《Reika's Vision》


 朝の目覚め。それは今日と言う日を、初めて自覚を持って感じることが出来る瞬間である。"あの事件"から4日、私はいつも通り……と言えば語弊があるだろうが、ひとまず元の生活に戻っていた。

「…………」
 目を覚ました私は、いつものように時間を確認した。「5:39」、いつもよりやや早い。ちなみに、私はかなり朝に強いらしく、目覚まし時計やそれに順ずる用具が無くても、かなり早い時間に目が覚める。別に老化しているわけでは無いと思うのだが。
 毎日しているように服を着替え、部屋のドアを開けた。マンションにしては割と幅広な廊下を歩き、程なくしてリビングのドアを開け、別段深い意味も無くソファの方に目を向けた。4日前から、ソファには人が住み着いている。今も寝息を立てる"彼"は、薄手の布団を被りながら眠っている。
 ――と。

「ん……」

 ソファの上の住人は、二重のまぶたを瞬かせながら目を覚ました。
「――ぁ……おはよ」
 その彼が視線をこちらに向けながら朝の挨拶。私も答える。
「おはよう――」


「――イツキ」





「レイカちゃん……ちょっとちょっと」
 イツキは目覚めたばかりだからか、やや舌足らずに私を手招きした。私はソファまで歩いていき、身を屈めてイツキと視線を合わせる。
「何よ」
「キスして」
 ――……なんだって?
「だからさぁ」
 イツキは軽く目を閉じ、言った。

「めざめのきす」

 私はやや間を置いて、
「口はダメよ」
 と、イツキの頬に軽く口付けし、立ち上がってイツキに背を向ける。
「あらん、レイカちゃん。実は中性属性萌えだったりするわけ?」
「違う」
 分かってるよ、とイツキは全く気にする事無く起き上がり、テーブルに座った。実際、私は親友間ならば、異性であっても頬へのキスには躊躇しない。挨拶と一緒だ。
「ポーカーでもする?」
 私はイツキの対面に座りつつ、手元にあったトランプを取って尋ねた。
「いいね。お金は賭けないけど」
「じゃあ、負けた方は勝った方にコーヒーを淹れてくるってことでどうかしら?」
「ふふん、いいよ」
 私はジョーカーを除いた52枚のトランプをショットガンシャッフルし、互いに5枚ずつ配った。私からカードを交換し、見せ合う。
「ボクはストレートだけど……って」
「ロイヤルストレートフラッシュよ。さあ、さっさと淹れてきなさい」
 スペードの絵札とA・10を見せつつ、私はイツキに指図した。
「イカサマしたでしょ……絶対」
 何のことやら、と適当にいなしておき、私はコーヒーが出てくるまで待った。
「砂糖とミルクは?」
「いらない」

 ――さて、状況を説明しておこうか。
 "あの事件"から2日経ち、それに関わった人達は、大なり小なり変化を見せている。最も大きな変化は、やはりイツキだろう。"事件"の首謀者たる彼は、端的に言って住む家が無かった。支部に居た頃は、かの迷宮があったビルの居住区のワンルームを借りていたのだが、THIEVESが消滅したことでそこに住むことは不可能になり、結局行く当てを探すことになった。ちなみに、組織に加入していたメンバーは、全員もれなく生活を保障され、職業も与えられた。組織の力、恐るべし。
 その後、イツキ自身が「レイカちゃんの家がいい」と希望したこともあり、結局私の家に居候することになった。父が戻ってきたことも有り、この家もかなり狭く感じる。とりあえず、「私やユウカに手を出したら物理的に釘を刺す」と釘を刺しておいたので大丈夫だろう。
 そのユウカだが――

「あ、二人ともおはよ」
 リビングのドアを開けてユウカが入ってきた。既に退院して、現在は前の元気を取り戻している。
「ユウカちゃんもコーヒーいる?」
「ううん、いいよ。背伸びなくなるし」
 こちらを見ながらユウカが言った。言っておくが、私は長身の方だ。イツキ曰く「レイカちゃんってスタイル良いよね」だそうだ。
「おなか減った。お姉ちゃんご飯」
「私はご飯じゃない」
「ご飯作って」
「自分で作れ」
 どうも私は、投げ遣りになると口調が荒くなるらしい。
「ボクが作るからさ、喧嘩しない」
 イツキが割り込んでくる。それなら任せよう、ちゃんと朝"食"を作ってくれるなら。
「だいじょぶだって。安心して待ってて」
 それじゃあよろしく、とイツキを見送る。とりあえず何をしていようかと、ふとリビングのドアに注意を向け、そのドアがいきなり開いたことにやや驚く。別に勝手に開いたわけではない。
「まったく、お前ら若いんだからもうちょっと寝てろ」
 と、おどけたような口調で皮肉を吐いてきやがった――いや言ってきたのは、ほんの4日前に帰ってきやがった――いやお帰りになった我が家の大黒柱、汐崎聡。彼も大きな「変化」をした。
 まず一つは、この家に帰ってきたこと。そして二つ目は、ちゃんと職業に就いたことだ。
 勿論、組織に入る前にも仕事はしていたのだが、「死亡」扱いになったために除名され、結局再就職することになった。ちなみに住民票は元に戻っている。そして、その職業と言うのが、「コナミの遊戯王デュエルモンスターズ事務局」である。これまでのOCG経験を生かし、やや裏の情報操作の末に就職したらしい。とりあえず生活は安泰だろう。
「コーヒーを淹れてくれないか」
 自分で淹れてくれ。
「そうか、ならしょうがない」
 と、キッチンへ歩いていった。素直なのは褒めてやる。


「行って来ます」
「いってきまーす」
「行ってくるよん」
 イツキ特製の朝食(存外美味)を食べた後、文字通り三者三様の言葉で、学校に向かうべく家を後にする。誰が誰かはあえて言わなくても良いだろう。
「あっ、3人ともおはよー」
 暫く歩いた後、別に待ち合わせをしたわけでもなくユウリを出会った。これまた三者三様の受け答えをし、さらに歩いていく。途中でユウカとは別れ、私とユウリ、イツキは真星学園に向けてまた歩く。

「そういえばさ」
 と、ユウリが切り出してくる。
「幻神龍って、結局どうなったの?」
「ああ、それはね」
 イツキがユウカと目を合わせながら答える。
「真星学園が保管してるよ。マリナを通じて頼んどいた」
「ふうん」
 組織が崩壊したため、結局幻神龍だけが宙に浮く形となった。焼却処分しようにも、それ自身に「転生」する能力があるため、保管――封印と言っても差し支えないか――することになった。そこで挙がったのが真星学園。恐らく誰も入ることの出来ないような場所に置いてあることだろう。
「多分、これ以上悪用されることはないだろうね。安心安心」

 てきとうな雑談を挟みつつ、靴を履き替えて教室へ向かう。
「それでさ、レイカちゃんが」
 イツキがキストークを会話に持ち出す前に、私は教室のドアを開け、席の方を向いた。私の隣には、もう1つ変化を見せた奴が居る。
「あら、明日は雨かしら」
「らしいな。降水確率70%だってよ」
「貴方には冗談が通じないのかしらね」
 即ち、須藤拓也が遅刻しなくなった。良い変化なのだが、どうも裏があるように感じてしまうのは、イツキという前例が居るからか。
「それにしても、お前と河嶋が同棲してるってのは本当か?」
「そうなの……」
 やや頬を染めた"演技"をしつつ、手の平を頬に当て、うっとりしたような口調でさらに続ける。
「今日はキスもしたわ……、今夜はきっと……」
「ぐ……」
 ヤツがやや沈黙したのを見計らって、顔を平常に戻しつつ
「あんた、妄想癖持ち? きゃー、変態」(棒読み)
「う、うるせぇ」
 ハァ、と溜息をひとつ付きつつ、
「冗談。イツキは只の居候よ」
 この真星学園という場所では、噂などはすぐ伝わる。出所は知らないが、私とイツキが「同じ家に住んでいる」という情報はすぐ伝わった。ただし、新しい噂が出回るのも早いため、噂はすぐ風化する。要は興味がなくなるのだ。
「明日は雨……か」
 誰に言うでもなく、窓を見ながら呟いた。雲ひとつ無い快晴の空。

 今となってはあの事件もいい思い出だ、というのは悪い過去を抹消したい人間の常套句なのかも知れないが、今の私は違う。
 あの事件は、きっと私を変えてくれたと思う。否、私を取り巻く環境を、大いに変えてくれた。
 家庭には父が戻り、そして新たな居住者も増えた。事件に関わっていた人々は、前より一層の幸せと共に自らの住まう世界、そして自らの生活に戻っていったはずだ。

 私は、これからも前向きに生きてゆく。そして幸せを求めていく。


 この時の糸が、無限の彼方まで続いていると信じてI believe that the this string at time continues "over there infinity".



The End...

この作品はフィクションであり、実際の人物、団体、建設物等とは一切関係ありません。

――あとがき――
 ご愛(?)読ありがとう御座いました。OVER THERE INFINITYはこれにて閉幕です。結局、第0話「プロローグ」を含めた13話と物凄く短くなったのですが、その辺はしょうがないです。続編を書くならば、もう少し内容を充実させようと考えている次第です。
 多少違和感が残ってしまうかもしれませんが、それはこちらの伏線回収ミスです。報告していただければ、可能な限りで回収していきます。メールなどでどうぞ。
 とりあえず、個人的には満足できたと思います。やりたいことはやった、そんな感じです。デュエル小説なのにデュエルが少なかったり、主人公のデュエルが以上に短かったり、色々と問題点はありますが、その辺は目を瞑ってください。自分としてはこれは「デュエルがメインではない」という感じですので。
 さて、最後になりますが、本作品を書くに当たって、様々な感想を頂いた皆様、そして参考にさせていただいたサイトの数々。この作品を支えていただいた全ての方に、お礼を申し上げたいと思います。ありがとう御座いました。

 次回作があるならば、またその最後のあとがきでお会いしましょう。


2007 6/12 Written by 南瓜


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