「――《混沌帝龍 −終焉の使者−》を特殊召喚します。チェーンは、ありませんよね?」第9話 そして終焉へ―Over And Over Again―大きかった。ただただ、大きかった。その体躯は、10メートルはあるだろう大樹の、さらにその2倍はある。当然立体映像だから木々は貫通していて、それが何とも奇妙だった。 「優先権を行使し、《混沌帝龍 −終焉の使者−》の効果を発動します」 タクヤ:7000 ユウカ:7000 アキラ:7000 ユウリ:8000 宣言は静かだったが、そのエフェクトは相当派手だった。龍が突然吼えたと思ったら、轟音と眩しい光と共に、巨大な爆発が起きた。視覚と聴覚が回復したとき、そこには何も残っていなかった。あるのは、4人と周りの木だけだ。いや、正確には3人だな。 タクヤ:7000 ユウカ:7000 アキラ:0 ユウリ:8000 「く……はぁ。負けたよ」 そう言って、アキラさんは傍にあった木にもたれ掛かった。《混沌帝龍 −終焉の使者−》でのダメージの計算……ユウカがカードの枚数を数えていたのはこのためだ。 「さて、これで2対1ですね」 ユウカが楽しそうに言った。そうだ、これで2対1。ただ、手札すらもリセットされてしまったから、引き次第ではまだ分からない。……と思っていたんだが、ユウカはさらに次の作戦を用意していた。 「ああそうそう、セットされていた《クリッター》の効果を発動します」 そう言って、デッキを取り出すユウカ。ここで《八汰烏》なんか持ってきてくれると、絶対に勝てるんだが。 「残念ながら、そんな便利なカードは持ち合わせていませんね。確かに、それさえあればこちらは100パーセント勝てますが……そこまでわたしは幸運ではありません」 デッキを開いてカードを見ながら、淡々と喋るユウカ。結構悩んでいる。 「あっ」 バサッと音を立てながらデッキが地面に落ちた。ユウカが、手を滑らせたようだ。表裏ばらばらにカードが散乱し、橙や緑や紫がところどころに見られる。 「……すみません」 そう言いながら、ユウカはカードを1枚1枚丁寧に拾っていく。全て拾い終えて、1枚のカードを抜き出してから、軽くデッキをシャッフルした。 「《異次元の女戦士》を手札に加え、召喚」 また制限カードか……こいつはどれだけ運がいいんだ? 「バトルフェイズ、《異次元の女戦士》で直接攻撃」 タクヤ:7000 ユウカ:7000 アキラ:0 ユウリ:6500 「ターンエンドです」 「オレのターン、ドロー」 ちぃっ、魔法カードだ。仕方なくセットし、ターンを移す。 「あたしのターン、ドロー。んん?」 中里がドローしたカードを見て、一度首を傾げ、そして嬉々とした顔に変わった。 「へへん。魔法カード、《死者蘇生》っ。《混沌帝龍 −終焉の使者−》を蘇生!」 明らかにユウカが不機嫌な顔をする。ここでそれを引くかよ……。 「バトルフェイズでタクヤに攻撃、そしてメインフェイズ2で効果発動っ」 まずオレのライフポイントが3000減少し、次に再びの爆発が起こる。感覚神経がおかしくなりそうだ。 タクヤ:3100 ユウカ:7000 アキラ:0 ユウリ:5500 「くそっ……」 再びイーブンに戻ったフィールド。人数でのアドバンテージは、もはや意味を成さなくなっている。 「ターン終了」 「わたしのターン、ドロー……、ターンエンド」 ユウカはドローゴー。まあ、しょうがないと言えばしょうがない。 「ドロー」 ……来た! 「メインフェイズ、1500ライフポイントを払い、《自律行動ユニット》を発動する。対象は《混沌帝龍 −終焉の使者−》」 もはや運ゲーだ。理論なんてものは必要ない。オレは続けてバトルフェイズに入る。 タクヤ:1600 ユウカ:7000 アキラ:0 ユウリ:5500 「直接攻撃」 タクヤ:1600 ユウカ:7000 アキラ:0 ユウリ:2500 「メインフェイズ2、1000ライ――」 言おうとして、ユウカに遮られた。 「待ってください。効果を発動する必要は無いですよ」 「あ?」 「焦る必要はありません。現在の状況は、圧倒的にこちらが有利なんですよ?」 どうだろうな? 「洗脳系カードを引かれたらどうする? 除去でもいい。一気にこっちが不利になるぞ」 「……勝手にしてください」 そうか。 「それに後1600なら、ワンチャンスで削りきれるだろ。1000ライフポイント支払い、効果を発動する」 タクヤ:600 ユウカ:7000 アキラ:0 ユウリ:1600 三度の爆発。もはや、普通のデュエルではない。 「ターン終了だ」 「あたしのターン、ドロー。《デーモン・ソルジャー》を召喚」 あーあ、負けたか。後は任せた、ユウカ。 タクヤ:0 ユウカ:7000 アキラ:0 ユウリ:1600 「ターン終了」 オレはアキラさんに倣い、木に身体を預けた。 「わたしのターン、ドロー……ターンエンド」 いいカードが引けなかったのか……。やっぱりしない方がよかったか……? 「あたしのターン、ドロー。《豊穣のアルテミス》を召喚、2体で攻撃!」 タクヤ:0 ユウカ:3500 アキラ:0 ユウリ:1600 《豊穣のアルテミス》、続いて《デーモン・ソルジャー》とユウカに攻撃していく。ライフポイントでは勝っているものの、かなり厳しい状況。やっぱりあの時――と後悔しても仕方が無い。 「ターン終了」 「わたしのターン、ドロー……」 今度はそのままエンド宣言せず、少し考えている様子だ。 「少なくとも――」 おもむろに、2枚しかない手札をシャッフルしながら、ユウカはしゃべり始めた。 「次のわたしのターンまでには全てが決しているでしょう。そして、どちらにも勝利する可能性は残されている。確率的に言えば……確実に、わたしの方が有利ですけどね」 そう断言するユウカ。オレ含め、その場のユウカ以外の全員が怪訝そうな表情を作る。 「わたしは罠カードを1枚セット。いいですか? 『罠カード』ですからね」 ハッタリか――? いや、違う。姉妹共通のあの笑みは、確実に何かを企んでいる時のものだ。もし《魔法の筒》を伏せているとすれば、相手が攻撃した瞬間に勝ちが決まる。 「ターンエンド」 「あたしのターン、ドロー」 多少逡巡したようだが、何もプレイせず、そのままバトルフェイズに入った。 「《豊穣のアルテミス》で――直接攻撃!」 オレは見た。ユウカが、これまでに無い程の邪悪な微笑を、その端麗な顔に浮かべているのを。 「罠カード、発動」 攻撃に呼応する罠カード――《ディメンション・ウォール》や《魔法の筒》なら、その時点で勝利が決定する。だが、ユウカがセットしていたカードは、オレの想像よりも遥か斜め上を行っていた。どうしようも無いぐらいに。 「《強欲な瓶》。カードを1枚ドロー」 「……え?」 中里が、思わず疑問系で呟いた。しかし、オレはその時点ではたと気付いた。ユウカが仕掛けた罠は、あのセットカードなんかじゃない。今ドローした方ではなく、さっきのターンに引いたカード。さっきまで1枚だった、手札。 タクヤ:0 ユウカ:1900 アキラ:0 ユウリ:1600 「手札から、《冥府の使者ゴーズ》を特殊召喚。戦闘ダメージですから、攻守1600のトークンを特殊召喚します。ああ、守備表示で」 やはり――そうか。 ユウカが先のターンで伏せたカードは、「罠カード」であり「罠」じゃない。あくまでカードを伏せておくことで、それを罠と警戒させると同時に、相手の思考から《冥府の使者ゴーズ》の可能性を排除する。まさに一石二鳥だ。だが、「次のユウカのターンまでに勝負が決まる」ほどの決定力があるとも思えないが……。 「うーん、《デーモン・ソルジャー》を守備表示に、カードを1枚セットしてターン終了」 「わたしのターン、ドロー……」 ドローしたカードを見て、ふっと微笑むユウカ。その笑顔は、何かを企んでいると言うよりは、単純に嬉しさをそのまま表現したかのような、無邪気な笑みだった。その微笑を残しながら、ユウカは口を開いた。 「まさに予定通り。少し、遅れましたけどね」 予定……? 「そうです。わたしはこのカードを待っていました。ただし、確率を高める努力はしましたが」 その場のユウカ以外の3人が、先の宣言を聞いた時よりもさらに怪訝そうな顔を作った。 「800ライフポイント支払い、《早すぎた埋葬》を発動します。対象は、《混沌帝龍 −終焉の使者−》」 タクヤ:0 ユウカ:1100 アキラ:0 ユウリ:1600 またか……と、オレは思った。それだけだ。面倒だから眼を瞑り、ついでに耳も塞ぐ。眼を瞑る直前、中里が大きく溜息を吐くのが見えた。耳を塞いでいるから、ユウカの声だけが小さく聞こえる。 「1000ライフポイント払い、《混沌帝龍 −終焉の使者−》の効果を発動……します」 閃光。そして轟音。見えないし、殆ど聞こえないがな。 タクヤ:0 ユウカ:100 アキラ:0 ユウリ:0 オレが眼を開いたとき、立っていたのは、ただ1人だった。 「なあ」 「はい?」 デュエルを終え、てきぱきとカードを片していくユウカに、オレは話しかけた。 「『確率を高める努力』って何だ?」 「ああ、それですか。そうですね…………わたしが、《クリッター》の効果を発動したときのこと、覚えていますね?」 「ああ。カードを落としたときのことだよな」 デッキを片付け終え、こちらを向き直ってから、ユウカは小声で続けた。 「そうです。実はあれは演技です。カードをばらばらにしてしまえば、1枚ずつ拾うことで自由に順序が入れ替えられますからね。後は、出来るだけ上に持ってくる用に、かるーくシャッフルすればいいだけです。相手がシャッフルを求めなかったのが幸いしました」 聞いているうちに思い出した。こいつの姉は、異常にイカサマが上手かったような気がする。 「それで、《早すぎた埋葬》を?」 「正確には、それと《冥府の使者ゴーズ》もですね。あんな土壇場に引くとは思いませんでしたが」 オレは苦笑した。ユウカがその意図を汲み取ったのか、微笑みながら言った。 「中々にスリリングでしたよ。こんなのは久しぶり――いや、1ヶ月ぶりです」 今度は少し大きな声で言ったからか、向こうの2人にも聞こえていた。1秒置いてから、全員から笑いが漏れた。 この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建造物等とは一切関係有りません。 |