする。

「あ〜それはさらに絢パパに近づいた感じだねえ。せっかく親から離れて羽伸ばせてるのに、そんな監視役いたら、親がいるのと変わんないね」

 直美の言い分に、絢は言葉が詰まる。
 彼女がこう言うのは絢のせいなのだ。
 絢は父がいない寂しさを紛らわせるために「一人って超いい! ロボットが家事やってくれるし、誰にも注意されたりしないもん」と言い続けていたからだ。
 本当は三号が来るまでは、もろアンドロイドの二号と一人と一台、寂しくやっていたのだ。


「そ、そうなの! 勘弁してほしい」

 どもってそう答えた絢に、直美は苦笑する。

「素直じゃないなあ。絢、とっても充実した顔してるよ、最近」

 つんとおでこを突かれて、顔を赤くした絢が「そ、そんなことないもん!」と強がるのを、直美はいつまでも笑って見つめていた。










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