飲みすぎにはご用心

 

 

 

 

 

 

 

 

会社での飲み会があるということは、社内メールで以前から回ってた。

 

「面倒くさいなあ・・・・・・」

 

そう眉を潜める吉田くんは、わたしに聞いてくる。

 

「あや・・・・・・・じゃなく、藤森さん。どうする?懇親会、参加するの?」

 

会社では、藤森さんで通すことに決めた吉田くん。

だけど、彩花って言いそうになり、慌てて言い直すのが可愛い。

 

わたしはくすくすと笑い、だけどうーんと首を傾げた。

 

「そうだなあ、吉田くんはきっと、参加したら質問の嵐だよ」

 

「え、どうして?」

 

「だって謎の人だろうから」

 

吉田くんは、会社の人の記憶を操ってここに潜り込んだ。

 

わたしを、護ってくれるために。

 

わたしの傍に、いてくれるために。

 

 

仕事がバリバリ出来るのは、魔力は関係ないだろうけれど。

 

ルックスがいいのも、変身したのは髪と瞳の色だけだっていうから、彼の罪ではないけれど。

 

 

でも、目立つのは間違いない。

 

そして、誰もが彼に聞きたいことが山のようにあるだろう。

 

 

 

正直、吉田くんが出るのなら、離れた場所で見守っていたいなって思う。

 

だって、隣に座ったら、女の子達の攻撃の眼差しがわたしに集中しちゃうもの。それは避けたい。

ただでさえ、営業のパートナーということで睨まれていたのに、この間、その・・・・・・・ええと・・・・・

 

 

オフィスで、吉田くんたら、大胆発言したんだもの。

 

 

 

「藤森さん、俺と付き合ってください」

 

 

 

 

ああ、思い出しては赤面してしまう。

 

吉田くんにとっては、そんなことは口にしなくても、傍にいるのが当たり前という感じなんだけど、でも。

 

周りを警戒するための発言。

そして、それは社内に知れ渡り、わたしは更に女子社員から非難の眼差しを浴びるハメに陥っていたのだった。

 

 

 

「飲み会かー・・・・・・・パス、しようかなー・・・・・」

 

思わずそう呟くと、吉田くんも若干ほっとした表情で、

 

「そうか、なら、俺も断りのメールを・・・・・・・・」

 

言いかけたその時。

 

彼の背後から、がっしりと腕を掴んだ者がいた。

 

吉田くんとわたしが振り返ると、にこにこ笑顔の男性社員が立っていた。

 

「吉田ー、お前飲み会参加だよな?」

 

「いや、今、断りのメールを・・・・・・・・・」

 

「なにー!?いや、マジでそれは駄目だって!お前が来ないと、参加率ぐっと下がるだろうが!」

 

知らないよ、そんなこと!

 

だけどその男性社員は、今回の懇親会の幹事だったようで。

迷惑そうな吉田くんに食い下がっている。

 

「お前さー、非協力的すぎよ?もっと空気読めよー!」

 

「空気読めずとも結構。いじられるのは嫌だ」

 

「いじんねーって!放置してやるよ!男性陣はな、きつく言っておくから。女性陣は知らん。それは自分で処理しろ」

 

そっちが面倒臭いんだってば。

男性陣の方は、適当にあしらっておけばいいけど、女子社員は目がギラギラしてるんだから。

もう、怖いくらいなのに。

 

なのに、その幹事の社員がわたしに目線を向けると、ぱんと両手を合わせた。

 

え。

 

なに?

 

「藤森さん!!彼女の権限で、吉田を連れ出してくれー!!」

 

 

 

 

彼女、だって。

 

 

あれ?わたし、頬が緩んでる?

 

 

 

「えと・・・・・・・ここまで言ってるんだし、出る?」

 

「・・・・・・・知らないよ、どうなっても」

 

そう溜息をつく吉田くん。

 

 

怖いこと、言わないでー!!

 

 

 

結局、懇親会には参加したわたし達。

 

だけど、席はくじ引きで決められて、わたしと吉田くんは全く別の席になってしまった。

 

「俺は藤森さんの隣じゃないと嫌なんだけど」

 

なんて子供のようなことを言っていた吉田くんのクレームは完全無視。

 

てか、席なんてどうでも良かったのよね。

吉田くんの周りには、女子社員が鈴なりになってる。

 

一気に不機嫌になる吉田くん。

 

あーあ・・・・・・・・・

 

 

 

「藤森さん、飲んでる?」

 

そう声を掛けてくれたのは、あの宴会部長。

 

「え、あ、はい。ああ、すみません」

 

ビールを注いでくれて、彼はそのままわたしの隣に陣取った。

 

「なー、吉田を落としたのって、凄いよなー。どんな手を使ったの?」

 

わたし、吉田くんを落としたの?知らなかった。

 

うーん、うーん。どんな手?わたし、何かしたっけな。

 

悩んでいるうちに、ガンガン飲まされ、頭はクラクラしてくるし、何だか気持ち悪くなってくるし。

 

途中から、記憶が無くなってた。

 

 

 

 

 

次に気がついた時には、自分のベットの上で。

 

がばっと起き上がると、頭がガンガンする。

 

「うー・・・・・・・・・」

 

唸って頭を抱えていると、控えめなノックの音がする。返事をすると、吉田くんがレモネードを手にして入ってきた。

 

「大丈夫、彩花。かなり飲まされたみたいだけど」

 

「うう、記憶、ないの・・・・・・わたし、変なこと言ってた?」

 

びくびくしながら聞くと、吉田くんはそれはもう嬉しそうに破顔して、わたしをぎゅっと抱きしめた。

 

「嬉しかった。彩花、愛してる」

 

 

 

 

 

ん?

 

 

愛してる?どうして。

 

 

記憶ないって言ったのに。

 

 

 

 

 

 

 

「彩花、突然立ち上がって、俺の方に指差して、叫んだんだよ」

 

 

 

ちょっと、あんた達!いい加減にしてよ!吉田くんは、わたしの彼なんだから、無闇に触らないでくれる!?

 

 

 

「本当に嬉しかった。俺は、彩花だけのものだから」

 

そうにこにこと笑う吉田くんに反して、わたしは顔が真っ青になっていく。

 

 

なんて恥ずかしいことを!!

会社に行って、他の人にどんな顔をすればいいの!?

 

 

「彩花・・・・・・・・」

 

 

吉田くんはわたしの顎を捉え、段々顔を近づける。

 

端正な顔が、わたしに近づいて・・・・・・・・・・

 

 

 

 

本音が、出てしまったのかな。

 

触れないで。

 

吉田くんは、わたしの彼なんだから。

 

 

きっとそう。心で思っていたことが、表に出てしまったんだ。

 

 

お酒って怖いな・・・・・・・・

 

 

 

吉田くんの甘いキスを受け取りながら、内心でもう飲み会に参加しないと心に誓ったわたしだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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