Across the space-time; and ... Chapter 2 1:her thought コンラートにエスコートされて、連れて来られた街は、裕福そうに見えた。 どこかヨーロッパの雰囲気が感じられ、左右に並ぶ店は賑わいでいる。 「ここが、城下町だ。ほら、。もうすぐ、城が見える」 そう、にこやかにコンラートは説明してくれているけれど。 私は、周囲の人の目線が気になって仕方がない。 あの時・・・ コンラートが、地球から「しんまこく」へ戻らなくてはならないあの、夜。 ついさっきのことなのだけど。 地球で、アメリカで。 私達が住んでいたアパートメントの近くの公園で、私は別れるのが辛くて、 ずっと我慢していたのに・・・涙が止まらなくなってしまった。 彼とは、笑顔で別れようと思っていたのに。 楽しい思い出をありがとう、という気持ちを贈ろうと心に決めていたのに。 どうしても、涙が止まらなくて。子供のように泣きじゃくってしまった。 そんな私を見て、コンラートは私を抱きかかえて、池に飛び込んだ。 信じられなかった。 いや、コンラートが私に説明してくれた、異世界のことを疑う訳ではないけれど。 それでも、膝くらいまでしかないはずの池の水が、あまりに深くて、渦巻いていて。 すごく驚いて、声も出ないままでいたら、コンラートが私の唇を塞いだ。 この「しんまこく」に着くまで、ずっとキスをし続けてくれた。 きっと・・・私があまりにも情けなく泣いてしまったから。 だから、困ってしまって、コンラートは私をここへ連れて来てくれたのだろう。 情けない。すごく、情けなかった。 でも、心の奥底では、嬉しい。 ずっと、彼に着いて行きたかったから。許されないことだと。望まれないことだと思ってた。 だから・・・せめて、彼の足手まといにはなりたくない。そう思った。 「ねえ、どうして皆、私を見ているの?」 私がコンラートの袖を引くと、彼は嬉しそうに笑みを浮かべて、私の腰を抱いた。 「が、あまりに綺麗だから」 「・・・え?」 きっと、馬鹿面をしていたに違いない。 あまりに、綺麗?そんなこと、言われたことなんかない。 するとコンラートは、人目も憚らず、私の髪に唇を落として・・・ 何か周囲が騒がしいけど、何を言っているのか、分からない・・・。 「この世界では、黒髪黒目は敬うべき存在なんだ。双黒ともなれば、王かそれに近い魂の持ち主と思われる。 それに、は本当に綺麗だよ。俺が一目ぼれしちゃうくらいにね」 そんな・・・アジアでは、双黒というのが大半よ? そう思った私だけど、気付いてしまった。 冗談めかして言っているけど、コンラートは凄く緊張している。 私の腰に廻した手が、汗ばんでる。 短い裾のTシャツを着てきてしまったから、それを感じることが出来た。 私・・・とんでもないところに来てしまったのかもしれない。 私にとってではなく。 私は、コンラートに、とてつもなく迷惑を掛けてしまう存在なのかもしれない。 そう思ったのは、城に着いて間もなくだった。 背後に緑多き山を従えて、左右対称の大きな建物。 どこかのドキュメンタリーでしか見たことがないような、その立派な建物がお城だった。 門番からきっと連絡が来たんだろう、出迎えがいた。男性二人、女性一人。 驚いたのは、とっても美形揃いだったということ。 コンラートも、すごく素敵だと思っていたし、今も思っているけれど。 私達を出迎えた人々は、人外の美しさというか・・・何だかぞっとするような美形ばかりだった。 彼らは、一斉にコンラートに話しかけている。 私が分からない言葉で。 コンラートも、私が分からない言葉で返事をしているけれど。 相手の人たちの声が、段々大きくなって。時折、私を忌々しげに見ている。 怖い・・・。 コンラートはそれに気付いて、私が今まで聞いたことのないほどの、怒りのこもった声を発した。 きっと、私を庇ってる。 それが、堪らなかった。 「コンラート・・・」 思わず、私は彼の服の裾を掴んでいた。 泣かない。絶対、泣かない。 ここで泣いたら、コンラートに迷惑が掛かる。 だから、笑おう。 「さっきの街のどこかに、旅館無いかな?私、お城には、入らないでいいから」 「・・・」 「ね?私、疲れちゃった。少し、休ませて欲しいの」 コンラートは、心配そうに私を見下ろして、そしてすぐに私の思いに気付いてしまったのだろう、 他の人たちがいるというのに、私をぎゅっと抱き締めた。 「気を遣わないで。無理をしないで。お願いだから・・・きみは、俺が守るから・・・」 先ほど、ずっと眉間に皺を寄せた男性と、それから少し年配の男性に怒鳴っていたコンラートとは別人みたいだった。 優しい、コンラート。 でも、甘えていられない。 あなたの傍に、いたいから。 だから、あなたに迷惑掛けたくない。 「ううん、本当に。コンラート、その旅館まで連れて行ってくれたら、あなたはここに戻ってくればいいじゃない」 そう私が言って、コンラートが切なそうに首を振ったその瞬間。 少し年配の男性と、同じ輝く金髪の女性が前に進み出た。 本当に・・・美しい以外の表現が出来ないほどの、美人だった。 金色の巻き毛も、同じ色の碧の瞳を覆う睫もとても長くて、唇は花が咲き綻んでいるかのように微笑している。 その目が私を見つめ、そして何かを話しかけてくれるけど・・・ ごめんなさい。全然分からない。 だけど、一言、「コンラート」と言ったのは分かった。 私が反応したのに気付いて、彼女はコンラートを指差し、彼の名前を告げて。 そして、自身の豊満な胸に手を当てて、 「ツェリ」 と言った。私が聞き逃してしまったら、今度はゆっくりと。 「ツェ・リ」 と教えてくれた。 きっと、彼女の名前なのだろう。 私は小さく口でその名を呟き、コンラートを見上げると、彼は嬉しそうに少し目を細めていた。 「ああ、そうだ。彼女の名前。呼んであげて?きっと喜ぶ」 そう言われ、私はにっこりと笑っている女性に頭を下げた。 「ありがとうございます、ええと、ツェリさん・・・」 そう言いかけると、彼女は私の手を取り、私の胸に当てさせた。 ああ、私の名前を聞いているのね。 「私は、といいます。、です」 ゆっくりと言うと、彼女は・・・ツェリさんはそれを繰り返して言ってくれた。 コンラートに今度は二言、三言話しかけていたツェリさんは、ずっと私の手を握っていて・・・ なんだかすごく、暖かかった。 そして、そのまま私を連れて、城に向かってしまった。 「え・・・?コンラート、どうしよう・・・!」 にこにこと笑っているツェリさん。 振り返れば、何かまだ言い合いをしている、コンラートと二人の男性。 コンラートは、私を見る時には絶対にない、強いきつい眼差しでいて・・・ そんな彼の目を見て、私は堪らなく辛かった。 1:his thought 眞魔国に、連れて来てしまった。 に、地球の全てを捨てさせてしまった。 どうしようもない、俺の我儘で・・・だけど、別れる選択肢を選べなかった。 ずっと、と共にいたかった。 二人で、これからの人生を歩みたかった。 眞王陛下は、俺の自分勝手な行動を、許してくださるだろうか。 を、幸せにするから。 この先、泣かせることはしない。そう誓えば・・・いつかは、きっと許して下さるに違いない。 そう思っていた矢先、やはり・・・。 血盟城への街を歩いているとき、はとても目が輝いていた。 日本とは、明らかに異なる町並みが嬉しかったのだろう。 その彼女を見れて、俺も嬉しかった。 だが、は周囲の民間人の視線が気になるようで。 それはそうだろう。 は、『双黒』。 髪も瞳も、真冬の冷え切った、澄み渡った夜空のように深く黒い。 それに、端正な美しい顔立ち。穏やかな微笑。 どれをとっても、美しいとしか表現できない。 だから俺は、彼女が俺のものだと周囲に知らしめるかのように、わざとの身体を抱き、 髪に唇を落としてアピールをしていた。 心無い者が、を傷つけるような事態にならないように。 恥ずかしそうだっただが、しかし、その笑顔も無理をしているのが分かる。 不安だろう。周囲の者の言葉も分からない。 ここにいる者たちの髪の色、肌の色、どれをとってもには、初めてみるものばかりだ。 だから、出来るだけ不安を抱かせないように、俺はさりげなく城への道を急いでいた。 早く、二人きりになりたい。 俺の部屋に戻って、無理矢理眞魔国に連れて来てしまったことを、きちんと謝罪して、そして認めてもらい・・・ 全てを俺の口から、説明したかった。 「、あそこが城だよ」 そう指差した先を見て、は驚いたように目を見開いた。 これから、俺ときみは、あそこで生活をするんだ。 アメリカでの日々よりも、ずっと楽しく、そして充実したものになるように頑張るから。 そう心で誓っていたのに。 城門には、きっと城下町の門番が伝達したのだろう、出迎えがいた。 母、ツェツィーリエ、兄、グウェンダル、それから・・・伯父のシュトッフェル。 母は、俺を見て嬉しそうに笑って抱きつこうとして、に気付いて手を止めた。 ありがたい。今、彼女に余計な心配を掛けたくないから。 母が俺に話し掛けるより早く、シュトッフェルが忌々しげにを見やった。 その目線が、気に食わない。 「コンラート、何だ、その女は」 「・・・失礼な言い方は止めて欲しいですね。俺の大切な人なんです」 控えめに反論すると、グウェンダルは深い溜息を付いて、眉間の皺を更に寄せた。 「人間か?なぜ、双黒などを連れて来た」 「双黒などと、この時期に・・・何を考えている!」 グウェンダルには、きちんとのことを説明しようと思っている。 だが、シュトッフェルには。 このあざとい男には、きっと何を言っても通用しないだろう。 だから、俺は話をする相手を、グウェンダル一人に絞ることに決めた。 「は、地球で・・・日本というところで、俺が惚れた女性なんだ。 彼女は、まだ自分の身に何が起きているのか、完全に理解していない。先に休ませてあげて欲しいんだ」 「ちょっと待て、無理矢理連れて来たのか!犯罪ではないのか?」 そう横から口出すシュトッフェルに、俺は思わず声を荒げてしまった。 「俺は、を愛しているんだ! だから、これからきちんと説明をするし、この世界で彼女の地位も確立していくつもりだ!」 「待て、落ち着け、コンラート・・・」 そうグウェンは言ったけれど。かっとなってしまった俺は、なかなか納まらない。 「双黒なんて、関係ない!俺は、だから・・・彼女だから連れて来たんだ。 もちろん、俺が責任をもって彼女を一生大切にしていく。 あなたにのことに関して、口出しをしてもらいたくないな!」 俺はその瞬間まで、隣にがいることを失念してしまっていた。 不安にさせたくないと思っていた俺が、一番を不安にさせてしまった。 は、俺の服の裾を掴んで、そして見ている方が悲しくなるような、そんな微笑を浮かべていた。 「さっきの街のどこかに、旅館無いかな?私、お城には、入らないでいいから。 ・・・私、疲れちゃった。少し、休ませて欲しいの」 嘘ばっかり、。 ごめん、本当に、ごめん。 気を遣わせてしまった俺を許してくれ・・・。 一番辛いのは、、きみなのに。 俺は堪らなくなってしまって、の小さな身体を抱き締めた。 だた、二人でこうしていたいだけなのに。どうして・・・。 の体温を感じ、少しでもその不安を取り除こうとしていたら、ふと母が前に進み出た。 「あなた、コンラートの名前は言えるのね。少しは話出来るのかしら?」 俺の名前に反応して、が顔を上げた。 俺は、から手を離して少しの間見守ることにした。 母が、俺に目配せをしてくれている。 有り難かった。 「ねえ、彼は、コンラートでしょ?あたくしは、ツェリっていうのよ」 そう言って、自分の胸に手を当てて。 通訳するのは簡単だけど、母はきっとそれを望んでいない。 は理解したようで、小さく母の名を呼んだ。 「まあ、嬉しいわ!じゃあ、今度はあなたのお名前を教えてくださる?」 そう言って、母の手がの白い手を取り、彼女の胸に当てさせた。 は、本当に聡い。さすが、俺の愛するだ。 「私は、といいます」 頭を下げて、俺の母に挨拶を。 この時の感動を、どう表せればいいのだろう。 言葉が詰まって、胸が一杯になってしまった。 母は、微笑を暖かいものに変えて、の手をずっと握ったまま何度も頷いた。 「そう、っていうのね。可愛らしいお名前だわ。あなたにぴったりね。 さあ、、城に入りましょう。あたくしの部屋を案内するわ。 それから、あなたの部屋も用意させなくてはね」 そう言って、の手を取ったまま城に向かっていった。 俺に、そっとウィンクをして。 ありがとう、母上。 俺の大切なものを、守ってくれた。 俺も、戦う。を守るために。 「どういうつもりだ、おい、ツェリ!」 そう怒鳴り散らすシュトッフェルに、俺は冷え切った声を上げた。 甥とも言えぬ目つきで、彼を見やる。 「言葉が過ぎませんか。母は・・・いえ。ツェツィーリエ様は、魔王陛下ですよ」 「ぐっ・・・!」 「陛下がを認めて下さったのなら、何人たりとも文句は言えないはずです。 違いますか、伯父上」 そうわざとらしく言えば、苦虫を潰したような表情をシュトッフェルが浮かべた。 権力にしがみ付く彼には、この方法が一番だったのだろう。 重ねて、母には感謝しなくてはならない。 そして、グウェンには、後で、とただそれだけを伝えた。 彼は鼻で返事したけれど。だが、きっと俺の話を聞いてくれるはず。 突然を連れて来てしまった、眞魔国での始まりは、あまりいいものではなかったけれど。 でも、絶対にを守っていく。 これからも、ずっと。 あの柔らかな、穏やかな笑顔を絶やさせぬように。 きっと、出来るはずだ。 俺は、早くの元へ行き、安心させてあげたくて・・・ そして、改めて、母にを紹介したくて。 不愉快そうな伯父と、相変わらずの表情の兄に軽く頭を下げ、母との後を追った。