《カオス・ソルジャー −開闢の使者》で直接攻撃。私の勝ちね」
「くそっ……」
 悪態をつきながら、男は去っていった。去る者は追わず……いや、追っても意味は無い。彼のポイントは、既にゼロだからだ。彼が所持していたディスクとカードと紙袋が置き去りにされている。またか……と私は思う。今日何度目だろう。
「お見事。レイカさん」
「それはどーも」
 ぱちぱちとわざとらしく拍手をしながら、レンがこちらに近づいてきた。一瞥してから、私はカードを片付け始めた。
「彼のデュエルを見るに、使えそうなカードがちらほらあるようですね」
「そうね」
 先の男が残していったものを見た。ディスクはいい。今までも全て置き去りにしてきた。ひとまずは、デッキを物色することにし、男がディスクにはめていたカードを全て外してから手に取り、1枚ずつ見ていく。確かに強力なカードがいくつか紛れ込んでいるが、今は必要ない。デッキをそのままレンに渡してから、今度は紙袋の中身を物色する。この紙袋は、いつ見ても森に全く溶け込んでいない。経費削減の目的もあるかも知れないが、せめて布製にして欲しいところだ。
 袋の中には40枚しかカードが入っていなかった。私達が出会った時、既にポイントが1だったのだから、最初の80枚しか所持していないのは予想の範疇だったが。40枚を全て眺め、欲しいカードが無かったためそのままレンに渡した。レンはデッキの半分あたりを見終わったところだった。
「遅いわね」
 1分ほど待ってもまだ袋の40枚を見ているレンに対し、2メートルほど離れた木に寄りかかっていた私は言った。
「ああ、すみません」
「ピケル眺めてないでさっさと見終えてくれない?」
「わっ!」
 レンがカードを落としそうになった。というか、落とした。《ピケルの魔法陣》だ。それなりに使えそうなカードだが、先の男はデッキに入れていなかったのか。
「ものすごく目が良いですね……」
「そうなの。両目2,0はあると思うわ」
「皮肉ですよ」
「いいから早く。こら、クランもダメよ」
 わざとですよ、と言ってから、レンは物色を続ける。さらに1分が経ったころ、ようやく見終えた。
「僕としても欲しいカードはありません。置いて行きましょう」
「分かったわ」
 私達は、男が残したものを全て置き去りにしていった。さらに東へ、私は歩を進めていく。


「ところで……」
 すいすい歩を進めていく私に対して、レンが言った。
「どこに向かっているのですか。さっきから一直線にしか進んでいませんが」
「ん? そうね……」
 私は立ち止まり、レンにディスクの画面を見せた。レーダーが表示されている。いくつか青い点がある中、黄色い点が1つだけ点滅している。黄色い点は進行方向にあり、距離的にはかなり近い。あと1キロもないだろう。
「ここを目指してるの。黄色いやつね」
「黄色……ということはあなたが入力されたものですよね」
「ええ、正確には『X=103 Y=1』。実はこれ、私が最初にいた地点とほとんど同じなのよね。わざわざ戻る羽目になったわ」
 レンは少し驚きつつ、私に訊いた。
「それは……なんの座標でしょうか」
「世界地図で、エックス座標を東経、ワイ座標を北緯としたときの、シンガポールの位置よ。シンガポールは東経103度、北緯1度の地点にあるから」
 と、私は紙袋から冊子になっている世界地図、要は地図帳を取り出しながら言った。レンはさらに訊く。
「なぜ、シンガポールなのですか」
「『国名コード』ってご存知?」
 私は訊き返した。レンは少し考えてから、
「知りません」
 と答えた。仕方なく私は説明を加える。
「国ごとのコード……つまり略号よ。アルファベット2,3文字や数字3つで表されるのだけれど」
 私は地図帳のシンガポールのページを開き、レンに見せた。そこには国のあらゆる情報が事細かに記されていて、国名コードも当然書かれている。それを見たレンは納得した様子で言った。
「そういうことですか」
「そ。シンガポールのアルファベット2字の場合の国名コードが『SG』なのよ。そして私達がしているゲームの名前は『―Scramble Game―スクランブル・ゲーム』。ご丁寧にも『SG』と略されているみたいだけど」
 要は、単なる思いつきなのだ。暇を持て余して地図帳を見ていたら、偶然見つけただけの話だ。
「ちなみに訊くんだけど」
「なんですか」
 私は、側にあった木を指し示しながら言った。
「この木、なんなのかしらね。見たことあるような気がするんだけど」
「ヒノキ……じゃないですか?」
 即答だった。
「ヒノキ? ああ、確かに言われてみればそう見えるわ」
 私はヒノキ(仮)を見上げながら少し考え、即座に止めた。
「まあいいわ。それより早く行きましょう」
「そうですね」
 私達2人は、また歩き出した。


「どうやら、当たりみたいね」
「ええ、そうですね」
 10分ほど歩いただろうか。私は目標である地点に辿り着いた。そこだけは木が全く生えておらず、言わば広場のような感じになっている。そこには、2人の人間がいた。2人の顔が重なっているせいで、どちらの顔も見えない。というか、この距離からだとキスしているようにしか見えない。果たして私の予想は外れたのだが。
「だからさ。何されてもダメだってば。これ以上は言えない」
「えー、いいじゃない。こんな綺麗なお姉さんがキスしてあげるんだからさ。それともなに? わたしみたいなのはタイプじゃないってわけ? もしかして年下が好きなの?」
 2人は、顔をぎりぎりまで近づけながら会話していた。というか、一方の声にかなり聞き覚えがあるのだが。
「あっ、ほら。誰か来てる。顔離してって」
「しょうがないなあ、もう」
 手前の方が顔を離したことで、向こう側にいた方と目が合った。大きな瞳に長い黒髪、容姿端麗な顔を持つ――男だ。Tシャツにジーンズ、頭にはニューヨークヤンキースの帽子。
「なーんだ、レイカちゃんか。お隣にいるのは彼氏? それにしちゃ年上かなあ」
 無視してから、私はどういう表情をしていいか分からなかったから、無表情のまま言った。
「あなたがヒントね。……イツキ」
「ん? そうだけど?」



第10話 手がかり

―The Hint―




「なあ」
 先頭を歩くアキラさんに対し、後について歩きながらオレは言った。
「なんだい?」
「どこへ向かってるんだよ。さっきから一直線だぞ」
 さっき、とは例のタッグマッチのことで、それが終わってからオレたちは行動を共にすることになった。それから、全く他のプレイヤーにも会わず、ただ一直線に突き進んでいるわけだ。先頭がアキラさんで、オレ、ユウカ、中里とさながら某RPGの様な風景と化している。
「目的の場所がある。そこに向かってるよ」
 アキラさんは歩きながら言った。目的の場所――か。
「もうすぐ着くから」
「……そうか」
 そうオレが答えた瞬間、急に視界が開けた。木が生えていなくて、広場のようになっている。そこには先客が4人いた。2人は良く知る顔、あとの2人は知らない顔だった。知り合いの2人がなにやら話し込んでいる。
「ヒントを教えなさい」
 片方は女だ。長い茶髪は纏められずに下ろされ、誰に訊いても美人と評されるだろう端麗な顔。女性としては長身で、170センチちょっとぐらい。起伏に富んだ身体に、漆黒のワンピースを纏っている。
「うん、いいよ。でも……」
 もう片方は男。男としてはかなり長い黒髪を後頭部で纏めていて、頭には野球帽を被っている。白地のTシャツに、黒ずんだジーンズを履いている。顔は対する女に引けを取らない……は言い過ぎだが、かなり容姿端麗だ。
「でも?」
「もう少し待ってよ。そこにいる人たちが顔を見せるまで」
 ――見つかっていた。まあ、茂みに隠れているわけでもないし、しょうがないと言えばしょうがないけどな。
「やあ、皆さんお揃いで」
 隠れる訳でもなく、アキラさんは広場に足を踏み出した。それに続いて、オレ含め3人が広場に出て行く。オレ達を見た汐崎は、安堵したように表情を緩めた。
「とりあえず大丈夫なようね。久しぶり」
「……ん。ああ、久しぶり」
 なぜかオレを見て言うから、少し口ごもってしまった。
「それじゃ、全員揃ったことだし、ヒントをお願い」
「うん。それじゃ、言う」
「ちょっと待て」
 オレは言った。全員が注目する中、オレは1つの疑問を口にした。
「ヒント? 何のことだ」
「そーそー。何言ってんのかわかんない」
 中里も口添えした。そちらの世界で話をされても訳が分からない。
「勝利条件のヒントに決まってるでしょう。このままじゃゲームが終わらないわ」
 勝利条件……? そうか、確かこのゲームの勝利条件はまだ伏せてあるのか。
「分かった。頼む」
 ん、と返事をしてから、ヒント役――河嶋斎――はすっと立ち上がり、全員に聞こえるように、大きく言った。


「ヒント。『遊戯王において勝利とは何か』『ルールには偽りが1つだけある』。以上」


「…………」
 その場の全員が沈黙した。風が葉を揺らす音だけがやけに大きく聞こえる。少しして、その全員がその意味を考え始めた。オレも少し考えることにする。『遊戯王において勝利とは何か』『ルールには偽りが1つだけある』……。とオレがさっき言われたことを心の中で復唱していると、その場の内の1人があっと声を上げた。それは他でもない、洞察力と推理力においては抜きん出て優れる、汐崎麗華その人だった。
「そういうことか。なるほどねぇ……」
 全員がアイツに注目する中、アイツは凛とした声で宣言した。


「この中で『エクゾディア』のパーツを持っている者、挙手しなさい」




この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建造物等とは一切関係有りません。


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