税庫―これに困っている、というほどでもないのは、書くも書かないのもこちらの勝手だからで、ただ鼻づまり感にさいなまれるのである。訪島記であって、素人史家でもない者が回避して文句を言われる筋合いはない。初めてこの文字を見たのは、もらった地図には載ってないし、訪問団員の名簿の出身地区名だったと思う。私ならウエンベツ。普通にはこれを地名と思う人はいない。妙な由来からの地名はままある。ところがこの名が港として群島五島にある。となると誰だって(でもないことになるのだが)「この税庫って何だ?」と思うだろう。てっきり私はすぐ答が出ると思った。しかし…文献には書かれていない(もちろんそんな読んでないし、時間を使いたくもない)し、ネット検索でも出てこない。古老的な人ももう生存していない。
実は<税庫の謎>というページがあった。それによれば、貝殻のあるところのsey-ko-oma-iから来てるか、アイヌ語源でなく税関連の庫があったとなっている。前者だともしや、セイコーマート進出予定地みたいだ。
ある日千島会館に寄った。まずロビーで冊子を見ようとしたら職員の方が現れた。小所帯であり年齢的に館長かも知れない。床に大きなバッグが開き、大工道具みたいのがはみ出たり並んでいるのを、久々のフリーの来客(多分)に「見苦しいでしょう」と片づけに来たのである。窓口への手間が省けたとばかり訊いてみた。税関連庫説である。ちょうど外から帰ってきた人が呼ばれて<同郷>にされたのは志発二世であり、彼も同じ見方である。通りがかった女性職員は分からないと。セイコーマート説は否定された。
そのときは納得した。しかし他三島にもあると言われたが、地図には見当たらない。歯舞村固有の施設(?)だったのか。消防団分団の小さい倉庫みたいのを思った。しかし根室半島の元歯舞村領域にそんな名はない。歯舞の港一つあれば、あとは陸路だからことたりるのだが、クラの痕跡を聞かない。住所名なのかも疑問になってきた。電話してまた尋ねるのも気が引ける。そもそもカフェノツでもウエンベツでもアイヌ語から来ている。倉庫一つのために地名がとってかわられるとは考えにくい。しかしまた、群島のおもな五島どこにも、自然に名づいたセイコマ地名があるのはもっとおかしい。解決ならずだ。
市役所の方が「税庫 歯舞村で検索してみろ。ウィキペディアにある。港のことだ」と言ってきた。なるほど、私は税庫一本で捜していた。
「歯舞群島には税庫と呼ばれる港があった」―と一行だけ記述がある。そうだったか。
調べてたら勇留島出身の鈴木寛和さんのインタビュー記事があった。動画と別窓で文字になっている。この方はよく名を聞き、結団式のとき挨拶をしていた。
Q:村とか、そういう呼び方はあったんでしょうか?
村というよりもね、ただ、「ここは何々よ」っていう言い方をしてるもんですから。僕のいたとこは勇留島の税庫前(ぜいこまえ)、税金の庫(くら)の前と書くんです。そして、昔ですね、何でそんなおもしろい地名があるのかなというと、税金を納めるときに、水産物でも何でも現物で国に納めます。生産高の何割について現物で税金代わりに納めると、そういう制度があったんです。そのために、「税庫前」というような地名で呼ばれてました。
ふむふむ。かなり近づいてきた。推測になるが、税庫が港を指すのではなく、税庫のあるところを港にしたか、港のあるところに税庫を建てたということだろう。もっとも港湾施設は整ってなかったというから、桟橋を渡した船着き場である。だが現物で納めるなら、半島側だって同じという疑問は解けない。また「ここは何々よ」の税庫前が住所だったのかどうか。
こんな重要でもない、意義もないことを調べてもしょうない気持ちになった。いや重要なのだが私の任とするところではない。するとである。群島にあった神社のページにゆきあたった。
たとえば、東前金刀比羅神社=志発島字東前カフェノツ。明治後期鎮座。など。
水晶島金刀比羅神社=水晶島字税庫。明治40年頃鎮座。
勇留島金刀比羅神社=勇留島字税庫前。大正6年鎮座。
字がついてるのだから住所だろう。字について調べる気力が湧かない。村は行政の便利さからこの名に変えてしまったのだろうか。当時の住所の厳密さも分からない。解決したのでもないが、自分は解明する使命を受けてるのでもない。心にとどめておけば、別な情報をキャッチできる、その程度しか言えない。私は文献にないか図書館で捜したが見つからず、子供のときから知る館長に話したら、彼女はニホロ(道立北方四島交流センター)に問い合わせてくれた。しかし五つも同じ呼び方の地点がある理由を明確な説明ができない。親子塗り絵ばっかりやるのが忙しくて暇がないのか?表を見てのとおり、すぐにひらめく質問なのに、なんとも…。らしい、というだけなら私とドッコイだ。あれこれ調べたものの分からないではなく、本気で調べたことがないのだろう。遅れてきた私があちこち電話をかけまくるしかないのか。