Secret date  

 

 

 

 

 

秘密の恋の最中でも、デートはしたい。

 

学校の中で、制服姿の桃を見れたりするのは嬉しいけど、でも。

 

 

やっぱり外へ連れ出して、素顔の桃を楽しませてやりたい。

 

 

 

ねだることをあまりしない桃から、好きなスポットを聞き出すのは結構困難だ。

 

「桃、どこか、行きたいところはないか?」

 

率直に尋ねても、彼女は一瞬嬉しそうな顔をして、そしてしばらく考えて。

目をまっすぐ俺に向けて、にこりと微笑む。

 

「悠くんの連れて行ってくれるところだったら、どこでも」

 

困ったな。

 

 

映画に行ったし、海にも行ったし。遊園地、水族館、動物園、カラオケ。あとはどこだっけ。

ありとあらゆるデートスポットと言われるところには行ったつもりだ。

 

夜、一人でパソコンで女の子が喜ぶ場所はないものかと検索してみるも、何かどこも行ったことがあるような場所ばかりで。

 

 

ネタが尽きた。まずいぞ。

 

 

何でこんなに焦るのかと、ふと思った。

そして次の瞬間、思わず自分自身に笑ってしまった。

 

桃に、飽きられてしまうのが怖かった。

 

だから、次から次へと、新しい場所を探していたんだ。

 

 

何だか情けないな、俺は。

 

 

パソコンの前で、一人苦笑してしまった俺は、ごろんとそのままひっくり返った。

 

天井を見上げながら、ぼーっとしていると、ふいに閃いた。

 

 

弾かれたように起き上がり、放っぽりっぱなしだった携帯を手にした。

 

 

喜んでくれるといいんだけど。嫌、きっと喜んでくれるはず。

 

電話で、布石を敷いた。準備万端だ。その日まで、桃には秘密にしておこう。当日が、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

そして迎えた休日。

 

桃の家に迎えに行くと、よかった。お母さんが起きてらした。

 

「あらー、悠くん、今日もまたいい男ねえ」

 

そんな照れるような褒め言葉を貰ってしまった。

俺はいつものように、お母さんの大好きな店の点心を・・・・・・シューマイばかりじゃ芸がないかと思い、今日はギョーザを買ってきた。

 

それを至極喜んでくれるお母さんに、ダメ元で頼んでみることにした。

 

「桃に、見せたいものがあるんです。帰り、21時近くになっても構いませんか?」

 

「見せたいもの?」

 

反応したのは、お母さんよりも桃だった。うん、食らいついてきた。お母さんも、あっさりと了承してくれた。

ちゃんと礼儀を尽くして事前報告をすれば、桃のお母さんは大抵のことは反対しない。

 

桃だけじゃなく、俺のことも信用してくれているんだと思うと、凄く嬉しかった。

 

夕方近くまで、桃の家でのんびりさせてもらって、三人でおしゃべりをして。

お母さんが出勤するのを見送って。

 

そして完全に日が落ちた頃、桃に声を掛けた。

 

「じゃ、そろそろ行こうか」

 

「どこへ行くの?」

 

そう俺を見上げる桃に、俺はにやりと笑って、

 

「さあなー、どこだろうなー」

 

と惚けてみせた。だって内緒のほうが、楽しみになるだろ?俺も段々ワクワクしてきた。

すげえ、懐かしい気持ちになる。

 

車で走り出し、桃は途中から首を傾げた。

 

「あれ、この道って・・・・・・」

 

気付くはずだよな、だっていつもと逆。

 

学校から、桃を家まで送り届けている道を、逆に走ってる。

 

「悠くん・・・・・・?」

 

桃は不思議そうに俺を見つめている。その視線がくすぐったくて、でも嬉しくて。

 

 

楽しもうな、いつも、いつの瞬間も。

 

 

桃が俺といるのが楽しいって、思って貰いたいから。

 

だから、俺はさ。二人で会う時間を計画すんの、すんげえ楽しい。

 

 

 

 

 

 

そして辿り着いたのは、夜の学校。俺が教師として働き、桃が生徒として通う場所。

 

「悠くん?」

 

車から降り、首を傾げる桃の手を引き、俺は裏門に向かった。約束どおり、そこは施鍵されていなかった。

 

きい、と高い音を立てて扉を開けると、桃がびくりと身体を震わせる。

 

「大丈夫だよ、行こう」

 

彼女の手を引きながら、歩く夜の学校は、何だかいつもと別世界のようだった。

 

「いいの?入って、大丈夫なの?」

 

心配そうな桃に、「大丈夫、大丈夫」と軽くいなして、唯一明かりが付いている部屋を目指した。

 

そして入り口で桃を待たせ、中に入って用務員から鍵を預かった。

この用務員と俺は、結構仲が良くて。ダメ元でこの夜のデートの計画を話したら・・・・・・もちろん、相手の女性が桃だなんて言わないけど。

 

「藤巻先生の頼みなら、いいですよ。ちゃんと鍵を最後に閉めてくださいね」

 

といって、快く承諾してくれた。

 

 

彼から鍵をもらい、そして彼は仕事を終えて帰宅する。

 

桃の元へと戻ったら、とても不安そうに佇んでいた。窓の外を見つめているその姿が、月の明かりに照らされて。

そして長い髪が、緩やかに風に揺れている。

 

その後姿を見つめていたら、何だか胸の鼓動が早くなるのを感じた。

 

いけない、まずは桃を楽しませてやらないと。

 

俺は大きく首を振り、笑顔を作って桃の肩に手を掛けた。

 

「お待たせ。さあ、夜の学校を探検しよう」

 

「探検!?」

 

振り返った桃は、大きく目を見開き、そして嬉しそうに頷いた。

 

喜んでくれた、よかった。

 

 

 

 

ブレーカーを上げれば、煌々と明かりが付く校内。

 

それが今は、真っ暗で足元すらおぼつかない。

 

俺の手に縋るように掴まる桃が、可愛くて仕方がない。

 

「悠くん、私を置いて行かないでね、手、離さないでね」

 

理科室とか音楽室とか回っている間中、桃はそう言って俺に抱きついてくる。

 

純粋に、俺の学生時代を思い出し・・・・・・こうして、深夜の学校に忍び込んではスリルを味わったことを思い出して、

桃を誘ったんだけど。

 

まさかこんな副産物があるとは思わなかった。

 

ギューギュー俺に抱きついてくる桃が、凄く可愛すぎる。

 

時折、艶やかな髪を撫でて、

 

「大丈夫だって、ほら、次、保健室行ってみる?この学校の七不思議にな、保健室の・・・・・」

 

「やだー!!いじわるしないで!怖い!」

 

桃は俺が驚くほどの悲鳴を上げて、そして両手を俺に回して。

 

僅かに震えて、俺の胸に顔を埋めた。

 

「悠くん、怖い。怖い・・・・・・」

 

そんなに怖がるなんて、思わなかった。ホラー映画とか、好きでよく観ているくせに。

 

ああ、観ているのと現実で体験するのは、やっぱ違うのかな。

 

でも、そんなことよりも、俺はもう我慢の限界が近いことを分かっていた。

 

だけど、こんなところで・・・・・・嫌だ。

だから、最後に桃、もう一度だけ、意地悪をさせて。

 

「怖いんだ、そっか。なら、どうして欲しい?」

 

「え・・・・・・?」

 

「桃のして欲しいこと、してあげるよ。どうして欲しい?」

 

重ねて言うと、桃は暗闇で分からないけど、きっと顔を真っ赤にして。

そして瞳を閉じているはずだ。

 

小さな、震える囁きが聞こえた。

 

「ぎゅって、して・・・・・・」

 

 

 

 

 

止められない、感情。

 

 

それって本当にあるんだなって知った。

 

 

俺は桃の手を引くのを我慢出来ずに、彼女を抱き上げて廊下を歩き始めた。

 

驚きすぎて、声も出ない彼女を連れてきたのは数学準備室。

 

 

 

俺のいつもいる場所。彼女と初めて二人きりになった場所。

 

 

 

真っ暗なその部屋で、桃を降ろして、そしておもむろに抱き締めた。

 

小さな身体は、俺に素直に抱きついてくる。

 

怖いから?

違うよな。桃も、こうしたいんだって、思いたい。

 

 

強く抱き締めた桃から、切ない吐息が漏れる。ああ、俺が額や頬、それに首筋にキスをしているから。

 

だって触れたい。抱き締めるだけじゃ、足りない。

 

 

ちゅ、と音を立てて桃の唇を塞ぎ、そしてそのまま深く彼女を求めた。

 

 

愛してる。

止まらない、止められない。

 

会えば会うほど。好きになれば好きになるほど、貪欲になっていく。

 

 

俺の想い、受け止めて。

 

 

 

桃と俺は、長い間、夜の数学準備室で唇を重ね、お互いのぬくもりを求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時が経ち、ある日、思い出したかのように桃が笑う。

 

「悠くん、あの時、確信犯?」

 

「え?」

 

何のことか分からずに首を傾げる俺に、桃は目を細めて微笑み、俺の腕にそっと触れた。

 

「あの、夜の学校に連れて行ってくれたとき。私が怖がるの、分かっていたんでしょ?」

 

大人になった桃の目線は、俺に絡みつくように悪戯っぽく。

それに、ますます惹かれていく俺は、彼女を片手で抱き寄せて髪にキスした。

 

 

「さあなー、どうだろうなー」

 

応えた俺に、桃はくすくすと笑って顔を上げ、俺をまっすぐに見つめた。

その黒い瞳の色は、あの頃のまま。

 

そして俺の気持ちは、あの頃よりもずっと増してる。

 

 

「桃・・・・・・・」

 

「なあに?」

 

「・・・・・・・愛してる」

 

 

 

そう囁いて、桃の返事を聞かずに唇を塞いだ。

 

返事は、いらない。分かってるから。このキスに応えてくれるのが、それが返事だと。

 

 

甘く蕩けるような時間は、永遠に。

 

俺は甘美な泥沼にはまっていく自分を、心地よく感じていた。

 

 

 

 

 

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