If wake; dreamland 3 特製鳳凰型造り前菜、フカヒレの姿煮込みの野菜添え、伊勢エビの二種味炒め、 北京ダック、ホタテの炒め 飾り籠盛り、あわびとなまこの煮込み、 ちまき、牛ヒレ肉の鉄板焼き、ツバメの巣のスープ・・・・ 他にも何だか色々あったような気がするけれど、全然頭が回転してない。 というか、折角の美味しい料理も、味がよく分からない。 原因は、テーブルの真向かいに座る、この人。 れんげで器用に料理を取り分けて、私に皿を差し出してくれる。 その眼は優しげに微笑んで、時折銀が煌いている。 「どうした、。食べないの?美味しいよ?」 ええ。もう私はあなたのその笑顔で、お腹いっぱいです・・・。 「済みません、ビールお替りください」 返事の代わりに、私はウェイターに注文を。 するとコンラートは、にっこり笑って自分も手を挙げた。 「俺も、同じのを。・・・、ビールばかりじゃお腹がそれで膨れてしまうよ?」 心配げに、眉を潜めて。ああもう。そのあなたの表情全てが、私をノックダウンさせてしまうのに。 そんな私の気持ちに気付かないのか、コンラートはちまきの皮を剥いて、私に差し出した。 それを受け取ろうとしたら、ふいと避けられる。 あれ?意地悪されてるの? 首を傾げると、コンラートはくすりと笑って、もう一度ちまきを差し出した。 ・・・もしかして。マジですか。 私は少しだけ身を乗り出して、彼の差し出したちまきをぱくりと齧った。 「美味しい?」 嬉しそうな、その声。 もう・・・。 空いている時間帯を選んで、本当によかった。 最後あたりで、ようやく料理の味が分かった私。何を食べたのかは、よく覚えていない。 ただ、緊張を紛らわせるために、飲みまくってしまった。 少し酔っ払ってしまったけれど、でもいいや。 何だかやっと、コンラートと向き合えるような気がする。 「、危ないから、俺にしっかり掴まっていて」 コンラートの手が、私の肩を掴んで引き寄せた。 ウッディ系の、いい香り。それに、暖かい・・・。 私は彼の腕をしっかりと抱き締めて、そして見上げれば。 何ともいえない素晴らしい微笑で、私を見下ろしている。 大きな手が、私の髪をそっと撫でて。そして。頬に柔らかいものが。 不意打ちで、キスをされてしまった。 「そんな可愛い目で俺を見ないで?もう・・・離せなくなる」 離さないで。 ずっと私の傍にいて。 そう言いたいけれど。 でも、これは私の妄想なの。 だけど・・・だから。 今だけは、私のコンラートでいて欲しい。 夕焼けが包む港町を、二人でゆっくりと歩いた。 天から降りてくるその暖かい色合いが、白い停泊している船に跳ね返り、そして公園を照らしてる。 何度も来たはずのこの公園が、何だか私には眩しく見えた。 「少し、座ろうか」 コンラートが、私を抱いたままベンチに誘った。 海に面したそのベンチに、何人ものカップルが座ってる。 その中に、私とコンラートもいる。 不思議なリアルのある情景。 コンラートは、海を見つめたまま、私をぐっと引き寄せた。 私もそれに拒むことなく、彼の肩に頭を預けた。 静かな、流れる時間。 ずっと、このままでいれたらいいのに・・・。 「・・・」 ふと、呼びかけられて、私は顔をあげようとしたけれど。 肩に込められた力が強くて、思わずそのまま動けなかった。 「きみは、少し頑張りすぎだ。もっと、周りに頼って。きみを心配して、きみを見ている人はたくさんいるんだよ。 それに早く気付いて欲しいんだ」 「・・・コンラート・・・」 どうして突然そんなことを言い出すんだろう。私は驚いて、彼の名前を呼ぶことしか出来なかった。 「俺は、はのままでいて欲しいと思う。だけど、無理はしてもらいたくない。 きみらしい、その笑顔を保ってもらいたいんだ・・・」 最後の言葉は、少し切なくて。 私らしい、笑顔。 忘れていたような気がする。 毎日、同じことを繰り返す、雑多な日々。 でも、クリアしていかなければ次に進まない。 「きみの笑顔を見たい人が、たくさんいる。それを忘れないで?」 コンラートは、私の肩に掛けた手を少し緩めて、私を覗き込んだ。 目の前には、あの端正な顔。 そして、近づく銀を散らした薄茶の瞳。 眼を閉じれば、私の唇に触れる、暖かい弾力。 触れるだけの口付けなのに、どうして泣きたくなるんだろう。 人前なのに、なぜか恥ずかしさは無かった。 ふとコンラートが離れた瞬間、とても寒気がして。 ああ、薄着しすぎてしまったかな。 もう、季節は冬に向かってる。 私が僅かに身を縮めると、コンラートは再び私の肩を抱いて、自分の方に引き寄せた。 そして、私にしか聞こえない、小さな小さな声で。 「、寒い?」 「・・・うん、少し」 「暖めてもいい?」 「・・・え?」 「きみを、暖めたい。許してくれる?」 ・・・そのまま、私を抱いたまま。 コンラートは私の返事を聞かず立ち上がり、そして歩き始めた。 まさか、まさか。 妄想とはいえ、いいのだろうか。 私は・・・未だかつて無い、めくるめく体験をしてしまった。 何度も私に落としてくれた、その唇の感触。 苦しげに呟いた、私の名前。 頬を撫でる手。 暖かい、ぬくもり。 きっと、絶対。忘れない。 コンラートは、その言葉通り、私を暖めてくれて・・・。 そして、私は目が覚めた。 「お母さん、お母さん!!」 ベッドで寝ている私の上に重みが。 「う・・・うーん、何よ・・・」 「朝だよ、お母さん!腹減った!ご飯、ご飯」 食べ盛りの息子は、私が起きるまで待てなかったようだ。 私が目覚めたのを知るや、さっさと階下に行ってしまった。 寝ぼけ眼で隣を見れば、幸せそうに眠る旦那の姿。 ああ、現実に戻っちゃった。 いい夢だったなあ。 また、見れたらいいな。 今日は、平日だけど有休を取った。丁度仕事も空いたし、たまにはいいか。 旦那と子供を送り出して、張り切って掃除機を掛ける。 だって、頑張らなくちゃ。頑張り過ぎない程度に。 夢に影響される私も、いい加減単純だけど。 でも、目覚めたら、旦那が私の手を握ったまま眠ってて。 その姿を見たら、何だか昨日よりも、家族が愛おしく思えた。 ベッドを少しずらして、掃除機を掛けようと思ったら。何か光るものが落ちている。 「あれ、何だろう」 手を伸ばして、それを取ったら・・・私の誕生石のついた、ピアス。 デザインは、あの夢の中で見た・・・。 「うそ・・・どうして・・・」 頭の中で、コンラートの優しい響きが聞こえた気がした。 「。また。頑張ったご褒美の時間にまた、会えたらいいな・・・」 そうね、コンラート。 あなたとの時間は、本当に私の宝物。 またいつか、あなたと会える日を楽しみにして。 今日は私、主婦業を。明日からは、便利な未来を目指して、また顕微鏡と戦う日々を。 後悔しないで、毎日を過ごそう。 今日は何だかいいお天気。 洗濯して、お布団干して。 真っ青な空を見上げて、私は両手を挙げて、伸びをした。 明日もまた、いい日でありますように。