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「今日から劇団アジサイに入団する事になった、村井菜穂です。好きなことは体を動かす事!!どうぞよろしくお願いしまァす!!」
菜穂は、元気よく自己紹介をした。ののは、菜穂とは目を合わせないようにしてうつむいた。すると、菜穂がののに近づいてきて言った。
「脇役、よろしくね」
菜穂は、薄く笑いながらののをにらんだ。そして、その後すぐレッスンが始まった。まずは、発声練習からだ。腹筋10回、背筋10回、コレを3セット繰り返してから、腹式呼吸の練習をする。そのあと、各自で歌を歌う。ダメな所は、先生から指摘をもらいながら。
ののは、2セット目までは体力が持つのだが、3セット目はもうダメだ。ヘトヘトになりながらゆっくり背筋を始める。ソレを見ながら、菜穂は余裕そうな顔で3セット目をやり始めた。
「ハイ!!次は発声練習しましょう」
先生が大きな声で言った。のの達は列に並んで、ア〜〜♪とか発声する。
「菜穂さん、とても通るきれいな声でいいですね。・・・ののさん、少し音程がずれていますよ!!裕子さん、ちょっと弱いわ。美香さん、もっと高い声で!!」
歌の先生は普段は優しいけど、レッスンになると厳しくなる。しかも、めったにほめる事はない。でも、菜穂は何回もほめられた。
「では、休憩20分!!」
前半のレッスンが終わった。ののは裕子と美香に駆け寄った。すると、菜穂もついて来て、美香の顔をジロジロ眺め回すと、こう言った。
「あなたよね?竹宮るのの妹って言うのは。ふーん。全然似てないわね」
「全然」のところに力を込めて、菜穂はニコニコしながら言った。美香の顔が真っ青になる。すると、裕子が、
「村井さん。ソレはひどいわ。るのさんはるのさん、美香は美香でしょ?」
「あら、そんなことは知ってるわよ。ただ、正直な感想を言ったまでよ」
ののは思いっきり菜穂をにらみつけた。菜穂はニコニコしながら言った。
「美香ちゃん。るのちゃんの妹で、損したわね」
美香は、顔をゆがませて声も出さずに泣き出した。・・・そうよ、あたしはお姉ちゃんといっつも比べられて。そのたびに、お姉ちゃんが憎かった――――
美香はロッカールームへ行った。そして、タオルで顔をゴシゴシ拭いた。ののと裕子は心配そうに見守る。
その頃菜穂は、スポーツドリンクをゴクゴク飲んでいた。何もなかったかのように。
劇団アジサイの入り口でウロウロしていた女性が1人いた。そして、レッスン室へ近づくと、窓を覗き込んだ。その視線は、美香にまっすぐ向かっていた。
「・・・・美香」
女性は、小さな声でそっとつぶやいた。
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