Across the space-time; and ...   Chapter 2
            
            
            
            
            
            2:his thought
            
            
            
            
            
            母の部屋に入ると、満面笑顔の母と、そして困った様子のがいた。
            
            
            「母上、済みません、ありがとうございます」
            
            俺は母に頭を下げて、椅子に腰掛けるの隣に立った。
            
            は俺を見上げ、ほっとしたように表情を和らげた。
            
            抱き締めたい。
            
            そんな感情が湧き上がってくるけれど、それを抑えて、俺の手が彼女の長い黒髪を撫でた。
            
            後ろで一つに縛っていたはずなのに、解かれていて緩やかなウェーブが背中まで届いている。
            艶やかな、手に心地いい黒髪。
            
            「コンラート、この方、色々話しかけてくれるけど、私さっぱり言葉が分からないの」
            
            は困ったように黒瞳を揺らしている。
            
            ああ、眞魔国に連れて来ると、もっと早くに覚悟を決めていたなら。
            
            ロドリゲスに頼んで、あのNASA御用達の語学学習機で、眞魔国語をに教えてあげられたのに。
            
            俺はすっかりと後悔をしてしまったが、それをに悟られないように笑みを浮かべた。
            これ以上、を不安にさせたくなかった。
            
            「俺が、教えていくから安心して。きみなら、きっとすぐに覚えるよ。
            、彼女はフォンシュピッツヴェーグ卿ツェツィーリエ。ツェリは、愛称だ」
            
            「フォン・・・?」
            
            聞きなれない名前の羅列に、は首を傾げている。
            
            「フォンシュピッツ・・・ああ、まあそれは後でゆっくりと。彼女は、俺の母なんだよ」
            
            「・・・っ!?」
            
            が声にならない驚きの悲鳴を上げて、そして慌てて立ち上がった。
            
            俺との間で交わされているのは、日本語だから、母には通じていないが。
            だけど、自分のことを紹介されているのは分かるのだろう、穏やかな笑みを浮かべたままだった。
            
            は母に向かって、深々と頭を下げた。
            
            「ご、ご挨拶が遅れて申し訳ありません!!あの、私、コンラートさんと・・・ええと・・・」
            
            はそこまで言って、そして再び困惑の目線を俺に投げかけた。
            
            俺はの気持ちが、とても嬉しくて・・・頬が緩みっぱなしだ。
            
            「あの、コンラート・・・どうしよう、通訳してくれる?」
            
            「ああ、もちろん。俺とが付き合っていることを、ちゃんと伝えるから。待ってて」
            
            俺は微笑んで俺たちを見上げている母に、改めて向き直った。
            すると、母の方から細い手をに伸ばし、そして彼女の頬を撫でた。
            
            驚いているの髪を指先に取った母は、嬉しそうに俺を見上げた。
            
            「コンラート、はあなたの大切な人なのね」
            
            「ええ、そうです。心から愛している女性です」
            
            俺の言葉に、母は頷いて、そして立ち上がり、ぎゅっとを抱き締めた。
            は硬直してしまい、俺に目線で助けを求めてくるけれど。
            
            でも、これが母の愛情表現だから、受け止めてほしい。
            
            「、コンラートと仲良くね。あたくしは、これからあなたを娘だと思っていくわ」
            
            ありがとう、母上。
            
            地球から突然連れて来てしまった、双黒の女性を何も聞かずに受け入れてくれた。
            
            嬉しかった。
            
            俺はに母の言葉を伝えると、はほっとしたように、そしておずおずと手を母の腰の辺りに廻した。
            
            「あの・・・ありがとうございますって、そう伝えて?」
            
            でも、それは通訳の必要はないようだった。
            
            母には、の気持ちがちゃんと伝わったようで、手を離した母は、にっこりとの髪をもう一度撫で、
            俺に向き直った。
            
            「これから大変でしょうけれど、しっかりとを守っていくのよ。あたくしも、出来る限り協力するわ」
            
            「ありがとうございます、母上。ああ、それからは俺と同じ部屋で構いません。離れたくないので」
            
            「まあ・・・情熱的だこと」
            
            母はくすりと笑って、だが小さく首を傾げた。
            
            「あなたがよくても、はどうかしら?一緒にいたくない時もあるんじゃなくて?」
            
            まさか。が俺と離れたい瞬間?
            
            あるわけがない。
            
            そうは思ったが、一応母の言葉として、に伝えると。
            
            彼女は少し眉を寄せて考えて・・・そして小さく頷いた。
            
            「コンラート、あのね。やっぱり私、さっきの街で生活するわ。時々、あなたが会いに来てくれれば、それでいいの」
            
            ・・・何て言った?
            
            俺は殴られたような衝撃を受けてしまった。
            
            どうして・・・
            
            
            俺の表情を見て、は慌てて首を振った。
            
            何だか泣き出しそうな顔をしている・・・。
            
            
            「違うの、勘違いしないで?えっと、その・・・」
            
            一生懸命言い訳を考えている。
            
            俺は小さく溜息をついて、気持ちを落ち着かせた。
            
            
            そうだよな、。きみは、気を遣っているんだ。
            
            俺の傍にいたら、俺に迷惑が掛かると思い込んでいる。
            
            
            「違うんだ、。俺が、きみと離れたくないんだ。どうしても、嫌?」
            
            俺は母の前だというのに、の身体を両手で包み込んだ。
            
            一瞬、震えた身体。
            
            怖いよな、知らないところで。言葉も通じない。
            
            それなのに、城下町で・・・俺から離れて生活をしようなんて。
            
            そこまで気を遣わせている、俺自身が許せなかった。
            
            
            「お願いだから、俺と一緒にいて。きみを、傍で守りたいんだ。お願いだから・・・」
            
            髪に顔を埋めて、腕に力を僅かに込めて。
            
            俺はに囁き続けた。
            
            「愛してる。きみを・・・、愛してるんだ」
            
            ごめん、こんなことしか言えない俺を許してくれ。
            
            だけど・・・本心。心からの、俺の言葉なんだ。
            
            だから、傍にいてほしい。
            
            は顔を上げ、そして深い色合いの黒瞳を潤ませて俺をじっと見つめた。
            
            「ありがとう・・・コンラート・・・」
            
            顔を下ろして、の可愛らしい唇を塞ぎたかったけれど、それは部屋に帰るまでの我慢。
            
            どうにか俺の気持ちがに伝わったようなので、俺は母に、
            
            「やっぱり、俺とは同室で結構です」
            
            そう頭を下げた。
            
            母は可笑しそうに笑って、頷いた。
            
            「そう。強引に説得したようにも見えたけれど。ふふ、女性として生活するのに、必要なものを後で運ばせるわ。
            足りないものがあったら、遠慮なく言うように、にちゃんと伝えてね」
            
            「ありがとうございます。本当に・・・感謝します」
            
            俺は今ほど、恋愛に寛大な母を有り難いと思ったことはなかった。
            
            
            これから、と俺には色々な障害が出てくるだろう。
            
            だけど、その全てから、を守っていきたい。
            撥ね付けるのではなくて・・・を受け入れて貰えるように、努力していこう。
            
            が、幸せにこの眞魔国で生きていけるように。
            
            
            俺は早くと二人きりになりたくて、母に挨拶をして部屋を出た。
            
            
            
            
            2:her thought
            
            
            
            目の前の、輝く金髪の美しい女性が、コンラートのお母様だと聞いて・・・。
            
            正直、驚いた。
            
            こんなに若くて、美しくて・・・コンラートと、あまり似ていないといったら、怒られるだろうか。
            
            それに、前に聞いたことがある。
            
            コンラートのお母様は、今の王様だって言ってた。
            
            この方が・・・魔王様・・・。
            
            ツェリさんて言ったら失礼になるだろう。何てお呼びしたらいいのかな。
            お母様は可笑しいだろうし。
            
            やっぱりツェリ様というのが一番いいだろうか。
            
            頭の片隅でそんなことを考えながらも、私はかなり混乱している。
            
            コンラートが通訳してくれているけれど、私は笑顔を浮かべられなかった。
            どうしよう、コンラート、私・・・やっぱりここにいられない。
            
            あなたの傍にいたいけど。
            
            でも、きっと迷惑がかかる。
            
            今だって、お母様に私のことを説明してくれているようだけど、私は不安でいっぱいだった。
            
            コンラートは、魔王様の息子なんだから、王子様になるのだろう。
            
            そんな人に、私はふさわしくない。
            
            他の人に、私を認めてもらおうと、きっとコンラートは動いてしまうだろう。
            そんな迷惑を掛けたくない。
            
            私はただ、時々あなたと会えれば・・・それでいい。
            
            だから、私は彼と同室でいいか聞かれて、答えた。
            
            「コンラート、あのね。やっぱり私、さっきの街で生活するわ。時々、あなたが会いに来てくれれば、それでいいの」
            
            
            
            その時の、コンラートの表情を、どう説明すればいいだろう。
            
            衝撃を受けた・・・?ううん、違う。
            
            傷ついた、顔をしていた。
            
            そんな顔をさせてしまった。
            
            私は慌てて言い訳を考えた。でも、頭がさらに混乱してしまって・・・
            
            すると、コンラートは私を強く抱き締めた。
            
            高鳴る心臓の音が聞こえる。何だか、安心してしまって・・・泣きそうになってしまった。
            
            「愛してる」
            
            そう、何度も私に囁いてくれた、コンラート。
            
            
            私もよ、私も愛してる。
            
            だから、あなたに迷惑掛けたくないと思ったのに。
            
            
            私はただ、あなたにお礼しか言えなかった。
            
            それ以上言葉を紡いだら、不安な気持ちを表に出してしまいそうだったから。
            大声で、泣いてしまいそうだったから。
            
            
            コンラートは、私の肩を抱いたまま、ツェリ様の部屋を出た。
            
            そして広いお城の中を歩いて、時折すれ違う男の人や、女の人に一言二言、声を掛けている。
            
            彼らはその後私を見て、驚いたような表情で頭を下げてくれるから、きっと私を紹介してくれているんだろう。
            
            私もその度に、頭を下げた。
            
            本当は、ちゃんと挨拶したいけど。
            
            でも、言葉が分からないから、今は仕方がない。
            
            早く、言葉を覚えよう。それから、働かせてもらおう。
            
            どんな仕事でもいい。コンラートの役に立つように、頑張ろう。
            
            そう思ったら、何だか気持ちが落ち着いてきた。
            
            「、着いたよ。ここが、俺たちの部屋」
            
            そう言って開けてくれた扉の向こうは、とても広い空間があった。
            
            ベッドと小さな箪笥と。それから靴と。
            
            「・・・あまり物がないのね」
            
            最初の感想としては、失礼だったかしら。
            
            コンラートは私の背を押して、そしてくすくすと笑った。
            
            「そうだね、でもこれから、きっときみの物が増えていくだろう。さっきも母が、色々寄越すと言っていたから」
            
            「でも・・・」
            
            私の物を、ここで増やしてもいいのかな・・・。
            
            そう思った私が言いかけると、コンラートは扉を閉め、そして私を振り向かせた。
            
            肩を抱き寄せられたと思ったら、唇が塞がれた。
            
            力強く、・・・あまり今までないほど、私を求めてくる、コンラートの舌。
            
            「は・・・ぁ・・・ん・・・・」
            
            時折呼吸のためだけに、少し唇を離しては、また塞がれて。
            
            どれくらい、私達は唇を重ねあっただろう。
            
            やがて、コンラートはそっと私を離すと、こつんと私の額に額を当てた。
            
            目の前に散らばる、銀の煌き。
            
            「・・・俺の傍に、ずっといて・・・?」
            
            「コンラート・・・」
            
            「遠慮しないで。俺に、気持ちを隠さないで」
            
            ああ・・・この人には、全て伝わっていた。
            
            私の揺れる気持ち、全て。
            
            
            泣かないと決めていたのに。
            
            一粒涙が零れると、とめどなく、次から次へと涙が止まらなくなる。
            
            コンラートはしゃくりあげる私を優しく抱き締めて、そしてベッドへ向かった。
            
            そこへ私を座らせて、ずっと肩を抱いてくれる。
            
            止まらない。
            
            どうして泣いているのか、もう分からない。
            
            コンラートは黙って、私の肩を抱き寄せ、そして髪を撫でてくれた。
            
            その大きな手が、あったかい。
            
            彼の、私に向けてくれる愛情が、流れてくる。
            
            とても深くて、暖かくて。
            
            この人の傍でなら、きっと頑張っていける。
            
            
            少しずつ、私が思っていることを伝えていこう。
            
            だけど、今日は・・・今は、ただ黙って私を抱いてくれるコンラートの優しさが、嬉しかった。