私の目の前に1人の男が立っている。歳は恐らく20代前後、中々の美青年であるが、別に興味は無い。左手にデュエルディスクをはめ、そのデュエルディスクには素のままのデッキが差し込まれている。それは即ち、彼が参加者であることを示していた。
「デュエル……ですか」
 彼が訊いて来た。と言うより、私の質問へ返答した。要は、「デュエルしないか?」という質問だ。
「ええ」
「分かりました。貴女と僕のポイントは同等。断ることは出来ません」
 そう言って、彼はデュエルディスクを構えようとして――止めた。
「その前に。あなたのお名前は?」
「え?」
「あ、いや変な意味は有りませんよ。ただ、『あなた』と呼び続けるのもどうかと思いましてね。別に本名でなくても良いのですが、あなたをどう呼んだら良いか、というだけのことです」
 そういうことか。確かに、デュエル中不便ではある。描写的にも。
「汐崎麗華――レイカで良いです。ちなみにあなたは?」
神宮寺蓮じんぐうじれんと言います。呼び捨ててもらって構いませんよ」
 レン……か。よし。
「それでは……始めましょうか」
 彼が今度こそディスクを構えた。私もそれに倣う。


「「デュエル」」


 先攻を貰いつつ、私はカードをドローした。
「私のターン、ドロー……」
 やはり、モンスターの比率が多い。モンスター4枚に魔法2枚、上々の初手である。
「モンスターをセットして、ターンエンド」
 ここはひとまず様子を見ることにした。お互いに相手のデッキを知らない上に、コンセプトがあまり明確でない可能性が高く、戦略を把握しにくい。そのため、あまり攻め手に出れないはずだ。

 そしてその予測は、裏切られた。

「僕のターン、ドロー。《抹殺の使徒》をキャストします」
「なっ」
「どうしました? 《抹殺の使徒》ですよ」
 慌てて私は、ピン挿しの《ジャイアントウィルス》を除外した。こんな序盤から除去カードだと……? ただの馬鹿なのか、それとも除去カードが豊富なのか。後者の可能性を視野に入れつつ、デュエルに戻った。
「さらにモンスターを召喚――」
 がら空きだ。ハンデスモンスターだと非常に厄介な事になるが……と、かなり甘く考えていた。そう、私はかなり甘かったのである。さて、記憶を掘り起こしてみれば、このようなプレイはもう何年も見ていない。

《八汰烏》。レイカさんにダイレクトアタックです」

レイカ:7800 レン:8000

「ぐ……」
 戦闘ダメージは大したこと無い。だが、禁止カードとなっているだけはある、その効果は強力かつ凶悪だった。「ドローフェイズスキップ」。それは、カードアドバンテージ的には手札を1枚捨てることとあまり変わらないが、拘束力は半端ではない。
「メインフェイズ2でカードを1枚セットし、ターン終了です」
 《八汰烏》が彼の手札に戻っていく。場は空くが、除去しにくい点は非常に厄介である。早く何とかしなければ。

「私のターン」
 ドローは出来ない。だが、モンスターはまだ残っている。さて、どうしたものか。
「モンスターをセット、ターンエンド」
 先ほどと同じ手を取った。レンの場にモンスターは無く、直接攻撃も可能なのだが、如何せんリスクが高すぎる。
 場を空けるからには、それ相応の対策を練っている可能性が高いわけで、迂闊に攻めると罠に嵌りかねない。もしそれでモンスターが除去されるなどと言うことになれば、さらに《八汰烏》の追撃を受けてしまう。
 それ故の裏守備セット。しかし、それがまた裏目に出てしまうことになるのだが。

「僕のターン、ドロー」
 レンがカードをドローする。羨ましいと思うと同時に、彼がこんなことを言った。
「フフ、レイカさん。あなたはかなりデュエルに慣れているようですね」
「え?」
「あなたはこのカードを、『モンスターを除去する罠カード』と予想して、二度目の《八汰烏》を回避するためにモンスターを伏せた。違いますか?」
 レンは、自らが伏せた1枚のカードを示しながら言った。
「違わないわ」
 正直に答えた。
「ならば、僕の作戦は成功という訳ですね」
「何ですって?」
「上級者になればなるほど、このプレイングは有効なんですよ。確かに、これは除去カードですが……」
 彼が伏せカードを翻した。それに対して、私は驚愕の表情を浮かべた。
「いわゆる"ブラフ"と言うやつです。魔法カード、《シールドクラッシュ》をキャスト」
 私は戦慄を覚えた。レンは、確実に私を追い詰めていた。
「セットモンスターを破壊、そしてモンスターを召喚――」
 1枚だけの《封印されしエクゾディア》が破壊され、再び同じモンスターが現れる。まるで千日手だ。
《八汰烏》。レイカさんにダイレクトアタックです」



第5話 無作為な闘い

―Random Fight―





レイカ:7600 レン:8000

「っ……」
「そして、メインフェイズ2でカードを1枚セットします」
 また1枚セット。これは……どうなんだ。ブラフか、除去なのか……。
「ターン終了」
 《八汰烏》が手札に戻り、私にターンが移った。

「私のターン」
 手札は4枚。モンスター2枚に、魔法カード2枚。問題は相手の伏せカード――いや、待て……。
「モンスターを――」
 私は手札のモンスターに手を掛けた。レンは、さっきのターンでわざわざ自分の手を晒した。それは、私を「ブラフか除去か」の2択に閉じ込めるためではないか? そうすると、彼の伏せカードは「ブラフでも除去でもないカード」だ。ならば取るべき道はただひとつ。
「攻撃表示、《シャイン・アビス》
 召喚されたのは、攻撃力1600の光属性バニラモンスター。守備力も1800と中々堅い。だが、今は関係ない。
「攻撃」

レイカ:7600 レン:6400

 案の定攻撃は通った。レンのライフポイントが削られ、同時にカードが返された。
「罠カード、発動」
 レンが発動したカードは、ブラフでも除去カードでもなかった。
《ダメージ・コンデンサー》
 《ダメージ・コンデンサー》か……。今与えたダメージは1600ポイント。大して大きな数字でもないが……。
「僕はデッキから、《ピラミッド・タートル》を特殊召喚します」
 《ピラミッド・タートル》……。アンデット族リクルーターであり、サーチ領域はかなり広い。高攻撃力のモンスターを呼ばれると、《八汰烏》の追撃に遭う可能性もある。だが、それでも良い。
「ターンエンド」

「僕のターン、ドロー。《八汰烏》を召喚し、バトルフェイズ」
 除去は仕掛けてこない。やはり、《ピラミッド・タートル》での高攻撃力サーチか。
《ピラミッド・タートル》《シャイン・アビス》に攻撃します」

レイカ:7600 レン:6000

「そして、デッキから《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚します。続けて攻撃」
 高貴なオーラを身に纏った、誰が見ても吸血鬼と言わざるを得ないようなモンスターが召喚された。不死の能力を持つ、アンデットの主力級モンスターだ。

レイカ:7200 レン:6000

「罠カードを捨ててください」
「そうね……《無差別破壊》を捨てるわ」
 私は、枚数合わせのために入れた非効率的除去カードをデッキから抜き出し、墓地ポケットに入れた。
「そして、《八汰烏》で直接攻撃します」

レイカ:7000 レン:6000

「ターン終了です」

「私のターン」
 ほぅ、と私は溜息を吐いた。
「油断したわ」
「何がです?」
「あなたは、勝利をほとんど確信して……油断した」
 私は、手札に唯一残ったモンスターに、目をやった。
「油断? 僕は油断なんてしていませんよ」
「したじゃない」
 次に、私は墓地ポケットからカードを取り出した。
「あなたは、これ以上の攻撃は無いと考えて、ブラフすらセットしなかった」
「こちらには《ヴァンパイア・ロード》というモンスターがいます。そうそう戦闘では負けないはずですが?」
「それが油断なのよ」
 私は、墓地のカードを一瞬見て、別のポケットに移した。
《シャイン・アビス》《封印されしエクゾディア》を、除外――」
「な……」
 私は手札のモンスターに、手を掛けた。

「――《カオス・ソルジャー −開闢の使者》。攻撃表示」

「カオス……ソルジャー」
「さらに」
 愕然とするレンに対して、私は追い討ちをかける。
《デーモンの斧》《カオス・ソルジャー −開闢の使者》に装備、バトルフェイズ」
 これで攻撃力は4000ポイント。相手モンスターの攻撃力は、2000ポイント。そしてレンのライフポイントは、6000。
《ヴァンパイア・ロード》へ、攻撃」

レイカ:7000 レン:4000

「ぐ……」
「そして《カオス・ソルジャー −開闢の使者》の効果を発動」
 《カオス・ソルジャー −開闢の使者》には2つの効果がある。その1つ、「追撃」。
「あ……あ……」
「攻撃」
 たった2文字。その一言で、戦士は剣を構え、レンへと走り出す。
「ごめんね。初手が良すぎて」
 剣を、振り下ろした。

レイカ:7000 レン:0




「手を組む……?」
「ええ、そうよ」
 デュエル終了後、私は計画を実行に移した。
「お互いに損することは無いはずよ」
「ええ、確かにそうですね……。でも……」
「でも?」
 レンは、まるで片思いの人に告白をするように、俯き加減で言った。
「その……、年下の女性と森で2人きりというのは……。いろいろと……」
「いろいろと?」
 私は、自然に不敵な笑みを浮かべていた。クセみたいなものである。
「えーっと……、それはその……」
 口ごもる彼に対し、私は前かがみになりながら上目遣いで目を合わせた。
「あれぇ? レンくん。もしかして恥ずかしいのかなぁ?」
「ち、違いますよ!」
「えー? それじゃあ、自制がきかないタイプ? 襲いたくなっちゃう?」
「っ……」
「あれぇ? そうなんだ? 大丈夫、私はあなたが思ってるより大人だからさぁ」
 で、私は平常に戻って。


「いいからついて来なさいよ、このロリコン」
「…………はい」




この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建造物等とは一切関係有りません。


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