海の日 7.21

久々なので、ダラダラ書くとするか。六月からその気になりかけてもしぼんでしまうのは、活力低下よりも、港の麗しいセイレーンたちの誘いの声が届かないからだ。魚たちの思いの対象からはずされたのか、いや感知できなくなったのか。と嘘臭いたわ言を本年の巻頭の挨拶としてごまかす次第なのだが、人間は夢想する生き物だから、釣り場で魚に対するより図鑑見てる方が勝る場合もある。褒められない。だから私は海幸彦にはなれないのだ。
 つまり、今年は出遅れた。ようやく海の日に。七月下旬ではないか。なんぼ北海道が寒いったって遅過ぎだべ。これとて戸田からの客人が根室入りするので、下見と道具の点検を兼ねてといったところ。去年はまずまずうまく案内できたけれど、さすがに本年初日にぶっつけ本番となると…。こちらは駄目なら明日や来週もあるけど、遠来の客人は一日しかない。もっとも花咲ガニ三バイを望んでいたトーンを、こちらの事情に何かありそうと計ってか、釣りにはこだわらないと落としてきてはいる。

そんなせいでもないが、零時前に寝たので早起きしてしまい、それから竿とリールと仕掛けを見に裏口へ。去年のまま放ったらかしでひどい状態なのは知っている。その後も来るつもりがこれなくなり、住んでるところに道具を置いてないせいとか、これは手入れをしない言訳。置き場は裏口から入る二畳ばかりの物置ながら流し台がある。片づいてて、冷凍庫が入っている。でもおかしいな。駄目になったリールや折れた竿を入れてたカゴがなくなっている。まさか捨てられた?修繕するものを居間に持っていって母に聞くと、ハウスに移したとかで安心する。自分のだけでも手間が食いそうなのに、客人二人分のが加わる。九か月たっているので、去年最終日がどんな状態になってたか思い出せない。それよりもだ、裏口のサンダルが足に合わなくて、気持ちがイラついてくる。実家の履物に文句は言えない。自分が勝手にやることと分かってはいても、ハウスに歩くとサンダルが砂利にとられて不愉快になる。これは運動不足から足元がフラついていると言ったほうが正しい。こんなときの自己嫌悪は倍々返しされた気分になる。
 なんとかかんとか一時間少しで整える。客人の釣りはせいぜい三時間、新品を買い揃えた万全な態勢より、ふだんどおりの貧しい道具がいいと自分をなだめる。リハーサルととらえても、釣りでこれほど気持ちの乗らないのも珍しい。今までで最低だろう。友人のために尽くしていないと心の底にあるからだし、人間怠けてると、遊びさえも重くなってくる。

本年開幕。ただ…同じ港、同じアングル、似た釣果、せめてレイアウトは変えるかと考えたり。
  見やすくするため補正した写真であり、実際は手前からかなりガスッてる。
  二匹目にして小型ながらカレイ。
  西防。この時間が一番晴れかけていた。
  四人組の水槽。光の加減でお粗末な写真だが、カレイの忍術か?
  若い親子の後にいたが陸側に移る。
  子供をみると青空にしてあげたいが。
  本日の総評 まずまずのサイズの花咲9ハイには満足(身入りはともかく)。ただコマイが少ない。いわゆるゴタッペが釣れ過ぎても困るのだが(なことないか)。

南防波堤に向かう。毎度の霧で灯台もよく見えない。釣り年始が海の日だなんて、アタシって礼節の紳士のチャンチャコリンよ。人影なし。西防には二、三人。二十日から昆布の前浜漁が始まり、しかしまだ昨日今日と休みで、もし出漁していたら、十時か十一時以降でないと防波堤に立つのは遠慮するところだった。自分はこの港で八時台から釣ったことはない。
 初日ゆえ、期待よりもまったく釣れないのではないかという心配はある。釣友会に無縁だし、岸壁で知る顔でも連絡取り合うほどには到らず、道新を取ってないので○○港で△△20〜30なんてのも読めず、釣具屋に聞く気にもなれず、まったく情報がない。もっともそれが孤高的で悦に入ってたりする。まあ、前置きも事情も現場ではどうでもいいことで、まず一匹釣れないことには始まらない。それが三十分たってもピクリともせず。魚もカニもいないのか。ネットでの潮見表は、釣りではなく潮干狩りなのだが、前後には○印が付いているのに今日から三日は無印だった。潮干狩りにいい海の条件というだけで、魚のことではないと分かっても、アサリの捕れないのと釣りを結びつけてしまう。潮見表を見るようになってから釣果がよくなったわけではない。活用もしない。きっと潮の悪いときはやめとけば効率的なのだろうが、釣りたいときには釣れなくても向かうのであって、野球の打率稼ぎみたいにはなれない。
 ようやく寝かせた竿がククーッと動く。テトラに移行もあるので余計な竿だては持ってきてない。初日の出にしとこう。コマイ。まずホッとする。実は十日も前、ハリを買いに行ったとき生イソメ100グラムを思い切った。それが冷蔵庫に入れっぱなしになって、部屋にエビ粉もなく、つい三日前に冷凍庫に移したばかりだった。竿二本にその解凍しかかった腐ったイソメとサンマを餌にして、さて食いついたのは腐れイソメだった。腹こわしても虫が好きなのか。
 ほどなく頭になかったカレイ。感覚が戻りつつあるのを確かめながら、ただあくまで、自分の釣りよりカニの下見を兼ねている。実は灯台のところでこれほど低い水位は覚えがなく、もしカニがかかっても手が届かないと思っていたら、む、この重いのはカニだとなる。これは大きかったがいかにもの脱皮。続いて三バイばらす。いることの分かったのもちょい困った。カニ釣り目当ての遠来の客に、今年はいないから期待できないと言えなくなったからで、おそらくあさってになるだろう釣りにまだ自分のコンディションに余裕がないためだ。今日のうちに自信をつけられるか。しかし水位が…。この点では潮見表は必要である。

やがて西防の高いところに五人並ぶ。それが四人まで一様に上下白で、ボート部とか(根室にあるはずない)運動部っぽく見える。たまにしか目に入らなくても、どうしてああまできちんと整列しているのか奇妙な感じがして、変な想像をさせる。海に殉じた若い水平たちの幽霊じゃないかと。どうも個別なアクションに欠けるのである。

車がつけて、一人が様子を聞きにきたので、釣れてると言うには微妙で、ケツの下の5匹ばかりのクーラーを開ける。するとカレイを見たせいか「釣れてるぞー」と仲間に伝える。四人組である。若いグループはやかましくても嫌いではない。欲のないさっぱりしたストレートなやりとりを聞けるから飽きない。

一人だけ名前が連発されるやつがいて、「○○はどこに行っても釣れねーなー」な具合である。その○○が私より突端に来て、友知めがけて投げた。「そっちはカレイが連発したことが一度だけあるけど、昆布がよく引っかかるぞ」と教えてやる。五分余りで巻いて、陸へ投げる。「○○はポイントを変え過ぎなんだよ。もう少し待ってみろよ」と声がする。十分ほどしてまずまずのコマイで、私もホッとした。

釣果としては、四人組が来てからカニ以外はサッパリで、これはコマイが少なかったせいで、初日に小さくてもカレイ二枚ならまずまずだろう。「コマイか」とみな失望気味な口調になるが内心はどうなのか、コマイがあがっていれば防波堤に活況感はある。そこに他の魚も混じる。
 はじめに私に声をかけた広報課役は隣についた。やや後の腰かけにいてオシャベリではないが、アタリがあるや口も忙しくなる。
「おお、来ましたよこれ。ワールドクラスですよ」とみんなを注視させ「れ?ベベだ」とガズナギのデカイのを垂らし、それが二度続いた。
 彼らにカニがついたとき、昆虫捕りみたいなタモでかなり慎重だった。すぐ私にダブり、タモで寄ってくれたが、その前にあげた(一つは落ちた)。
「俺はタモなんて使わないよ」と言ったせいか、次からタモは来なくなり、しかも水面に手が届かないのに、運よく八パイ続けてバラさなかった。水面に寄せても、餌をつかんでるだけかハリがかかってるかは分かりにくく、これは自賛できる。
「またですか。それもデカいのばかり」広報課は感心しても、グループの年長者、リーダー格がケチをつけてきた。
「サンマつけてるって、いかにもカニ狙いじゃないですか」言ってくれるじゃないの。もしやこいつ私に対抗心に持ったのか?
「高いイソメなんてもったいない。二番目のハリはサンマで十分さ」これは本当のところだ。確かにカニの偵察ではあるが、私にとっても初釣りであり、元気のいいイソメで勝負したいのはやまやまながら、細くなって溶けかかる虫の保ち具合が心配で、しょうがなくサンマで餌切れを延ばそうとしてる次第であって。そしてカレイは右に投げて、つまり西防方向で釣れたのだが、彼らが来たために真直ぐ投げにしたのであり、そこにカニが多いというだけだ。するとバカに小さいのがかかった。花咲はガキンチョでもいかつい鎧つけてるのか。私はこれまで300パイ以上あげてるが最小だろう。ところが振っても落ちてくれない。
「それは逃がすんでしょうね」とリーダー。ずいぶんこっちが気になるのね。幼児誘拐でもあるまいし、甲幅8p未満は再見なの(微妙なサイズは丙種合格にするが)。
「この倍だってな。こんな小さいの初めてだ」
 それからしばらくしてリーダーもカニをあげた。それもタモ係を使わなかった。
「ハリ四本かためてつけてやったわ」なにやら燃えている。あのなあ、そこまでしなくても…。こっちは普通の仕掛けだぞ。まあ、意地をみせたってところだろう。気概あるっていえばいえる、ってことにしよう。きっと彼は私がタモなんて使わないと言ったところでカチンと来たと思われる。これまでいつもタモで慎重に取り込んでたのを、隣がドリャッと宙に放りあげていれば。手づかみできないのでやむなくなのだがね。

私が去るまで、四人組は四枚カレイをあげた。意外だったのはゴソガレイのランクで、20p切る位なのに、「一気に逆転された」と彼らの話からすると黒ガシラより上らしい。東京方面では高級でも北海道ではそうでもないと本にあった。現にこの数日後、魚売り場で目が留まると、35pサイズの厚いのが280円だった。このスーパーは特売的に生をまるごとというのはあまりしないのが、おそらく何十枚か積まれた。私が見たときは二枚だけになっていて、裏表返して触らせてもらった。なるほどゴソゴソしちょるばいと確かめられた。後の処理を考えると買うのは諦めた。近辺の港では稀で、私も確かなのは一枚しか覚えがない。釣りとて魚屋でのランクにならうが、漁ではない遊びのゆえに、安かろうと不味かろうと、たまに砂ガレイが釣れて喜んだりする。
 彼らは全員用のミニ水槽みたいなのを二つ並べていた。広報課のあげた30p超えのカレイを撮らせてもらった。五時間で腐れイソメもなくなり、カニは確かめられたし、見切りをつけ、ちょっとテトラを試してみることにして巻くと、なんぞ乙姫のプレゼントのように黒ガシラがついていた。なお竜宮城でタイやヒラメの舞いおどりとあるが、水族館の話として、ヒラメは無愛想で餌を食べるとき以外泳ごうとせず、人に馴れて動いてくれるのがババガレイやゴソガレイとあった。名前はともかくババガレイは高級魚である。防波堤にはいない。すなわち乙姫のバックダンサーはババガレイらしい。

竿呑み穴。反応なしで陸側に移動。この位置の港内はカレイはあまり釣れない。灯台の方まで来るのを遠慮したようにパパと二人の子供がいる。私が高いところに座って港外側に竿を向けてるのに興味がありそうだ。男の子に「釣れてるのか?」と聞くと「一時間でカレイが4匹釣れたよ」と。ナヌッ、おいおいパパ達人かよ。私と同じクーラーだ。まだ入学前らしい女の子はパパに上げられて横に来る。あまり喋らないが人なつこく笑う。男の子はコマイを釣ってパパのところに走る。
 また移動。結局テトラではアブラコ2本釣れるも20pちょいでリリース。灯台を去った時点で心はやめかけ、ゴメ島眺望気分にはなっていた。若い家族は帰るようだ。「大漁だったか?」「うん、大漁だった」と男の子の顔がいい。四人組はまだ続いてる。

ずっと海霧がかかっていたのに、耳と手が真っ赤になった。紫外線は霧を通るから、まぶしくないので油断してかえって焼けてしまうのだそうだ。その後、霧の日は紫外線が強くなるとも言われた。私は根がかりか大物で糸をつかむむ以外手袋は使わない。だから去年までも晴れてなかろうと、じっとり黒くなっていたわけだ。そうか日焼け止めクリームだ、いやいや、いまさらお嬢さんになってどうする。

その後、戸田夫妻との釣りがどうなったか。メドは立ったけれど、日程の都合から中止になった。それでも二人はオキネップの母を尋ねてくれた。夜のオフ会では根室にもう一泊とるんだったと詫びていた。いずれにしろ翌日は雨になって防波堤には立てなかった。

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