《Itsuki's Vision》
「ふん、ここか」
いつの間にか店の入り口に佇んでいた男が、こちらに歩み寄ってくる。黒いマントを羽織って、原作のグールズさながらにデュエルディスクを装着している。顔は良く見えないけど、鋭い眼光だけは嫌でも目に入る。いわゆる恐いヒト。
「久しぶりだな。お前が秀則(ひでのり)の息子か」
その男が、佐藤彰を指して言った。あいつの父は秀則って言うのか。
「そうだが。てめぇは誰だ」
「盗賊達の幹部だ。この国のな」
「ほう。そのお偉いさんが俺に何の用だ」
あいつは、どこまでも気が強いね。
「お前らの"龍"を奪いに来た」
「フ……単刀直入だな。だが、渡せない」
「最初から貰おうとは思っちゃいない。実力行使だ」
実力行使と言えど、リアルバトルで蹴りをつけるワケじゃないよ。この世界では、それが暗黙の了解。お互いにデッキを取り出し、互いにシャッフルし、デュエルディスクにセットした。立ち見も難だから、側にあった椅子に座ることにする。
「「デュエル」」

「俺の先攻だ。カードを3枚セットしてエンド」
やっぱり変わってないね。ドローゴーか。ちょっと相性が悪いかもね。
「私のターン、ドロー……。《手札抹殺》を発動する」
終わったかな。
佐藤彰は3枚、その男は5枚の手札をディスカードし、引いた。その瞬間、どこからか――いや、わかってるけど――3体の悪魔が現れた。
「さらに、《暗黒界の武神 ゴルド》と《暗黒界の軍神 シルバ》2体を特殊召喚する」
「……ほう、早いな」
余裕そうな表情を浮かべながら、佐藤彰は言った。その強気の理由が知りたいね。
「余裕そうだな。全体除去でも伏せているのか」
「さぁ? どーだか」
ムカつくね。いや、吐き気がするわけじゃないけどさ。
「ふん、まあいい。さらに《暗黒界の狂王 ブロン》を召喚し――攻撃」
体を鎖で縛られ、名の通り青銅の色をした悪魔が出現する。その悪魔は、プレイヤーへと攻撃した。
「《つり天井》発動だ。残念だったな」
えっ……?
「ちっ。運が良かったな」
まだ名も知らぬ(ボクは知ってるけど)男は、そう言ってはいるけど、内心ではそこまで悔しがっていないように見える。いや、それよりも問題は今の《つり天井》だ。何故こんな序盤から伏せているの?
「運の問題じゃないさ。なぜ1ターン目から、こんなカードを伏せているのかと言うとな……」
佐藤彰は、こっちを向きながら言った。やばい、見抜かれてるよ。彼の回答はこうだった。
「シャッフルする時、お前のデッキの1番下が《暗黒界の武神 ゴルド》だったんだよ」
呆れたね。つまり、デッキの1番下を見たら《暗黒界の武神 ゴルド》だったから、"相手のデッキはダークサイドである"と推測し、デッキの展開力を想定して《つり天井》を伏せたわけだ。イカサマじゃない?
「成る程な。まあいい、カードを2枚セットしてターンエンドだ」
4枚のモンスターを墓地に置きながら、男は言った。
「俺のターン、ドロー……。《無血の宝札》を発動し、さらにカードを2枚セット。エンドだ」
相変わらずターンは短く、思考を遮る。逆に言えば、佐藤彰自信は短いターン内で思考をめぐらせていることになる。さすがコントロールデッカーだね。
「私のターン、ドロー。《魔導戦士 ブレイカー》を攻撃表示で召喚する」
「許可しない。《奈落の落とし穴》発動だ」
武具に魔力を宿した魔法戦士の映像が、現れた瞬間に消えた。流石に通さないか。ドローゴーを相手にすると面白くなさそうだね。
「カードを1枚セットし、ターンエンド」
「《無血の宝札》の効果でドローし、さらにドローフェイズにドロー」
手札補充も万全……か。勝敗の天秤は佐藤彰に傾いている。
「《天使の施し》を発動する」
発動宣言を聞いた瞬間、男はニヤリと不敵に笑い、彼の伏せカードが表向けられた。そのカードには、こんな名前が書いてあった。
「《闇の取引》。発動だ。通るか?」
アキラ:8000 男:7000
「《盗賊の七つ道具》を発動する」
アキラ:7000 男:7000
「こちらも《盗賊の七つ道具》だ」
アキラ:7000 男:6000
「ちぃ……許可する」
「これで《闇の取引》の効果は適応される。私の手札は1枚だから、そのまま墓地へ捨てる」
カウンターの応酬の後、《天使の施し》は無効になり、男は手札をそのまま墓地に置いた。そして魔神は――降臨した。
「《暗黒界の魔神 レイン》の誘発効果を発動する。通るか?」
《Reika's Vision》
夜の街灯の中を歩いていると、時に寂しくなることがある。私の母親は早くに他界し(白血病らしい)、それを追うように、父親も行方不明となってしまった。安否は今だ知れずだが、表面上は死亡となっている。我が家の財政は、両親の遺産と(片方はまだ死んでいないかもしれないが)親族からの仕送りによって均衡を保っている。
自らの置かれている悲しい状況に悲愴を思いながら、今日も我が家への帰途を歩きつつ、春の夜風に打たれ――何かの歌詞にあったか――、体を粟立てていた。
ふと、振り向いた。
特に理由はない。あるとすれば、それは私の本能が肉体に働きかけた結果であり、私の思考のせいではない。私は視力は良いほうだ、ならば見間違えるはずもないだろう。素直に驚こう。なんだ、あれは。
ここから南――丁度《THIEVES》のある方だ――の上空(それほど高くはない)に、何かがいる。漆黒の渦と共に現れた"それ"は、黒と銀の身体に、先が金色の杖を持ち、銀色の翼に角。そう、それはまるで――
暗黒界の、魔神のようだ
《Ituki's Vision》
「ちいっ、手札を捨てて《天罰》を発動する」
仕方なしという感じで、佐藤彰がレスポンスを入れた。しかし、恐怖は消え去らなかった。
「ライフポイントを半分払い、《神の宣告》を発動する。どうだ?」
アキラ:7000 男:3000
「くそっ……」
打つ手なし。
佐藤彰の立場は、そんな感じだ。《天罰》のエフェクトが消え、代わりに巨大な悪魔が地に足を付ける。刹那、佐藤彰のフィールドが一掃された。
「カードを1枚セットしてエンドだ」
この次点で佐藤彰の手札はゼロになった。男の方も、《暗黒界の魔神 レイン》のみ。かなりの消耗戦だ。
「私のターン。バトルフェイズ、《暗黒界の魔神 レイン》で攻撃だ」
「《炸裂装甲》を発動する」
巨大な魔神のエフェクトが砕け散った。残光がキツイ。
「カードを1枚セットしてターンエンド」
「俺のターン、ドロー。カードを1枚セットしてエンド」
思考時間が短いのは、することが2つだけだからだろうね。セットと、セットせずにエンドの二者択一。
「おっと、その前にカードを発動させてもらう。《サイクロン》発動だ」
エンドサイク。
エンドフェイズに《サイクロン》を発動することで、そのターンに伏せた対象にチェーンされずに、確実に1:1交換を行う高等技術だ。《万能地雷グレイモヤ》のエフェクトが破壊され、ターンが移る。
「私のターン、ドロー」
佐藤彰は完全なる"がら空き"状態となっている。手札すらない。相手方も似たようなもんだけどね。
「トップデックに頼ったのは久しぶりだな」
「俺もだよ」
こんな会話が繰り広げられつつ、男の手札は横向きにセットされた。すぐにターンは移り、佐藤彰がドローした。
「カードを1枚セットしてエンド」
「私のターン、ドロー。カードを1枚セットし、モンスターを反転召喚する」
裏向けられていた映像が、1つのモンスターの形としてフィールドに現れた。
「お前にも手札をくれてやる。《メタモルポット》の誘発効果発動」
手札補充の神様。そしてダークサイドにおける召喚エンジンが発動する。互いに捨てる手札も無く、5枚引いた。
「さらに、セットしていた《天使の施し》を発動する。レスポンスはあるか?」
「ない」
了承を得てから、男は3枚引き、2枚捨てた。
「《暗黒界の策士 グリン》の効果を発動する」
「チェーンして、《スケープ・ゴート》を発動し、《暗黒界の策士 グリン》の効果は不発だ」
フィールド上に4体の羊型トークンが現れる。可愛いなあ、なんて言っている暇はない。
「さらに、《暗黒界の軍神 シルバ》を特殊召喚する」
名前の通りの銀色の体の軍神が、フィールドに浮遊する4匹の羊を見据えた。ちょっと恐い。
「《ライトニング・ボルテックス》を発動させてもらおう。トークンには悪いがな」
「来ると思ったよ」
羊達は、1分の猶予もなく電撃によって消滅した。残念だなあ。
「そろそろ、終いにしようじゃないか」
「ほう」
男はそう言って、墓地のカード3枚を除外した。目を凝らすと、それが全てダークサイドモンスターであることが解る。
「《ダーク・ネクロフィア》を特殊召喚する。さらに――」
まだあるのか、とも言いたげな表情で佐藤彰は相手の手札を見ていた。恐らく、そこから出て来たカードは彼の想像とは違っていたと思う。
「《偉大魔獣 ガーゼット》、《暗黒界の軍神 シルバ》を生け贄に召喚する」
「!?」
佐藤彰は出す言葉も無い程のようだね。攻撃力は《青眼の究極竜》のそれを超える。
「フィールドのモンスター全てで攻撃する」
現在、佐藤彰のライフポイントは7000である。そして、男のフィールド上の攻撃力合計は7500である。故に、佐藤彰のライフポイントはゼロとなる。
遊戯王において、ライフポイントが0となったプレイヤーは敗北する。
今、佐藤彰のライフポイントが0になった。
故に、佐藤彰は敗北した。
証明終わり
「私の勝ちだ、着いて来てもらおうか」
「やだね」
何だコイツ。と言いそうになった。危ないなあ。
「俺は龍を渡せと言われたが、着いて来いとは言われなかった。それが理由だ」
「私は、お前の龍を渡せとは言っていない。お前"ら"の龍を奪いに来たんだがな」
「ふん、そういうことか」
どういうことなんだ。
「なら――」
そう言うが早いか、佐藤彰は自らのデッキから"龍"を抜き出し、両手の人差し指と親指をカードの縁に当てた。まさかコイツ……
「このカードは破り捨てる」
ビリッ。
という音が聞こえる前に、男は佐藤彰との間合いを詰め、拳を腹に食い込ませていた。
「ぐ……ぁっ」
その時、悲痛な叫びを上げながら倒れそうになる佐藤彰と男の目が合った。
「まさか、お前は――」
言いかけて、彼は気絶した。
「イツキ」
男が、僕を呼ぶ。
「なに?」
「私はコイツを連れて行く。だからお前は彼女らを連れて来い」
「どうやって?」
男の口から発せられた策略に、少し唖然としたね。
「あいつらに真実を話す。そして誘い込めば良い」
真実を話す? まさか。
「正気? それに彼女達が来るとも限らないし」
「それはお前に全て掛かっている。勿論、真実をそのまま話さなくてもいい」
確かに、彼女達は真実を知れば手伝ってくれるだろう。そこまで冷たい人達じゃないし、弱い人達じゃない。いや、待てよ……ふふん、言いこと思いついちゃった。
「解った、そこまで信用してくれるのならその通りにするよ。彼女の携帯番号くらいなら解るかな?」
真実を話すには、彼女達を一箇所に集めれば早い。集める手段は、電話やメールが最も手っ取り早い。
「私は知らないが、コイツのを借りればいい」
佐藤彰を指して、男は言った。確かにそれもそうだね。
「じゃあ、任せたぞ」
男は踵を返した。車で来たらしく、黒の軽自動車が止まっていた。
この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建設物等とは一切関係ありません。
《無血の宝札》 永続魔法カード
効果:相手のターンにダメージを受けなかった時、そのエンドフェイズにカードを1枚ドローする。
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