《Reika's Vision》
――正直、まだ半信半疑だった。ただのドッキリで終わる可能性も否めないし、真実である可能性もあった。勿論、前者の方が可能性が高いであろう。
そう、思っていた。
コツ、コツと5足の靴がビルの床を打つ。ここは学校から程近いビルで、地下1階を含む7階建てである。程なくしてエレベーターの前に着き、5人の内の1人である河嶋斎が、下層へ行くボタンを押す。
「地下……か。ありがちなパターンだな」
5人の内の1人、須藤拓也が言う。
「でも、雰囲気は出るんじゃない?」
5人の中の1人、仲里悠李がそう言い、エレベーターは地下1階に到着した。
地下1階と言いつつ、そこはほとんどが空調室などのビル内部のシステムルームが占めている。よって人の出入りは少なく、薄暗い廊下には埃がそこかしこに見られる。その廊下をまた5人分の足音が通っていくが、1つの扉の前で止まった。"立ち入り禁止"の張り紙が張ってある。
「ここに……入るの?」
不安そうな声で尋ねたのは、5人の内の1人で私の妹の優華である。
「確かに、潜むのには持って来いね」
そして、これは私である。そんな5人が何をしているのかというと、世界を救うためである。
……漠然としすぎたか。
とりあえず目先の目的は、"THIEVES"という組織の日本支部を分解させるためである。そのために、私達はそのアジトに乗り込もうとしている。勿論、私はそれを10割信じているわけではなく、半ば冗談に付き合っているような感じだ。そもそも、何故デュエルなのかが分からない。イツキに訊けば、リーダーにたどり着くまでに、デュエリストが立ちふさがっているからだという。ゲームじゃあるまいし。
無言でイツキが扉を開いた。私は、その先の情景に驚愕した。
「何……コレ」
ユウリが驚きを口にした。無理はない。この様子を一言で表すならば……
「迷 宮……」
そんな、感じだ。
直線的な通路と、その脇に伸びる複数の通路が通っている。その直線的な通路も、少し先でT字路となり分かれている。壁には照明がついているが、光力は強くなく、回廊は薄暗く照らされている。
「迷いそうね」
私の質問に答えたのはイツキではなかった。
「いらっしゃい。可愛い生徒達」
答えになっていなかったが。
その声の主は、脇道の1つから歩き、出てきた。薄暗くて良く分からなかったが、声色から察するに……まさか。
「鈴鹿……先生?」
ユウリが疑問系で言った。そう、鈴鹿真理奈……私達の担任教師である(しかもデュエルディスク装備)。どうなっている?
「驚いた? 全てはあなたを監視しておくため」
と、私を指して鈴鹿教諭は言った。つまり、彼女は"組織"の一員で、私を監視するために担任となった……ということらしい(イツキ談)。確かに、教師……それも担任であれば私を監視するのも容易いであろう。どうやってなったのかは不明だが。
「マリナ、通して」
イツキが言った。マリナ……先生のファーストネームか。
「ええ、どうぞ」
奥の方に手を差し出しながらあっさりと言う鈴鹿先生。良いのか?
「ええ、通るのは構わないわ。けど――」
彼女は差し出していた手を下ろし、こちらに向き直ってこんなことを言った。
「帰しは、しないけどね」
とりあえず整理しよう。今現在、私達は敵の本拠地でしかも敵の目の前に居る。そして、敵は通してくれると言っており、しかしながらここから出してはくれない。ここから出る方法は今考えてもしょうがない、とにかく前に進もう。というのが私達の全体的な意見である。
「――あっ、でも」
作戦会議(敵の前で)をしていた私達に、鈴鹿先生の声が割り込んできた。
「私、暇だから誰か相手してくれないかしら。どうせ後で戦えって言われてるから」
暇潰しに命令を遂行しようとは、ある意味大物である。しかし、確かにこの人数では迷宮内を移動するのは少々窮屈である。ここで1人減らして行っても良いかもしれないが……。
「だったら、あたしが相手します」
と、挙手したのはユウリだった。よし、決定。
「そう、中里さん。それじゃあ、準備しましょう」
二人は向き合い、デッキをシャッフルし始めた。ここは任せておこう。私を含め、4人がその場を過ぎ去っていった。
《Yuri's Vision》
薄暗い廊下の上、あたしと向かい合うように、きのうまで何の影も見せずに担任をしていた鈴鹿先生が立っていた。
デッキをシャッフルし終えて、互いのデュエルディスクにセットした。正直、勝てる自信はないけど、やるだけやってみるしかない。
「それじゃ、始めましょうか」
「ええ……」
「「デュエル」」

「あたしの先攻でいきます。モンスターをセットし、さらにカードを1枚セット。ターンエンド」
簡単にターンを終わらせて、相手にターンを渡す。
「それじゃ、ドロー……」
手札をさっと見つめ、先生は私にこんなことを言った。
「自然って美しいと思わない?」
「えっ……えと、そう……ですね」
戸惑いながらも、私は答えた。一応、本音だけど。小さいときから自然とは触れ合っていたし、綺麗だとも思う。だけど……なんで今?
「そう、自然は美しい。だけど、自然は時に災厄を齎す。自然は恐ろしいものでもある。それを教えてあげるわ」
何を言っているんだろう。
「《無限の大地》を発動するわ」
《Reika's Vision》
「1つ訊いていいかしら」
迷宮内をスイスイと進んでいくイツキに対して、私は問いかけた。
「1つだけだよ」
歩きながら、私は訊いた。
「なんで鈴鹿先生は私達を通したのかしら」
イツキが、立ち止まった。直後に、私含め3人が立ち止まる。
「どういうことかな?」
私は解説を始めた。
「イツキ、あなたは"組織"の仲間だから、彼女があなたを通したのは当たり前。だけど、私達は違う。仲間じゃないどころか、あなたたち"組織"が狙っている人物のはず。だけど、彼女は私達に驚きもせず通した。まるで誘い込んでいるみたいに」
私が解説している途中、イツキはこちらに振り向いていたが、全く表情を変えていなかった。ポーカーフェイスなのだろうか。
「確かにそうだな」
タクヤが相槌を打った。ユウカも、ふんふんと頷いている。
「ボクを、疑っているのかな?」
当然だ。私は最初から信じてなどいない。
「ま、それは一番奥に行けば解るよ」
それでは手遅れではないのか?
「質問は1つだけだよ。先を急ごう」
適当にいなされ、反論も出来ずに私は沈黙した。
《Yuri's Vision》
「むげんの……だいち?」
突如周りの景色が一変した。平原というか……まったいらな地面が、果てしなく広がっているような感じ。
「そう、大地に限りはないのよ」
言いたいことが遠回しすぎて、何がなんだかわからないです。
「こういうことよ。《闇》を手札から発動」
……え?
「さらに《テラ・フォーミング》を発動して、《海》を手札に加えるわ。そして発動」
そういうことか……、つまり《無限の大地》っていうのは、フィールド魔法の制限を無くすカードってことか。空は漆黒の闇。周りは海。暗い海は、正直恐い。
「《魔導戦士ブレイカー》を召喚して、伏せカードを破壊するわ」
伏せておいた《炸裂装甲》が破壊された。《魔導戦士 ブレイカー》が剣を構えてこちらに切りかかってくる。
「ぐっ」
攻撃力1800の《魔導戦士 ブレイカー》が、《クリッター》を切り裂いた。
「《素早いモモンガ》を手札に加えます」
「カードを1枚セットしてターン終了よ」
「あたしのターン、ドロー」
相手の手札は1枚だけ。何とかできそうかな。
「《怒れる類人猿》を召喚して、攻撃します」
怒声をあげながら、怒り狂ってゴリラが突進した。《魔導戦士 ブレイカー》のエフェクトは消え去った。
ユウリ:8000 マリナ:7800
「《地への返還》を発動するわ」
罠カード……!?
「生きとし生けるものは、いずれ全て土に還るのよ。この戦士も……」
そう言いながら、鈴鹿先生はデッキから1枚のカードを取り出した。
「フィールド魔法に返還される」
先生がそういうと、フィールドがまた一変した。あたし達の周りだけが砂や岩に覆われて、これじゃまるで……。
「《荒野》!?」
「その通りよ。このデッキの恐さが分かってきた?」
恐さというか……何がしたいんですか?
「それはその内解るわ」
「……ターンエンド」
「私のターン……。そうね……、手札を1枚捨てて《大地の恵み》を発動するわ」
また知らないカード……。"組織"の裏には何がいるの?
「大地は私に恵みを与える。フィールド魔法の数だけカードをドローするわ」
そう言いながら、先生はデッキから4枚引いた。
「《山》を発動するわ」
周りの景色に、大きな山が追加された。闇に照らされた山、海、そして荒野。綺麗じゃないと言えば嘘になる。
「さらに、《封印の黄金櫃》を発動するわ」
フィールドに棺のエフェクトが現れた。棺には――なんだっけ……そう、《大地の恵み》が収納された。
「モンスターをセット、さらにカードを1枚セットしてターン終了よ」
これで先生の手札はゼロ。アドバンテージって言葉を知らないのかな? あたしが言えることじゃないけど。
「あたしのターン、ドロー。《激昂のミノタウルス》を召喚して、《怒れる類人猿》で攻撃します」
オノを持った牛の戦士が現れた。《激昂のミノタウルス》で、あたしのモンスターは全員貫通持ちになる。本当はセットモンスターを除去したいところだけど、あいにく手札はモンスターだらけ。こういうのをオレンジ事故って言うんだっけ?
「《和睦の使者》を発動するわ」
《怒れる類人猿》が振りかざした拳が、現れた使者によって食い止められた。でも、セットモンスターはリバースされる。
「セットモンスターは《聖なる魔術師》。私の墓地にある《大地の恵み》を手札に加えるわ」
――しまった。またドローされちゃう。
「ターンエンド……です」
「私のターン。《大地の恵み》を発動し、5枚ドロー」
くっ、これはまずい。手札が増えることのこわさは色々なところで身にしみてるから……。
「《草原》を発動するわ。そちらの攻撃力も上げてしまうけど……」
《荒野》の一部に草が生い茂り、広々とした《草原》になった。同時に《激昂のミノタウルス》の攻守が上がる。
「さらにカードを3枚セットしてターン終了よ」
「あたしのターン、ドロー」
来た……。何が来たのかっていうと、いわゆる全体除去、《大嵐》。でも、ここで使うべきなのかな……3枚もセットしてあるから無効にされるかもしれない。でも、ここで除去できればかなり有利になるし……う〜。
「長考しているみたいだけど、何か引いたのかしら?」
先生の言葉がさらに焦りをあおる。とりあえず、攻撃してみようか。
「えっと……《怒れる類人猿》を生け贄に捧げて《暗黒のマンティコア》を召喚します」
ビーストを生け贄にするリアニメイト、《暗黒のマンティコア》がフィールドに現れる。しかし、突如《山》が異変を起こし始めた。川が氾濫して、まるで洪水みたいに――
「《激流葬》。その場しのぎだけど」
――モンスターたちを飲み込んだ。
「マンティコアは復活しちゃうけど、十分でしょ」
「くっ……。なら……」
使ってみるしかない。私は、手札にある数少ない緑をつかんでプレイした。
「《大嵐》、発動します」
しかし、先生は平然とこう言い放ち――
「ふーん、中々のトップデックね」
――カードをリバースさせた。
「《神の宣告》、残念ね」
ユウリ:8000 マリナ:4000
「う……」
そのカードにはトラウマ――パーミッションとかパーミッションとかパーミッションとか――が……。
「マストカウンターって奴ね。大嵐、嫌いなのよ」
確かに、美しい景色には合わないかもしれないですけど……。
「エンドフェイズ、手札の《ハイエナ》を墓地に送って《暗黒のマンティコア》を蘇生して、ターンエンドです」
「私のターン」
先生がカードを引くと共に、棺が開き始めた。あっ、そうか。ヤバいなあ……。
「まったく、千日手みたいね。《大地の恵み》で6枚ドロー」
先生の手札が7枚に増えた。手札の多さ=有利 っていうのはレイカちゃんとかからもよく教えられるし……。
「これで最後ね。《森》を発動するわ」
何が最後なんでしょうか。
「フフ、私の切り札を見せてあげるわ」
先生がそう言った途端、周りの景色が一瞬で消えうせた。
「ふぇ!?」
突然の出来事に変な声が出ちゃったけど、それは景色が消えたことに対してじゃなく、あたしの目の前に現れたモンスターに対して。
「《大地を喰う者》!」
突然あらわれた巨大なモンスター。その怪物は、何と言うか凄く大きい。
「この子の効果は選択式。召喚時に食べたフィールド魔法1種類につき1つ効果を得る」
景色が消えたのはあのモンスターが食べたから……か。ってことは……7つ?
「1つは攻撃力を1000ポイント上げる効果。まずはこれを4つ得る」
モンスターの攻撃力が4000になった。元々は0だったってことか。
「本当は守備力を上げる効果もあるんだけど……それは良いでしょう。あとの3つを1回ずつ選択するわ」
どんな効果なんだろう……。
「ひとつ。魔法によって破壊されない。ふたつ。罠によって破壊されない。みっつ。モンスター効果によって破壊されない。」
えっ……。
「要するに、この子を破壊したいなら、戦闘で破壊しろってことね」
う……本気で?
「さあ、攻略してみなさい」
こんなの……倒せるの?
《Reika's Vision》
かなり進んだ。疲れが想像以上に多いのは、恐らく道が微かに下り坂だったからだろう。ビルの地下一階からすると、かなりの高低差があるはずだ。地下に行くほど酸素が薄くなると言うが、この迷宮にはしっかりと通気口が設置されており、酸欠の心配はない。多少暑いが。
ユウリと別れてから30分程度経っただろうか。イツキの歩みが止まった。目の前には、鉄製の扉が堂々と構えている。キィィという音と共に、イツキが扉を開く。扉の向こうは広々としたドーム状の空間が広がっている。
「よく来たな」
投げ遣りな口調でそう言ったのは、ドームの向かい側に位置する場所に立っている(恐らく)男である。男は黒マントで身を隠し、右手にデュエルディスク――左利きらしい――を着けている。
「…………」
その隣にもう1人立っている。顔は同じく黒マントでよく見えないが、何と言うかその周りだけ凪が訪れたように静かな気がする。先程から物音1つ立てず、やや斜め下を向いている。
「俺様達の相手をするのは誰だ? 早く決めろ」
なんとも自己中心的な発言だが、気にしていたら始まらない。それよりも……達?
「このデュエルは2対2のタッグ戦だ。いいから早く決めてくれ」
2人か……。迷う必要はない。
「じゃあ、あんた達お願いね」
と、後ろのユウカとタクヤに伝える。
「うん、分かった」
ユウカは素直だ。
「何で俺なんだよ」
素直じゃない奴は嫌いだ。
「私は奥に行かなきゃいけないの。分かる?」
「俺はタッグなんざしたくねえ。1人の方が闘いやすいんだよ」
そこまで言うなら奥の手を使う他あるまい。私は彼の側に寄り、数センチ下から上目遣いで彼の瞳を見つめた。
「お願い……あなたしかいないの……」
「う……」
奴は私から目を逸らし、こう言った。
「分かったよ、やれば良いんだろやれば。だからそんなに見るな……」
作戦成功。こいつが女に弱いのは既に分かっている。
「それじゃ、お願いね」
ということで、先に進もうイツキ。
「行こうか、レイカちゃん」
「うん」
堂々と、私とイツキはドームの真ん中を突き進み、向かい側の出口に辿り着いた。黒マントの2人は、先生と同じく私達を咎める風でもなく普通に通した。一体何だというのだ。
「くそっ。あの野郎……」
タクヤが嘆いていたので、こう言ってやった。
「私は野郎じゃないわ」
出口もまた鉄製の扉だった。同じくイツキが開き、また迷宮がスタートする。
「地獄耳め……」
「あはは……」
最後に何か言っていた気がしたが、聞こえなかったことにしておこう。
《Yuri's Vision》
「《大地を喰う者》で《暗黒のマンティコア》を攻撃」
「くっ……」
ユウリ:6300 マリナ:4000
「カードを3枚セットしてターン終了よ」
「手札の《怒れる類人猿》を墓地に送って《暗黒のマンティコア》を蘇生します」
「あたしのターン、ドロー」
引いたのは《野生解放》。でも足りない……。
「《暗黒のマンティコア》を守備表示に、さらにモンスターをセットしてターンエンドです」
「私のターン。《異次元の女戦士》を召喚し、セットモンスターへ攻撃」
剣をかまえた金髪の女戦士があらわれ、《素早いモモンガ》を切り裂いたかと思うと、時空の渦へ消えていった。
「さらに《大地を喰う者》で《暗黒のマンティコア》を攻撃」
またもマンティコアは怪物に倒される。
「ターン終了よ」
「あたしのターン、ドロー」
「あら。今度は蘇生しないのね」
多分、これ以上蘇生しても無駄な気がするから……。それより、今引いたカード。これなら、この状況を打開できるかも――。
「《手札抹殺》。チェーンは、ありますか?」
この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建設物等とは一切関係ありません。
《無限の大地》 フィールド魔法カード
効果:フィールド魔法は何枚でもフィールドに存在できる。このカードがフィールドを離れる時、お互いのフィールド魔法カードを全て破壊する。
《地への返還》 通常罠カード
効果:自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊された時、自分のデッキからフィールド魔法カードを1枚選択して発動する。
《大地の恵み》 通常魔法カード
効果:手札を1枚捨てる。自分フィールド上のフィールド魔法1枚につきカードを1枚ドローする。
《大地を喰う者》 ☆12 地属性 悪魔族 0/0
効果:このカードは自分がコントロールするフィールド魔法カードを全て墓地に送って特殊召喚する。特殊召喚時に墓地に送ったフィールド魔法1種類に付き、このカードは以下の効果を1つ得る。
●このカードの攻撃力を1000ポイントアップする。
●このカードの守備力を1000ポイントアップする。
●このカードは魔法によって破壊されない。
●このカードは罠によって破壊されない。
●このカードはモンスターの効果によって破壊されない。
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