Across the space-time; and ...   Chapter 2
            
            
            
            
            
            
            
            5:his thought
            
            
            
            
            
            俺の目指す未来と、きみが望む未来。
            
            
            同じだと信じていた。
            
            なのに、歯車が狂っていく。
            
            
            どこかで、少しでもいい。
            
            
            
            俺との想いが、交わっていると、いいな・・・。
            
            
            
            
            
            は俺の腕の中で、微笑んでいた。
            
            さっき、俺を拒んだことなど、忘れたかのように。
            
            拒んだ・・・つもりなど、ないのかもしれない。
            
            だけど、一緒に眞魔国の各領地を廻ろう。
            
            そう言った俺に、、きみは一緒に行かない。そう言った。
            
            
            俺は拒まれた。そう感じたんだ。
            
            だから・・・辛くて、切なくて。
            
            俺の想いが届いていないと、そう想ってしまい、きみを抱いてしまった。
            俺の感情の赴くままに。
            
            
            「ごめんな・・・・・・」
            
            艶やかな黒髪を撫でて、の耳元に囁いた。
            
            は、困ったように微笑んだ。
            
            「また、謝ってる。ずっと、謝ってばかりよ、コンラート」
            
            そうだったかな・・・そうかもしれない。
            
            グウェンにつまらない嫉妬をして、に眞魔国語の通訳も満足にしてあげなくて、
            そして更に、の意思を確認もしないで、勝手にを連れて廻ると宣言してしまった。
            
            
            何て自分勝手なんだろうな、俺は。
            
            だけど。
            
            
            「やっぱり、一緒に来てもらいたい。この城に、一人きみを残すのは不安だ」
            
            そう伝えたら、は今度は可笑しそうに笑う。
            その笑顔は、柔らかくて、俺は・・・泣きそうになってしまった。
            
            「一人じゃないわ。あなたの家族がいるじゃない?ギュンターさんも、私に言葉を教えてくれるわ」
            
            「でも、俺がきみを置いて行きたくないんだ」
            
            俺は今、どんな表情を浮かべているんだろう。
            
            は俺の頬を両手で包み、そして目を細めた。
            
            晴れ渡った夜空のような、深い色合いの黒瞳を。
            
            「コンラート、私、ちゃんと待ってる。あなたが帰ってくるのを、待ってるわ」
            
            「どうして・・・?」
            
            「私は、一人で頑張ってみたいの。いつも、そうしてきたわ。これからも、そうでありたいの。
            あなたに今、頼りきっていたら・・・この国は、いつまでも私にとって異世界でしかない、そう思うの」
            
            「・・・」
            
            「地球で、あなたは私を前に進ませてくれた。だから、これからも。
            私は、私とあなたのために、自分で道を切り拓いていきたい」
            
            は、以前の恋人を亡くしたと言っていた。
            
            そしてそれから、俺と出逢っても心を開いてくれなかった。
            
            俺を失うのが、怖いといって。
            
            だけど、俺を受け入れてくれた。
            
            この世界に連れてきてしまった俺を、罵倒すらせず。
            
            そして、頑張ってくれる・・・そう言うの気持ちを、俺は踏みにじることは出来なかった。
            
            「、・・・」
            
            俺は小さくて柔らかいの身体を抱き締めて、目を閉じた。
            
            この感触を、ずっと覚えておきたい。
            
            「一年。それ以上は、待てない」
            
            「え・・・?」
            
            驚くの唇に、そっと触れた。
            
            ただ触れるだけの、口付け。
            
            でも、ずっと触れていたかった。
            
            惜しむように唇を離し、そして間近での瞳を見つめた。
            
            美しい、輝く黒瞳。
            
            俺を、映してる。それだけでも、満足しなくちゃいけないことを忘れていた。
            
            「一年間、頑張って、。きみなら、きっと・・・一年でこの国の言葉を覚えられるよ」
            
            「そんな・・・期限決められたら、自信ないわ」
            
            困ったように首を傾げるに、俺はくすりと笑ってその頬に唇を落とした。
            
            「大丈夫。それにね、一年経って、俺が帰ってきて、まだが言葉を覚えていなくても。
            きみを連れて行ってしまうからね。これだけは、覚悟しておいて」
            
            最大限の譲歩。
            
            きみに、時間をあげる。
            
            俺はその一年で、俺が出来る限りのことをして廻るよ。
            
            難関だと思われる場所を重点的に廻ってくる。
            
            「だから、きみと一緒にその後廻るときには、本当にきみに眞魔国の各地を見せてあげるためだけ・・・。
            その心積もりで・・・俺も仕事をしてくる」
            
            「コンラート・・・」
            
            「、浮気しないで。約束だよ」
            
            そう言った俺は、心からそう思っていたのに。
            
            は噴出して、そして俺に抱きついた。
            
            「しないわ。コンラートは・・・浮気、してもいい」
            
            「え・・・?」
            
            「でも、本気は嫌・・・」
            
            何て可愛らしいんだろう、。
            
            当たり前だ。
            
            きみ以外に、気持ちを動かされるはずなどないのに。
            
            それにね、。きみは、知らない。
            
            俺はもう、きみ以外は一生、この手に抱かないと誓ったんだよ。
            
            は俺の胸に顔を埋めて、そして小さく呟いた。
            
            「絶対、覚えるわ。うん、覚悟決めた。一年で、覚えるから」
            
            そう力強く言ったが意外で。
            
            俺は思わずを覗き込んでしまった。
            
            「は、気が強いんだな。知らなかったよ」
            
            そう言ったら、はくすりと笑った。
            
            その笑顔を、俺は密かに心に刻み込んだ。
            
            「そうよ。だって、雇われでも店長だったんだもの。気が強くないと、主にはなれないわ」
            
            「そうか・・・そうだね」
            
            そう俺は言ったけれど。
            
            でも、きみと付き合い始めてから数ヶ月。
            
            きみは俺に、最大限気を遣ってくれて・・・俺はきみの本質を見抜けなかったのかもしれない。
            
            それが悔しいな。
            
            だから。
            
            「。一年経ったら・・・」
            
            の首筋に唇を這わせて、俺は自分でもまだ覚悟をしていなかったのに。
            
            に囁いた。
            
            
            
            
            
            5:her thought
            
            
            
            
            
            コンラートの唇が、私の首筋を伝う。
            
            そして、囁いた。
            
            
            「。一年経ったら・・・必ずきみを迎えに戻るから。
            その時には、俺を受け入れて」
            
            何を言っているの?もう、受け入れてるわ。
            
            私には、あなたをいつまでも待つ覚悟も出来ている。
            
            そう思った私の気持ちに気付いたのか、コンラートは半身を上げて、両手を横たわる私の顔の左右に置いて。
            正面から、私を見る形になった。
            
            「俺と眞魔国を廻るときには、俺の妻として、俺の傍にいて欲しいんだ」
            
            きっと私は目と口を呆然と開けてしまっていただろう。
            後から思い出して、顔から火が出るほど、恥ずかしい反応をしてしまった。
            
            だけど、信じられなくて。
            
            さっきまで、あんなにグウェンダルさんに怒っていたコンラートが、今は・・・
            
            見たこともないくらい、優しくて、穏やかで。暖かい笑顔を浮かべてる。
            
            瞳に輝く、銀色の不思議な色合いは煌いて・・・私を映してる。
            
            「、一年待つから。だから・・・返事は、今欲しい」
            
            性急ね、コンラート。
            
            でもね。
            
            
            嬉しくて。
            
            
            瞬きをしたら、涙が零れてしまった。
            
            
            私、意外に気が強いはずなのに。
            いつの間に、こんなに泣き虫になっちゃったんだろう。
            
            あなたといると、泣いてばかりね。
            
            だから、一人で強くなろうとしたのに。
            
            コンラートは、私の頬に零れた涙を指で掬い取り、そして瞼にキスをしてくれた。
            
            「、俺と結婚して?」
            
            「・・・はい・・・・・・」
            
            私は小さく頷いた。
            
            返事は、これで合ってるのかしら。
            
            そう心配した私を、コンラートの腕がぎゅっと包み込んで。
            
            そして、何度も何度も私にキスをしてくれた。
            
            この一つ一つのあなたのぬくもりを、忘れないようにしよう。
            
            でも、きっとすぐに一年なんて経ってしまうわ。
            
            その時には、私はこの世界の住人になっているから。頑張るから。
            
            だから、私を応援していて、コンラート。
            
            私も、あなたの無事を祈り続けるから。
            
            「浮気、してもいいから・・・死なないでね・・・」
            
            そう囁いた私に、コンラートはくすりと笑って、頷いてくれた。
            
            浮気なんか、しないよと。そう言いながら。
            
            
            
            
            
            3日後、コンラートは早くも旅立っていってしまった。
            
            きっと、すぐにでも出立したかっただろうけれど、私のために色々なところに手配してくれて。
            そのために、3日使ってくれた。
            
            
            そのうちの一日、コンラートは、グウェンダルさんと二人で夜出掛けていった。
            帰ってきた時、珍しく酔っていて、上機嫌だった。
            
            仲直りしたのだろうか。よかった。
            
            
            
            その日から、私はギュンターさんの下で、眞魔国語と、眞魔国の常識を習う毎日。
            
            本当に、地球と全然違う。
            
            猫の鳴き声からして違うなんて。驚きの連続で。
            
            でも、ギュンターさんはとっても教え方が上手で、すぐにヒヤリングはマスターした。
            
            その頃には、私はツェリ様の傍で働かせてもらうことになっていた。
            
            お優しいツェリ様は、私の淹れた紅茶をすごく喜んでくれて。
            仕事といっても、紅茶を淹れて、ツェリ様のおしゃべりにお付き合いして。
            
            それでも、お給料を頂けて、有り難かった。
            
            私に直接攻撃してくる魔族の人もいない・・・これは、コンラートのご家族が、
            牽制してくれているようだった。
            
            暖かい、血盟城の人たちのお陰で、私は毎日充実していた。
            
            色々な人と知り合って、言葉も段々覚えて。
            
            難しい言い回し以外だったら、何となく話も出来るようになってきた。
            
            
            「おはようございます、グウェンダルさん」
            
            その日の朝、私はギュンターさんに頼まれて、一冊の本をグウェンダルさんの執務室に持っていった。
            
            大きな机の向こうに、いつものように眉をぎゅっと寄せて仕事をしている彼は、
            私を見て、少しだけ口元に笑みらしきものを浮かべてくれた。
            
            「ああ、おはよう、」
            
            そう挨拶してくれたり、口元に浮かべた笑み未満なものも奇跡なのだと、
            グウェンダルさんの秘書、アンブリンさんは言うけれど。
            
            でも、きっとそれは、私がコンラートの恋人だから。
            
            だから、大事にしてくれているんだって分かる。
            
            だってね、あの夜。
            
            コンラートがグウェンダルさんと二人で飲みに行った、あの夜。
            
            コンラートが嬉しそうだったから。
            
            嫉妬をした、と言っていたのはきっと、グウェンダルさんにだったのだろうと、
            随分後になって気付いた。
            
            でも、和解して旅立って行ったことに、私は心底安堵した。
            
            「ギュンターさんから預かってきました。どうぞ」
            
            「ありがとう。私からも、お前に渡すものがある」
            
            そう言って、グウェンダルさんは私に封書を渡した。
            
            私に手紙・・・?
            
            私は首を傾げ、その封書を受け取った。
            
            表書きには、眞魔国語で、
            
            『親愛なるへ』
            
            と書いてある。
            
            そして裏を見ると・・・
            
            
            私は不躾ながら、グウェンダルさんにも、アンブリンさんにも挨拶をしないで、
            執務室を飛び出した。
            
            背中に、可笑しそうな笑い声が聞こえる。アンブリンさんだ。
            
            ごめんなさい、でも、いても立ってもいられない。
            
            
            私は私とコンラートの部屋に飛び込んで、深く一回深呼吸して、封書を開けた。
            
            そして、ざっと手紙を読んで、息を呑んで。
            
            もう一度、手紙を読んで・・・また慌しく部屋を飛び出した。
            
            私、こんなに落ち着きなかったかしらと思いながら。
            
            頬が緩んで仕方ない。
            
            途中、アニシナさんに会った。
            
            「おや、、どこへ・・・」
            
            そう言いかけるアニシナさんに、
            
            「恋人を、迎えに!」
            
            それだけを告げて、不思議そうなアニシナさんに手を振り、私は裏庭に向かって走り続けた。
            
            
            
            この裏庭には、ツェリ様の息子さんたちの名前を冠した花が植わっている。
            
            何度も、ここへ来た。
            
            コンラートがいなくて、寂しさに負けそうになったとき。
            
            
            青い、小さな花を眺めて・・・元気をたくさんもらった。
            
            
            裏庭に、背の高い男の人が後姿で立っていた。
            
            
            カーキ色の軍服。
            
            
            茶色い髪。
            
            
            私は迷わず、その背中に抱きついた。
            
            
            
            
            『、俺の名前の花の下で、待ってる』
            
            
            ただ、それだけの短い手紙。
            
            
            
            振り返ったのは、私の大好きな・・・
            
            
            薄茶の中に、銀を散らした瞳の持ち主。
            
            
            「ただいま、」
            
            そう言って、私を抱き締めてくれる腕。
            
            私の頬に、暖かい唇が。
            
            
            私はそのキスを受けながら、気付いた。
            
            コンラート、今、眞魔国語で言った。
            
            でも、分かるわ。
            
            
            だから、私も。
            
            「お帰りなさい、コンラート」
            
            眞魔国語で。
            
            
            
            その時の、あなたの驚いたような、嬉しそうな顔を、私は一生忘れない。
            
            
            
            私は、眞魔国の住人になれたかな。
            
            少しだけ、まだ心配だけど。
            
            
            でも、あなたに着いていくわ。
            
            
            私の我儘を、許してくれてありがとう。
            
            一年、待ってくれて、ありがとう。
            
            
            そのお陰で、私、前を向いて歩いていける。
            
            
            すぐ後に、コンラートと私は、コンラートのご家族が祝福してくれる中、挙式をあげた。
            
            
            とても、とても幸せな毎日。
            
            だって、私の隣には優しいあなたがいる。
            
            
            眞魔国はとても広くて、地球であなたが自慢していたように。
            自然が綺麗で・・・次はどんな土地に行くのか、楽しみだ。
            
            
            コンラートの仕事を手伝いながら、有利くんのために、各領地を廻っている。
            
            
            幸せで、楽しい。
            
            
            ねえ、コンラート。
            
            
            早く、有利くんが来てくれるといいね。
            
            
            その日が、今から待ち遠しい。
            
            
            
            
            
            
            END