盆2 兄貴と三連戦

15日。兄貴に誘われ餌を買うのに付きあう。実は13日に生活習慣で説教をくらい、みっともない口論にもなった。東京時代から、互いに慣れてもいるので根に持ったりはしないが、修復含みもあったのかも知れない。
 兄貴がイソメの高いのにほとほと呆れるのも無理はない。1パック100g800円が三個で2400円也。
「これなら黒ガシラのいいの、しこたま買える」とレジの娘にボヤく。しかし、昨日の西防波堤の感触が良かったらしく意気込みが伝わってくる。沖根婦に戻ると、ちょうど弟一家が旭川に帰ろうとしていた。楽しかったよ、またなーと見送った。
 私は昆布の手伝いの見通しがたってから、三時近くになって西防に向かった。
 兄貴は高いところの真ん中でやっている。快調のようだ。私は五メートルばかり陸寄りに離れ、イソメ1パックをもらった。
「さっきまで若いやつらがそこにいて、三回もオマツリさせた。同じところに投げるバカがいるかと怒ってやった。俺よりそっちでは一枚もあがってないな」私は灯台に行きたかったのだが、兄弟づきあいと餌の関係からこっちにした。確かにこれまでもここでは良型をあげてきたものの、なにぶん狭いのだ。幅一メートル半に満たない。連れがいなかったら、泳ぎに自信ないので、足をクーラーにでも引っかけて落ちればオダブツになるだろう。それでも夕方一人でいたりする。死んでテレビや新聞記事にされた自分を想像すると誠にカッチョ悪い。兄貴の家族会員かなんかで東京時代アスレチッククラブのプールに二回行ったが、兄貴はなかなかのものだ。この近辺の漁師は、今は学校でプールに連れていって教えるのかもしれないが、夏暑くて裸になる機会がなく、大半はまともに泳げないはずだ。といって、バイクと車の事故、自殺のほかに、溺れ死んだという話は聞かない。
 兄貴は満悦の23枚。私も意地を見せ6枚。締めには30pクラスのダブル。ダブルは思いつかず、とんでもないザブトンかと高鳴ったりした。不思議だったのは、私の経験からは起こり得ない、二人ともまったくコマイがかからなかったことだ。コマイがいなくて横どりされないからカレイが当たったとも言える。
 帰るや、○○に10枚、△△に5枚と袋に入れて兄貴夫婦は出かけていった。有言実行。前日にカレイ釣って持ってくからと言ったのを守るのには感心する。

翌16日。三時頃から同じポジションで。
 兄貴も昨日のようにはあがらない。プロ野球でも大量得点の次の試合には得てしてある。釣りだから、大振りになるなんてないが。
 車が止まるとカレイ親父だ。竿は出さず、梯子のある兄貴の左に座り、一番地の川口も狙い目だったとか、カレイ談義が始まる。口癖の「カレイ釣りに餌はケイザイしちゃいかん」も。しかし私のように海を前に住む者はそうもいかない。兄貴から貰った生イソメも一本のハリにだけ、もう一本には磯で捕った塩漬けのをつけている。もっともカレイ親父も次の日には、二本バリなら餌が持たないので、上のハリはテキトウでいいようにも言った。
 いいアタリが来た。手ごたえを感じる。
「刺身だぞー」とカレイ親父を唸らせるのがあがる。こいつが、いつものクーラーは兄貴の腰かけになっているので、一回り小型のクーラーもどきを使ってるのだが、蓋がパチン式でなく、蓋をはねて下に落ちる。もちろん海側なら大変だ。下りて入れ直してあがったら、またはねて落ちた。高いので上がるのがきついのに。カレイ親父はよくのぼれると感心する。そして明日はやるぞ、八時位に来ると。夜釣りということか。
 釣果。私七枚。兄貴六枚。「カレイは根魚のようなものだから、隙間ないほど寝そべっていたとしても、そこから釣りあげてしまえばいなくなる。時化でもあって海が変わらない限り」これはカレイ親父の言葉で、なるほど兄貴のポイントに当てはまる。
「俺がそっち側にいたら倍は釣れた」と兄貴。その通りだ。大関対幕下ほど技術の差がある。ただ以前から、兄貴につくのは小型が多い。数は少なくても私の方が型はいい。そこから進めて、計算づくには計算外は当たらないと考えたりする。魚を知る者の駆け引きに騙される魚は並みなのだと。といって規格外の大物をあげたこともない。

17日。まだ餌が少し残ってるなと、あさましい理屈をつけて五時近くに向かう。一時間勝負だ。
 追うようにカレイ親父が来て、兄貴の左で始める。風があり狭いし、上にはのぼらず下から。これは堤防下水面まで寄せた魚を見れないに過ぎず、不利とも言えない。ただ上方に魚体を確認するのもおかしい感じがする。
 まもなく親父、むむっと確信の顔。竿が大きくしなっている。これは注目。見守って待つと、何たること、園児カレイに超ド級ヘビガズの一荷。上にいる私と兄貴が先に分かる。ちょっと親父、そんなにガズにあたるなって。デカすぎて集まったゴメも呑めない。これまで親父の講釈を聞かされてきた兄貴のキツーイ皮肉が始まる。
「ガジがかかるってことは潮が動いてる証拠だ。これからいい」親父は先端に移り、港内に投げる。港外のは、盆に入ってからほぼ釣り尽くされたと見限ったのだろう。
「やることもなく、釣りしかないんだろう」兄貴がつぶやく。まもなく親父がやったぞと叫んでカレイをかざした。すぐに暗くなり、さしもの兄貴もコマイ3匹だけに終わる。私は陸寄りに投げてカレイ3枚コマイ3匹。盆の釣り終幕である。
 帰るとき、先端にいるカレイ親父の姿が見えず、気配もなく静かだ。気になって確かめにゆく。親父は軽トラを挟み、死角になる堤防の外側にしゃがみ、じっと竿を構えていた。

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