《Author's Vision》

 ――それは、端的に言えば遺跡である。崩れかかった柱に、崩れかかった家々の痕跡が立ち並び、そこかしこには既に崩れたそれらもあり、時代を感じさせる遺産だ。しかもかなり広範囲で、何故こんなものが突然現れたのかと怪しむのは、当然と言うか必然である。
 しかし、1つだけ不自然な所がある。それは遺跡の中心、宮殿のようなものの痕跡があるのだが、それが非常に不自然だ。なぜかと言えば、"その宮殿は崩れる事無く存在しているからだ"。
 宮殿があると言うことは、つまりそれが王国であったことを示しているのだが、普通宮殿と言うのものは他の家々より早く建造されるはずである。何故なら、宮殿を建てないことには「王国そのもの」が成り立たないから、である。即ち、"宮殿の方が雨風に晒される時間は長い"ということ。  それに、宮殿は他の建造物に比べて大きい上に重く、柱など崩れればそれが致命傷になるはずなのだが……。

「(おかしい……)」
 その遺跡を前にして、汐崎麗華は同じ疑問を抱いていた。
「わぁ〜、すごい遺跡……」
「ホントだね。まんま遺跡って感じで」
 感嘆するユウリと、マジメに答えるイツキを他所に、レイカは宮殿遺跡の矛盾を解こうとしたが、早々にそれを放棄し、遺跡へと顔を向けた。
「はしゃぐなよ。子供じゃあるまいし」
 こんな時だけ微妙に「常識人:須藤拓也」を気取ってみるものの、2人は別にはしゃいでいるわけではない。
「本当に凄いね。興味深いよ」
 佐藤彰もこの情景にかなり感嘆しているようだ。確かに、この風景は滅多に見られるものでは無い。
「行こうか」
 イツキが促し、5人は遺跡へと足を踏み入れた。

 城下町らしき遺跡を10分ほど歩いた後、遠目でもはっきりと分かる巨大な宮殿遺跡にたどり着いた。解放されていた入り口から入ると、そこにはまず広大な庭園があった。噴水らしきものの残骸や、池があったであろう大穴などがある。そして宮殿本体は、近くで見るとより大きく感じられる。その巨大な宮殿は、日本の建物とは比較にならないほど大きい。周りを巨大な城壁に囲まれ、その城壁よりも巨大な宮殿は、いつ崩れてもおかしくは無いほどに荒廃しているのはずなのだが、やはり崩れた箇所など1つも無い。
「やっぱりおかしいわ……どうして」
 遺跡に立ち入ってからずっと、石像のように無口になっていたレイカだが、ここに来てやっと口を開いた。と言っても、独り言レベルの小声だったのだが、それを目聡く聞きつけた者がいた。
「なーにが気になんのかな?」
 イツキである。地獄耳め、とレイカは思いつつ、別に隠すことでもないため、皆に教えてやることにした。
「いや、この宮殿はなんで崩れないのかな……なんてね」
「うーん」
 イツキは人差し指を唇に当て、なんとも女の子な仕草をするのだが、それが彼には異常に似合っているのが不思議だ。3秒の思考の後、イツキは1つの回答を出した。
「幻神龍のチカラ……かな、うん」
「力?」
「そう」
 イツキはレイカに対して説明を始めた。
「レイカちゃんの言う通り、この遺跡はいつ崩れてもおかしくない。それほどの時間は経っているだろうし、他の建物は崩れてるのにこれだけ残っているのはおかしい。だけどね……」
 そこで一拍置き、続けた。
「幻神龍の力を考えてもらうと良いかな。あのカードたちは、5枚揃えば次元の壁すら破れる。いや、もしかしたら1枚でもいいのかもしれない。時間の流れを断ち切れなくとも、それに干渉することは出来るかもしれないよね。つまり、」

「幻神龍が遺跡の時間の流れを止めてた……とかね」

「もしかしたら、レイカちゃんが言ってた『遺跡が突然現れた』っていうのもこのせいかもしれないね」
 つまり彼は、「遺跡は過去からタイムスリップしたのではないか」と言っているのだ。
「まあ、あくまで仮説に過ぎないよ。幻神龍の力なんて未知数、アンノウンさ」
 そうこうしている内に、一行は宮殿本体の入り口に辿り着いた。先導していたイツキは、全く躊躇せずに踏み入っていき、他の4人もそれに続く。内部に入ると、すぐ正面に巨大な階段があり、突き当りで左右に分かれていて、その先にはいくつかの扉がある。左右にも扉があり、天井にはシャンデリアがざっと5つほどある。また、階段の脇や壁際には、高級そうな鎧や絵画が展示されていて、恵まれた王族であったことが伺える。
 ――お分かりだろうか?

 宮殿内部に、崩れた箇所など何もない。

 まるで、今も人が住んでいるかのように。そして――

「ようこそ。お待ちしておりました」
 そこには、確かに人が住んでいた。


 大広間の階段、その踊り場に、その人は立っていた。黒マントに身を包んで。恐らく、THIEVESの幹部が何かなのだろう。
「作戦は完了ですか、"イツキ様"?」
 呼ばれたイツキは、多少早足で、階段の中間辺りまで行って、4人の方を振り向いた。
「いんや、これから詰めだね」
「そうで御座いますか」
 それ以上は必要ない、とばかりに黒マントの人物は閉口し、代わりにイツキが口を開いた。
「と、いうことだから。レイカちゃん、最終決戦と行こうか?」
「どういう……ことだ」
 辛うじて口を開いたアキラは、なんとも曖昧な質問を投げ掛けるが、それすらもイツキは余裕の笑みで答えた。アキラ以外の3人は何も喋らない。いや、喋れない。
「簡単なことさ」

「ボクがこの事件の黒幕だった。それだけの話だろう?」





「(そんな、ことって……)」
 レイカは驚いていた。今突きつけられた現実に。
「もう1度問う」
 イツキは羽織っていたローブを階段に投げ捨てた。
「最終決戦と行こうか?」

 ぐ……とレイカは息を呑んだ。震えを堪え、荷物の中からデュエルディスクを取り出し、構えた。
「ええ……」
「アンティルールね。ボクが勝ったら、キミ達が持っている幻神龍を渡してもらう。そしてレイカちゃんが勝ったら、ボク達が持っている3枚の幻神龍を渡そう。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
 フフッ、とイツキは不敵に笑い、デュエルディスクを構えた。互いが5枚のカードを引き――

「「デュエル」」

「先攻は貰っていいかしら?」
「フフ、意外と平静だね。どうぞ、レディーファーストだよ」
 そう、とレイカは答え、カードを1枚引いた。
「私は手札から――」

《豊穣のアルテミス》を召喚する」


「――え?」
 最初に口を開いたのはユウリだった。
「アルテミス……って、レイカちゃんが何で――」
「いや、無いこともない」
 その疑問に答えたのはアキラだ。
「レイカちゃんのデッキは光属性寄りだ。アルテミスは攻撃力も十分あるし、一種のメタカードとして採用していてもおかしくないよ。つまり、運が良かった……ってとこかな」
「はあ、なるほど」
「(確かに……、採用していてもおかしくはないよね。まあ、次のターンで破壊すれば良いさ)」
 イツキはそれで妥協していたのだが、レイカの次の一手は、確実に彼を心理的に追い詰めた。
「さらに――」

「カードを4枚セット。ターンエンドよ」

「――は?」
 今度口を開いたのはイツキだ。他の面々は残らず口を開けない。
「あ、あは、あはははは。えーと――いったい何?」
「さあね」

 事故か――? とイツキは思った。もしかしたらブラフかも知れない、と考えながら、デッキから1枚引いた。
「ボクは手札から、《豊穣のアルテミス》を召喚」
 段上から見下すように、全く同じ天使が現れた……と思ったのだったが。
《神の宣告》

レイカ:4000 イツキ:8000

「え……」
「言っておくけどね」
 カードを1枚引き、そして絶句するイツキに対して、レイカは段上へと顔を向け、言った。
「このデュエル。貴方が先攻を取れなかった時点で、私の勝ちは決まったのよ」
「(馬鹿な……そんなはずはない)」
 人間は、有り得ない事態に遭遇すると、無理矢理に理由を付けて納得してしまう。
「(偶然だ……)」
 無理矢理納得し、イツキは平静を装いつつターンを進めた。
「カードを4枚セットして、ターンエンド」

「私のターン、ドロー」
 彼女はドローした後に少し間を空け、どう動くべきか考えてからフェイズを移るクセがあるのだが、今はそれも必要ない。やることは決まっている。
《豊穣のアルテミス》で攻撃」
「く、炸裂装甲リアクティブ・アーマーっ」
 それに対して、レイカは余裕の表情でカードを翻す。
《盗賊の七つ道具》
「っ……」
 やはりカウンターされてしまう。それに対してさらにチェーンすべきか迷ったが、止めておいた。

レイカ:3000 イツキ:8000

「そして――」
 カードを1枚引き、そして手札から1枚、フィールドへとプレイする。
《冥王竜ヴァンダルギオン》を、特殊召喚」
 レイカの手札から、巨大な龍が飛び出してくる。イツキは、それを阻止しようとする。
《奈落の落とし穴》っ! 通――」
「通さない。《トラップ・ジャマー》
 許可を求めることすらさせず、レイカは即座にレスポンスしていく。
「やっぱりね……」
 彼は、予想できる事態に備えて残しておいたカードを表向けた。
《神の宣告》っ」

レイカ:3000 イツキ:4000

「はぁ……」
 それに対してレイカは溜息を一つ。その意味は、「呆れ」
「いい加減信じなさいよ。子供じゃないんだから」
 そして、相手に止めを刺す。

《カウンター・カウンター》。これでチェックメイト」

「(な……)」
 イツキは、龍が残り1枚の伏せカードをも破壊する光景を見ることさえ出来なかった。そして、龍と天使が自分に止めを刺す光景も、目に入っていなかった。やっと口に出せたのは――

「メタ、デッキ……」

「その通り」
 わずか3ターンでの勝利。最終決戦にしては明らかに短すぎる。
「そんな……」
 レイカはあの時、驚き、そして震えていた。「余りにも予想通り過ぎて」
「簡単なことさ」
 レイカは、イツキの口調を真似て言う。絶対の、そして不動の真実を告げるために。


「私はこの事件の黒幕を見破っていた。それだけの話だろう?」




この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建設物等とは一切関係ありません。


BACK NEXT 小説トップへ