If wake; dreamland   2
            
            
            
            
            
            
            みなとみらいをぶらつくのは、とっても危険だと分かっていた。
            
            あそこは、平日でも若い女の子が多い場所。
            
            学校は?仕事は?
            
            私も人のこと、言えない。
            
            それに、私の手を繋いでいるこの暖かいぬくもり。
            
            見上げれば、銀を散らした薄茶の瞳が、私の視線にすぐに気がついて。
            そして微笑む。
            
            「、もっと俺の近くに来て。はぐれてしまうよ」
            
            ・・・こんなにしっかりと、私の手を握ってるくせに。
            どこまで私の汁を放出させれば気が済むの、この人。
            
            まだまだ、私の妄想は続く。
            
            
            
            中華街に行く前に、コンラートは寄りたい場所があるのだと言った。
            
            横浜に詳しいはずはないのに、迷うことなく人ごみを掻き分けていく。
            私の手を握ったまま。でも、強く引っ張ることもなく。
            
            私が流れから外れそうになると、コンラートが私の手から離れて、・・・私の肩を抱き寄せた。
            
            やばい、心臓がMAX!倒れるかも・・・。
            
            「、ごめん、もうすぐだから。我慢して?」
            
            ええ、しますとも!
            しかし何ていい香りなんだ、コンラート・・・ウッディ系のコロン?
            胸元から漂ってくる。
            危険な、甘い香り。頭がグラグラする。
            
            「・・・やっと人ごみを抜けた。、大丈夫?」
            
            そう立ち止まって、私を覗き込むコンラートの眼差しは、限りなく優しくて。
            私は胸を押さえて、何とか微笑らしきものを口元に浮かべた。
            
            ああ、引きつってませんように。
            
            「大丈夫。コンラートこそ、注目浴びてるけど、大丈夫なの?」
            
            そう私が言うと、やっと彼は周囲の女性の眼差しを一身に浴びていることに気付いたようだ。
            案外鈍いのね、この人。
            
            「ああ・・・大きいから、目立つのかな」
            
            違う!カッコいいからでしょ!?
            
            自覚ないのか・・・。私なんか、すんごい睨まれてるんだけど。何で、妄想なのに!
            
            私に対する女性達の嫉妬の眼差しには、素早く気付いたコンラート。
            私を守るように、片手でぎゅっと抱き締めた。さっきまでは、軽く肩を支える程度だったのに。
            
            「あ、あの・・・」
            
            「、俺から離れないで?目的の店は、もうすぐだから」
            
            そう言って、私に微笑んで歩き始めた。
            
            だめだ、まだ慣れない・・・。どきどきが止まらない。
            
            でも、もう二度とないかもしれないこのチャンス。私は勇気を出して、私の肩を抱いている、この大きな手に触れた。
            すると、コンラートは私を見下ろして、そして柔らかな笑みを浮かべた。
            
            「手を、繋いでいたほうがいい?」
            
            ずっきゅーん!
            
            何だその最終兵器的な笑顔!!
            もう、私・・・。どうすりゃいいの・・・。
            
            
            
            コンラートが私を連れて来たがっていたのは、ワールドポーターズ。
            
            「、きみにどうしても贈りたいものがあって。少しだけ、俺に付き合って?」
            
            コンラートは爽やか以外にどう表現すればいいのか分からないような、そんな素晴らしい笑みを浮かべ、
            私の手を掴んで歩き続けた。
            
            何度も来ているこの場所。
            
            だけど、いつもと全然光景が違う。
            
            何で、どの店も輝いて見えるの?
            
            それは、きっとショーウィンドウに映る、私と・・・コンラートの姿があるから。
            
            磨かれたガラスに映る、私達。
            きっと似合わない組み合わせ。
            
            普通の私。カッコいいコンラート。
            
            だけど、今は、今だけは。彼は私だけを見てくれている。
            
            目的の店に着いたコンラートは、まっすぐにピアスが陳列されている棚に向かって。
            
            そして店員が、あまりのコンラートの格好よさに驚いて声も掛けられないでいるのに、
            彼は腰を落として、私の髪を耳にそっと掛け・・・ああ、正面からコンラートを直視してしまった。
            どうする、どうなる私!
            
            コンラートはいくつか私の耳に、ピアスを当てて物色している。
            
            「うーん、にはピンクサファイアだと思っていたのに。ペリドットか・・・。緑も捨てがたいな」
            
            そう一人でぶつぶつ言っている。
            
            「えっと、コンラート・・・何でピアスを選んでるの?」
            
            おずおずと私が聞くと、コンラートは選んでいた手を止めて、私に首を傾げた。
            
            「どうして?俺が決めたら駄目?」
            
            「え、いや、違う、そうじゃなくて・・・」
            
            「ああ、どうしてピアスを選んでいるか、そう聞きたいの?」
            
            根本的に、どうしてあなたがここにいるかも聞きたいけど。
            
            それはいいや。知ったら、コンラート、消えてしまうかも。それは嫌。
            もう少し、楽しみたいよ。
            
            「きみのネックレス、指輪、ピアス・・・本当は全て俺の選んだ色で飾りたいんだ」
            
            そう笑ったコンラートの笑顔に、私は胸が一瞬痛くなった。
            
            この指には、結婚指輪がはめられている。
            
            私の浮かべた表情に、コンラートは少し笑顔の色を変えた。
            
            「ごめん、。そんなつもりで言ったんじゃない」
            
            謝るのは、私の方なのに。
            こんな気持ちでいるのを、許して。
            
            好きなの、コンラート。
            
            だけど、だけど・・・。
            
            コンラートは、困ったように私を見つめて、そしてふいに私の手を取った。
            そして、するりと指輪を外してしまった。結婚指輪を。
            
            「これ、が大事なものだと分かってるから。絶対無くさない。だから、俺に預からせて?今日だけ・・・」
            
            そんなことを言われて、断れる女性がいるのだろうか。
            いたら聞かせて?どう言って断ればいいの?
            
            私はコンラートに思わず抱きついてしまった。
            
            「コンラート・・・。ピアスなんか、いらない」
            
            「え・・・?」
            
            驚いたように、でも私を抱きとめてくれるその腕。
            
            私が埋めた胸元。
            
            全てが、夢なのにリアルで・・・。
            
            どうしようもない感情が、私の中で湧き上がる。
            
            独占欲。
            
            この人を、私だけのものにしたい。今だけでも。
            
            「指輪も、ネックレスもいらない。何もいらない。今、あなたがここにいるだけで。それだけでいいの」
            
            掠れる声で、私が声を絞り出すように言うと、コンラートは私をぎゅっと抱き締めた。
            
            ありがとう、コンラート。
            
            ここで、何も言わないで、私を抱き締めてくれて。
            
            言葉なんか、いらない。
            
            ただ、あなたのそのぬくもりがあれば、私にはそれで充分だった。
            
            
            
            コンラートは、結局悩みに悩んで、私の誕生石のピアスを買ってくれた。
            そしてそれを嵌めた私の耳元を、嬉しそうに見つめて。
            
            「よく似合ってるよ、」
            
            ありがとう。このピアス、ずっと大事にしたいけど。
            
            でも、きっと今だけね。だって、妄想だから。
            だけど、私の胸に今ある想いは、ずっと残るから。
            
            だから、残された時間。あとどれくらいあるのか分からないけど。
            
            あなたとの思い出を、たくさん作っていこう。
            
            
            
            14時になり、中華街が空き始めた頃、私とコンラートはエキゾチックな町並みを歩いた。
            時折、お香の香りが立ち込めて。
            
            日本なのに、別世界の感覚になれる、この町。
            
            店頭に並ぶチャイナドレスや、露店のように並べられた中国茶葉。
            それに、豚まんのいい香り。
            
            コンラートは嬉しそうに私の手を繋いで。私もその手のぬくもりが嬉しい。
            
            「コンラート、食べ放題の店と、コース料理の店、どっちがいい?」
            
            そう私が聞くと、コンラートは立ち並ぶ料理店を見渡した。
            
            「どちらでも。はどっちがいい?」
            
            「私はどっちも行ったことあるから。コンラートが決めていいよ?」
            
            「そうか・・・。じゃあ、折角だからコースで注文できる店を」
            
            コンラートが、もし食べ放題の店と言ったら、オーダーバイキングの店を選ぶつもりだった。
            この人と食事をするのに、落ち着きの無い店には入りたくない。
            
            でも、コースの店だったら、行ってみたい店がある。
            
            イタリアンやフレンチと見まごうばかりのオシャレな店。
            でも、中国から招いた一流シェフが腕を振るうと評判の、あの店。
            
            気負いなく入れそうで、気になってはいたけれど、なかなかチャンスがなかった。
            
            「どう?ここなんだけど」
            
            クリーム色の建物の前で私が聞くと、コンラートは2階の窓の透かしガラスを見上げて、口元に笑みを。
            とても嬉しそうに、私を見下ろした。そして空いた手で、私の髪をそっと撫でて。
            
            「いいね。、楽しい時間を過ごせそうだ。ありがとう」
            
            ・・・ありがとうと言うのは、こちらなのに。
            
            コンラート、まだ、私・・・夢を見ていてもいいのかな?
            
            あなたとの二人きりの時間。
            
            もう少し、過ごさせて。
            
            お願い、指輪の感覚を忘れるまで。
            
            あなたと過ごしたい。