4






              俺の目の前で、サクラは着ていた衣服を無言で脱いだ。


              見慣れた彼女の裸体を、俺は息を飲んで見つめて・・・


              サクラは、俺に手を伸ばし・・・そして・・・。






              コンラートを救うためなら、私は何も厭わない。


              何でもしてやる。


              私自身、どうなってもいい。

              だから、彼を救って。



              その一心で。



              コンラートの部屋は、護衛が付いていなかった。


              そうか、彼自身がユーリくんの護衛だものね。


              場違いに、私はくすりと笑ってしまった。


              久しぶりに少しだけ見たコンラートは、元気そうで。

              でも、私を凝視する視線は、痛いほど強い。


              「サクラ・・・」


              私を呼ぶ声。


              私もあなたの名前を呟いて、叫んで。そして抱きつきたいけれど。


              ごめんなさい、ごめんね、コンラート。


              私を許して。


              そして、私を軽蔑して。


              今晩限りで、私をあなたの中から消し去って。



              そして、幸せを掴んで欲しいの。私のいない、未来を・・・。






              その情事の間中、サクラはコンラートに目線を合わせることは無かった。


              汗を滴らせ、腰を振って扇情的な表情を浮かべても、決してコンラートを見ようとしない。


              「サクラ、サクラ・・・」


              何度も名前を呼んで、コンラートの唇が、サクラの頬を這う。

              目を閉じて、その唇を受け入れるけれど、彼に向ける熱い眼差しは無かった。


              あるのは、ただ淫らな、荒く切ない喘ぎ声。

              そして、水音。


              最後の瞬間、コンラートはサクラを抱き締めて、そして耳元で囁いた。


              「辛い思いをさせて、ごめん、サクラ・・・助ける。必ず。

              愛してる・・・」


              そして、その返答もない。


              出来ない。


              苦しそうな表情で、サクラは眉を寄せ、小さく首を振って身体を離した。


              これで、終わり。


              もう、全て終わった。


              あなたと、私の時間。楽しかった、あの日々。



              全て・・・過去のもの。



              サクラはコンラートの制止を振り切り、部屋を後にした。


              一言も口を利かないで。


              契約だから・・・彼を守るための、契約。








              「ウェラー卿を守りたい?サクラ・・・」


              サラレギーの白い手が、サクラの頬を伝う。


              「私はどうなってもいい・・・コンラートには、手を出さないで」


              サクラのきつい眼差しに、サラレギーは眩しそうに瞳を細めた。


              「そんなに、ウェラー卿を大事に思うの?」


              「・・・あなたには、分からないわ。一生ね」


              「言うね、サクラ。ならば、あなたと契約をしよう。それが履行されたなら、わたしは彼に手を出さないと誓う」



              そのためならば。


              コンラートさえ、無事でいてくれるなら。




              今後、ウェラー卿と目線を交わさないで。あなたたちは、まるで目で会話しているようで、吐き気がするから。

              もちろん、会話もしては駄目だよ。



              その上で、ウェラー卿の体液を持ち帰ることが出来たなら・・・



              彼の遺伝子で、次の鍵を作ることが出来るかもしれないから。

              そうなったら、彼に固執することはない。


              サクラ、きみと、それに彼の遺伝子を持つ子供。それで終わりにしてあげてもいいよ?




              吐き気を催すようなサラレギーの、毒の混じった契約。


              だけど、サクラには選択肢はない。


              コンラートを守れるのなら。

              あの人を、助けたいから・・・。


              どうしようもなく、愛しているの。だから・・・。



              サラレギーの手の者が多数潜んでいるこの大通りの真ん中で、

              サクラは手にした小瓶を闇に掲げた。


              ほんの少量だけ、コンラートの体液が入っている。



              契約は、守った。


              だから・・・。



              コンラート、愛しているわ。


              だから、幸せになって。


              私のことは忘れて、幸せを掴んでね・・・。