《Reika's Vision》

 私は、父が嫌いだ。
 教室では「父から貰ったカードだから破けない」と言ったが、それは「遊戯王を教えてくれた師としての父」への感謝であり、「家族としての父」へではない。
 母が病院で最期を迎える時には、既に父は失踪しており、母の死後、父の扱いも"死亡"となった。母を見捨てて逃げた――とその頃の私は思っていたのだろう。それをまだ引きずっている。しかし、それはまだ"父が生きている"と確信していることにもなるわけだが……。

「レイカちゃん。聞いてる?」

「――ええ、聞いてるわ」
「大丈夫? 考え事してたみたいだけど」
「心配ないわ」
 とりあえず、ここから最深部まではもう10分と掛からないらしい。今のうちに敵リーダーのことを知っておこうと、イツキから話を聞いていたところだ。
 イツキによれば、その敵のデッキはダークサイドだそうだ。THIEVES(この場合は店名)の上空に浮かんでいた《暗黒界の魔神 レイン》から大体想像はついていたが、それが敵の十八番であるらしい。
「とりあえず《手札抹殺》は積極的に切っていった方がいいね。《メタモルポット》があればそれも」
 《メタモルポット》は入れていないが《手札抹殺》は採用している。サイドデッキを持ち歩く癖は無いため、今私の手にはメインデッキ40枚のみしかない。つまりデュエル中に来ないことを祈るだけだ。紙になる。
「もうそろそろ着くんじゃないかな」
 私は携帯電話を確認する。17時46分。某遅刻魔のせいで約束の「4時ごろ」をオーバーして16時15分ごろに教室に着き、そしてこの地下に入った時は確か16時40分ぐらいだったはず。およそ1時間が経過したことになる。
 後ろの人たちは大丈夫かと案じるものの、私が何を出来るわけでもなく、とりあえず目先の問題に頭を使うことにする。ダークサイド……とにかく展開力の高いデッキだ。私のデッキには除去カード――というより魔法・罠カード――が少ないため、出来得る限り全体除去マルファンクションは温存していかなければならない。
 無限龍さえ出せばどうにかなるだろう――という楽観は捨てていくべきか。相手には私のデッキが分かっているから、恐らく対策を打っているはず。無限龍が苦手とするのは、即ちカウンター――《神の宣告》あたりが有力候補か。早めに打たせるか、打たせずに終わらせるか……。どちらにせよ、決め手の少ない私のデッキでは難しい。
 そうこうしている内に、両開きの鉄製扉が姿を現す。装飾のない簡素な扉は、まだ酸化を免れて金属光沢を放っている。それにしても、この迷宮は何のために広いのだろうか。以前に別の目的で作られたものを使っているのだろうか。いやそんなことはどうでもいい。
 キイィィィという鉄板を引っかいたような不快音と共に、薄暗い回廊が明るく照らし出される。十分な照明を灯した部屋は教室程度の広さがあり、しかしその広い部屋には、黒いマントを羽織った人――顔が見えないため性別が分からない――が1人立っているのみだった。アキラさんの姿は見えない。
「ご苦労だった。イツキ」
 くぐもった声だが、音程からして男性だろう。どこかで聞いたことがある声の気がしたが……。
「これでいいんでしょ、首領リーダー?」
 ――何、が良いんだって?
「上出来だ」
 だろうとは疑っていたが……。
「そういうわけだ、汐崎麗華。出来れば早めに"無限龍"を渡していただきたい」
 "レイカ"の部分に既視感デジャヴを感じた気がするが、今はどうでもいい。イツキが偽善者だった……ということは、だ。

 相手のデッキは暗黒界ダークサイドではないのか?

「渡すことは出来ないわ」
 時間を稼ぎつつ、思考を巡らせる。イツキが私を誘い込んでいた……? いや、そうでない可能性もある。というより、私の考えではそちらの可能性のほうが高い。ならば、イツキを信じてダークサイドと決め込むか――いや、そもそも対策すらまともに出来ない状況で、ダークサイドだろうがそうでなかろうが大して差は無い。ここは気にしないのが得策か。
「ならば闘ってもらう。デッキを出せ」
 たたかい=デュエルという公式は誰が生み出したものか知らないが、フェアなのはありがたい。私はイツキを一瞥し、デュエルディスクを構える。

「「デュエル!」」





「私の先攻で、ドロー……」
 一先ず手札を確認。6枚中5枚がモンスターと言う一面のオレンジだが、このデッキではそれが普通である。しかし、困ったことに残り1枚というのが《手札抹殺》である。とりあえず伏せておくことにして、ついでにモンスターもセットした。
「ターンエンド」

「私のターン、ドロー」
 一人称が一緒で分かりにくいが……いやそれは良いとして。
《天使の施し》を発動する」
 通常のデッキでも勿論のこと、ダークサイドでは展開用のドローカードとしても大いに活躍する。
「3枚引き――《暗黒界の狩人 ブラウ》《暗黒界の軍神 シルバ》を捨てる」
 ――やはり……来たか。
「カードを1枚ドロー、そして《暗黒界の軍神 シルバ》を特殊召喚し、さらに《暗黒界の狂王 ブロン》を召喚。《暗黒界の軍神 シルバ》で攻撃――」
 やはり、早い。《魔導雑貨商人》が破壊される。
《魔導雑貨商人》の効果を発動――」
 計10枚程度が墓地に落ち――別に稀ではない――手札に《天使の施し》が加わる。
「さらに《暗黒界の狂王 ブロン》で攻撃」

レイカ:6200 ????:8000

「手札から《暗黒界の武神 ゴルド》を捨て、特殊召喚。攻撃」

レイカ:3900 ????:8000

「次のターンで終わりそうか? カードを1枚セットしてターンエンド」

「私のターン、ドロー……」
 手札は6枚。十分すぎる。
《天使の施し》を発動。3枚引き――《シャイン・エンジェル》《サイバー・ドラゴン》を捨てる」
 恐らく、相手は《神の宣告》を伏せている。何故なら、「こちらに無限龍があるかもしれないのにあれだけ余裕だから」だ。実際、今の《天使の施し》で私は無限龍を引いた。罠を前提で……か。
「墓地の上から10枚を除外し――」
 ならば、お望み通りに。
《無限龍−その力、未知数−》――!」

「ふん、《神の宣告》

《Yuri's Vision》

《手札抹殺》。チェーンは、ありますか?」
 最後の一手。これが止められたら負けちゃう。
「――ないわ」
 よし。
「手札を捨てて、ドロー――」
 3枚捨てて3枚引く。3枚のカードを一瞬眺め、そして考える。長考の結果――「これなら勝てる」
「えーと、先生。質問いいですか」
 その前に確認しとこ。
「どうぞ」
「その大地を喰う者フィールド・イーターのテキストをもう一度教えてください。正確に」
 先生は訝しげに、しかしカードを手にとり、テキストを読み上げた。
「『このカードは自分がコントロールするフィールド魔法カードを全て墓地に送って特殊召喚する。特殊召喚時に墓地に送ったフィールド魔法1種類に付き、このカードは以下の効果を1つ得る。』」
 ひと呼吸置いて、
「『このカードの攻撃力を1000ポイントアップする。・このカードの守備力を1000ポイントアップする。・このカードは魔法によって破壊されない。・このカードは罠によって破壊されない。・このカードはモンスターの効果によって破壊されない。』」
 やっぱり。
「これでいいかしら?」
「はい、ありがとう御座います。そのカードの弱点が分かりました」
 先生は驚いたような顔をうかべるけど、気にしない。弱点「魔法の効果を受けないわけではない」
「速攻魔法カード《月の書》!」
 先生は「なるほど」というような顔を浮かべて、カードをリバースした。
《神の宣告》

ユウリ:6300 マリナ:2000

「まだです、《洗脳−ブレイン・コントロール−》
「ゴメンね。2枚あるの。《神の宣告》

ユウリ:5500 マリナ:1000

「まさか全部使わされるとは思ってなかったけど……」
 そう、"これでもう神の宣告カウンターはない"
大地を喰う者そのカード、強いですね」
「ええ、そうね」
 そう、"強すぎた"
「あたしは手札から――」
 そう、"効果を得る、という効果"
ネオスペーシアン・ブラック・パンサー》を召喚」

 明らかに、先生の顔色が変わった。
「優先権を行使して――大地を喰う者フィールド・イーターをコピー」
 巨大な怪物に相対してまた怪物が現れる。でも、攻撃力はこちらのほうが高い。
大地を喰う者そのカードは、選択して『効果を得る効果』。つまり、攻撃力を上げたり耐性があったりするのは"それの効果"なんです」
 それをコピーしたわけ。《N・ブラック・パンサー》の攻撃力は元々1000だから――。
「やられたわ。ビーストをなめちゃいけないのね」
 攻撃。一回り大きな"大地を喰う者"が、相手を殴り倒し、そして――

ユウリ:5500 マリナ:0


《Takuya's Vision》

「オレのターン、ドロー――」
「いいカードは引けたか?」
 嘲りを含んだ笑みでオレに問いかける。ああ、引けたさ。
「オレがドローしたのは――」
 オレンジ色のカードを相手に見せ付ける。
《混沌の黒魔術》
「何?」
 ジンは一瞬黙り、笑い出した。
「ハッ、それの何処が"いいカード"なんだ?」
「お前は1つ忘れてるぜ」
 隣で呼吸を整えているユウカを一瞥する。こいつの横暴(偏見)で墓地に落ちたカード。
《D−HERO ダッシュガイ》の効果を発動、《混沌の黒魔術師》を特殊召喚し――」
「なっ」
 墓地ポケットから1枚のカードを取り出す。
《二重魔法》を回収、そして発動」
 手札に唯一残った緑を墓地に捨て、《二重魔法》のエフェクトが展開する。それは――雷撃
《ライトニング・ボルテックス》!」
 派手なエフェクトと共に、くそ忌々しい相手モンスターが炭と化し、消滅。
「攻撃っ!」

ジン:3300 ナギ:0 タクヤ:2100 ユウカ:0

「ターン終了。もう1度言うぜ。"そろそろ諦めたらどうだ?"」

「ク……俺様の、ターン――」
 ジンはドローカードを一瞥し、

「参った。投了サレンダーだ」

「はぁ、疲れた」
 脱力。と、ユウカのほうを見ると、倒れていた。
「おい、生きてるか」
 返答は無かったが、少し微笑んだように見えた。


《Reika's Vision》

「ふん、《神の宣告》

レイカ:3900 ????:4000

「残念だったな。対策は打たせてもらってる」
「……」
 相手はまだ気付いていない。"無限龍が囮だと言うことに"
「私は手札から――」
 無限龍の召喚条件は、"墓地の上から10枚を除外"だ。つまり、無条件にカードを10枚除外することが出来るというメリットがある。それは、カウンターされようが揺ぎ無いことで、要するに私の除外ポケットには天使の施しと9枚のモンスターカードがあるわけで。
《次元融合》を発動」

レイカ:1900 ????:4000

「な――に……?」
 9枚のモンスターカードを物色。十分だ。
聖なる追放者ホーリー・エグザイル2体と《サイバー・ドラゴン》。それと……光神機ライトニングギア−桜火》《シャイン・エンジェル》を特殊召喚」
 次元の渦から5体のモンスターが姿を現す。
「バトルフェイズ――2体の聖なる追放者ホーリー・エグザイル《暗黒界の軍神 シルバ》《暗黒界の武神 ゴルド》に攻撃」
 4体のモンスターがそれぞれ破壊され、そして残ったのは3体の自軍と《暗黒界の狂王 ブロン》。
「く……」
 男が悔しそうな表情をつくる。簡単な四則演算――加減だけだが――だ。2400+1400+(2100−1800)。
《サイバー・ドラゴン》《暗黒界の狂王 ブロン》に攻撃」

レイカ:1900 ????:3700

「残った2体で――攻撃」
 終わりだ。

レイカ:1900 ????:0


 敗北によって落胆している男に、イツキが歩み寄っていく。
「ねぇ、首領リーダー?」
 なんだ、と言って男はイツキに顔を向ける。
「ホントはこんなことしたく無いんでしょ? カードを盗るなんて」
 やはりイツキは嘘をついていなかったのか。私も近づいていってみる。
「何を根拠に……」
「根拠……ねえ」
 イツキは私を一瞥し、

「あなたは娘に"龍"を渡した。それが理由――かな」

 娘……? まさか――
「もう、こんなことは止めにしない? 汐崎さとしさん」

私は、絶句した。




この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建設物等とは一切関係ありません。


聖なる追放者ホーリー・エグザイル  ☆6 光属性 天使族 攻撃力2300 守備力1500
効果:自分のカードが4枚以上除外されている場合、このカードを手札から特殊召喚することが出来る。


《無限龍−その力、未知数−》  ☆12 神属性 幻神龍族 攻撃力? 守備力?
効果:このカードは通常召喚出来ない。自分の墓地の上から10枚を除外して特殊召喚する。このカードの攻撃力、守備力は、特殊召喚時に除外したカードの中のモンスターの枚数×900ポイントになる。1000ライフポイント払うことで相手の魔法、罠の発動を無効にし破壊することが出来る。この効果は1ターンに2回まで発動でき、相手ターンでも発動できる。


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