スクランブル

 

 

 

 

 

 

見てはいけないものを、見てしまったのかもしれない。

 

この廊下を歩かなければ良かった。

 

迷路のような、アステリア城で、わざわざこの廊下を選んだ自分自身を恨んだ。

 

 

 

 

 

「好き・・・・・・なんです。ずっと、以前から。あなただけを見てました」

 

「俺は、好きな女性がいるんだけど」

 

「分かってます。それでも、気持ちを伝えたかったんです。ご迷惑だと分かっていても、それでも・・・・・・」

 

 

 

 

ラディが侍女に告白されている。

 

それを、立ち聞きするつもりなんてなかったけど、でも聞いてしまった。

 

慌ててラディ達から死角になる場所へと逃げてしまったわたし。

 

心臓がバクバクしてる。

 

 

ラディは、凄くかっこいいし、それに強いし。

 

『蒼の疾風』をしっかりとまとめているし、モテる要素満載。

 

分かってた。

 

彼は、吉田くんの頃からモテモテで、わたしはいつも誰かにラディを持っていかれちゃうんじゃないかって、

内心はずっと心配でしょうがなかった。

 

 

だけど、それを言えるわけも無く。

 

ラディも、わたしだけを愛してるって。そう言ってくれているから。

 

信じるしかない。

 

 

でも、こうして目の当たりにすると、やっぱり胸が痛いよ。

 

わたし、自分に自信がある訳じゃない。

 

いつもいつも、不安でいっぱい。

 

記憶を取り戻しても、やっぱり培ってきた性格って直らない。

 

臆病な彩花のまま。

 

 

女神なんてもてはやされても、わたしはただの女の子。

 

それを自覚する。

 

 

 

ぎゅっと目を瞑っていると、

 

「・・・・・・うん、悪いけど、迷惑だ」

 

 

ラディははっきりとそう言った。

 

 

 

え、そんな・・・・・・・冷たい声で。

 

 

わたしの方が、びくりと身体を震わせてしまう。

 

そんなことを言われたら、絶対泣く。

それほど、低く冷め切った声だった。

 

「これを、レーリアに聞かれたらと思うと、俺は耐えられない。忘れる。だから、きみも忘れて欲しい」

 

告白をしたことを、忘れろだなんて。

 

ああ、どうしよう。何で?どうしてだろう。

 

侍女に、同情してしまうわたしがいる。

 

「すみ・・・・・・ませんでした・・・・・・」

 

掠れるような声の侍女。ラディはそれから一言も発さずに、靴音を立てて去ってしまった。

 

「うっ、ううっ・・・・・・」

 

泣き崩れる侍女の声。

 

行って慰めたいけど、でもわたしが行くべきじゃないことは分かる。

 

どうしよう、どうしたらいいの。

 

 

戸惑うわたしの肩に、ぽんと手が。

 

え?

 

見上げると、可愛い女の子のような顔をした、サーシャが立っていた。

 

「やっぱ優しいなー、隊長は」

 

「え・・・・・・?」

 

どうして。あんなに冷たくしたのに。なんで、優しいなんて表現なの?

 

びっくりして、目を見開いていると、サーシャは苦笑を浮かべていた。

 

「中途半端に優しい言葉をかけたら、あの子は諦められないでしょ?隊長のこと。前に進めなくなっちゃうから。

だから、あえてああいうキツいこと、言ったんだと思いますよ」

 

そうか・・・・・・・そうなんだ。

 

どうせ思いが通じないのなら、せめて。

 

あえて、ひどい男を演じたんだ。

 

「それに、レーリア様も優しいね」

 

「え?」

 

「だってさ、普通だったら怒り狂うんじゃないすか?それを、そんな泣きそうな顔しちゃって」

 

「だって・・・・・・・」

 

「いいんですよ。大丈夫だから。レーリア様、大丈夫ですよ」

 

 

サーシャの言葉って、不思議。

 

心にあったもやもやが、綺麗になくなっていく。

 

 

「さて。じゃあ俺がオイシイとこ、頂いちゃおうかな?」

 

サーシャはもう一度、わたしの肩を軽く叩いて・・・・・・・それはまるで、わたしを慰めてくれるかのようで。

 

そして軽い足取りで、侍女の元へと歩いていった。

 

 

 

きっと、彼女は大丈夫。

 

サーシャは、とても優しいから。だから、きっと心の傷を癒してくれるわ。

 

 

だから、わたしは彼の行った方向と逆へと歩き始めた。

 

 

もう一人、きっと心を痛めている人の下へ。

 

 

わたしのために、胸を痛めているだろうあなたの元へ。

 

 

 

そして伝えよう。愛してると。

 

わたしは、あなただけを愛してると。

 

 

 

 

『蒼の疾風』の二人の優しさを、また一つ知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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