Commemorative Christmas
付き合い始めて、初めて迎えた大きなイベント。
それが、クリスマス。
どうしよう、何から計画すればいいのかしら。
私が主導権を握ると、とんでもないことになりそうな気がして、直人さんに相談することにした。
まずは予定を伺ってみる。
「ねえ、直人さん。24日は忙しい?」
「そうだな、その日は会議が一時からあるから、その前準備で午前中はバタバタしてるかも。会議は午後一杯掛かっちゃうかもしれない」
・・・・・・ズレている。仕事のスケジュールを聞いたわけじゃないんだけどな。
そっか、24日って言い方が良くなかったのか。
直人さんは、自分で鈍いと言っているけど。そしてそんなところが私のハートを抉るんだけど。
直球勝負で行くしかないか。
覚悟して、直人さん。私の直球ストレート、受け止めて?
「直人さん、私、クリスマスの夜は二人きりで過ごしたいの。ダメ?」
すると直人さんは、みるみる顔を赤くして、そして瞬きを繰り返して。
「い、いいの?」
「え?」
「だってクリスマスに、俺と二人きりなんて・・・・・・あ、いや、俺はもちろん嬉しいけど。
でも、まどかちゃん、毎年皆で過ごしてただろ。だから、今年もなのかなって思ってたから・・・・・・」
「だって・・・・・・今まで、彼氏がいなかったんだもの。今年は彼氏と過ごしたいわ」
「かっ、彼氏・・・・・・」
「いいでしょ、直人さん。クリスマスの夜の時間、私にちょうだい?」
そうおねだりすると、直人さんはカーッと顔を赤くして俯いてしまって。
だけど、小さく「俺も、まどかちゃんと過ごしたい・・・・・・」って言ってくれた。
もう、もう!心臓バクバクさせてくれるんだから。
ドキドキしながらも、とっても嬉しくなった私がにこにこ微笑んでいると、直人さんは顔を上げて私を真っ直ぐ見つめた。
その眼差し・・・・・切れ長の目元の直人さんから受ける、真っ直ぐな眼差しは、もう私をノックダウン寸前にまで追い込む。
胸がバクバクしているのを押さえながら、直人さんの眼差しを受け止めた私に、彼は静かに言った。
「俺・・・・・・クリスマス、ずっとまどかちゃんと過ごしたいって思ってた。その、・・・・・・片思いだった頃、毎年思ってた。
一人で夕飯食いながら、まどかちゃんは今頃誰かと幸せな時間を過ごしているのかなって思ったら、辛かった」
ずっきゅーん。
私も・・・・・・私もよ、直人さん!!
あなたが言うように、毎年クリスマスには、里佳に合コンに狩り出されていたわ。
けどでも、言い寄る男性を蹴散らしながらも、思うのはただ一人あなたのことだけ。
今頃、どうしているのかしら。何を食べているのかしら。誰といるのかしら・・・・・・女の子だったらどうしよう。
私の妄想が翼を広げ、あまりいい思い出の無いクリスマスだった。
同じ想いだったのね・・・・・・凄く感動してしまった私に、直人さんは少し恥ずかしそうに目を細めて言った。
「だから、今年は今までの分を取り返すくらい、楽しい時間を過ごしたい・・・・・・まどかちゃんにも、そういう時間を過ごしてもらいたいな」
「本当に?そう思ってくれるの、直人さん!」
「うん。だから、俺が計画してもいい?」
まさかまさかの発言だった。
直人さんが自ら、クリスマスというイベントの計画に立候補してくれるとは!
「でも、忙しいでしょ?大丈夫?無理をしなくてもいいのよ」
だって年末近いし、通例を見ても直人さんの忙しさは期末と同じくらいになるはず。
心配する私に、直人さんは微笑んでしっかりと頷いた。
「うん、大丈夫。楽しみにしていて。頑張るから」
珍しい、こんな直人さん。でも、嬉しい。
私のために、考えてくれるのね。もう、私どうしよ。頬がにまにまして止まらないわ。
クリスマスまで、あと少し。
それまで私もあなたへのプレゼントとか、当日着ていく服を選んだりとか。
考えるだけで楽しみが吹き溢れてくるわ。
でも、でもね。
一番は、直人さんとクリスマスを二人で過ごせる。その約束をこぎつけただけでも充分なのよ。
それに気付いてくれているのかしら?
私は早速もう思案の海に沈んでいく直人さんを、微笑して見つめていた。
*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*
まどかちゃんが、望んでくれるなんて。
俺と、二人きりのクリスマスを。
完全に諦めていた。だって毎年、南條さんに言われていたのを知っていたから。
「まどかが来ないと、人が集まらないのよ!だから参加よ、欠席は許さないからね!」
と、合コンに強制参加をさせられていたのを。
だけど今年は南條さんも結婚したけど、きっと部内でクリスマスイベントとかあるだろうし。
まどかちゃんは人気があるから、そっちの方に行くのだとばかり思っていた。
なのに、まどかちゃんから言ってくれた言葉。
「直人さんと、二人きりで過ごしたい」
凄く嬉しかった。だから、楽しませてあげたい。思い出に残るような、そんなクリスマスにしたいな。
正直、仕事が詰まっていた。
でも、これは俺の仕事配分の問題だ。まどかちゃんには関係ない。
絶対クリスマスイブは、残業しないようにしなくては。
ただでさえ、普段の日でも残業の多い俺に付き合わせてしまっている。申し訳ない気持ちで一杯だった。
だから、せめて。イブくらいは。
俺は改めて自分のスケジュール管理を見直し、出来ることは前倒しでこなしていき。
そして家に帰ってからは、夕食を食べながらネットサーフィンを繰り返した。
仕事でPCを使うときには感じない高揚感がある。凄く楽しかった。
店を探したり、周辺のクリスマスイベント情報を調べたりするだけなのに。
ホームページを眺めながら、浮かぶのはまどかちゃんの顔。
まどかちゃんは、素直に嬉しいと表情で表してくれる。
いつもにこにこ笑顔のまどかちゃんだけど、でも分かるんだ。
本当に嬉しい時の表情。それが眩しいほど綺麗で。
それが見たいな・・・・・・喜んでくれるかな。
そう思いながら、ホームページ巡りをする時間。とても幸せだった。
そして、迎えた当日。
まどかちゃんとは、駅で待ち合わせることにした。彼女は、他からの誘いという魔の手を潜り抜けるために、定時になったら速攻会社を出るそうだ。
俺はそうはいかないから、少しばかり遅れて駅に向かっていった。
着いた見慣れた駅に、・・・・・・いた。すぐに、分かった。
真っ白のコートに、ふわりとウェーブを掛けた髪。昨日までの髪型と違う。
前髪も斜めに下ろして、いつもと違う雰囲気で。
そして俺に気付き、笑顔を浮かべて手を挙げた彼女に、周辺にいた男が注目している。
彼女の相手を、ずっと気になっていたのだろうか。それが俺だと気付き、まるで舌打ちでもしそうな表情をそれぞれ浮かべていた。
思わずそれを見て苦笑した俺に、まどかちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?直人さん、疲れた?大丈夫?」
心配してくれているんだ。まどかちゃんの優しさに、胸がほんわかと暖かくなった。
俺は首を振り、・・・・・・・うん、勇気を出せ、俺。
そっと腕を差し出した。
まどかちゃんは、最初きょとんとしていたけど、俺の意図に気付いたようで。ぱあと表情を明るくして、嬉しそうに俺の腕に掴まった。
そうだよな、いつも、スマートに彼女をリードしてあげれればいいのに。
とてもじゃないけど、恥ずかしくてそんなこと出来ない。
今だって、心臓が壊れるかと思うくらい、バクバクしてる。
そんな俺を見上げる視線に気付き、見下ろすと。まどかちゃんが、綺麗な顔に満面の笑みを浮かべて俺を見つめていた。
「え、と。どうしたの?」
「・・・・・・ううん。何でもない。嬉しいの。直人さん、大好き」
速攻で、耳まで熱くなった。
まどかちゃんの言葉は、俺の心臓を鷲掴みにする攻撃をしてくる。それに囚われて、俺はもう逃れることは出来ない。
だから、小さく俺も答える。
「俺もだよ・・・・・・」
もう少し、待って。まだ駄目だ。緊張がマックスになってる。
もうちょっと落ち着けば、きっと俺も自分の思いを伝えられると思うから。
それでもまどかちゃんは、ますます俺の腕に強くしがみ付いて「ふふ」と小さく笑った。それは、嬉しそうに。
そっか。
一生懸命計画練ったけど、でも。
まどかちゃんにとって、こういう二人の時間。それが一番いいのかな。
迂闊だった。高級レストランに行き、綺麗な夜景が見えるバーに行って・・・・・・・そんなことを考えていたけど、でも。
「まどかちゃん、行こう」
決意した俺は、彼女を連れて電車に乗って。この辺りで一番近い海岸がある駅で降りた。
きょとんとしたままのまどかちゃんの手を引いて、途中でコンビニに寄る。
そこで、チーズとクラッカーと、まどかちゃんの好きなチョコレートと。それにビールにワインに。
次々と買い物カゴに食材を放り入れる俺に、驚くまどかちゃん。
色々買い物をした後、真っ暗な海岸に下りていった。
階段を、ヒールを履いた彼女の手を取りゆっくりと。そして降り立った砂浜で、まどかちゃんは感嘆の声を上げた。
「すっご・・・・・い!!綺麗!!」
そうだね、満天の星空だ。
今日は雲ひとつないいい天気。クリスマスツリーも敵わないほど、美しい光が夜空に輝いている。
両手を胸の前で握って、空を見上げるまどかちゃんの傍に、さっき買ったレジャーシートを敷いた。
そして荷物を置き、二人でそこに腰掛けた。
波の音だけしか聞こえない、静かな海岸。
そこで、色気の無いプラスチックのカップにビールを注いで。
二人で微笑みあって、乾杯した。
ひとしきり夜空を堪能した後に、まどかちゃんはビールからワインに代えたカップを手にしたまま、
「ねえ、直人さん」
そう呟いた。
俺が彼女を見ても、まどかちゃんは夜空を見上げたまま。
その横顔は、ほんのりと月明かりに浮かび上がるようで。何て綺麗なんだろうと思った。
ぼう、と見つめていた俺に振り向いたまどかちゃんは、今にも泣き出しそうな、そんな微笑を浮かべていた。
「ありがとう。私、こんな素敵なクリスマス、初めてよ」
そうか・・・・・・そうだね。俺も、初めて。こんな突発的に行動したことなんて、今までの人生で無かった。
でも、喜んでくれて、本当によかった。
ほっとしたのと嬉しいのと、感情が入り交ざっている俺の肩に、ふいに重みが掛かった。
まどかちゃんが、自然な仕草で俺の肩に寄りかかっている。
その肩を、ぎこちなく抱き寄せた俺に、まどかちゃんは嬉しそうにくすくすと笑って擦り寄った。
ごめん、もう、我慢出来ない。
そっと寄せた顔に、応えてくれるまどかちゃんの唇は、まるで蕩けるように俺を包み込む。
止まらない。もっと。もっと・・・・・・。
いつしか、俺とまどかちゃんは、誰もいないこの海岸で。
強く抱き締めあって、お互いの唇を貪るかのように口付けを交わしていた。
愛してる。これからも、ずっと、傍にいて欲しいから。
だから、だから。
全ての思いを、月明かりに託して。
気に入ってくれるだろうか。きみのために選んだリング。嵌めてくれるかな・・・・・・?
でもそれを渡すのは、もう少し後。
今はまだ、彼女の唇に囚われていたかった。
メリークリスマス。来年も、再来年も。
ずっとずっと、一緒にいよう。