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「デュエル、しよう。俺達で」 アキラさんが真剣な表情で言い放った言葉は、明らかに場に合っていない、違和感のあるものだった。 「デュエル?」 「ああ、そうだよ」 「何で?」 オレはほぼ反射的に訊き返した。「何で」ほど便利な質問はないんじゃないか。 「何で――か。そうだね、端的に言えば……」 「頼まれた、からかな」 「頼まれた?」 「ああ、そうだよ」 アキラさんは再び同じセリフで肯定した。そして、オレはほぼ反射的に訊き返した。 「誰に?」 「誰に――ね……」 迷う仕草も見せず、言葉を続けた。 「それは言えないな。口止めされているからね。本人に」 「そうか……」 はぁ、と溜息を吐きつつ、本題に戻すことにする。 「で、デュエルすんのか。まあ、暇だし付き合うよ」 オレはデュエルディスクを構えた。 「どっちが相手になるんだ?」 オレは中里とアキラさんを交互に見つつ、ディスクの動作を確認していく。 「どっち? いや、どっちもだよ」 アキラさんはニヤリと笑ったあと、オレと、その後ろにいるユウカを見据えた。 「どっちも、って……」 言ってから、ユウカは怪訝そうな顔でオレを見る。そんな目でオレを見るなよ。 「そーゆーこと」 中里が楽しそうな声でディスクを構えた。あーあ、めんどくせぇ。 「それじゃあ、始めようか」 仕方なく、オレはユウカを右にして、横並びになる。対面にはアキラさん、右斜め前には中里がいる。運命というのがあるなら、そしてそれが神によって決められているなら――オレは、一生そいつを恨んでやる。 お互いに5枚引く。1ヶ月ぶりのタッグマッチが、今始まる。 「「「「デュエル!」」」」 第8話 共闘―Uniting Again―
「俺の先行で、ドロー……」 アキラさんがカードを引いた。その次にオレ、そして中里→ユウカとターンが回る。 「カードを2枚セット、エンド」 「ドロー」 カードを引き、まずは手札を眺める。一巡目はバトルフェイズが行えないから、とりあえず様子見が最適だが……。 「ぐ……」 単刀直入に言ってしまうと、明らかに事故だ。 なんせ、「モンスターが居ないのだから」 どうしました? とでも言いたげに、ユウカがこちらを見た。どうもこうもねえよ、と心の中で返答。 「カードを2枚セットしてターン終了だ」 アキラさんと丁度対になるように、2枚のカードがセットされる。言ってしまえば、ブラフだ。 「あたしのターン、ドロー」 ドローの後、数秒の迷いも無くモンスターが召喚される。 「《魔導戦士 ブレイカー》を召喚してっ、効果発動!」 《魔導戦士 ブレイカー》。モンスターとしては珍しい、戦闘以外でアドバンテージを取れるカードだ。召喚後、即効果が発動され、オレのフィールドにある《ハリケーン》が破壊された。 「なーんだ、ブラフかぁ……」 「悪かったなブラフで」 いきなりブラフ成功。序盤からブレイカーを使わせられたのは大きい。 「まあいっか。ターン終了」 カードを伏せるわけでもなく、《魔導戦士 ブレイカー》だけを置いたままターンエンド。ユウカへターンが移る。 「わたしのターン、ドロー……」 ユウカは数秒手札をにらみつけた後、手札から1枚カードをプレイした。 「《強欲な壺》を発動し、2枚ドロー」 初手から《強欲な壺》か。ラッキーなやつめ。 「さらに、カードを2枚セットし、モンスターをセット。そして魔法カードを発動――」 ユウカは手札からカードを出す瞬間、微笑みかけるようにこちらを向いた。アイコンタクトじゃ分からない、と思ったが、ユウカが意図したことは、ユウカが発動したカードによって明らかになった。 「――《手札抹殺》」 「……! 気付いてたのか?」 各々が手札を入れ替える中、オレは驚きつつもユウカに問いかけた。相談なしに《手札抹殺》なんて、味方の手札を把握してなきゃできないプレイングだぞ。 「1ターン目の動き、そしてセットされたカードから見て、あなたの手札が芳しくないことはサルでも分かります」 「そうかい……」 可愛くねえ。 「全員処理を終えたようですね」 ユウカは、全員が手札を引き終わったのを確認し、静かに微笑んだ。 「それでは全員、墓地を見せてください」 「「「――!」」」 オレを含むユウカ以外の3人が、驚きの表情を作った。そうか、"そっち"が目的か――! いつかは忘れたが、汐崎が言ってた。《手札抹殺》は面白いカードだ……と。アイツのデッキコンセプトからして、当然《手札抹殺》を採用しているが、それについて、アイツはこう言った。 "《手札抹殺》は墓地を増やすのにも使えるけど、相手のデッキを知るためにも活用できるのよね" オレはなるほど、と思った。友達同士でデュエルする場合は、既にデッキを知っているから気付かないが、相手のデッキを知らない場合、《手札抹殺》はそれを明らかにするためのカードとしても使える……ということだった。《手札抹殺》は手札を全て墓地に送る効果がある。墓地は公開情報だから、つまり相手は手札を公開することになる。手札さえ分かれば、おおよその内容を把握することが出来、それによって戦略を決定できる。 当然それは相手も同じだが、例えば公開してもデッキコンセプトが分からないカードだけを捨てたらどうだろうか。あくまで予測だが、ユウカのように、公開してしまうとデッキを把握されかねないカードだけを、フィールドに逃がすことが出来れば……。 「わたしのも見ますか? 面倒ですし、全員見せ合いましょうか」 そして、オレの予測は当たっていた。 ――墓地公開―― ユウカ 《冥府の使者ゴーズ》 《雷帝ザボルグ》 《死霊騎士デスカリバー・ナイト》 タクヤ 《貪欲な壺》 《地砕き》 《死者蘇生》 《巨大化》 アキラ 《和睦の使者》 《炸裂装甲》 《昇天の角笛》 《呪術抹消》 ユウリ 《氷帝メビウス》 《迅雷の魔王−スカル・デーモン》 《ブラッド・ヴォルス》 《死者への手向け》 《早すぎた埋葬》 「なるほど……。よく分かりました」 ユウカは意味深に微笑み、カードを墓地ポケットに戻した。この墓地から分かることは、2つだ。 まず、相手のデッキタイプ。 アキラさんの墓地を見てみると、ものの見事に罠しかない。ダメージカットにモンスター除去、そして召喚へのカウンターと、魔法へのカウンター。そして1ターン目の動きからしても、そのデッキが守備的であることが分かる。アキラさんが普段使うドローゴー、それよりは遥かに劣るだろうが、それに近いデッキ構成になっているはずだ。 対して中里。攻撃型の上級2体に高攻撃力の下級、魔法の除去カードに蘇生カード。全く対になる、攻撃型のカードが揃いに揃っている。さっきのターンの《魔導戦士 ブレイカー》や、魔法・罠を伏せようともしなかったプレイング。それだけ見ても、限りなくアグレッシブなデッキになっているみたいだ。 そして、次に分かるのがユウカのデッキ事情。 ユウカは、初手からゴーズやら雷帝やらとかなり強力なカードを切った。早い段階から《手札抹殺》を使いたかったのもあるだろうが、それにしては豪華なカードを墓地に送っている。それはつまり、ユウカのデッキには、かなり豊富なカードが投入されていることに他ならない。 こんなルールのデッキ構築だから、運による偏りは少なからず出る。ユウカは、恐らく運に恵まれたプレイヤーだ。このデュエルを進める上で、アドバンテージの1つとなってくれる。 「カードを1枚セットして、ターンエンド」 いつの間にかアキラさんがターンを終えていた。次はオレか。 「ドロー」 一新された手札を眺める。3枚のモンスターに1枚の魔法に1枚の罠。まずは、1枚の魔法をキャスト。 「《名推理》を発動する。選んでくれ」 アキラさんが"レベル8"を宣言し、処理に入る。シャッフルが悪かったのか、暫く魔法と罠だけが続き、ようやく6枚目にモンスターが現れた。オレは、そのカードをディスクにセットした。 「《リボルバー・ドラゴン》。特殊召喚」 レスポンスが無いのを確認しつつ、効果を発動する。 「《リボルバー・ドラゴン》の効果を発動」 「《天罰》」 アキラさんがカードを返していた。仕方なく墓地に送る。 「モンスターをセットしてターン終了」 「あたしのターン、ドロー。《魔導戦士 ブレイカー》を生贄に、《氷帝メビウス》を召喚!」 メビウスか……。こちらの場には3枚セットされているが……。 「ユウカちゃんの場の2枚を対象に効果発動」 流石にブラフとして伏せただけあって、こっちは眼中に無いらしい。ユウカは不敵に微笑みつつ、カードを翻す。 「チェーンして《奈落の落とし穴》。レスポンスは?」 全員が首を振る。 「では、さらにチェーンして《第六感》。何かありますか」 《第六感》と言えば、かの暗黒期に重宝された破滅的ドローカードだ。既に禁止カードになっているだけあって、その効果は強力かつ凶悪。やはりユウカは、運がいいプレイヤーらしい。 「《盗賊の七つ道具》を発動させてもらう」 タクヤ:8000 ユウカ:8000 アキラ:7000 ユウリ:8000 アキラさんがレスポンスした。このゲーム初めてのライフ変動。 「それじゃ、こっちも《盗賊の七つ道具》を発動させてもらうぜ」 タクヤ:7000 ユウカ:8000 アキラ:7000 ユウリ:8000 「ちぃっ」 アキラさんが舌打ちした。カウンター罠は外れが少ない種類だから、デッキに採用しておいた。後で知ることになるんだが、カウンターの採用動機は汐崎と全く同じだったらしい。上手い具合に刺さってくれた。 「逆処理。《盗賊の七つ道具》で《盗賊の七つ道具》を無効だ」 アキラさんが《盗賊の七つ道具》を墓地に送ったのを見て、ユウカが凛とした声で宣言した。 「《第六感》の効果を処理します。分かっているかとは思いますが、宣言は『5と6』」 アキラさんと中里は一瞬顔を見合わせた後、アキラさんがサイコロを取り出した。公式の物ではない、白い立方体に黒と赤の丸が彫られた一般的な六面体サイコロだ。手から放たれた賽は、でこぼこな地面を転がりながら、やがて相対するペアのほぼ中央で止まった。目は……。 「6ですね。それでは6枚ドロー」 にっこりと微笑み、デッキから6枚のカードを引くユウカ。強運だな。 「《奈落の落とし穴》で《氷帝メビウス》を除外します。結果、効果は不発です」 淡々と処理をしているように見えて、僅かに邪悪な微笑みを湛えているのがよく分かる。この辺は姉と大差ない。 「うーん。カードを1枚セットしてターン終了」 長い長いチェーンが終わり、そしてユウカのターン。 「わたしのターン、ドロー……」 手札は1枚加わり、11枚。何が飛んできても可笑しくない状況だ。 「計……25枚ですか」 ユウカが突然呟いた。何がだよ。 「手札とフィールドの総合計枚数です。タッグだとやはり多くなりますよね」 試しに数えてみたが、確かに25枚。……で? 「ただの事実確認です。まあ、こちらのカードだけで十分なんですが」 「ちょっと、はやくはやくー」 デュエル中にだらだら話してるこちらを見て、中里が言った。 「と、言うわけだからさっさとターンを進めてくれ」 「訊いてきたのはそっちじゃないですか」 そりゃ悪かった。というわけで早く頼む。 「わかりました。が、1つだけ言わせてください」 何だ。 「わたしが《手札抹殺》を発動したのには、3つの理由があります」 3つ? デッキの把握とオレのサポートの2つだけじゃないのか。 「ええ、それもあります。ただもう1つ、重要な役割があるんです」 重要な役割? 「それは、墓地を増やすこと。正確には、墓地に特定のカードを置いておくことです」 墓地肥やし……? 何のために。 「おっと、そろそろターンを進めましょうか。相手もイラついてきてますし」 ハァ、とオレは溜息をついた。マイペースというか自己中心的というか。 「それではメインフェイズ、墓地の《雷帝ザボルグ》と《死霊騎士デスカリバー・ナイト》を除外し――」 「「「な……」」」 見事に他の3人がユニゾンを奏でた。 「――《混沌帝龍 −終焉の使者−》を特殊召喚します。チェーンは、ありませんよね?」 その顔は、自信に満ち溢れていた。 この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建造物等とは一切関係有りません。 |