場は膠着していた。既にデュエル開始から15ターンが経過している。俺と相手の場には守備モンスターが1体ずつ。時折除去が飛んでくるものの、ここ6ターン程互いに決め手が欠けた状態だ。互いに手札は4枚ずつ、魔法・罠も1枚ずつ、そしてライフポイントすら互いに4000。完全なるミラーだ。そして俺はターンを迎える。
「ドロー」
 チラッとドローしたカードを見て、それから次に相手の顔を見た。相手はポーカーフェイス。どんな情報も読み取れない。デュエルを終えた他の仲間が、俺たちのデュエルを観戦している。ギャラリーは大体10人ぐらいか。既に日は落ちかけていて、茜色の夕日が体育館内を照らしている。時間は午後7時を回り、既に帰っている奴もいる。
「メインフェイズ、カードを1枚セット。そして、セットモンスターを生け贄に捧げる」
 俺はあくまで相手の顔を注視しながらプレイする。一瞬、相手の眉が動いた。
《魔王ルシファー》を生け贄召喚する。チェーンは?」
「ないよ」
 相手が応答した。分かり辛いが、僅かに英語圏の訛りがある。
「誘発効果で手札を全て捨てる。同時に、《暗黒界の軍神 シルバ》《暗黒界の武神 ゴルド》の効果を発動する」
 相手の反応が無いのを確認しつつ、俺はモンスターを特殊召喚していく。相手の場にはセットモンスターが1体、こちらには上級が3体。ボードアドバンテージはこちらが圧倒的に上だが、こちらには手札が無い。そして、あのセット1枚も気にかかる。
「バトルフェイズ、《暗黒界の武神 ゴルド》でセットモンスターに攻撃」
「スルー」
 どごーん、と衝突音がして、それからモンスターが表になった。《マシュマロン》だ。俺のライフが3000に減る。普通ならここで攻撃を終了するが、俺にはまだ策があった。
「セットから《閃き》を発動し、《マシュマロン》を破壊する」
「OK。1枚ドローね」
《暗黒界の武神 ゴルド》で直接攻撃」
 相手は苦虫を噛み潰したような顔をして、カードを表にした。表情は演技だろうが。
《聖なるバリア−ミラーフォース−》
「く……」
 モンスターが一掃された。俺はそのままカードを4枚引いてターンを終えた。
「わたしのターン、ドロー。スタンバイ」
 相手の手札は6枚。《閃き》と《聖なるバリア−ミラーフォース−》によって、+3のカードアドバンテージを与えてしまった。こちらにはモンスターがいない。場合によっては大ダメージも有り得る。
「メインフェイズ、墓地の光2体を除外して《神聖なる魂》を特殊召喚。通る?」
「ああ」
「それじゃ、それを生け贄に《聖天使ラファエル》を召喚。優先権を行使、《サンダー・ドラゴン》を捨てて効果発動」
「……了解」
 俺は渋々《炸裂装甲》を墓地に置き、カードを引いた。俺の残りライフは3000。ラファエルの攻撃力は2400だから、なんとか持ちこたえられる。恐らく追加でモンスターを出すことは無いだろう。まだ次のターンが残されている――
「バトルフェイズ。《聖天使ラファエル》でダイレクトアタック!」
 ――かに思えた。
「ダメージステップで速攻魔法カードを発動するね。《突進》
「な……」
 そう、ならなかった。《突進》によってラファエルの攻撃力は3100。僅かに、致死量だった。


「ふっふーん。またわたしの勝ちー」
「くそ……」
 俺はがっくりと肩を落としつつ、デュエルディスクにセットされたカードを取り外していき、四十枚の束にしてセットし直した。相手が喋りながら駆け寄って来た。デュエル中と同じように相手と目を合わせながら、相手がこちらに近づいてくるのを待った。ただし、デュエル中とは違う目で。
「今日の戦歴は三勝無敗。わたしの全勝だね♪」
「また全敗か……」
 俺は頭一つ下にある顔を見ながら言った。長い薄茶色の髪を持つ少女で、瞳も髪と同色。容姿はどちらかと言えば「可愛い」に分類されるだろうか。どちらにせよ容姿端麗だ。暗い色のタンクトップにデニムのジャケットを羽織り、インディゴブルーの真新しいジーンズを履いている。
「そろそろ、帰ろっか」
「そうだな」
 彼女の名前は広瀬友華。俺は「ユカ」と下の名前で呼んでいる。俺と彼女は恋愛関係にあり、高校入学から一年と三ヶ月この仲を続けている。俺たちは同じく「トレーディング・カード・ゲーム同好会」に所属し、毎日毎日カードゲームで遊び倒している訳だ。ちなみに俺は高校入学直後からこのカードゲームを始めたため、経験豊富なユカにはたまにしか勝てない。俺をこの世界に引き込んだのもユカだ。
 高校なのになぜ私服なのか、と思うかもしれないが、なぜかと言えばこの学校には制服が無いからだ。ここは俺たちが入学する年に出来た真新しい学校で、名は「私立真星学園」。そのまま正式名称だ。ここの校則は非常に緩く、何を持ってきてもいいし、何を着てきてもいい。当然、限度というものはあるが。
 この学校はかなり贅沢で、校舎四棟はまだ現実的としても、体育館四つに屋内・屋外プールが一つずつ。そして東京ドームが悠々入りそうなグランドは絶対に高校としておかしい。いや、これは少年少女が利用する施設として明らかにおかしい。
 それだけに部活動がかなり盛んで、カードゲームの同好会ですら体育館一つを使わせてもらえるのだ。まあ、それは体育館が多いだけではなく、校長の親切によるところが大きい。この同好会を発足させたのはユカなのだが、その時も即座にオーケーしてくれた。挙句に同好会だと言うのに部費まで出してくれた。当然、正式な部活よりは少ない。しかしながら、この学校の基準というのは他の学校に比べ明らかに高く、恐らくこの同好会の部費は他校では正式な部活と同じくらいだろう。
 しかも、この学校は特段授業料などが高い訳でもなく、一般の私立高校とかかる金は大して変わらない。その分受験倍率は相当なものだが、なんとか俺とユカは通った。奇跡としか言えないだろう。
「なあ、寒くないか」
「ん? 大丈夫だよ。もう夏だからね」
 俺とユカは、学校を出てから帰る途中だった。もうすぐ夏休みで、これからどんどん暑くなる。でももう夜だし、それにジャケットを着ているとは言えユカはノースリーブのタンクトップだ。本当に寒くないのか、と思いつつ俺はユカと歩調を合わせながら歩いた。日は完全に沈んでいる。
「なあ、ユカ」
「なに?」
「俺は、どうすればお前に勝てるようになる?」
「うーん、そうだね……」
 ユカは強い。それだけに、勝った時はもの凄く嬉しいのだが。
「たまに勝てるでしょ? その時のことを思い出してみて。どうやれば、勝てるのか」
「そうか……。俺はどうすれば負けないかしか考えて無かったよ」
「それじゃダメ。ダークサイドなんか使ってるんだから。アグレッシブに、ね?」
 分かった。と俺が頷いた時、丁度ユカの家の前に着いた。高級そうなマンションで、俺の登下校ルートの途中にある。それだけに、わざわざ送って行かなくてもいい。まあ、ユカなら何かあっても自力でなんとかしそうだが。
「それじゃ、また明日な」
「待って」
 背を向けて歩き出そうとした俺を、ユカが声で制した。
「なんだ」
「お別れのきす」
 ユカは目を閉じた。仕方なく俺はユカの口に軽くキスをした。
「ん。じゃあね♪」
「ああ。また明日」
 今度こそ俺は踵を返した。


「勝った時……か」
 俺は、ユカに初めて勝ったときのことを思い出した。確かあれは、丁度一年前ぐらい、高一の時の夏休みだったと思う。そこそこ学校にも馴染んで来た頃で、同時に遊戯王というカードゲームを理解し始めていた時だった。夏休みと言うので、TCG同好会は自主参加だった。というか、休みじゃなくても自主参加でいい気もするが。
 ユカの提案で、夏休みの課題は七月中に終わらせてしまおうと言うことになって、最初の一週間強はユカの家に泊り込んでとにかくペンを走らせていた。時折教えてもらいつつ、一応七月までには全て終わった。こんなことは生まれて初めてで、とにかくユカに感謝だった。ちなみに、泊まると言っても寝床は別だ。ユカの母親は流暢な日本語で「あらぁ、ソウくんはユカちゃんといっしょじゃないの?」とやわらかーく言っていたが、丁重に断った。
 ちなみにソウくんと言うのは俺のことだ。「ソウ」は俺の昔からのあだ名で、親しい仲の奴は大体これで呼ぶ。当然ユカもその一人だ。別に悪い気はしていないし、愛着がある俺公認のあだ名だ。これで呼んでいる奴には、漏れなく親近感を抱く。

 さて、そんなこんなで八月を大いにエンジョイできる状態となり、俺たちは同好会にも顔を出すようになった。それでも一日中ということはあまり無く、午前か午後のどちらかだけ、というのが多かった。そういう中での、あれは八月第二週の水曜日。鮮明に覚えている。
 俺は負け続けていた。それはもう、破竹の勢いという奴だった。遊戯王を始めてからもう四ヶ月経つというのに、俺はまだユカに一度も勝っていなかった。他のメンバーには何度か勝てていたし、自身の成長も実感していたが、ユカには到底及ばない。大体ライフポイントを半分以上残した状態で負ける。それが当然になりつつあり、その日も既に四連敗していた。
 時間的にも今日は次が最後になりそうだった。他の奴と闘っても良かったが、俺は敢えてユカとの再戦を望んだ。その日は調子がよく、ユカに勝てはしないものの、かなりライフポイントを削って負けることが殆どだった。つい先のデュエルでは三桁まで追い込んだこともあり、次は勝てそうな予感がしていた。ユカは苦笑しながら、俺の再戦を受けた。
 試合内容は、かなり切迫していた。シーソーゲームとでも言った感じで、減っては減らしを繰り返していた。常日頃ユカに言われている「アドバンテージ」を意識しながら、大体相手と一対一になるように闘っていた。戦闘ダメージの応酬は続き、両者のライフポイントが三分の一以下まで減った時だった。
 俺は切り札を引いた。今日のデュエルでも使った、《魔王ルシファー》だ。このカードは最初、ユカに告白された時に渡されたデッキの中に入っていたもので、そのデッキ内で一際俺の目を引いたカードだった。その当時、俺はカードのことなんて分からず、それがどういうカードでどういう役割を持っていてどれほど強いのか、なんて分かるはずもなかった。しかし、それは俺の目に留まった。
 第一に、イラストが格好良かった。カードの絵柄なんて、精々テレフォンカードの動物とかの絵や、トランプの絵札ぐらいしか馴染みが無かった俺は、そのイラストを見て思わず溜息を漏らしたのだった。他のカードは「ああ良く描けてるな」ぐらいのものだったが、それだけは光を放ったように俺の目に鮮烈に焼き付いた。まあ、実際光っているカードだが。
 第二に、「ルシファー」という単語が引っかかった。俺の家の近くには教会があって、そこの神父さんは俺の親父と知り合いだった。その関係で、幼少の頃の俺はたびたびその教会に預けられることがあった。その時、決まって神父さんは俺にキリスト教の天使だの悪魔だのの話をする。十年以上前のことだから全て覚えているわけではないが、その中で「ルシファー」という堕ちた天使の話は良く覚えていた。
 「ルシファー」は元々天使だった。しかし、ある日のこと。ルシファーは、自分は神より上である、と考えるようになった。その考えに同調する天使もいて、やがてルシファーは、神と戦う事になった。しかし、結果は敗北。ルシファーたちは、神の敵対者として、天界から放り出されてしまったのだ。そうして堕ちたルシファーは、後に魔界の王「サタン」となった。
 幼少の俺はその話を聞いて、神父さんにこう言われたものだ。
「自分が相手より上であると思い込んではいけない。相手を敬い、自分のするべきことをすれば、自ずと幸せは訪れるのですからね」

 そう言った意味で、ルシファーは俺にとって特別な意味を持っていた。その内それの役割が分かるようになり、ユカに勧められたのもあって、俺はルシファーと相性のいいダークサイドを最初のデッキにすることとなった。ちなみにユカのデッキの切り札は、今日も登場した《聖天使ラファエル》で、この「ラファエル」と言う名の天使にも俺は聞き覚えがあった。確か、かの神父さんから聞いたはずだ。
 その《魔王ルシファー》を引いたとき、場はかなり殺伐としていた。モンスターは互いにセットが一体ずつ。魔法・罠も一枚ずつ。お互いのライフポイントは、ルシファーの攻撃が通れば余裕で殴り切れる数値だった。さらに、俺の手札には《暗黒界の武神 ゴルド》が一枚だけあり、相手が罠を仕掛けていなければ、俺は勝てる状況だった。しかし、どうもあのセットカードが気にかかる。
 ユカのライフポイント同様、俺のライフもかなり減っていて、もし全体除去でも仕掛けられていようものなら、今度は俺が危なかった。しかし、俺の手札にはセットを除去できるカードは無い。罠を無いと見て勝負に出るか、まだ待つか。この時、俺は後者を選択した。
 次のターン、ユカは切り札である《聖天使ラファエル》を召喚してきた。その時ユカの手札は二枚あり、どうやら一枚は光属性モンスターのようだった。モンスターを破壊するか、魔法・罠を破壊するかで悩んでいるらしく、一分ほど考えた後、モンスターを除去しに来た。そしてバトルフェイズ、ユカは攻撃を仕掛けた。俺は抗うことなく攻撃を受け、俺の残りライフは風前の灯だった。
 その時、俺は攻撃を防ぐことも出来た。しかし、敢えてそうしなかった。なぜか、と問われれば、ただの勘だと答えるしかない。ラファエルの効果は一長一短で、瞬間的に見れば相手のカードを消せる分得だが、長い目で見るならばそれは明らかなマイナスアドバンテージだ。そして、そのデメリットが、俺に好機を齎した。
 俺は次のターンのドローで《サイクロン》を引いたのだ。ラファエルの効果でデッキが圧縮されていなければ、決して引けなかっただろう。これは俺にとってはかなり大きかった。そして、俺のセットカードは《リビングデッドの呼び声》。これからどのような手段が想定できるか。簡単だ。俺はそれを実行に移した。
 次のターン、俺はスタンバイフェイズに《サイクロン》を撃った。俺の予感は的中し、マス・デストラクションである《聖なるバリア−ミラーフォース−》が破壊された。俺は勝利を確信した。メインフェイズ、俺は《リビングデッドの呼び声》を発動し、適当なモンスターを蘇生した。そして、ルシファーを生け贄召喚した。この時、ユカは敗北を確信したと後に語っていた。
 ルシファーは、よく言えば自分だけ《手札抹殺》内臓モンスターだが、悪く言えばデメリットモンスターだ。召喚時に手札を捨てる。それはつまり、そのターンそれ以上の追撃が無いという意味だ。破壊されれば手札はターン終了時に戻ってくるが、それまではただのディス・アドバンテージだ。しかし、ダークサイドならば話は違う。
 ルシファーの「手札を全て捨てる」のは、コストではなく効果だ。コストと効果の違いはユカに教えられたことだが、この効果は使えそうだった。「ターン終了時」というのに目を瞑れば、これは「歩く《手札抹殺》」に他ならない。フィニッシャーとして、大いに活躍できそうだった。そしてこのデュエルで、見事にフィニッシャーとしての仕事を成し遂げたのだ。
 俺は、手札にあった《暗黒界の武神 ゴルド》を特殊召喚した。こちらの攻撃力は合計で4800。対して相手は2400。なんとか、殴りきれる数字だった。俺は勝った。その時ユカは、俺が初めて聞くセリフを言ったのだ。
「ふん、今度は負けないから」

「俺が勝てた理由……。なんだ」
 俺は考えた。運――それもあるが、その程度のことを教えるなんてことは、ユカは決してしないだろう。もっと違う、あの時のプレイング……。ラファエルの効果で、俺は《サイクロン》を引くことが出来た。ユカにそうさせた、ラファエルの効果を使わせたもの……。
「あ、そうか」
 俺ははたと気がついた。俺は前のターンで、攻撃をしなかった。もしあそこでルシファーを召喚し、そして攻撃していたなら、俺は負けていただろう。俺はあの時、焦って勝負に出るということをしなかった。逆に、ユカは勝負を焦った。俺に欠けているもの、それは……。
「判断力、か」
 そう、判断力。好機を見極め、罠が無いことを見切ってから勝負に出る。それをする力が、俺には欠けていた。今日だってそうだ。俺は勝負を焦り、《聖なるバリア−ミラーフォース−》を踏んでしまった。ダークサイドというデッキは、カードさえ揃えばワンターンでライフの半分などは簡単に持っていけるのに、膠着状態を打破しようとして、勝負に出てしまった。
 ユカは判断力に優れる。経験豊富なのもあるだろうが、先天的にユカは勘が鋭い。それがデュエル中にもいかんなく発揮されている。しかし、一年前のデュエルではその判断が誤っていた。そしてなぜか、俺の判断は適切だった。それこそ、俺が勝てた理由に他ならない。そういえば、それからもたびたび同じようなことがあった。その時も、やはり俺は勝っていた。
「でも、どうすれば……」
 判断力なんていうのはそうそう鍛えられるものじゃないし、それに鍛えたとして、ユカに及ぶとは到底思えない。じゃあ、どうすればいいのか。慎重になる? 違うな。慎重になっていては、せっかくの好機を逃してしまうこともある。まったく、ユカは意地悪だな。こんな難しい課題を敢えて出すなんて……。
 まあ、いい。これはもう慣れるしかないのだろう。俺はいつの間にか自宅の前に着いていた。広瀬宅ほど高級なものではないが、そこそこ大きいマンションだ。ちなみに、俺には母親がいない。どうやら俺が小さい頃に交通事故で死んだらしく、俺はその顔を殆ど覚えていない。だが、寂しいと思ったことは一度も無い。親父は好きだったし、家事も得意で、生活に困ったことは無かったからだ。


 俺は自分の部屋の前に辿り着き、鍵を差し込んでドアを開けた。
「ただいま」
 俺は言って、返事が無いことに驚いた。親父は大抵この時間には帰っているはずだ。とりあえず部屋に鞄を置き、リビングに向かった。リビングの電気は消されたままで、電気を付けてから周りを見ても、親父はいなかった。俺は首を捻りながら、ひとまずテレビを見つつ待つことにした。親父が帰ってきたのは、それから三十分ほどしてからだった。
「ただいま。すまんな、すれ違いになったか」
 リビングルームのドアを開けながら、私服姿の親父は言った。
「おかえり。すれ違い? なんのことだ」
「いや実はな、広瀬から電話があって、あっちの家へ出かけていた」
 広瀬、と親父が言うときには、大体ユカの父親を指している。ユカの父親は親父と同僚で、ユカと俺が知り合い、親しくなったのも、それが一つの理由だ。電話と言うのは、恐らく仕事関係のことだろう。俺は頷き、そういえば腹が減っていることを思い出した。
「早く飯にしよう」
 親父が言って、俺は手伝うためにキッチンに向かった。
「ユカちゃんとは、上手くいってるか」
 親父は人参を丁寧に切りながら、米をといでいる俺に訊いた。俺は口ごもるでもなく返した。
「まあまあ。現状維持ってやつだな」
「そうか。まあ、ふられるなよ」
「あいつから告白しといてそれは無いと思うけどな」
「ん、そうだったっけ」
 ああ、と俺は頷き返し、米とぎを再開した。程なくして夕食が出来上がった。今日はカレーだ。
「ああ、そういえば」
「ん?」
 テレビを見つつスプーンを動かしていた俺に、親父は話しかけた。俺は親父に向き直った。
「ユカちゃんから伝言を預かってたんだった」
「伝言?」
「『明日は病院に寄るから先に学校行ってて』だと」
「病院……か。ああ、分かった」
 病院。ユカは生まれつき病弱だったらしい。今でこそあれだけ元気だが、中学で初めて会ったときは、かなり暗い印象を受けたものだった。だが、中学で3年過ごす内、見る見る元気になっていった記憶がある。それでも念の為、定期的に健康診断を行っているらしい。
「ごちそうさま」
 俺は言って、食器をキッチンの流しへ持っていった後、部屋に下がった。とりあえず宿題を済ませようかと机に着いた時、俺の電話が鳴り出した。メールではなく、電話の着信音だ。液晶に「友華」の文字が浮かんでいる。
『俺だ』
『ハロー♪ わたし』
 わざと悪い発音で挨拶しながら、ユカは話し出した。
『検診の件だけど、聞いた?』
『ああ、親父から』
『そう。じゃあ、明日はそういうことで』
『何も無いことを祈る』
『うん。それじゃ、おやすみ』
『じゃあな』
 電話を切った。いつも電話はこんな感じだ。恋人同士にしては短いかもしれないが、ユカは直接話すことの方が好きみたいだし、俺も嫌いじゃない。メールもあまりしない。
「さて、やるか」
 独り呟きながら、今度こそ宿題に取り掛かった。




《魔王ルシファー》(まおうルシファー) ☆6 闇属性 悪魔族 2500/1500
効果:このカードは特殊召喚できない。このカードが召喚した時、自分の手札を全て捨てる。このカードが場を離れた時、そのターンのエンドフェイズにこの効果で捨てた枚数だけカードをドローする。

《閃き》(ひらめき) 速攻魔法カード
効果:フィールド上の表側モンスターを1体破壊し、そのコントローラーはカードを1枚ドローする。

《聖天使ラファエル》(せいてんしラファエル) ☆6 光属性 天使族 2400/2000
効果:このカードは特殊召喚できない。手札の光属性モンスターを1体捨てることで、フィールド上のカードを1枚破壊し、そのコントローラーはカードを1枚ドローする。