Flare up!           2





              しばらく見合いという仮初の名の、食事会が続けられている。


              だがそこでの話題は、エロ本談義だというのだから、コンラートもグウェンダルも食事が喉を通らない。


              「リアリティを求めたいのなら、風俗に行けばいいのよ!行けないヘタレが気軽に、でもその気になれるような話を書きたいのよね」


              そう先割れスプーンを翳して力説するのは、本日の主役。


              コンラートのお相手のレナである。


              その隣で、青い瞳を細めてクックッ、と悪者のように笑い、デンシャムが首を振った。


              「バカだなあ、レナ。時代の流れをみてごらん・・・・・・グウェエーーーー!?」


              言い切らないうちに、勝ち誇った声が悲鳴になる。


              テーブルに片足をついたレナが、デンシャムの首を両手で力強く締め上げていた。


              「バカ?バカっていった?作家に向かってバカとは!馬鹿ならまだしも!!」


              「おやめなさい、全く本当に力だけは無駄にあるのですから。困ったものです。ねえ、ウェラー卿」


              アニシナが従姉妹の手を解きながら、コンラートに目線を向けている。


              何か言えと、そう脅している。


              コンラートは困っていたが、隣でツェリが突いてくるものだから、肩を竦めて言ってみた。


              「時代の流れって、何のことだい、デンシャム?」


              「よ、よくぞ聞いてくれたウェラー卿!いいかい、レナ。時代はBLに流れが来ているんだ!

              だから男女の猥褻話だけでは、この先生きてはいけないよ、従兄妹よ!」


              「び・・・・・・」


              「びーえる?」


              その場にいた全てのものが、首を傾げる。


              それに気分を良くしたのか、デンシャムは得意気に立ち上がり、説明を始めた。


              「良く聞きたまえ。世の中の女性が今まさに求めているのは、そう、BL。びーえるではない。

              ぼーいすらぶだ!」


              「はぁ?」


              アメリカ帰りのコンラートは、その言葉にぴんと来たが、他の者はまだ理解していない様子。

              レナも、小首を傾げて、口をぽかんと開けている。


              その姿を見て、コンラートは思った。


              無防備な今の姿は、賞賛に値するほど可愛らしい。

              だけど・・・・・・騙されるな、落ち着け、コンラート。


              彼女は、俺を何度も天国へと導いてくれた、聖書の著者なのだから。


              デンシャムの高説はまだまだ続く。


              「うぉっほん。いいかね、きみ達。BLとはだね、妄想に妄想を重ね、女性達が辿り着いた究極の恋愛だ」


              「・・・・・で、どういうもののことを言うんだ」


              眉を寄せたまま、グウェンダルが問うと、デンシャムは重々しく告げた。


              「男同士の耽美恋愛話だよ」


              ここで、驚きの声が上がる。


              そう確信したデンシャムだが、周囲の反応は冷淡だった。


              「何を言うかと思えば」


              「そんなこと、別に?」


              「ていうか、眞魔国では別に不思議はないじゃないですか、この愚か者」


              そう。


              眞魔国は、同性間の婚姻も恋愛も当然のように成り立つため、別になんら不思議はない。


              「え?そういう反応なの?」


              「そういう反応でしょう。考えてもご覧なさい。我らが魔王も、男と婚約しているではありませんか」


              冷たい目線で妹に言われ、デンシャムはショボくれてしまったが。


              「ちょっと待ったー!!」


              可愛らしい声が高鳴り、ダンッ!とテーブルに再び足が載った。


              片足を床に付けたまま、テーブルに足を乗っけているものだから、危険地帯が丸見えだ。


              「あ、あの、レナさん・・・・・・?素敵な光景なんですけど」


              恐る恐るコンラートが言うと、レナは再び片手でデンシャムの首を絞めたまま、目を眇めた。


              「ああ?」


              「い、いや・・・・・・」


              「聞けぇ!あ、ツェリ様、ここからは耳を塞いでいてください」


              「いやーん、聞きたいわあ?わたくしのことは忘れて?」


              「では、お言葉に甘えて。聞け、青少年達よ!世の中、どうして棒と穴があるか分かっているかー!!」




              「ぼ・・・・・・棒・・・」


              思わず目線を下ろすグウェンダル。



              「穴、ですか」


              同じく目線を下げるアニシナ。



              「そう!!世の中には、棒と穴があってこそ成り立つ!同性で恋愛?それもまたよし。否定はしないとも!!

              だけど、棒は穴のためにあり、それでこそ生産性が成り立つとは思わないか!!」


              棒だ穴だ、顔色変えずに叫ぶレナに、一同は静まり返ってしまった。


              コンラートですら、ぽかんと口を半開きにしてしまっていた。

              レナは、勢いに乗り、腕の力を込めた。

              そのたびに、デンシャムの顔色の青さが増し、いまや土気色になっている。


              「いかに棒を効率よく使い、穴のために全てを捧げて力を貢ぐか!あたしはそれを研究し、世の中の女性を幸せに導きたいのよー!」


              つまりは、レナもアニシナも同類。



              究極の女尊男卑。



              「棒は穴のために存在するー!」


              高らかに宣言したレナに、アニシナは感極まったように拍手を送った。


              「素晴らしいことを言いました、レナ!あなたのエロ小説が、そのように高尚な目的のためだったとは。

              わたくしはあなたを軽んじていたようです」


              「そうねぇー。あたくしも棒は穴のためにあると思っていてよ?穴が棒のためにあるのではなくてね」


              どんな会話だ!!


              「コンラート、帰ってもいいだろうか・・・・・・」


              グウェンダルは、眉間の皺がこれ以上寄りきらないほど寄らせ、ふらふらと立ち上がった。


              その襟首をがしっと掴んだのは、彼の天敵の赤い悪魔。


              「お待ちなさい、棒・・・・・・じゃなく、グウェンダル。もう少ししたら、解散になるのですから」


              「まだ茶番に付き合わせるつもりか」


              「茶番ー!?ふざけんな、そんなことを言ってると、ギュンター×グウェンとかいって、受けになるんだからねっ!!」


              受けって。×って。

              BLを知ってるんじゃん。


              そんな突っ込みを心でしつつ、コンラートは苦笑を浮かべて立ち上がった。


              そろそろ、いいかな?


              「レナ、少し外を散歩しないか」


              レナはぴくりと眉を動かし、そこでやっと瀕死の従兄妹に気付き。

              舌打ちをして手を離した。


              「失礼しました。少しばかり、興奮してしまいました。まさかこの鳥オタクが、BLなどと口にするとは思わず」


              「はは、レナの話を聞くには、夜じゃないほうがいいな」


              コンラートはきょとんとしたレナの手を取り、にっこりと笑った。


              「どうして?」


              きょとんとしたレナに、コンラートは渾身の微笑を浮かべた。

              これで落ちなかった女はいない、という笑み。


              魔王ユーリには、胡散臭いといわれたが。


              「レナの言葉は、刺激的過ぎるから」


              どきゅーん!!と来るはず。


              来るはず・・・・・・なのに。



              レナはキラキラとした眼差しでコンラートを見上げ、そして繋がれた手を握り返した。


              小さな手が、剣に慣れた大きな手を、まるで包み込むように。



              「本当に!?じゃあ夜!夜話そう!!刺激を受けた瞬間、男はどう反応し、どう対応していくのか・・・・・・

              ううう、研究してみたーい!!その話、煮詰めよう!?ね、ウェラー卿!」





              レナは、アニシナの血族。



              似た者親族と、幼い頃から言われてきた。



              方や、発明に。


              方や、文学(ちょっとアブナイ方向の)に。



              それぞれ道は違えど、抱く探究心は同じ。




              コンラートは庭へと引っ張られながら、初めて出逢った未知の生物を、どうやって攻略していくか思案をめぐらせた。


              だが・・・・・・・




              最後に落ちるのは、俺かも。




              何となく、不吉な予感がしていた。




              「ウェラー卿、早く!」


              そう笑う、レナの笑顔を見てしまったから。


              「はいはい」



              苦笑しながら引っ張られる息子の姿を見て、ツェリは微笑を浮かべた。


              「あの子は、あれくらい強引な子の方が合っていると、前から思っていたのよね」


              「・・・・・・母上、確信犯ですか?」


              「そうよ?レナはアニシナの従姉妹ですもの。血縁に問題はないし、何よりあたくしが、レナのファンなのよ」


              そうくすくすと笑うツェリを見下ろし、グウェンダルは深い溜息をついた。



              レナとコンラートがどうなっても構わない。


              だが、実験台にされる確率が増えるような気がして、溜息の後には、何だか背筋が凍る思いがしたのだった。