保健室 2
作 こたつ
「大部上手になったねえ」
保険医のカドワキ先生に声をかけられ、リノアは嬉しそうに笑った。
最初は一体何から教えればいいのか、というほど何も出来なかった。
それでも、不器用ながら一生懸命な姿にカドワキは根気強く治療のやり方を教えた。
今も褒めたものの、生徒の足に巻かれた包帯は、かろうじて傷跡を隠しています、といった雑なものであったのだが。
とは言え、手当するというのは、小手先の技術ではない。
看護する人の心があってこそ、患者を元気づけるのだ。
そう思ったものの、カドワキは今包帯を巻かれている候補生の表情を見て、やれやれと頭を振る。
本当に、この程度の傷で保健室に来るんじゃないよ。お目当てはわかっているんだ。
リノアが手伝うようになってから、治療に訪れる生徒の数が格段に増えた。それも男子ばかり。
最近あの子は、任務でずっと不在らしいが、とある人物の事を考えていると、ドアが開き、音もなく誰かが入って来た。カドワキは後ろを振り返り、思わず息を飲む。
そこには、うっすらと微笑みすら浮かべたSeeDレオンハートがいた。
こりゃまずいねえ、そう判断したカドワキは手を叩き
「アンタたち、今日はこれで終わりだよ。さっさと部屋に戻るんだ」
そう言って、未だ残る生徒達を追い払った。
たった今、足の治療を受けていた男子生徒は、入り口の方に佇む人物を見て怯えた表情になり、しっかりとした足取りで保健室を逃げるように去る。巻きかけの包帯が、ひらひらと生徒の後を付いていった。跪くように治療していたリノアは、事態が飲み込めず、首をかしげた。
「あの子、すごく痛くて歩けないって言ってたのに。もう治ったのかな」
そんなわけないだろ、カドワキは心の中で呟いた。
「お前さんもケガかい?」
と声を掛けると、漸くリノアが彼の存在に気づいた。
カドワキが見ているのもかまわず、笑顔のリノアは彼の胸に飛び込む。
しばし抱き合った後、リノアは、ケガしてるの?と心配そうに頬を撫でた。
そういうのは部屋ででもやっておくれ、とカドワキはこっそり席を立とうとすると、彼女を腕に囲ったままスコールが言った。
「どういう事です?」
ホラ来た。
眉間に皺がよっている。絶対絶命のピンチのように思われたが
「見ての通りだよ。リノアだって遊んでいるより人の役に立ったほうがずっといいと思ってね」
亀の甲より年の功。カドワキの切り返しに彼はぐうの音も出ないようだ。
その隙にさっさと退場しようとしたら、にっこり笑ったリノアが彼を椅子に座らせ、自分は跪いた。
「先生に教えてもらって、包帯巻けるようになったんだよ」
そう言って、スコールの膝に手を載せて、
「痛いところない?」と小首を傾けた。
だから、そういうのは部屋でと思ったカドワキは、呆れた表情でスコールを見て驚いた。
彼の顔色は真っ青であった。
慌てて、症状を診ようと駆け寄ろうとするが、その前にリノアの手が彼の額に触れた。
熱はないかな、そう言って立ち上がり、彼の額に自分のそれをくっつけた。
ガタンと音を立てて、スコールが立ち上がる。
そして、カドワキを睨みつけた。
「俺の任務中は絶対手伝いはさせないで下さい」
そう言い放ち、ぽかんとしているリノアの手を引いて、足早に保健室を後にした。
残されたカドワキ先生は、顔を真っ赤にして笑い転げた。
やれやれ仕方ないねえ。あの子の任務以外の時間なんてほとんどないじゃないか。
でも、魔女の癒しの力は強力なんだよ。力なんて使わなくてもただそこにいるだけで。
あんなやきもち妬きじゃあ、先が思いやられるねえ、とカドワキは涙を拭った。