
――リズに負けた後、俺はまた一勝を収めた。しかしながら、一回負けるだけで大きな痛手になった。何よりデュエル数が増えて、危険性が増すのと、時間を余計に使ってしまうことが厄介だ。
今のところ、勝者は五人だ。リズはもちろんのこと、ユカも二連勝で勝利している。リズとのデュエルでだいぶ時間を使ってしまった。早いところあと一ポイント、取らなければならない。
「すみません」
壁にもたれて相手を探していた俺に、声が掛かった。見たことはあるが、名前は知らない男だ。恐らく学年は同じだろうが、クラスが多いこともあり、面識はあまりない。というか、俺は男友達自体が少ない。幼い頃からマリと親しかったためだろうが、女友達の方がはるかに多い。
これを羨ましがられることもあるが、俺は特段嬉しくもない。まあ、嫌だとも思わないが。
「なんだ?」
訊き返しては見たものの、答えは分かりきっていた。
「デュエルしませんか?」
断ることは出来ない。俺は了承し、その場で向かい合った。
「「デュエル」」
「僕のターン、ドロー」
先攻は相手。デッキからカードを引き、手札には目もくれずにこちらを向いた。そして、唐突に話し始めた。
「ひとつ、提案があります」
「なんだ」
提案?
「このゲームの終了条件をご存知ですよね?」
このゲーム……とは、遊戯王OCGのことではなく、今まさに進行中のこの小大会のことだろう。確か勝者が12名になるか、敗者が27名になれば終了だったはずだが……。
「ええ、そうです。そう言うわけでして、皆こうやってポイントを集め、『勝者』になろうとしています。でも、そうしなくても残ることは出来るんですよ。つまり、敗者が27人になるまで待てばいいんです。そうすれば、勝手にゲームは終了します」
「要するに、このままゲームを膠着させて終わらせる、ってことか」
「ええ。まあ、ターンには時間制限がありますから、ひたすら時間をかけてターンを進めていくことになりますが」
なるほどな。ま、断る理由もないが……。
「わかった。それじゃあさっさと再開しよう」
「わかりました。僕はカードを3枚セットしてターンエンド」
俺はカードを引いた。そして、そのまま制限ギリギリまで待ち、エンドを宣言。同様に相手もターンを流すだけ。それを幾度となく繰り返し、欠伸も出そうになってきた。相手は暇そうに、時折2枚の10円玉を手で弄んでいる。
――それから何分経っただろうか。俺はドローフェイズにカードを引き、ついに腰を上げた。必要なものは揃った。抜かりはない。あとは、それを行動に移すだけ。
「メインフェイズ」
俺は宣言した。何ターンぶりの宣言だろうか。それを聞き、相手の表情に驚きが混じる。
「《大嵐》」
「っく、《マジック・ジャマー》」
即座にカウンターだが、どうでも良いこと。俺は次いで宣言。
「2枚目の《大嵐》」
「《神の宣告》」
相手のライフが減る。これでもうカウンターは無いだろう。セットはあと1枚。
「3枚目の《大嵐》だ。そろそろ終わりにしような」
今度こそは通った。相手の《聖なるバリア−ミラーフォース−》が塵と化す。
「さらに《手札抹殺》だ。俺はこれによって、《暗黒界の軍神 シルバ》3体を特殊召喚する」
「……いつから、気付いていました?」
「最初からだよ」
相手は、ガックリと肩をうな垂れた。《手札抹殺》で捨てられるはずの手札には、エクゾディアパーツのうち4枚が揃っていた。
「お前の策は分かっていた。それらしい嘘で、こういう膠着状態に持ち込み、そしてエクゾディアを揃えるってな」
「案外、頭が回るんですね」
「心外だ。こんなんは馬鹿でも分かるだろ」
端的に言ってしまえば、「敗者が27人になるまで待つ」というのは、不可能なことだ。このゲームでは、最初に計39ポイント、39枚の十円玉が存在することになる。さらに、このゲームは勝者が1ポイント得るとともに敗者が1ポイント失う、いわばゼロサムゲーム。途中で全体のポイントが増減することはありえない。
敗者が27人になるということは、ポイントが残っているプレイヤーが12人になるということだ。しかし、39ポイントを12人に均等に割り振ると、確実に4ポイント以上のプレイヤーが出来てしまう。勝利条件は3ポイントだから、それだけポイントに余りが生じることになる。ポイントに余剰があるならば、27人も敗者が出ることはまず有り得ない
要するに、敗者27人というのは有って無いような条件ってことだ。例えば今この状況、俺も相手も2ポイントずつ持っている。残りは35ポイントだから、勝者は11人まで出る。だが、所詮それまで。これ以上勝者が増えることもないし、敗者が増えることもない。2ポイントのプレイヤーが3人残り、三つ巴になるだけだ。
「このまま待つだけじゃ、俺たちに勝利が訪れることは確実になかった。だが、お前はそうでないように見せかけようとしたが……そんなことはとうに気付いてたよ」
「そう、ですか。上手く騙せたと思いましたが……」
「第一、俺如きにこんな狡い真似してたら、大会じゃ勝ち抜けないぞ」
相手は自嘲するように少し笑い、宣言した。
「投了します。大会、頑張ってください」
「ああ」
結局、俺は勝者十二人の中に入ることができた。その後、メンバーが体育館隅に集められ、まずはそれぞれ自己紹介をするらしい。後ろからの激しい音と閃光が反響して、五感を刺激してくる。そんな中で、十二人は輪になって時計回りに話し始めた。
……とここで、ついでに俺含め十二名の大会メンバーを紹介して行こうと思う。
「わたしは広瀬友華。この同好会の責任者です。一緒に頑張りましょう」
広瀬友華。
俺の恋人で、知り合ったのは中学校。この同好会の責任者で、かなりの美少女。使うデッキは光属性主体のビートダウンで、尖った部分のない安定した強さを誇る。デッキ自体の安定感だけではなく、ユカ自身の経験や先天的な勘の良さから、同好会内でも指折りの実力を持つ。
「中村真里でーす。よろしくねー」
中村真里。
俺の幼馴染で、小学校からの付き合い。なぜか俺に対してだけはドが付くほどのサディストと化す。デッキはハンデスにカウンター要素を含んだカウンターハンデス。切り札は「ヴァン」こと《冥王竜ヴァンダルギオン》。俺のデッキとは最高に相性が悪いはずだが、なぜか負けることが多い。
「一ノ瀬秀。ま、よろしく頼む」
一ノ瀬秀。
俺の数少ない男友達の一人だ。どこかやる気に欠ける性格をしていて、率先してものを言い出すことは稀。高校で知り合ったやつで、頭はいい方。デッキは戦士族主体のビートダウン。シルバーバレット戦略を利用した臨機応変な戦い方が特徴で、デッキ自体もほぼハイランダーに近い構成だ。
「美崎日名子です。よろしくお願いいたします」
美崎日名子。
通称ヒナ。俺とは小学校が同じで、中学で別れた後また高校で出会った。とある富豪の娘であり、自他共に認めるお嬢様。ただ、使うデッキはその容姿とは正反対の、《暴勇のドラゴン》を用いたビートダウンだ。大振りなデッキを繰るヒナは、普段とは違った雰囲気がある。
「蒼井優奈よ。よろしくね」
蒼井優奈。
俺の先輩に当たり、やたら俺に絡んでくる困った人。何かとユカを怒らせ、そして俺が被害を受けると言う俺の悩みの種だ。派手好きとして知られ、使うデッキも派手に除去を撃ちまくる「マス・デストラクション」だ。俺のように大量展開するデッキには強い。ここまでは俺が良く知る面々だ。
「有坂まゆみ、だ。よろしく頼む」
有坂まゆみ。
この人も俺の先輩で、あの人とは結構仲がいいらしい。男勝りな性格とでも言うのか、シュウよりかは断然豪胆な性格をしている。ただ、名前とのギャップからからかわれる事もしばしば。特に蒼井先輩に。デッキはあまり覚えていない、というかデュエルしたことがない。
「エリザベス・ペルティエ。リズって呼んでネ。ヨロシク」
エリザベス・ペルティエ。
昨日転校してきた外国人の少女で、ユカとは小学校時代親友だった。日本が上手く、やや訛りもあるが聞き取れない程ではない。デッキは俺も闘った「果てしなき理想」。シルバー・バレットからボード・アドバンテージを積み重ね、磐石の守りを作り上げる。二重三重と張られた防御網のせいで、一度完成するともう崩すことはできない。
「アルフレッド・カーティスです。アルと呼んでください」
アルフレッド・カーティス。
やはり昨日転校してきたばかりの外国人だが、日本語が恐ろしいほど上手い。リズとは恋人同士らしく、公衆の面前でキスを交わすほどのラブラブっぷりを発揮している。どんなデッキを使うかは知らないが、一度は闘ってみたい。
「橘鈴子。よろしく」
橘鈴子。読みは「レイコ」だが、音読みして「スズ」という愛称が付けられている。俺とは中学校からの知り合いで、そこそこ仲が良い。デッキはヒナと同じく一体のドラゴンを主体とするもので、派手さはヒナの「暴勇」に引けを取らない。どうにも、俺の知り合いの女性にはこんなヤツが多いみたいだ。
「あっ……藤本有、です。よ、よろしくお願いします」
藤本有。
俺の一年後輩に当たる。学年が違うから良く知らないが、どうやら天然の「ボク少女」であるとか。そのために熱烈なファンが多いそうだが、内気な彼女は好意的に受け止めていないらしい。デッキはよく知らないが、特異なデッキであるということは聞いたことがある。
「久遠尚美です。よろしくお願いします」
久遠尚美。
あだ名は「ナオ」。俺の一年後輩だ。腰まで伸びたブロンドの髪が目を引く少女で、イギリス人とのハーフだそうだ。丁寧な物腰で話すのが特徴。デッキは確か装備魔法を多用するデッキ。久しくデュエルしてないから、詳しくは覚えていない。
そして俺。見回しても、何とまあ女子の多いことか。男女比一対三。まあ、元々この同好会には女子が多いのが理由だろう。多くの男子生徒は運動部に流れていって、自然とそちらが少なくなるからな。それにしても、個性の強いメンバーなのに変わりはない。
「それじゃあ、大会までそれぞれ頑張りましょう。解散」
ユカの声で全員が散った。大会まであと三週間と言ったところか。さて、どうなるかな。
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