《Reika's Vision》
「私はこの事件の黒幕を見破っていた。それだけの話だろう?」
「そんな……、どうして……」
階段にへたり込んで、今にも泣き出しそうなイツキに対して、私は物理的に見上げつつ、そして心理的に見下げながら、私は邪魔になったデュエルディスクを床に置き、解説を始めた。

「――私が疑問を感じたのは……」
私が疑問を感じたのは、まず土曜日の教室で、イツキから真実を聞かされた時。いや、そもそも――
イツキは、何故真実を知っていた?
――幹部である父が知らないことを、幹部でないイツキが知っているのはおかしい。
ただし、この場合だと「隊の他のメンバーから聞かされた」という可能性がある。現に、他のメンバーも真実を知っていたらしい。そこで、翌日病院で、父に質問をよこしたのだ。「支部のメンバーに真実を教えたのはイツキか?」と。結果はイエス。つまり、前述の可能性は消える。この時点で、いくつかの仮説が成り立つ。
他にもこの役割を任された人がいて、間接的に聞いた、とも考えられるが、こうすると「その任された人はどうやって真実を知ったのか?」と永遠に続いてしまうため、割愛しておく。
一つ目は、「イツキが首謀者から直接聞いた」という説。
しかし、この仮説は捨てていい。佐藤秀則の例がある以上、部下に真実を伝えるのは無意味で、かつリスクが大きい。
次に、「イツキが盗み聞き、または記録を奪取した」
前者は、1つ目の仮説からも分かるとおり、話す相手がいないのだから有り得ない。そして後者だが、これも可能性は低い。こんな重要なことを記録に残すはずが無いし、残したとして、幹部でもない者に奪取されるような場所には置かないだろう。
そして残ったのが、3つ目の仮説。そう、つまり――
イツキが首謀者であるという、可能性
しかし、これはただ単に仮説でしかない。仮説には裏づけが必要だろう。そこで、私は裏づけできる要素がないか探した。まず思い浮かんだのは、支部の作戦……つまり、私達を誘い込むと言う作戦。これのキーがイツキだったのだが、かなり不自然だ。父から聞いた話によれば、この位置に付いたのは本人の希望だったと言う。つまり、イツキは自らこの立場に立った。
分からないだろうか? イツキがこの立場に居る意味。それ即ち、「組織を裏切る『フリ』をするには、この立場に居る必要があった」ということだ。イツキは真実を話し、そして私をこの本部に導くために、「この立場に立っておく必要があった」のだ。
さらに確定的な裏づけは、「イツキが幻神龍を持っていくことを望んだ」ことだ。これは明らかにおかしいだろう。イツキの言い分としては、「作戦が成功したと見せかけて油断させる」とかほざいているが、そもそも――だ。
油断させて、どうするというのだ?
純粋な「戦闘」ならば、油断させて不意を突くことも出来るだろう。だが、それと根本的に違うのは、「戦い方がカードゲームである」ということ。そして、戦うのは私。そのためにはまず、「私は捕らえられていない」ということを相手に伝えなければならない。これでは意味がない。要は、「油断させる必要など無い」のだ。
つまり、イツキは意図的に幻神龍を持ってこさせた、その理由は至極簡単。「この作戦には幻神龍が必要だから」だ。
さて、もう少し証明素材を提示しよう。
10年前に組織は、幻神龍を持って逃亡した佐藤秀則を、「抹消」した。それが比喩であるのかは定かではないが、少なくとも「口を聞けないようにする」か「事件に関する記憶の抹消」ぐらいはするだろう。だが、どちらの場合でも、「自分は佐藤彰の父である」という記憶は残っているだろうから、自分の息子に会いに行っているであろう。普通は。だから、それぞれを適応させる。
「動けなくする」か「完全に記憶を消す」か、だ。
だが、これでも矛盾は生じる。組織の方針を覚えているだろうか? 「出来るだけ被害を少なく」だ。そのはずの組織が、1人であっても「抹消」などしないだろう。精々「組織に連れ戻す」ぐらいで済ませるはずだ。この矛盾を解決するために、ある1つの仮説を立ててみる。即ち、「組織の方針が変わった」という説。
ここで生きてくるのが、土曜日に迷宮の最深部でイツキにした質問だ。
――『あなたの両親はお元気?』
――『あはは……。もう死んでるよ』
――『亡くなったのはいつ?』
――『えと……、9年前かな』
9年前といえば、佐藤秀則を抹消した後だ。つまり、イツキの父は組織のリーダーだったが、彼が死んだことでイツキに代が変わり、そして方針が変わったのではないか……と。何とも無理矢理な論理だが、それも「イツキが首謀者である」という仮説を裏付ける要素としては十分だ。
そして、もう1つ。先程の日本人村でのことだ。イツキは、自ら望んで村に入らなかった。何故か?
「その村の誰かに、自分の姿が見られていたらどうしようか」
それが私たちに知れると、かなり面倒なことになる。イツキは「アメリカからの帰国子女」という設定であり、まして不相応な黒いローブを着て遺跡見学など、常人のすることではないからだ。
かくして、イツキは確かに目撃されていた。黒髪に黒い瞳の日本人らしき人物で、且つ"恐らく"女性であるという容姿、その2つからして、確実にそれはイツキだ。それ以外に有り得ないだろう。
イツキは、自分の姿を見ている「誰か」に会うのを恐れた。それは、イツキが遺跡周辺に居たことに他ならないのである。
「分かったかしら? 出来損ないの首謀者さん?」
一気に話し終え、一呼吸置いて私は言った。
「く――はは……はぁ」
「どうしてこんなことをしたの? 1つ残らず全て話しなさい」
イツキは、今更になってデュエルディスクを外し、跪いた姿勢のままで話始めた。
「――ほんの5年前まで、この組織は只のレアカード強奪集団――つまりグールズみたいなものだったんだ」
何? それでは話がおかしい。佐藤秀則が逃亡したのは10年前だが?
「それがね、10年前に――多分古文書とかなんかからだと思うけど、佐藤秀則は『真実』を知ってしまった。そして、幻神龍を持って逃亡したんだろう。それを、『レアカードを持ち出してこの組織を告発しようとした』と捉えた組織は、佐藤秀則を『抹消』した」
そうか……つまり組織は、「幻神龍の効果」なんて一つも知らなかったわけか。
「そう。それで、『佐藤秀則抹消』直後、ボクの親父は死んだ。そして、息子であるボクがその後を継いだ」
ふむ、私の仮説は正しかったか。
「うん、それでね。ボクは3年前、ある書物から『幻神龍』に関する記述を発見した。それが、『上位次元に干渉する』ことだ」
時間に干渉する……とかいう能力か。いつ聞いても恐ろしい。
「だから、ボクは幻神龍を集めることにした」
その「だから」が、何故なのか知りたいと言っているのだが?
「ふふ……」
「退屈だったんだ。この世界がね」
「飽き飽きしてた。何も変わらない日常、何も転機なんか訪れやしない」
「へぇ……」
だけど、私は否定してやる。
「それで? 退屈だったから……何?」
「な……」
「貴方1人の為に世界が滅ぶ? 冗談じゃないわ。貴方は神様じゃないし、まして悪魔でもない。貴方は人間なのよ」
諭すような口調で、しかし見上げながらイツキに言った。
「そんなの、分かってるよ――!」
びくっ、と私は身震いした。かつて――と言っても3日だけだが――イツキが、こんなに声を荒げる所を見たことがない。
「これがボクの独りよがりだって言うのも! ボクはか弱い人間だって言うことも! それでも……」
イツキは大理石の階段に拳を打ちつけた。まるで怒りを自制するかのように。
「しょうがないじゃないか……」
くすん、くすん……と、まるで女の子のような声で泣くイツキに、私は歩み寄っていく。それに気付いたイツキは顔を上げた。そして後ろにいた黒マントの人物になにやら合図し、その人は奥に下がった。しばらくして、その人物はカードを3枚、器用に私に投げよこした。
「幻神龍……?」
「ええ。約束ですから」
声の高さが微妙で、顔が見えないため、性別の判断が付けにくい人だ。
「ただし、急いでください。もう少しでこの遺跡も崩壊するでしょう」
なんだそのアニメ的展開は。
「この遺跡を守護していたのは幻神龍。即ち、それが無くなればこの遺跡は本当に『遺跡』に戻ってしまいます」
さあ早く。と、その人も階段を下りて行く。
「なんかヤバイらしいから、早く行くわよ、イツキ」
「ふぇ……ボクは良いや」
…………何?
「ここに残るって言ってるの。さっさと行きなよ」
「待ちなさい、ここに残るって言うのは――」
――死ぬって、ことだろう?
「言ったじゃないか。『退屈だった』って。いい機会だから、ボクはここを墓にするよ。貴族みたいで良いじゃない?」
「な……に?」
私は、イツキのところまで歩いていき、思い切り胸倉を掴み上げた。
「ふざけないで!」
「ちょ……何怒って」
「退屈だから死ぬですって? もう1度言うわ。『ふざけないで』」
フ……とイツキは私から目を逸らし、
「ボクが死ぬ時ぐらい、ボクに決めさせてよ」
「ダメよ」
「どうして? ボクは別に良いって」
「ダメって言ってるでしょうが!」
私は、イツキを思い切り突き飛ばした。イツキは体を強かに打ちつけ、暫くしてこちらに顔を向けた。
「何が……ダメなの?」
「そんな勝手は私が許さない。私は貴方を見殺しには出来ない」
私は、段上に座り込んでいるイツキに近づいていく。
「お母さんが死んだ時も、私はただ見ているだけだった。何も出来なかった」
「私はもう、大切な人を失いたくないのよ」
そう言って、私はイツキを抱きしめた。
「ふえ……えっと……」
「それに……ね」
二の句が告げないイツキに対して、私はさらに言う。
「私達と居れば、もう退屈しないんじゃない?」
ふふ、とイツキは微笑み、私の背に手を回して抱きついてきた。
「レイカちゃん……」
「なあに」
イツキが、頭1つ下から上目遣いで話しかけてきた。唇同士の距離は数センチ程度なのだが、今はそんなこと気にしていられない。イツキの言葉は、涙のためか聞き取りづらいため、しっかりと耳を凝らす。
「やわらかいの、当たってる」
「――…………やっぱ置いて帰ろうかしら」
「い、いや冗談だよ!? でも当たってるのは本当だけどっ! ちょ、ま、待って待って待ってってば――」
ブオン、と私はイツキを思い切り後方に投げ飛ばした。階段は大理石だが、大広間にはカーペットが敷いてある、ちょっとした配慮だ。
「ぐはぁっ!?」
と、わざとらしく断末魔の叫びを上げるイツキの方を振り返り、そして蚊帳の外であった3人を一瞥した後、私は出口へと歩き出した。早めに出てしまおう。
「行きましょう――いや、帰りましょう。日本へ」
異論を唱えるものは、1人としていなかった。
この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建設物等とは一切関係ありません。
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