Across the space-time; and ... 6:her thought アメリカで、コンラートはある人から最高級のホテルを用意されていた。 そのホテルに連れて行かれた私は、呆然と部屋を見渡した。 私の部屋の何倍の広さがあるんだろう・・・。 その私の腰に手を当てて、コンラートは困ったように微笑した。 「気に入らない?なら、別のところを借りてもらうけど」 私は慌てて首を振った。手には、大きなボストンバッグ。 そして私の、全財産が入ってる。 コンラートが「しんまこく」に帰ったら、きっと私はまた喫茶店の店主に戻るだろう。 今までの、彼が現れる前の日常に。 だって、私の中で、「しんまこく」に行くという選択肢は無かったから。 コンラートが、着いて来てと言ったのは、このアメリカだけだったから。 だから、笑顔で見送ることに決めていた。 そのためには、やっぱりお金は必要だろうし。その日まで、二人で不自由ない生活をしたい。 ところが、コンラートは首を傾げて私に言った。 「生活費は、ちゃんと出るから大丈夫だよ」 「え・・・?」 「全て、ボブが用意してくれるから。だから、何も心配しないで」 ボブって人が、コンラートのスポンサーならしかった。 私がそんな当たり前のことを考えていたことが、逆にコンラートには不思議だったようだ。 「俺が、きみに苦労させるために、アメリカに連れて来るはずがない。 ただ、きみに俺の傍にいてもらいたいから。だから、仕事をしなくちゃとか、考えないで」 ああ、見破られていた。 私の拙い英語でも、何かバイトくらいはしないといけないと思っていたから。 でも、何もかも頼り切っていいのかしら・・・。 コンラートのスポンサーには紹介してもらえなかったけど、 でも彼の王様になる人を身篭った女性の、その旦那様には紹介してもらった。 「ショーマ、彼女は。俺の大切な人だ」 大切な人・・・。 その響きに、今は酔いたい。 そして、彼に恥をかかせないようにしなきゃ。 「あの、初めまして。といいます。どうぞよろしくお願いします」 そう頭を下げると、激しく目尻の垂れた優しそうな男の人は、私とコンラートを交互に見比べた。 「へえ・・・コンラッド、あんた随分会わない間に、少し雰囲気変わったな」 「そうかな?もしそうだとしたら、彼女のお陰だ」 そう笑ってコンラートは、人目も憚らず私の髪に唇を落とした。 目を見開く、ショーマさん。 私は顔を真っ赤にしてしまって、身じろぎをした。 そんな私を暖かい眼差しで見つめて、コンラートの目がショーマさんに移った。 「照れ屋なんだ。そこがまた可愛いんだけど」 「・・・訂正するよ、少し変わったどころじゃない。随分変わったよ、あんた」 そう呆れたように呟いた、ショーマさんに・・・私は少し不思議な気持ちでいた。 前のコンラートが、どんな風だったのか、知らないから。 聞いても教えてくれないだろうな。 でも、いいの。 今、私の肩を抱いてくれる、この手が全てだから。 6:his thought をアメリカに連れて来てしまってから、数週間が経った。 をショーマに紹介して、密かに彼の奥方・・・我々の魔王のご母堂に当たる方を見せた。 「随分可愛らしい方ねえ」 王の母になる人だから、きっと高貴な者だと思ったのだろうか。 普通の日本人の、渋谷夫妻。 ただ一つ、ありふれていないのは、ショーマが地球の魔族だということだ。 俺は、に魔族のことをまだ話ししていない。 どんな反応をされるのが、正直怖い。 アメリカで、魔族=悪魔のようなイメージがあることを知ったから。 も、俺に対して恐怖を覚えてしまうかもしれない・・・。それが怖かった。 本当は、を眞魔国へ連れて行ってしまいたい。 何度その欲望と闘い続けただろう。 それだけは、絶対に許されない。 には、この地球で大切なものがたくさんある。 家族。店。 それに・・・の笑顔を求めて何人もの常連客がいる。 は地球にいなくてはいけない。 そして、俺がいなくなれば、いずれまたどこかの誰かと恋に落ちるだろう。 俺と付き合ってくれた、この数ヶ月があれば。 もう、は前を向いて歩いていけるはずだ。 その相手を考えると、殺したいくらい嫉妬に駆られてしまうけど。 でも・・・俺が、彼女のこれから普通に訪れるであろう幸せを、奪うわけにはいかないんだ。 二人きりで、幸せな毎日を送っていたある日、タクシーを停めた俺の袖を、が引いた。 「コンラート、あの人・・・!」 そのの指差す先には、大きなお腹を抱えて、必死で親指を立てているショーマの奥方がいた。 まずい、陣痛が始まったのか?予定より少し早いけど・・・。 「早く、行って!」 停めたタクシーに俺を押し込んだは、ドアが閉まる直前に手を振った。 「ちゃんと、病院へ連れて行ってあげてね!」 は・・・どうして一緒にいかないんだ? そして、どうしてそんなに悲しそうな笑顔なんだ・・・。 ショーマの奥方を、無事病院へ運んで、そして我らの魔王が無事に生まれたことを確認して。 俺は真っ直ぐにホテルへ戻った。 早く、に会いたい。 きみを、この手で抱きたい。 焦る気持ち。どうしてだか、分からないけれど。 でも、にとにかく会いたかった。 カードキーを差し込むのもまどろっこしい。部屋の扉を開けると、すでに夜なのに、中は真っ暗で。 「・・・?」 声を掛けながら、俺は部屋の明かりを点けた。 すると、クイーンサイズのベッドの端で、窓の外を見つめてが膝を抱えて小さく座っていた。 「・・・」 その姿を見て、俺はなぜか胸が痛くなって・・・堪らなかった。 俺の声に気付いて、は振り返った時には、いつもの俺が大好きな微笑みを浮かべていた。 立ち上がり、俺の手を取って。 「大丈夫だった?ちゃんと、生まれたの?」 「・・・ああ。元気な男の子だそうだ」 「そう。良かったわね・・・」 。 俺はきっときみを忘れることなんか、出来ない。絶対に無理だ。 日本で立てた、密かな誓い。 もうきみ以外を愛さない。 きみ以外を抱かない。 その誓いは、確実に守られるだろう。 だけど、俺はきみが、俺以外の男を愛して幸せになることを・・・ 許せるのだろうか。 きみのあの扇情的な、切なげな顔を他の男が見ると思うと、苦しくなる。 きみの幸せを願っているのに。 でも、きみを独占したい。いつまでも。 迷い、葛藤し続ける俺を知ったら、きみは軽蔑するだろうか・・・。