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俺の目の前で、サクラは着ていた衣服を無言で脱いだ。
見慣れた彼女の裸体を、俺は息を飲んで見つめて・・・
サクラは、俺に手を伸ばし・・・そして・・・。
コンラートを救うためなら、私は何も厭わない。
何でもしてやる。
私自身、どうなってもいい。
だから、彼を救って。
その一心で。
コンラートの部屋は、護衛が付いていなかった。
そうか、彼自身がユーリくんの護衛だものね。
場違いに、私はくすりと笑ってしまった。
久しぶりに少しだけ見たコンラートは、元気そうで。
でも、私を凝視する視線は、痛いほど強い。
「サクラ・・・」
私を呼ぶ声。
私もあなたの名前を呟いて、叫んで。そして抱きつきたいけれど。
ごめんなさい、ごめんね、コンラート。
私を許して。
そして、私を軽蔑して。
今晩限りで、私をあなたの中から消し去って。
そして、幸せを掴んで欲しいの。私のいない、未来を・・・。
その情事の間中、サクラはコンラートに目線を合わせることは無かった。
汗を滴らせ、腰を振って扇情的な表情を浮かべても、決してコンラートを見ようとしない。
「サクラ、サクラ・・・」
何度も名前を呼んで、コンラートの唇が、サクラの頬を這う。
目を閉じて、その唇を受け入れるけれど、彼に向ける熱い眼差しは無かった。
あるのは、ただ淫らな、荒く切ない喘ぎ声。
そして、水音。
最後の瞬間、コンラートはサクラを抱き締めて、そして耳元で囁いた。
「辛い思いをさせて、ごめん、サクラ・・・助ける。必ず。
愛してる・・・」
そして、その返答もない。
出来ない。
苦しそうな表情で、サクラは眉を寄せ、小さく首を振って身体を離した。
これで、終わり。
もう、全て終わった。
あなたと、私の時間。楽しかった、あの日々。
全て・・・過去のもの。
サクラはコンラートの制止を振り切り、部屋を後にした。
一言も口を利かないで。
契約だから・・・彼を守るための、契約。
「ウェラー卿を守りたい?サクラ・・・」
サラレギーの白い手が、サクラの頬を伝う。
「私はどうなってもいい・・・コンラートには、手を出さないで」
サクラのきつい眼差しに、サラレギーは眩しそうに瞳を細めた。
「そんなに、ウェラー卿を大事に思うの?」
「・・・あなたには、分からないわ。一生ね」
「言うね、サクラ。ならば、あなたと契約をしよう。それが履行されたなら、わたしは彼に手を出さないと誓う」
そのためならば。
コンラートさえ、無事でいてくれるなら。
今後、ウェラー卿と目線を交わさないで。あなたたちは、まるで目で会話しているようで、吐き気がするから。
もちろん、会話もしては駄目だよ。
その上で、ウェラー卿の体液を持ち帰ることが出来たなら・・・
彼の遺伝子で、次の鍵を作ることが出来るかもしれないから。
そうなったら、彼に固執することはない。
サクラ、きみと、それに彼の遺伝子を持つ子供。それで終わりにしてあげてもいいよ?
吐き気を催すようなサラレギーの、毒の混じった契約。
だけど、サクラには選択肢はない。
コンラートを守れるのなら。
あの人を、助けたいから・・・。
どうしようもなく、愛しているの。だから・・・。
サラレギーの手の者が多数潜んでいるこの大通りの真ん中で、
サクラは手にした小瓶を闇に掲げた。
ほんの少量だけ、コンラートの体液が入っている。
契約は、守った。
だから・・・。
コンラート、愛しているわ。
だから、幸せになって。
私のことは忘れて、幸せを掴んでね・・・。