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「勝者! レイカちゃん!」 今更のように、イツキが審判の役目を果たす。まずは、エクゾディアパーツを回収する。4つ全てを集め終えて、今度はそれをイツキに見せた。イツキは頷き、言った。 「おめでとう。キミの勝ちだよ」 「ええ、ありがとう」 私はちっとも嬉しくなかった。 「おい、ちょっと待て」 「ん?」 私は声のするほうを向いた。タクヤだ。 「さっきのはどういうこった? 3人同時サレンダーなんて聞いたこと無いぞ。それも、まだ負けと分かっていた訳じゃないのに」 頭の回らない奴だ。ナナさんとユウカは、とっくに気付いているだろう。 「ああ、それはですね」 質問にレンが答えた。解説役は任せることにしよう。 「僕たち4人、つまり僕とレイカさんと中里悠李さんと佐藤彰さんが、グルだったからですよ」 話はずっと前、ゲーム開始直後まで遡る。レンと協定を結んだ私は、今後の方針を決めるべく、ある提案をした。何のことはない。「新たな仲間を見つけよう」ということだった。2人ではいささか少なすぎる。もう2人は欲しいところだった。そこで、まずは人を探すことにした。 そこで出会ったのがアキラさんとユウリのペアだ。2人はゲーム開始早々に出会い、そして2人で行動していたと言う。そこで、私は1つ頼みごとをした。それは、「何かあったとき、必ず私が有利になる行動を取る」ことと、「ユウカとタクヤを見つけて、一緒に行動して欲しい」ということだ。2人は快く応じてくれた―― 「ちょっと待て」 「なんでしょう」 タクヤが割り込む。 「2つ目のことだが、なんでそんなことを頼んだんだ?」 「本人に訊いて下さい」 言ってレンは、私に目をくれた。私は事も無げに答えた。 「簡単なことよ。私が、あなた達を心配しているから」 「は?」 つまりね、と私は続けた。 「脱落したら何があるか分かったものじゃない。だから、確実に生存……つまりゲームに残す方法を取ったの。私は同時に『必ず不要なデュエルは行わず、そして出会ったら必ず私のところへ来る』ことも頼んだわ。まあ、こんなクライマックスで会うとは思わなかったけど」 一気に話し終え、「わかった?」とタクヤに目をくれた。彼は頷いた。レンが解説を続ける。 ――次に私達は、するべき事をするために次なる行動を開始した。するべき事、というのは、要するに「カード集め」だった。勝利条件が分からない以上、出来ることはしておいた方がいいし、それにゲームを進める上でも有利になる。方法は次の通りだ。 まず、誰でもいいから参加者を見つける。大体ポイントは3のままだろうから、まずはポイントが4の私がデュエルを申し込む。相手に拒否権は無い。勝利したら、次はレンの番だ。相手のポイントは2に減っているから、やはり拒否権は無い。こうして私とレンが交互にデュエルを繰り返し、そして相手のポイントをゼロにする。そうしたら、置いて行ったカードを頂く。それの繰り返しだった。 最初は危なかったが、以後はカードがどんどん増えていくために負けることは無くなった。そうして参加者を着々と潰していく。他の参加者同士も各々デュエルしているようで、意外と時間は掛からなかった―― 「参加者ごとのポイントを見てみてください。デュエルディスクの機能にありますよね?」 全員が、液晶を操作して画面を呼び出した。かなり呆れたような様子で、ナナさんが言った。 「頑張ったわね。恐ろしいわ」 液晶には、灰色の字で示された大量の脱落者のナンバーが映っていた。所々まだ脱落していないナンバーがあるが、それは恐らくこの場にいる面々だろう。そして、レンと私のナンバーを見ると、その隣には三桁の数字がある。ポイントだ。まあ、大体150人くらいは脱落させただろうから、単純計算で合わせて450ポイントほど手に入れたことになる。 「その通り。かなり大変でしたよ。恐らく、もう残っているのはここの7人だけでしょう」 レンは解説を続けた。 ――そうして参加者の殆どを脱落したところで、私の思い付きからこの場に来ることになった。さっきの通り、アキラさん達とも合流し、クライマックスを迎えることになった。当初の予定では、より早期に合流して、タクヤとユウカにも「私が有利に〜」を頼むつもりだったが、予想外に時間が無かった。 しょうがなく、私は実質4対1対1対1のバトルロイヤルを行うことになった。まあ、結果は見ての通り。圧勝だ。圧倒的なカード資産でもって、私を中心に3人がサポートする。ユウリはたいしてサポートしていなかったが……。そういえば―― 「ナナさん」 私は少し離れた場所にいるナナさんの方を向いた。 「なに?」 「どうしてユウリも仲間だと分かったんですか? 目立った行動は起こしていないはずですが」 内容だけ見れば、サレンダーするまでユウリが私の仲間だとは分からなかったはず。しかし、ナナさんはなぜか全て知っているかのように振舞っていた。 「ああ、それはね。女の勘よ」 「そうですか……」 あえて追求しない。私はレンに続きを促した。 「――そうして、レイカさんが3人を倒し、後はさっきの通り4人のうちのレイカさん以外がサレンダーすればよいことです。これで解説は終わります。わかりましたか?」 「ったく、面倒なことするなぁお前は」 タクヤが、私の方を向きながら言った。 「何が何でもこのゲームを終わらせたかったのよ。こんな下らない茶番に、いつまでも付き合うつもりはないのよ。あなたもそう思うでしょう? イツキ」 「……そうだね」 イツキは何かを悟ったように答えた。 「私、色々疑問があるのよ」 さあ、種明かしと行こうじゃないか。 第13話 落とされた黒幕―Doubt―「まず最初に疑問に思ったのは、このデュエルディスクについてよ。このデュエルディスク、普通の機能に加えてレーダーやらも付いているわよね。デュエルディスクは一般にも販売されていて、分解してコピーすることができるとは言え、造るのはかなり大変だったんじゃないかしら。それに、1つ造るだけでも費用はかなりのはず。それを200個以上も。こんなに大量のお金を費やして、それに誘拐までして、犯人は何がしたかったのかしら? この疑問を解決するために、色々考えたのよ」 ここで私は一息つく。そして続けた。 「疑問を解決するのに、さらに疑問を生むのは普通ナンセンスよね。でも、それらに共通の答えがあるとすれば、それは意義があるわ。例えば、解を求めるのに連立方程式を使うようにね。まず私が着目したのは、この島そのものについて。よく考えれば、疑問だらけなのよこの島は。まず、この島の生態系についてだけど、明らかに動物が少なすぎるわ。いないと言っても良いぐらい。それなのに、こんなにも植物は生えている。これは、生物学的に見ても明らかにおかしい事よ。自然界は食物連鎖によって成り立っているわ。植物だけが繁栄することは有り得ないのよ。もう1つ。この植物自体もおかしいわ」 私は、後ろにある大樹を示した。レンがヒノキだと答えた、ヒノキ(仮)。 「レン。これはヒノキなのよね?」 「ええ。恐らく」 私はさらに続けた。 「だとしたらおかしいわ。ヒノキは日本と台湾にしか分布していないの。この島は、天候からして明らかに日本や台湾ではないわ。だから、ヒノキがここに生えているはずが無いのよ。まだあるわ。この空よ。雲一つない快晴だけれど、ずっとこのままっていうのはどうなの? ゲーム開始から既に何時間も経っているはずなのに、雲が現れないどころか太陽も動いていない気がするわ。地球の自転が止まらない限り、太陽が動かないなんてことはありえない。3つの意味で、この島は現実からかけ離れているわ」 全員が納得しているのを見てから、さらに言葉を紡いでいく。 「次に、これの参加者も色々とおかしいの。まずは立ち振る舞いね。私は最初、敗北した――つまりポイントが無くなった者が、どうなるのか気になっていたの。でも、反応は全員決まって『持ち物を置いてその場から立ち去るだけ』。人間と言うのは貪欲な生き物だから、立ち去るなら持ち物を置いてなんか行かないはず。1人2人なら分かるけど、全員同じなの。これはおかしいわ。ルール説明では省かれていたから、参加者がどうするかなんて参加者自身にはわからない。でも、参加者は皆一様に『自らゲームを放棄して』いるのね。黒幕が思考を操っていたりしなければ、明らかに参加者には『どうすれば良いか』が分かっていたとしか思えないの。それも、全員が素直にそれを行っている。それはなぜかしら? もう1つ、これも参加者自身のことなんだけれどね。なぜか皆、大人なのよ」 「どういうことだ?」 タクヤが割り込む。それの回答も含め、私は解説する。 「遊戯王というカードゲームは、一応対象年齢が広いとは言え、やっぱりプレイヤーの多くは高校生以下の子供よ。もし本当に『一般人を誘拐して』いたのなら、子供が混ざってもおかしくないのよ。でも、私達高校生を除いて、参加者に子供はおろか大学生すらもいなかったわ。これは確率としてはかなり稀、というか有り得ないわ。200人もプレイヤー誘拐して、それが全員大人なんていうのは、現実的じゃない」 これで、ひとまずは出揃った。さて、方程式を解いていこう。 「疑問は以上。これから自問自答に入るわ。退屈だったら寝ていても構わないけれどね。さて、まずこれらの疑問を解決するために、大きなヒントになったものがあるわ。コレよ」 そう言って私は、デュエルディスクに1枚のカードをセットした。紙袋に入っていた、《荒野》のカード。それの映像によって、辺りの景色が一変した。そこは、見紛うことなき「荒野」だった。私はそれを外してから続けた。 「フィールド魔法カード。これらは、他のカードとは違って、プレイヤーが『触ることが出来る』映像を作り出せるの。まあ、本当は実際に触っているんじゃなくて、プレイヤーがそう認識するようにプログラミングされているだけなんだけどね。これを使えば、一応どんな非現実でも再現できるわ。例えばこうよ。フィールド魔法カード《ヒノキ林》とか」 冗談ではない。ここで、全員が分かったような顔をした。 「そう。私は、この島がプレイヤーが『触れると認識する』だけの、映像なんじゃないかって思ったの。このフィールド魔法のプログラムを利用すれば、それは不可能じゃないわ。おかしな生態系も、このヒノキ林も、動かない太陽も雲も、全てが『精巧な作り物』ってことよ。でも、こう言ったプログラムなんかは、一般には公開されていないはずよ。これが出来るのは、製造元のコナミしかない。だから私は、このゲームの首謀者を『コナミ』だと予想するわ」 今度は全員が驚く。まあ、当然と言えば当然ではあるが。 「そう考えると、辻褄が合うのよ。参加者についてだけど、これらは全員が『コナミ側のスタッフ』だとすれば、疑問は晴れるわ。全員が大人だって言うことも、全員が敗北後の行動を理解していたこともね。本当は誘拐なんかしていなかったのよ。そして、このデュエルディスクについてもよ。例えばこれが、『新商品のテスト』だったとしたら? あるいは何かの企画でも良いわね。とにかく、これが商業的に有利になる行動だとすれば、費用についても納得が行くわ。これで元が取れるのなら、何も問題は無いものね」 ふぅ、と私は息を吐いた。まだ終わりではない。 「ただ、1つ疑問が残るとすれば、それは私達についてね。レンやナナさんはコナミ側だと推測できるけれど、私達高校生とアキラさんは、明らかに部外者。なぜ私達が参加する必要があったのか、それが疑問よ」 「それはな」 びくっ、と私は身震いした。突然後ろから声がしたのだ。振り向くと、そこには2人の男女が立っていた。女性の方は知らないが、男は知っている。どう見ても私の父、汐崎聡にしか見えなかった。 「親父……」 「初めてゲームを行うプレイヤーが、どのような立ち振る舞いをするのかを確かめたかった。事情を知らない、部外者でテストプレイを行いたかったんだ」 私の推測は正しかった。「テストプレイ」。黒幕は、コナミだった。 「そして、その中に極めて聡い人物がいたらどうなるか? それを確かめたかったんだよ。レイカ」 「そういうことね」 「そういうことですね」 ナナさんとレンが言った。やはり、この2人もそっち側か。そうすると、ナナさんがユウリが仲間であると看破したのも頷ける。彼女は、私達のやり取りをどこか外から眺めていたんだろう。 「結果はこの通りよ」 「ああ、そうだな。お前は圧勝した。そして、全てを見破った。さすがだよ。じゃあ1つ訊こう。イツキが出したヒントは2つあったはずだ。その内の後者、『ルールに1つだけある嘘』とは、なんだ?」 「それね。簡単じゃない。『ランダムに選んだ80枚のカード』っていうところよ」 私は、一応用意しておいたものを、袋から取り出した。私はそれを、躊躇うことも無く地面に放った。全て同じイラストの、同じカード。10枚以上もの、《混沌帝龍 −終焉の使者−》だった。 「今あるOCGを全てランダムに配分したとすれば、大体1種類のカードが2,3枚ずつぐらいになるわ。でも、こうしてこのカードだけ何故かこんなにも多い。それだけじゃない。《強欲な壺》も異常に多いわ。こんなに偏るなんて、ランダムじゃ有り得ないでしょう」 ふっ、と父は笑い、言った。 「さすが俺の娘だ。完璧だよ」 「茶番とはいえ、疲れたわ。ちゃんと見返りはあるんでしょうね?」 父は少し逡巡してから、言った。いつの間にか、そこは林でも何でもない、ただの広い土地に変わっていた。 「ああ、当然だ。俺が奪った時間は、必ず返してやる」 この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建造物等とは一切関係有りません。 |