It is you and two people sometime    3





              ソファに私を招いてくれたコンラートは、器用な手つきで私にお茶を振舞ってくれた。

              私は慌てて立ち上がり、


              「私が、するから!」


              と言ったのだけれど。


              でも、コンラートはにっこりと笑って・・・その微笑みが、私を捉えて離さないことを知らずに。

              私の前に、暖かい、鮮やかな色の紅茶を差し出してくれた。


              「ニナ、本当に久し振り。一年振りくらいになるのかな?」


              「ええ・・・そうね。忙しかったから、コンラートも、みんなも」


              今は、戦乱。

              だから、幼馴染みとはいえ、気軽に会いに行けない距離に皆いる。


              寂しい。


              でも、私もすぐに、その波に乗るだろう。


              「ロイエンタール卿は、お元気なのか?」


              コンラートは、私の父を心配してくれた。

              私の名は、ロイエンタール卿ニナ。

              父は、中流ではあるけれど、貴族の地位をもらってる。


              だから・・・


              「ええ。何とか。日常生活は、支障はないの。その代わりね、私、衛生兵として頑張ってるのよ」


              気を紛らわせるかのように、私はコンラートにそう言った。

              でも、それは事実で。


              フォンクライスト卿ギーゼラ様の下で、毎日教えを請うている。

              それが実ってか、士官の試験も受かる範疇にいた。


              コンラートは、私の報告に、嬉しそうに頬を緩ませた。

              本当に素敵な笑顔。


              その笑顔が、私だけのものになればいいのに。

              でも、あなたは違うひとが好きなのよね・・・知ってる。


              スザナ・ジュリア様。


              私も、よく知ってるひと。


              私に、癒しの魔術を教えてくれるひと。



              だって、ジュリア様、私に会う時に、よくコンラート様の話をするんだもの。


              昨日会いに来て、どんな話をしたかとか。

              今日はどんな食べ物を食べたのかとか。


              そんな話をどうして私にするのか、ずっと分からなかった。


              ただ、悔しくて。


              絶対、この方を超えてやると思ってた。


              超えれば、コンラートの気持ちが私に向くとは思ってないけれど。


              だって。


              ジュリア様は、本当に綺麗なんだもの。


              私は・・・こんなくせっ毛で、中途半端な色の金髪で。

              ヴォルフを見ただけでも、自己嫌悪に陥るほど。くすみきってる。


              目も、鼻も、口も。全て嫌い。

              私のありとあらゆるところが、嫌い。


              なのに、好きなの。


              コンラートのために、頑張りたい私がいる。


              ・・・情けない。



              私は、せいぜい笑顔になるように努めていたら、コンラートは、私を目を細めて見つめた。


              ・・・やめて。暖かすぎて・・・勘違いする。


              「ニナ・・・。やっぱり、大人になったな」


              「どうして・・・?」


              「・・・いや。こっちに来て?」


              言われ、私はとまどいながらも立ち上がり、向かいのソファに座るコンラートの横に立った。


              コンラートは、私に両手を広げてくれたけれど。でも、飛び込んでいけるほど、私は子供じゃないの。


              ただ、だっこは・・・嫌なの。


              それに気付いたか気付かないでか、コンラートはその手を私の髪に掛けた。


              ただ、私の髪を撫でて小さな声で言った。


              「ニナ、頑張ってるらしいのは、俺も聞いている。ギーゼラからも、ジュリアからも。

              ジュリアから、魔術を教えてもらっているそうだね。その話を聞くたびに、俺は嬉しかったよ」


              そして、下ろしていたくせのある髪に触れるコンラートから目を逸らし、私は唇をかんだ。


              ジュリア様から・・・。私の話を。


              私に会わない間に、ジュリア様とはそれだけ会っていた。



              それは、私のせい。


              私が、コンラート様がお忙しいだろうからと、わざと避けていた面もある。


              だけど。

              直接言われると、さすがに辛い。


              私は俯いたまま、ぽつりと呟いた。


              「今日も、ジュリア様と・・・?」


              「ああ。さっき、会ってきた」


              普通に、何事もないことのように答えたコンラートだけれど。

              でも、私の様子に気付いたようで。


              じっと私を見つめ、そしてくすりと笑った。



              「ニナ、おいで」


              「え・・・・?」


              「いいから、子供の頃は、よくしただろう?」


              そう言いながら、強引に私の手を引いて。


              そして、私を抱き締めた。


              ああ、顔が赤くなってる、私。


              だって。男の人の胸に抱かれるなんて。許されない。



              コンラートは、私のくすんだ金髪を撫で続け、ぎゅっと私の頭部を抱き締めた。

              苦しい。

              だけど・・・嬉しい。


              「ニナ、一つ勘違いしているようだから、言っておくけど。

              ジュリアには、婚約者がちゃんといるよ」


              「え・・・?」


              驚いた私が顔を上げようとしたら、それを手で押さえ込まれてしまった。


              私が感じることの出来るのは、コンラートの鼓動。


              穏やかな、落ち着いた鼓動・・・と思っていたのに。少し、早い。


              感じる体温は、少し熱い。


              「コンラート、体調悪いの?風邪引いたの?」


              衛生兵としての心得の上で、私が言うと。


              コンラートは苦笑したような笑みを零した。


              「違うよ。聞いて、ニナ。俺と、ジュリアは何でもないよ。ただ、そうだな、戦友なんだ」


              「・・・コンラート・・・」


              「ニナ、段々俺の鼓動が早くなってきていない?」




              ・・・うん、早くなってきてる。


              どうして?


              それに・・・ずっと、ジュリア様とコンラートは、好き合ってるんだと思ってたのに。


              違うの?



              混乱する。



              コンラートは、私を押さえつけた腕の力を緩めた。


              そして、僅かにあの綺麗な瞳に、真剣な色を浮かべた。


              「ニナ・・・この戦争が終わったら・・・」




              その先の言葉を、もっとちゃんと聞き直せばよかったのに。


              コンラートは、私のきょとんとした表情を見て、笑みの色を変えた。


              そして、かすめるようなキスを、私の頭部に落として。


              とんでもないことを、教えてくれた。




              魔族と人間の混血だけで、隊を作ると。


              そして、今、一番戦況ただならないところに、派遣されるだろうと。


              そう言った。




              「でもね。この戦いに勝てれば、俺のような魔族と人間の混血でも、堂々と生きれるような社会になれる。

              そうなれば、俺も、やっときみを・・・」


              そう言って、私を見下ろし、私の頬に手を当てた。


              私を。何?


              その先は言ってくれなかった。だから、分からないけれど。


              でも、ごめんなさい、コンラート。



              その時に、私の脳裏に浮かんだのは、ただ・・・




              あなたの、役に立ちたい。




              ただ、それだけだった。




              次の日、私は上官であるギーゼラ様を通さずに、衛生兵長に直接、「ルッテンベルク師団」直属衛生兵への届出を出した。




              私は、あなたの力になりたい。







              そのためなら・・・・