保健室 3
作 こたつ
驚いた顔の候補生たちの顔が、どんどん視界の後ろへと流れていく。
長身の司令官の形相に、皆道を空けて、その後ろ姿を見送る。
久しぶりに見る司令官。
そして、その後を引きずられるように小走りで付いていくリノア。
ここ最近、保健室で手伝いをしている彼女を知っている男子生徒は、今日この日に保健室にいなかった幸運を噛みしめた。
恫喝はしない。(滅多に)
しかし、鋭い目線だけで縮み上がるほど恐ろしいのだ。
それに加えて額の傷。最強のSeeD、雲の上の存在という事もあるだろうが、候補生たちは一様に畏れにも似た敬意を抱いていた。
「どうして何も言わなかった」
彼に無断で、看護士まがいの手伝いをしていた事を非難した。
とにかく、誰もいない場所に行きたかった。彼女を人目に晒したくなかった。
今は放課後で、どこへ行っても候補生たちがいる。必然的にいつもの彼の部屋に彼女を閉じこめるしかなかった。
リノアは、ずっと彼の競歩にも似た歩きに付き合わされ、肩で息をしている。
呼吸を整える為に、2回ほど深呼吸して、少し乱れた髪を耳に掛けた。
「まさかコレもやきもちじゃないよね」
自分は、ケガで傷ついた候補生たちを介護したのだ。だから、彼が妬く理由はないと思ったが、なぜスコールが怒っているのか見当も付かなかったので敢えて言ってみた。
スコールは、先ほどの保健室でのやり取りを思い起こす。
足下で跪き、上目遣いで優しく微笑む彼女。
脚に触れる指先の感触。甘い声。
そして額に触れる少し冷たい手と、暖かな額の温度差。
任務帰りの彼は、全身に傷を負っていた。例え、疑似魔法で治してあるとはいえ、あくまで応急処置にすぎぬ。溜まった疲労は、安息を以てしか解消できない。
沈み行く夕日の明かりに照らされた彼女の優しい微笑みは、それだけで彼を癒した。
だが、同時に浮かぶ映像。
嬉しそうな顔の候補生たち。こんな彼女を他の男たちも見ていたというのか。
あまつさえ、治療まで。
その間、己は自分の傷を自ら癒していたというのに。
全身の血が逆流するような感覚を覚え、眩暈がした。
この感情に名前を付けるのは、彼にとってどうでもよいことであった。
彼女に背中を向けたまま、スコールは「だったら、どうする」と開き直った。
不意に、彼の左の肩を撫でられた。
怪訝な顔で振り返ると、真剣な顔のリノアが、彼の肩を優しくさすっている。
「痛かったでしょ」
今日終わらせて来た任務は、激しい戦闘があった。
捨て身で反撃してくる敵を、ガンブレードでなぎ払う。声もなく崩れる男たち。
戦況も大詰めで、総当たりで向かってくるその攻撃をすべて振り切ることは難しく、彼はまさしく今リノアが愛撫しているその場所に、一撃を食らっていた。
利き腕ではなかったことに感謝しつつ、彼は歯を食いしばり、窮地を乗り切る。
切られた傷跡の痛みを感じるのは、すべてが終わってからであった。
肩で息をして、ケアルの魔法を唱える。
大きく息を吐いて、彼は傷ついた身体を壁にもたれかけさせた。
どういった魔法なのか分からないが、彼女の手が触れた場所から痛みが退いてゆくのを感じた。
リノアはにっこりと笑い
「おかえり」と言って、彼の手を握った。
温かい手、優しい眼差し。
涙が出そうになるのを必死に堪えたスコールは、誤魔化すように彼女を強く抱きしめた。
今、顔を見られたくなかった。
先ほどの醜い自分を、彼女の記憶から消したかった。
そんな彼を包み込むように、腕の中のリノアは彼の背中に手を回し、ぽんぽんと叩いた。
高ぶる感情のまま、彼女に口づけようとしたその刹那。
内線の呼び出し音が、静寂を破る。
「はいはい〜」と、何事もなかったかのようにリノアは受話器を取ると、すぐに振り向き
「キスティからだよ。何かすごく怒ってる」
と言い、受話器を手渡した。
呆気にとられた顔のスコールは、今日何度目かわからない溜め息を吐いた。
終
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あとがき
「再会」の中で、カドワキ先生が「何かを思い出し笑った」という一文を入れました。
その「何か」がこの話です。なんていちいち書かずとも賢明な方はおわかりですね。
最後、甘々で終わる予感がしたあなた!ご愁傷様です。ドSのこたつが、(スコを)簡単に喜ばせるはずないじゃありませんか。ックックック(悪)
それは会議の後の、お・あ・ず・けです。脳内で補完して下さいね。恥ずかしくて書けない〜。
でも、書いちゃった!某所で待つ