恋するきみに恋してる

 

 

 

 

 

 

 

いつからだろう。きみの視線を感じたのは。

 

 

俺にじゃない。

 

 

俺を通り抜けて、きみが熱い眼差しを送るのは、俺の尊敬してやまない隊長。

 

『蒼の疾風』の隊長、ラナディート・エルハラードをきみは恋した眼差しで見つめてた。

 

 

 

 

 

 

やめておけばいいのに。

 

 

知らないのか?隊長は、幼い頃から、心に一人の女性しか住まわせていないんだ。

 

今は、どこにいるのか俺には分からない。

最高機密の、アステリアの『祝福の女神』。隊長は、彼女だけを愛し続けている。

 

だからこそ、貴族がこぞって進める縁談にも見向きもしない。

 

告白されても、冷たいほどあっさりと拒絶する。

 

 

そんな彼に、恋しても、苦しいだけなのに。

 

 

 

アステリア城で、侍女をしている彼女は、無愛想な隊長に接するときに頬を真っ赤に染めて。

そして、必ず言うんだ。

 

 

「無理、なさらないでください」

 

だけど隊長は、自分が興味のない人間には、そこはかとなく冷たい。

 

「・・・・・・・ああ」

 

ただ短く、一言。

 

でも、きみはそれを嬉しそうに笑い、仕事へと戻っていく。

 

 

 

いつの間にか、俺はきみが気になって仕方なくなってしまった。

 

 

そして、知った。

 

きみは毎日、食べてもらえるはずもない弁当を作り、昼休みになると隊長の執務室の前で佇んでいた。

 

隊長は、何も気付かずに、俺に声を掛ける。

 

「サーシャ、昼、どうする」

 

「あー・・・・・そうですね・・・・・・」

 

俺は隠れた彼女を見つめながらも、彼女のことに触れることも出来ず。

 

 

彼女は、小さく溜息をついて、その弁当をゴミ箱に捨てていた。

 

 

ある日、この日もゴミ箱へ弁当を捨てようとしていた彼女の手を取った。

 

驚く彼女に、俺は首筋を掻きながら言い訳をした。

 

 

「いや・・・・・・もったいないし。俺、貰ってもいい?」

 

「え・・・・・・でも、・・・・・・・・・」

 

「昼食代、浮いちゃった。ラッキーだなー」

 

その場から逃げるように、俺は弁当を奪い取って走り出した。

 

隊長のために作られた弁当は、彩りよく栄養バランスも考えられていて、美味くて・・・・・・・・切ない味がした。

 

 

 

 

隊長が、地球へ旅立ってから、彼女はまるで華やかさが無くなり、意気消沈しているのが手に取るように分かる。

 

そんな彼女を救いたいけれど、俺には無理だ。

 

分かってる。

 

彼女が求めているのは、俺じゃない。それが、辛かった。

 

 

 

やがて隊長の帰還の知らせを受け、彼女の顔に笑顔が戻った。

 

ほっとしたのもつかの間、隊長はまるで別人のように暖かな表情を浮かべている。

その先には、茶色い髪をした妙齢の女性がいた。

 

この世界に戸惑っているような彼女は、あの『祝福の女神』。

 

隊長が、ただ一人想い続けた女性だ。

 

 

 

 

こんな顔、すんだな。

 

優しげで、包み込むようで。

 

 

こんな隊長を、初めて見た。

 

 

そしてその隊長の姿を、彼女も見てしまった。

 

 

 

悲痛な表情で城を歩く彼女を見つけ、俺は彼女の手を取った。

 

驚いたように目を見開く彼女に、俺は深く深呼吸して、そして言った。

 

 

「明日、俺のために、弁当作ってくれないかな?」

 

「・・・・・・え?」

 

「一回だけでいいんだけど。駄目かな?前に食べた弁当、すんごく美味かったから」

 

 

俺をじっと見つめた彼女は、目元に涙を浮かべて微笑んだ。

 

 

「ありがとうございます、サーシャ様。喜んで、作らせていただきます」

 

 

 

 

それから、彼女はずっと隊長を忘れられないようで。

 

そんな彼女を見守っていた俺は、・・・・・・・・・・・仕方ないよな。少しくらい。

 

『祝福の女神』レーリア様に、意地悪をしてしまった。

 

 

隊長は、あんたが思ってるよりもモテんだよ。

分かってやれよ。影で、泣いているやつもいるんだよ。

 

 

後悔したけど、でも、それでも・・・・・・・・・

 

 

彼女は俺の手には入らない。

 

それでも、いいと思った。

 

 

 

だって、俺は隊長に恋してる彼女に、恋してるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

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