酔うが勝ち
里佳に聞いた言葉。
凄くショックだった。
『不破さんに抱きついて、離れなかった』
直人さんに、合コンで無理矢理キスしてしまって、その後、私はずっと直人さんにべったり抱きついたままだったそうで。
恥ずかしい!!穴があったら、入りたい!!
そう思っていた私は、直人さんにどうしてそのことを教えてくれなかったのか、聞いたことがある。
でも、直人さんは困ったように首を傾げた。
「まどかちゃん、酔っていたし、酔ったときのことって、あまり聞きたくないかなと思ったし・・・・・・」
ううーん、それは確かに。あまり酔っ払ったときのことって、次の日とかに聞きたくない。
そっか、と納得してしまった私は、そのことをすっかり忘れていた。
数ヵ月後、私はある日気付いた。
デートをしても、いつも酔っているのは私で、直人さんはシャキッとしたまま。
シャキッとしている言葉が合っているのか・・・・・・微妙だけど、でもいつもの彼のままの記憶しかない。
というか、大半が私は記憶をどこかで失っている。こんなに私、お酒に弱かったっけ?
直人さんが一緒だから、安心してしまっているのかな・・・・・・。
そう思った今日は、しっかりしようと頑張った。
化粧室に行くたびに、コットンを水で濡らして目に当てたり。無駄な努力かもしれないけど、なるべく酔わないように頑張ってみた。
するとね、気付いたの。
私にお酒を飲ませるのが、直人さん、上手なの。
ビールもさりげなくいつもグラスに満タンにしてくれるし、サワーに変えても半分くらい無くなると、
「お代わり、同じのでいいのかな」
と言いながら注文してくれる。それに釣られて飲む私。一方、直人さんはマイペースでチビリチビリやっている。
そしてまた、私のビールグラスに継ぎ足そうとしていたから、
「ダメ!今日も私、酔っ払っちゃう!」
そう途中でグラスの縁に手を塞いで防衛したら、直人さんは眼鏡越しの瞳を僅かに見開いて、そして顔を俯かせた。
「直人さん・・・・・?」
「ごめん、そうだよな、無理矢理、本当にごめん・・・・・・」
何で謝るの。そんなつもりで言った訳じゃないのに。
違うのよ、そういう意味じゃないの、そう言おうとしていた私に、驚くべき言葉が。
「まどかちゃん、酔うと凄く可愛いから・・・・・・いつも、毅然として綺麗だけど、でも酔うと、甘えてくれて可愛いから、だから・・・・・・
ずるいな、俺。ごめんな・・・・・・」
ぽつり、ぽつりと呟いてくれたその言葉に、私は酔いが一気に醒めてしまった。
そして胸がきゅんきゅんと締め付けられる。
私のそういう姿を見たくて、それで酔わせていてくれたの?
何て・・・・・・・どこまで私を落とせば気が済むの!!
私はぎゅっと直人さんに抱きつき、彼を更に真っ赤にさせ、そしてグラスを一気に煽った。
更に手酌でビールを数杯飲んだら、もう私の記憶は無い。
望まれるなら、応えよう。
そして聞くのはやめておこう。私がどんな姿になるのか。ちょっと聞くの、怖いもの。
でも、直人さんが満足してくれるなら、それでいいわ。
酔うが勝ちよ。そして惚れたら負けなの。もう私、連続敗退を記録中。
でもね、今日はちょこっとだけ覚えているわ。
とっても恥ずかしくて、とっても嬉しい記憶。
「直人さん、好きぃー!もっと、ぎゅってしてぇ!」
「え、あの、こう?」
「いやぁん、もっとぉ。ぎゅーって。早く二人きりになりたーいー!」
「ま、まどかちゃん、声大きい・・・・・・」
「いいのー!だってホントの気持ちだもーん!直人さん、だぁーいすき!」
「まどかちゃん・・・・・・俺も、えっと、す、好きだから・・・・・・」
・・・・・・・。
私のセリフは全て忘れて、直人さんの最後の言葉だけ、永遠に覚えておこう。
目覚めた瞬間、そう決意した私だった。