しばらく見合いという仮初の名の、食事会が続けられている。
だがそこでの話題は、エロ本談義だというのだから、コンラートもグウェンダルも食事が喉を通らない。
「リアリティを求めたいのなら、風俗に行けばいいのよ!行けないヘタレが気軽に、でもその気になれるような話を書きたいのよね」
そう先割れスプーンを翳して力説するのは、本日の主役。
その隣で、青い瞳を細めてクックッ、と悪者のように笑い、デンシャムが首を振った。
「バカだなあ、レナ。時代の流れをみてごらん・・・・・・グウェエーーーー!?」
テーブルに片足をついたレナが、デンシャムの首を両手で力強く締め上げていた。
「バカ?バカっていった?作家に向かってバカとは!馬鹿ならまだしも!!」
「おやめなさい、全く本当に力だけは無駄にあるのですから。困ったものです。ねえ、ウェラー卿」
アニシナが従姉妹の手を解きながら、コンラートに目線を向けている。
コンラートは困っていたが、隣でツェリが突いてくるものだから、肩を竦めて言ってみた。
「よ、よくぞ聞いてくれたウェラー卿!いいかい、レナ。時代はBLに流れが来ているんだ!
だから男女の猥褻話だけでは、この先生きてはいけないよ、従兄妹よ!」
それに気分を良くしたのか、デンシャムは得意気に立ち上がり、説明を始めた。
「良く聞きたまえ。世の中の女性が今まさに求めているのは、そう、BL。びーえるではない。
アメリカ帰りのコンラートは、その言葉にぴんと来たが、他の者はまだ理解していない様子。
だけど・・・・・・騙されるな、落ち着け、コンラート。
彼女は、俺を何度も天国へと導いてくれた、聖書の著者なのだから。
「うぉっほん。いいかね、きみ達。BLとはだね、妄想に妄想を重ね、女性達が辿り着いた究極の恋愛だ」
眉を寄せたまま、グウェンダルが問うと、デンシャムは重々しく告げた。
そう確信したデンシャムだが、周囲の反応は冷淡だった。
「ていうか、眞魔国では別に不思議はないじゃないですか、この愚か者」
眞魔国は、同性間の婚姻も恋愛も当然のように成り立つため、別になんら不思議はない。
「そういう反応でしょう。考えてもご覧なさい。我らが魔王も、男と婚約しているではありませんか」
冷たい目線で妹に言われ、デンシャムはショボくれてしまったが。
可愛らしい声が高鳴り、ダンッ!とテーブルに再び足が載った。
片足を床に付けたまま、テーブルに足を乗っけているものだから、危険地帯が丸見えだ。
「あ、あの、レナさん・・・・・・?素敵な光景なんですけど」
恐る恐るコンラートが言うと、レナは再び片手でデンシャムの首を絞めたまま、目を眇めた。
「聞けぇ!あ、ツェリ様、ここからは耳を塞いでいてください」
「いやーん、聞きたいわあ?わたくしのことは忘れて?」
「では、お言葉に甘えて。聞け、青少年達よ!世の中、どうして棒と穴があるか分かっているかー!!」
「そう!!世の中には、棒と穴があってこそ成り立つ!同性で恋愛?それもまたよし。否定はしないとも!!
だけど、棒は穴のためにあり、それでこそ生産性が成り立つとは思わないか!!」
棒だ穴だ、顔色変えずに叫ぶレナに、一同は静まり返ってしまった。
コンラートですら、ぽかんと口を半開きにしてしまっていた。
そのたびに、デンシャムの顔色の青さが増し、いまや土気色になっている。
「いかに棒を効率よく使い、穴のために全てを捧げて力を貢ぐか!あたしはそれを研究し、世の中の女性を幸せに導きたいのよー!」
高らかに宣言したレナに、アニシナは感極まったように拍手を送った。
「素晴らしいことを言いました、レナ!あなたのエロ小説が、そのように高尚な目的のためだったとは。
「そうねぇー。あたくしも棒は穴のためにあると思っていてよ?穴が棒のためにあるのではなくてね」
グウェンダルは、眉間の皺がこれ以上寄りきらないほど寄らせ、ふらふらと立ち上がった。
その襟首をがしっと掴んだのは、彼の天敵の赤い悪魔。
「お待ちなさい、棒・・・・・・じゃなく、グウェンダル。もう少ししたら、解散になるのですから」
「茶番ー!?ふざけんな、そんなことを言ってると、ギュンター×グウェンとかいって、受けになるんだからねっ!!」
そんな突っ込みを心でしつつ、コンラートは苦笑を浮かべて立ち上がった。
レナはぴくりと眉を動かし、そこでやっと瀕死の従兄妹に気付き。
「失礼しました。少しばかり、興奮してしまいました。まさかこの鳥オタクが、BLなどと口にするとは思わず」
「はは、レナの話を聞くには、夜じゃないほうがいいな」
コンラートはきょとんとしたレナの手を取り、にっこりと笑った。
きょとんとしたレナに、コンラートは渾身の微笑を浮かべた。
レナはキラキラとした眼差しでコンラートを見上げ、そして繋がれた手を握り返した。
小さな手が、剣に慣れた大きな手を、まるで包み込むように。
「本当に!?じゃあ夜!夜話そう!!刺激を受けた瞬間、男はどう反応し、どう対応していくのか・・・・・・
ううう、研究してみたーい!!その話、煮詰めよう!?ね、ウェラー卿!」
コンラートは庭へと引っ張られながら、初めて出逢った未知の生物を、どうやって攻略していくか思案をめぐらせた。
苦笑しながら引っ張られる息子の姿を見て、ツェリは微笑を浮かべた。
「あの子は、あれくらい強引な子の方が合っていると、前から思っていたのよね」
「そうよ?レナはアニシナの従姉妹ですもの。血縁に問題はないし、何よりあたくしが、レナのファンなのよ」
そうくすくすと笑うツェリを見下ろし、グウェンダルは深い溜息をついた。
だが、実験台にされる確率が増えるような気がして、溜息の後には、何だか背筋が凍る思いがしたのだった。