Last Christmas           3
              
              
              
              
              
              
              
              あなたの腕の中で、目覚めた朝。
              
              今日が初めてね。
              
              
              いつも、あなたは夜、どんなに雨が降ろうが寒かろうが、必ず自分の家に帰ってた。
              
              なのに、昨夜は帰ろうとしなかった。
              
              私と同じ気持ちでいてくれるのかな?
              
              この、最後のクリスマスは、ずっと二人で。
              
              
              
              そうだったら、嬉しいな・・・・。
              
              
              
              朝起きて、二人でニュースを見ながら、トーストをかじって。
              私の淹れたコーヒーを、美味しそうに飲んでる姿を見ると、本当に幸せになる。
              
              「不思議だなあ」
              
              「え・・・?」
              
              ぽつりと呟いたコンラートは、両手であなた専用のマグカップを包み込みながら呟いた。
              
              「店で飲んでるコーヒーと、味が全然違う」
              
              「美味しく、ない?」
              
              家用の豆は、確かに店のものとは違う。
              
              だけど、コンラートの好きなモカは、常備してるのに。
              
              コンラートは心配している私を覗き込んで、そしてくすりと笑った。
              
              「違うよ、。店で飲むのより、ずっと美味しい。の隣で飲むコーヒーは、本当に美味しいよ」
              
              コンラート・・・私をどこまであなたに溺れさせれば気が済むの?
              
              でも、どこかで歯止めをしなくては。
              
              私も苦しいし・・・あなたもきっと、私の気持ちを感じて思い悩んでしまうだろう。
              それは、避けたい。
              
              笑顔で帰ってもらいたいから。「しんまこく」に。
              
              私は気を取り直すかのように、両手を布巾で拭いて、笑みを浮かべた。
              
              「さあ、今日は一杯お買い物をしましょう?クリスマス気分を味わいたいものね」
              
              そうして私とコンラートが向かった店は、まずは痛まないもの。
              
              
              100円ショップ。
              
              
              「これ、百円なの?」
              
              手に取るもの全てに不思議そうな顔を浮かべるコンラートに、苦笑して。
              
              そうよね、不思議よね。
              
              デパートで同じものは、倍以上の値段が付くものもある。
              
              それでも、店内はクリスマスの飾りに最適なものがたくさんあるから、二人で顔を突き合わせ、
              あれがいいだの、こっちの色のほうがいいだの。
              
              そんな時間が、すごく楽しい。
              
              私とコンラートは、一旦部屋に戻って、仕入れたグッズを置いて、スーパーへ向かった。
              
              
              「コンラートは、何を作ってくれるか決めたの?」
              
              私が尋ねると、コンラートは困ったような微笑を浮かべた。
              
              「色々考えていたんだけど。ちょっとが好きそうなメニューが浮かばなかった」
              
              「普通は、どういうのを食べているの?」
              
              「両生類とか・・・」
              
              そこで、分かった。確かに、私はゲテモノといわれる類のものは苦手。
              冒険心がないと言われたら、それまでだけど。
              
              でも、・・・せっかくコンラートが作ってくれるものに対して、嫌そうな顔はしたくないもの。
              
              しゅんとしてしまった私に、気を取り直すように、コンラートはカートを押しつつ私の手を引いた。
              
              「鶏肉は、ええと、アレに似てる食感だから。これを使おう」
              
              気を遣ってくれている。
              私はくすりと笑ってしまった。だって、鶏肉に似ている食感って・・・蛙でしょ?
              
              でも、黙っていよう。
              
              コンラートは、それから野菜売り場に向かった。
              
              次々と何やらカートに放り込んでいる間に、私は彼からそっと離れてしばし悩んだ。
              
              コンラートの故郷、しんまこく。どんな調味料があるのかな。
              
              
              
              私とコンラートは、それぞれ悩みつつも、お互いのために。
              
              
              お互い離れ離れになった時に、その味を思い出してはお互いを懐かしめるように。
              
              
              
              自分で出来る、思い出作りを・・・
              
              
              
              楽しいクリスマスのはずなのに。
              
              
              なんだか、泣きたくなってきてしまった。
              
              
              
              
              
              先にキッチンを譲ったら、私が料理をする間に、例の百均で買った飾りを彼がしてくれることになった。
              意外に、まめなコンラート。
              
              私が料理をしながら、彼を窺うと。
              
              慣れた手付きでラジオを付けて、お気に入りのチャンネルを流しながら、しかも鼻歌交じりで飾り付けをしている。
              
              何の歌なのかな、後で聞こう。日本の歌じゃないみたい。
              
              
              
              
              そして、私の料理も出来上がった頃には、もう19時を過ぎていて。
              
              二人で、お風呂に入って。
              
              私も、コンラートもパジャマ姿のままで。
              
              
              
              二人で、二人きりの・・・クリスマスイブ、始めよう。
              
              
              
              コンラートの作ってくれた料理は、鶏の手羽先のサワー煮込み。
              ああ・・・手羽先。
              
              確かに、ええと・・・あの両生類のどこかと似ているかも。
              
              でも、考えるのはやめよう。
              
              私が作ったのは、悩んで悩んで・・・結構時間は掛かるけれど、シンプルなものになった。
              
              牛肉と、牛タンをそれぞれ塊で買って来て、それを塩と卵白で作った塩釜に包んで。
              その間に、ハーブを入れて、オーブンで焼きあげた。
              
              コンラートのところでも、ありそうな材料。
              
              お塩しか、思いつかなかったから。
              
              薄暗く部屋の明かりを落として、小さなクリスマスツリーのランブが光る中で、
              二つの塩釜焼きを持ってきたら、コンラートは嬉しそうに笑ってくれた。
              
              彼の目の前で、一つ小さなトンカチで叩いて塩の甲羅を割ると。
              
              「凄いな、!」
              
              目を輝かせてくれた。
              
              よかった。
              
              
              もう一つを、コンラートに割らせてあげると、力加減が上手くいかなかったのか、
              中のお肉まで割れてしまった。
              
              それに、二人で笑って。
              
              
              あなたを、喜ばせてあげられた。
              
              
              私も、あなたのお料理、とっても美味しかった。
              暖かい、繊細な味付け。
              
              絶対覚えておくからね。
              
              コンラートがこの地からいなくなっても。
              
              あなたのぬくもりを、もし忘れてしまったとしても。
              
              
              私は、この味だけは忘れないわ。
              
              そして・・・
              
              
              あなたの口付けも。
              
              
              ぬくもりは忘れても、この二つは覚えてる。
              
              だから、私はきっと・・・あなたを想って、生きていけるわ。
              
              
              
              次の日は、二人でお出かけをすることに。
              
              「映画を観たいな」
              
              そう珍しいことを言ったコンラートのご要望に応えて。
              
              去年上映していた、「ゴースト」を見に行った。
              
              デミ・ムーアの悲しくて、切ない恋愛映画。
              
              恋人が死んでも、ずっと彼女を守っていくって。
              
              コンラートは、上映中、一言も言葉を発しなかった。
              
              それが、痛かった。
              
              私とあなたに被らせているのかな。
              
              
              
              でもね、あなたは生きている。
              
              
              
              お願い。
              
              
              「しんまこく」に戻って、他に好きな女の人が出来てもいいの。
              
              ただ、ずっと私だけを想い続けてくれなくてもいいの。
              
              
              
              生きていてね。
              
              
              それだけが、私の願い。
              
              
              それが、私が映画を見終わった時の思いだった。
              
              
              
              
              
              
              
              
              こうして、私とコンラートの最後のクリスマスが終わった。
              
              
              地球での、最後のクリスマス。
              
              
              
              今、コンラートは私の隣にいてくれる。
              
              一年間、離れてしまったけれど。
              
              でもね。私、この「眞魔国」での一年間があって、本当によかった。
              
              私を迎えにきてくれて、それから何年も経って。
              
              
              
              「寒いわね・・・雪が降りそう」
              
              そう私が窓越しに外を眺めていると、コンラートは私の前に、真っ白いものを差し出した。
              
              よく見ると、それは小さな植木鉢だった。
              
              「どうしたの?これ」
              
              「俺が、地球のクリスマスの話をしたら・・・母が、にって」
              
              そうコンラートは、少し嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をしていた。
              
              その植木鉢には、丸い花弁が五つ付いた、真っ白な花びらと。それに中央には真っ赤な花芯がある。
              
              「母が、をイメージして作ったらしい。名前はまだ決まってないそうだから。
              もう少し、待っていて?」
              
              ツェリ様が、私のために?
              
              私は感極まってしまい、その鉢植えを抱き締めた。
              
              コンラートの名前の花があるのを、知っていた。
              
              だけど、私のために・・・作ってくれたなんて。
              嬉しい。
              
              
              コンラートは、頬を赤らめてしまった私の手を引いた。
              
              「、俺からもクリスマスプレゼントがあるんだ」
              
              クリスマス?眞魔国で?
              
              今まで、しなかったのに。
              
              
              不思議に思う私の手を引きながら、コンラートは空を見上げた。
              
              どんよりとした曇り空。
              今にも、雪がちらつきそう。
              
              「こんな日だったな。とクリスマスをした最初の日は」
              
              そうね、こんな寒い、曇り空の日だった。
              
              あなたは、手がとっても冷たくて・・・その手を、思わず包み込んでしまった。
              
              でも、夜には雲が抜けて。綺麗な星空だったのよ。
              
              
              そんなことを思い出しながら、私はコンラートの目的地に連れて来られたようだった。
              
              
              そこは、小さな農園だった。
              
              「・ファーム」と看板が出ている。
              
              
              
              
              「え、コンラート、これって・・・・」
              
              
              私が驚いて、コンラートを見上げると。
              
              彼は、私の肩を抱き寄せて、そして耳元で囁いた。
              
              「まだ、俺ときみの分くらいしか採れないけれど。でもね、コーヒー豆が出来たんだ」
              
              
              その時の私の気持ちを、何て表したらいいんだろう。
              
              私は驚いて、嬉しくて、泣きたくて・・・泣いてしまったんだけれど、結局。
              
              
              ずっと、コーヒーの香りが懐かしかった。
              
              それを、コンラートも気付いてくれていた。
              
              
              「俺のために、最初のコーヒーを淹れてくれる?」
              
              そう髪に口付けをしてくれた、コンラート。
              
              もちろん。
              
              あなたのためだけに、最高のコーヒーを。
              
              
              
              
              ありがとう、コンラート。
              
              私、本当に幸せで・・・
              
              
              
              
              
              地球で過ごしたあの時間は、最後だと思って、辛くて切なくて悲しい思い出になると思っていたけれど。
              
              でもね。
              
              
              今思えば、「Last Christmas」じゃない。
              
              「First Christmas」だったのよ。
              
              
              
              そして、毎年続いていく。
              
              あなたと、私の二人のクリスマス。
              
              
              
              ずっと、傍にいてね。
              
              コンラート・・・愛してるわ、永遠に。