A.D. 20XX May 20   ――東京都

《Reika's Vision》

――とん、とん
 靴を履き、かばんを肩にかける
 かばんはずっしりと重く、どれだけ授業があるのかと思わせる。
「行ってくるね」
 と、私はリビングの方に向かって言い放った。
「ちょ、ちょっと待ってよ〜」
 リビングの方向から情けない声が聞こえる。
「早くしなさい」
 と一喝。リビングのドアを開けて小走りでこちらに向かってくる。
 ドアを開け、外の日差しに思わず目を瞑った。私の名前は《汐崎 麗華(しおざき れいか)》。今急いで靴を履いているのは私の妹で、名前は《優華(ゆうか)》。3年前に両親が突然居なくなり、今は二人で生活している。母は死んだが、父は何処に行ったかは分からないし、連絡も取れない状態でいる。

 私は今から学校に行く所だ。ちなみに私は高校に通っている。ユウカは中学生だ。マンションから外を眺めると、通学路は登校中の生徒で溢れ返っている。
 ここは東京都中野区。区内には、鉄道が数多く通っているため、東京23区内のベッドタウンとして発達してきた。……とこれは辞典からの引用だが。辞典にある通り、ここには住宅が密集しており、都心のような雰囲気ではない。
「あ、レイカちゃん、ユウカちゃん。おはよ」
 登校中に声を掛けて来た彼女は、《仲里 悠李(なかざと ゆうり)》。私のクラスメイト。ユウリは成績は中の下くらいだが、元気"だけ"は誰にも負けない。いわゆるクラスのムードメーカー的存在だ。
「ユウリ、おはよ」
「ユウリちゃん、おはよ〜」
 いつもの様に挨拶を交わしつつ、歩いていく。途中でユウカと別れ――高校と中学校は通学路が違う――私達2人は高校に向かって歩く。

「きょうの宿題、なんかあったっけ」
 ユウリが真顔で言った。今訊くことじゃないだろう……。
「地学のレポートがあったかな」
「げっ!忘れてた!また先生に怒られちゃうよぉ……」
 ちなみに地学の先生というのは、私達の担任のことだ。ちなみに女性。
「懲りないわね……」
「なんかいった?」
「何でもないわよ」
 こんな会話を数十分繰り返しながら学校に着いた。《私立真星(しんせい)学園》。それが私達の通っている高校名だ。まだ歴史は浅い。偏差値は東京でもトップクラスに入るほどの実力で――なら何故ユウリが入れたのかが気に掛かるが――特に理数方面における成績は万年(といっても数十年だが)首位をキープしているのだから驚きだ。
 校則は、《法律に触れないこと》、《授業を妨害しないこと》。この2つだ。授業を妨害しなければ、液晶テレビでさえ持ち込み可能だ(使えないが)。ある意味で自由奔放な学校だ。制服すらないが、生徒は常識的なので変態的な衣装を着込んでいる者はいない。

 脱靴場で靴を履き替えながらも会話は続く。脱靴場では靴を地面に落とす音と棚に入れる音とが行き交い、会話が通りにくい。校舎に入り、階段を上る。私達――ちなみに2年生だ――の教室は3階にある。
「ふぅ……」
 自分の席に荷物を下ろす。
「きょうは授業多いから重いなぁ」
 向こうからユウリの声がする。確かに、今日は終始びっしり授業が詰まっている。あと5分程で朝のSHRが始まるが、1つだけ……私の隣の席が空いている。欠席ではない……はずだ。まあ、いつものことだが。

 ――キーンコーンカーンコーン
 チャイムがなると同時に先生が入室する。さっきも言ったとおり女性だ。年齢はまだ若い。彼女の名前は《鈴鹿 真理奈(すずか まりな)》。教師歴2年。
「みなさんおはよう御座います。それでは朝のSHRを始めます……が。須藤君はまた遅刻かな?」
 先生が誰に、とでもなく問うと、その答えは開いたドアの向こう側から聞こえてきた。
「須藤君は遅刻で御座いますよ先生。」
 開き直ったように答えた彼こそが《須藤 拓也(すどう たくや)》。私のクラスメイトで隣の席に座っている遅刻魔。最近、ちょっとは早く来るようになったが間に合った試しがない。
「早く席に着きなさい。ホームルームを始めますよ」
「はい……」

「今日こそは間に合うと思ったんだけどな。多分明日は多分大丈夫だ」
「期待しないで待ってるわ。」
 席に着いた彼は不可能なことを口にした後黒板へ向き直った。そんなこんなで、時間は過ぎていったのだった。

――放課後――

「いや〜、今日は疲れたな〜」
 遅刻魔が背伸びをしつつ言った。授業が多かったのだから致し方ない。まあ、半分は寝ていたようだが。
「あ、俺は部活があるから。じゃあな」
「じゃあね。じゃ、レイカちゃん。帰ろ」
 ユウリが私の手を引いていく。
「じゃあね」
 私は彼に別れを言い、ユウリと一緒に朝来た通学路を帰っていった。


 周りには住居しかなく、住宅街の様な場所。その一角に、カードショップ《THIEVES》はある。店名を訳すると、《盗賊達》となるが、どのような意味があるかは分からない。帰路に着いた私は、特に理由も無くここへ訪れた。

 カランコロン

「いらっしゃいレイカちゃん」
 私が店内に入ると、店長が声を掛けて来る。
「アキラさん、こんにちは」

 彼の名前は《佐藤 彰(さとう あきら)》。このカードショップの店長で、遊戯王カードのプレイヤーである。年齢は20代前半で、おととし2代目の店長に就任したばかりだ。若いこともあって、気軽に話しかけられるカードショップのお兄さん的存在になっている。ちなみに1代目、つまりこの店の創設者は彼の父に当たる。その創設者が何処に行ったかは分からない。

「今日は何の用かな?」
「いや、特に用は無いんですけど」
「暇なんだ?」
「えぇ……」
 部活に入っているわけでもなく、下校後は暇になってしまう。勉強でもすればいいのだが、私は就寝前に勉強をする派だ。いや、それはどうでもいい。あらためて店内を見渡すと、何人か小学生が見られる。彼らの相手でもしてやろうかと思っていたら。

「なら1戦どう?」
 黒いスリーブに包まれたカードの束を持ってアキラさんが言った。宣戦布告。
「……良いですよ」
 3秒ほどの沈黙の後、こちらもデッキを取り出す。こちらは白いスリーブを纏っている。

 店の外では春を感じさせる爽やかな風が吹いている。互いにデュエルディスクを構える。
「よろしくお願いします」
 私が言う。
「こちらこそ」
 微笑みながら相手も言う。


「「デュエル」」





《Yuri's Vision》
 レイカちゃんと別れて家に帰る途中、住宅街の中の十字路が見えてきた。右に曲がればあたしの家が見えてくる。お互いに気付いてなかったんだと思う。死角だったし。

 ドンッ

 と鈍い音がした。と言っても、一瞬意識が朦朧としていたから良く聞こえなかったんだけど。あたしの視覚では、どうやら誰かとあたしがぶつかった様に見えた。
「いてっ」
「あ、ゴメン。前見てなかった」
 あたしは後ろに倒れて地に手をついたけど、相手方は倒れたような様子も無く謝った。少し英語圏の訛りがある。
「いえ、こっちも前見てなくて……」
 と顔を上げた。予想に反して、そこに立っていたのは私と同じぐらいの背の小……女かな? ニューヨークヤンキースの帽子を被っていて、長めの黒髪を後ろで纏めている(ポニーテールってやつだよね)。長ズボンに半袖Tシャツ、春を感じさせるスタイル。女の子かと思ったけど良く見たら男の子にも見える顔だね。
「ほんとにゴメン、じゃあね」
 そう言ってその人は去っていった。可愛かったな、と思いつつ家へ帰っていく。


《Reika's Vision》

「俺の先攻で、ドロー……、カードを2枚セットしてエンド」
 アキラさんはモンスターゾーンにはカードを置かず、魔法、罠カードのセットのみでターンを終了する。まあ、そのようなデッキタイプだからだが。
「私のターン、ドロー。モンスターをセットしてターンエンドです」

「俺のターンドロー……、《封印の黄金櫃》を発動する。そーだな……《天使の施し》を除外するとしよう。エンドだ」  棺のエフェクトが展開され、《天使の施し》のカードが封印さる。2ターンの後に相手の手に移ることになる。

「ドロー、《魔導戦士ブレイカー》を召喚します」
《奈落の落とし穴》発動。ブレイカーは除外だ」
 やっぱりか。とか思いつつぱっぱとブレイカーを除外し、次の行動に移る。
《魔導雑貨商人》を反転召喚します。何かありますか?」
「通すよ」
 了承を得たので、デッキから1枚ずつめくっていく。暫くモンスターが続くが、8枚目でようやく……
「8枚目、《大嵐》を手札に加えます」
 めくられた7枚のモンスターカードを墓地に送り、《大嵐》を手札に加える。
《魔導雑貨商人》でダイレクトアタック」
「手札を捨てて《チェインブレイク》を発動する。その《魔導雑貨商人》及びデッキの《魔導雑貨商人》を全て除外だ」
 私はデッキから《魔導雑貨商人》を2枚抜き出し、計3枚を除外した。
「ターンエンドです」
 私のフィールドには何もない。"がら空き"の状態だ。相手が普通のデッキならこんなことは到底出来ないが、相手が相手だけに全く問題がない。ドローゴーにモンスターは殆ど搭載しないからだ。

「ドロー……、カードを2枚セットしてエンド」
ターンの1つ1つはかなり短い。だが、ターンが短いと言う事は、それだけ相手に考えさせる隙を与えないということでもある。

「ドロー、《封印の黄金櫃》を発動します。何かありますか」
「手札を捨てて《呪術抹消》を発動する。デッキからも除外だ」
 合計三枚の黄金櫃を除外する。ライブラリアウトでも狙ってるんじゃないのか、と思わせるぐらいデッキから根こそぎ消してくる。《封魔の呪印》でなく《呪術抹消》であるところもポイントになるらしい。
聖なる追放者ホーリー・エグザイルを 手札から特殊召喚します」
「通す」
 片手に杖を持ち、輝きを放つ魔導師が現れる。除外枚数が一定を超えると、手札から特殊召喚できる上級モンスターだ。
「ダイレクトアタック」
《炸裂装甲》を発動する」
 鎧が砕け、魔導師は葬られてしまった。まあ、一向に構わないが。
「モンスターをセットしてターンエンド」

「ドロー、《天使の施し》を手札に加え、発動する。3枚引いて《万能地雷グレイモヤ》《砂塵の大竜巻》を墓地へ」
 そして、アキラさんは墓地のカードに手を掛けた。内8枚を抜き取り、除外ゾーンに移した。ああ、もう来るのか、と思いつつ手札から現れたモンスターに目をやった。大きい。普通のカードとは何か違う威圧感を受ける……龍だ。
《神龍−解放と束縛−》――!」


 勝負は、これからだ。


 罠の力を吸収した龍の攻撃力は4000ポイントにもなる。その姿は店の高さよりも高く、通行人の目を引く。実際、いつの間にかギャラリーがかなり集まってきた。殆ど子供だが。
「攻撃」
 ドローゴーでは滅多に聞けないフレーズとともに神龍は《聖なる魔術師》を焼き尽くす。墓地に魔法が無いため効果は発動しない。
「カードを1枚セットし……1000ライフポイント払い神龍の起動効果を発動する」

アキラ:7000 レイカ:8000

 神龍の効果。それは恐怖の復活。罠の蘇生だ。いつかに使った《奈落の落とし穴》が再びアキラさんの目の前にセットされる。代わりに神龍の攻撃力は少し下がる。

「ドロー……、《大嵐》を発動します」
 とりあえず発動してみた、といった感じだ。勿論止めてくるが。
《マジック・ドレイン》でカウンターだ」
「……無効にします。《ならず者傭兵部隊》を通常召か――」
《神の宣告》

アキラ:3500 レイカ:8000

 苦笑い。たった7文字で斬り捨てられた傭兵達を墓地に置く。だが、それは同時に私の勝利を決定付けることとなった。
「墓地のカードを10枚除外し――」
「……っ!」
 相手方のフィールドに相対するように、私のフィールドにも龍が現れた。神龍よりもさらに大きい。
《無限龍−その力、未知数−》!」
 その攻撃力は実に8100ポイント。神龍を攻撃すればその超過ダメージで相手のライフポイントはゼロになる。
「一応発動してみるけど……《奈落の落とし穴》
「1000ライフポイント払って無効にします」
 神龍は恐怖の復活を能力とするが、無限龍の能力は正に恐怖そのもの。1ターンに2回までと制約はあるものの、1000ライフポイント払えばいつでもカウンターが可能だ。
「これで終わりです。無限龍で攻撃」



 龍が龍を焼き尽くし、その闘いは幕を閉じた。




この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建設物等とは一切関係ありません。


《チェインブレイク》  通常罠カード
効果:手札を1枚捨てる。相手の攻撃モンスター1体をゲームから除外し、お互いにその同名カードを全てデッキから除外する。


聖なる追放者ホーリー・エグザイル  ☆6 光属性 天使族 攻撃力2300 守備力1500
効果:自分のカードが4枚以上除外されている場合、このカードを手札から特殊召喚することが出来る。


《神龍−解放と束縛−》  ☆12 神属性 幻神龍族 攻撃力? 守備力?
効果:このカードは通常召喚出来ない。このカードは自分の墓地に存在する罠カードを8枚以上除外して特殊召喚する。このカードの攻撃力、守備力は自分の除外している罠カードの枚数×500ポイントになる。1ターンに1度だけ1000ライフポイント払うことで、自分の除外している罠カードを1枚選択し、自分フィールド上にセットすることが出来る。この効果によってセットしたカードはセットしたターンに発動できる。


《無限龍−その力、未知数−》  ☆12 神属性 幻神龍族 攻撃力? 守備力?
効果:このカードは通常召喚出来ない。自分の墓地の上から10枚を除外して特殊召喚する。このカードの攻撃力、守備力は、特殊召喚時に除外したカードの中のモンスターの枚数×900ポイントになる。1000ライフポイント払うことで相手の魔法、罠の発動を無効にし破壊することが出来る。この効果は1ターンに2回まで発動でき、相手ターンでも発動できる。


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