禁断の果実
手に入れてしまいたい。
何もかも、奪い去って。
きみを、俺で満たしたい。
決して許されぬ思い。
だから、この俺の激情を封印しよう。
きみが、己を封じたあの日のように。
セーラー服を着たきみが、向こうから歩いてくる。
友達と、楽しそうに話をしながら。
手には、黒いかばんを握り締めて。
初めて、髪と瞳の色を変える魔法を使った。
大丈夫だろうか。
ちゃんと、日本人らしく見えているだろうか。
彼女に、何か不審感を抱かせるような姿ではないだろうか。
禁じられていた。
勝手に、地球へは行ってはならないと。
だけど、鏡で彼女を見るたびに、その姿を近くで見たいと思い続けて。
触れられない。話しかけられない。
彼女は、俺のことを覚えていないから。
それでも、俺は耐え切れず、密かに地球へと来てしまった。
段々、近づいてくる。
あの眩い金髪を、黒髪に変えた彼女が。
屈託の無い笑顔を浮かべて、歩いてくる。
心臓が、止まりそうになる。
「・・・・・・・でさ、彩花。聞いてる?」
彩花。
そうだ、レーリアは彩花という名に変えた。
今ここに、俺の知っているレーリアはいない。
だけど、きみはきみなんだ。
だってほら、通り過ぎる時に、きみは一瞬俺を見て。
その笑顔のままで、俺を見て・・・・・・立ち止まった。
「どうしたの、彩花?」
見つめ合う俺達に、不思議そうな顔をしてるレーリアの友達。
レーリアのまっすぐな視線に、俺はそのまま通り過ぎようとしていたのに。
目線が、釘づけになってしまった。
甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
思考が、停止する。
ずっと思い描いていたきみが、今目の前にいる。
抱きしめたい。
だけど、許されない。
俺はぎゅっと目を閉じて、レーリアの友達の記憶を操作した。
今この場には、誰もいなかった。
レーリアには、俺の魔法は効かない。だから。
友達に魔法を掛けて、俺は逃げるようにその場を去った。
「彩花、どうしたの?行こうよ!」
「え、あ、うん、だけど、あの人・・・・・・」
「あの人?誰ー?誰もいないじゃない」
「でも、今・・・・・・・」
「寝ぼけてるんじゃない?ほら、早く帰ってビデオ観るんでしょ!」
路地裏で、俺は情けなく息を荒くして・・・・・・何とか呼吸を整えた。
もっとさりげなく通り過ぎて、一瞬だけレーリアを間近で見て。
それで満足するはずだったのに。
頬が、熱い。
もう、誓いの日までは地球へは来るのを止めよう。
きみは、禁断の果実。
近づけば、触れたくなる。
もし触れてしまえば、止められなくなる。
俺が、もっと大人になって、自分を制御できるその日まで。
約束の日まで・・・・・・・。
そして約束の日。
会社にいた俺を見て、レーリアは・・・・・・・彩花は固まっていた。
俺は?
大丈夫。
きみを、素直にきっと呼べる。
「おはよう、藤森さん」
俺の中の、禁断の果実。
とろけるように甘く、欲してやまないその果実への想いを、誓いに変えた。