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              サクラがいなくなって、どれ程の月日が経ったのだろう。


              俺は真夜中に何度も目が覚めては、彼女のぬくもりを探した。


              だが、あるわけも無く。


              そのたびに溜息をついて、己を呪って・・・




              あの晩、ユーリを呼び寄せる予定もないのに、彼が眞魔国に来た晩。


              サクラは、真っ青な顔で、ユーリを迎えに行こうとする俺を止めた。


              「駄目、そんな少ない人数で行かないで。もっと大勢で行って。

              凄く、嫌な予感がする。怖いの。お願いだから・・・」


              「だが、すぐ近くだし大丈夫だよ、サクラ。陛下もすぐあちらへ送り返すから」


              俺は彼女の不安を、重く受け止めなかった。


              その時の情勢が、その思いを増加させていたのかもしれない。


              不安定な状態だった。国も、内政も。


              いつもだったら、そこで俺を心配そうに見送ってくれるサクラだが、

              この日だけは違っていて。


              「グレタを連れて行くのよね?」


              「ああ、父親に久しぶりに会えるから。少しの時間だけど・・・」


              「だったら、私も行くわ。足手まといにならないようにするから。お願い」


              初めてだった。

              サクラのあんな姿は。


              だから、俺はそれ以上何も言わず、言えず。


              サクラを伴って、ギュンターとグレタと、酒場までユーリを迎えに行った。



              今思えば、足手まといになったのは、誰なんだろう。



              俺・・・だったのだろうか。


              そう思うと、俺は、自分自身を呪わずにはいられなかった。



              サクラ・・・どこにいるんだ。


              せめて、生きていてくれ。


              必ず、探し出すから。だから、希望を捨てないで。



              今、この瞬間も、きみのことだけを考えている。


              愛してる、サクラ・・・・






              酒場に、呼んでいないユーリが召還されると聞き、

              慌てて俺とサクラ、それにギュンターとグレタはその場所まで向かった。


              着いた時、丁度ユーリがこちらの世界に来たばかりだったようだ。


              ・・・間に合った。


              俺がほっとしていると、サクラは少し声を潜めて俺に囁いた。


              「早く、ユーリくんを安全なところへ連れて行った方がいいんじゃない?」


              サクラも、今のこの国の情勢が分かっている。

              俺もギュンターも、同じ思いで。


              グレタは久しぶりに会う義父に喜んでいるが、再会は短いだろう。


              早く、ユーリを元の世界へ戻さなくては・・・



              しかし、俺たちの思いは届かなかった。


              ユーリを地球に戻すことが出来なかった。



              逃げ込んだ教会は、すぐに敵に囲まれた。


              ギュンターも斃れた。


              サクラは神妙な顔で、ユーリが戻れなくなってしまったのを察知すると、

              すぐに彼とグレタを奥へ追いやった。


              「・・・変な匂いがする」


              その言葉の意味は、すぐに理解できた。


              正面の入り口が突破され、怒涛のようになだれ込んだ敵が抱えていた武器。

              そこから発せられる、火の燻る匂いだった。


              俺は3人を守るため、一人剣で戦った。


              だが、限界を悟るのも早かった。


              せめて、3人を逃がしてから・・・


              そう思った直後、左背後から敵の刃が襲ってくる。


              駄目だ、間に合わない。

              一瞬で覚悟を決めてしまった。


              「危ない、コンラート!」


              そして、俺の目の前に、肩までの黒髪が舞った。


              聞き間違いであって欲しかった。


              見間違いであって欲しかった。



              一瞬、何が起きたのか分からなかった。



              ゆっくりと崩れていく身体。



              俺が両手を伸ばして、愛しい女性を抱きとめようとしたが、

              瞬間早く、仮面を被った敵が、彼女を・・・


              サクラを横抱きにして、俺に剣で威嚇しながら、

              俺の横をすり抜けていった。


              それが合図のように、蜘蛛の子を散らすように、敵が出て行く。


              俺は、サクラを追いかけようとしたが、この場にユーリを残しては危ない。


              ほんの少しの迷いだったのに。


              教会を出ると、もう気配すら何も無く。





              ・・・・サクラ、俺はきみを守ると誓ったのに。


              どうして、俺は生きているんだ。


              どうして・・・