争 奪 その1
作 こたつ
1.図書室の彼女
図書室にいるこの彼女は多分、学園では知らない者がいないほど有名であろう。
しかし、その名前まで知っている者というのはその比ではない。
長い髪を後ろできりりと三つ編みにした彼女。
傭兵学校としてのガーデンにおいて、彼女のような才媛タイプは珍しい部類に入る。
実際、戦闘の実践の授業はほとんどが必須項目であるから、半端な体力と意志ではこの学園にはいられない。
彼女は見た目通り、戦闘は今ひとつの成績であった。だが、それを補うほどの戦術を立てる才能が彼女にはあった。
そんな彼女の今一番の関心事は・・・・・
「もう〜知らないぞ。まあ、とにかくケガしたら降参して、すぐにわたしの所に来ること!」
ここは、バラムガーデン内にある訓練施設。
ガーデン中のほとんどの女子生徒が集まり、緊張した空気の中、のんびりした柔らかい物言いで宣言したのは、先だっての魔女戦争の前に新しく魔女になったリノア。
さらさらとした長い黒髪。真夜中を思わせる漆黒の瞳。
そして、年頃の少女ならば必ず憧れる、ほっそりとしてそれでいて起伏のはっきりした女性らしい体つき。
今日の彼女は、少し困った顔で、血気盛んな女生徒たちを見回す。
その中には、かの大戦で共に戦ったキスティス、セルフィ、そして図書室の彼女の姿があった。
(何でみんないるの〜?)
普段はとても仲の良い彼女たちも、今日ばかりはものすごい闘志をみなぎらせている。
「それでは、簡単にルールを説明する」
リノアに代わり、前に立ったのは、彼女もまた先だっての戦争の際、臨時でガーデンの指揮をとったシュウだ。
「まず、これは”魔女の書”を巡る歴とした戦いだ」
男勝りな彼女の声に、女生徒たちの顔が引き締まる。
(やれやれ・・・・)
マジョノショってアレだよ?本当にいいの??
っていうか優勝者に殺されちゃわないかな?わたし・・・。
そんな彼女の心のつぶやきは誰にも届かない。
件の魔女の書とは、これ如何に。
2.古い書物たち
図書室の彼女こと、サーシャはふぅと息を吐いた。
机に広がるたくさんの書物、それは全て歴代の魔女の記述のあるものばかりであった。
ここバラムガーデンは、先代の魔女イデアとその騎士シドが創設しただけあって、一般書物もしかりだが、こと魔女に関する書物が世界でも類を見ないほど豊富に揃っている。
彼女が見ているものは、すべて貸出禁止であり、一般生徒の目に触れることはまずないほどマニアックで、常に閉架に納められている専門書ばかりであった。
もう一度深く息を吐き、凝り固まった体を伸ばしてみる。
彼女は楽しんでいた。本に囲まれるとそれだけで彼女は幸せであった。
そんな彼女を今一番夢中にさせている事、それは「魔女について」である。
魔女戦争後ガーデンの生徒となったリノアとは、話も合い二人は仲良くなった。そんな彼女は魔女の力を受け継いだ現代存在する唯一の魔女である。
しかし、魔女といっても特に知識もなく、力を使うにも不安定な彼女に、サーシャは知識面だけでもリノアの力になりたいと願った。それだけ、彼女の事が好きだった。
自分にはない明るさ、無邪気さ、そして美しさ。
憧れだった。一歩間違えば嫉妬の対象となりうるが、それを思い起こさせないほど彼女は無垢でやさしい女の子だった。そして、彼女の隣にはいつだってあの人が・・・・。
その人の事を思うと、少し胸は痛むが幸せな気分にもなる自分がいる。
サーシャは、細かい字で埋まったレポート用紙を端を揃えてトントンと机に打ち付けた。
さすがに疲れていたが、彼女はとても気になる記述のことを思っていた。
変色してボロボロになった古い書物たちに時折見られる単語。
「うーん、魔女の書ってなんだろう」
結局それに関して納得のいく説明のされた書物は見つからず、ため息を吐く。
推測するに、それは一子相伝のように、受け継がない第三者の目に触れてはならぬものではないのか?
親から子へ、魔女から魔女へ
気が遠くなるような長い時をかけて・・・
彼女の意識はしばし彼方へ行っていた。と、その時。
「三つ編みちゃんっ」
微笑みながら件の魔女様が近づいて来た。傍らには彼女の騎士殿もいる。
仲良くなった今でも、彼女はサーシャではなくこう呼ぶことが多かった。
「遅くまでお疲れ様!」
元気な声でねぎらい、そして食事に誘われた。
「お腹空いたよ。食堂行こう」
ああ、まだ片付けが・・・そう戸惑う彼女にかまわず、リノアは腕を取る。
そして、傍らにいる彼に微笑みかけ
「ね、いいでしょ」
と声をかける。ご自由に、というようにスコールはひとつ頷いたので断ることは出来なくなった。
3.秘密
夕食の時間というには少し遅い時間帯で、案の定食堂は空いていた。
それぞれ欲しい物をトレイに乗せ、同じテーブルに座る。ふと隣に座ったリノアのトレイを見やれば、パスタとサラダのみ。
「そんなんで足りるのか?」
と男らしいチョイスの大きな肉の載った皿から一切れ、彼女の皿へ載せてやった。
「へへっ、ごちそうさま〜」
にっこり笑って美味しそうに肉を頬張る彼女。
ああ、何でそんな表情が、行動ができるのだろう。
こういう所は、学習しようとしてもできないことだ。
スラリとした体型ながら、スコールは他の男子に等しく、よく食べる。そういえば、あの人も見ていて気持ちがいいほど、おいしそうに食べていたなと微笑ましい。
「今日はエスタで任務だそうだ」
まさか司令官に話しかけられるとは思わず、ドキッとした。
「帰還は2日後だ」
サーシャの表情に気づいたスコールは、手短に告げた。カッと赤くなる顔を見て、リノアが嬉しそうに笑っている。
信じられない。
SeeDレオンハートがそんな気遣いをするようになるとは!
改めてサーシャは彼女の功績に舌を巻いた。そうなのだ。リノアはこういう気遣いが出来る女の子なのだ。強引に食堂に連れてきたのも、サーシャに寂しい思いをさせないため。
だから彼も・・・
「あのっ、ありがとうございます。」
動揺は隠しきれるはずもなく、しばし俯いた。
こういうのに慣れていない。話題を逸らそうとして、先ほど浮かんできた気になる単語を思いつき、サーシャは顔を上げた。
「・・・リノア、あのね、今日調べてたのはね」
魔女の書について彼女に尋ねてみようと試みる。
だが、何故か二人は過剰な反応を見せたのだ。
「「!!!!!」」
「え?」
同時に魔女様と騎士殿が固まった。心なしか顔が赤い、いや彼の方はよくわからないが。
「リノア、知っているの?」
「・・・・・うん」
もじもじしてリノアはサーシャの望む答えを告げた。
(あるんだ!本当にあるんだ!)
珍しく興奮した表情の図書委員に、スコールは目を細めて様子を伺っていた。
「嬉しそうだな」
「そうですよ、すごい!あ、内容までは掴んでないんです。きっと歴代の魔女たちが手渡した魔術に関する秘密のようなものが書かれているんじゃないかって」
少し冷めた目の彼と赤くなっている彼女。
結局今夜はそれ以上の情報も聞けず、当たり障りのない会話をして、サーシャは片づけの為、図書室で二人と別れた。
何となしに帰っていく二人を見送る。
何か声をかけた彼女。それを受けて軽く彼女の頭を叩く彼。
そのまま仲良く手を繋いで歩く二人。
(いいなあ)
絶対!以前の彼からは考えられない出来事であった。
このように、彼女と手を繋ぐ彼。本棚の所でキスしているのを目撃したのも1度や2度ではない。あまりよく見えなかったが、どちらかと言えば彼の方が襲っていたような・・・
あのSeeDレオンハートがっ。
信じられない。一体彼に何が起こったのか。
またしても、もたげてきたあの言葉「魔女の書」
彼女の頭脳が過去に見聞きしてきたあらゆるデータを照らし合わせ、ある一つの仮説にたどり着く。
魔女と騎士との関係・・・・
※以下、サーシャの心の声にてお送りします。( )は作者の声。
二人の関係は、そう婚姻に近いわ。魔女と騎士は離れてはいけないのだもの。悪しき魔女に足りなかったものそれは騎士の存在。自分を裏切らず常に側にいてくれる男。でも、それは非常に困難を極めるのではないか?つまり普通の女では一人の男の心を人生を縛り付けることはできないだろう。男は常に冒険を女を求めているどうしようもない生き物なのだから。(いや知らんぞ)歴代の騎士のいる魔女たちは、一生騎士と離れることはない。それこそ死が二人を分かつまでだ。ああ、頭が混乱してきたから整理しなくては。つまり、第三者の目に触れず密かに魔女から魔女へと受け継がれている「魔女の書」、それはズバリ騎士を自分に留めておくテクニック(テクニック?)が書かれているものなのではないだろうか。って、私ったらテクニックっていやーーー恥ずかしい、何だかとってもはしたない結論に達してしまったかも。いやーー ごめん、許してリノア。で、何が書いてあるのかしら?知りたい、ああ、別にそれ読んでゼルさんにどうこうする気は毛頭ないの(ホントに?)違うわ、私の研究の為よ、知らない事があるのはいやなの。だから違うの〜〜〜以下エンドレス
・・・作者は言ってあげたかった。健康な10代の若い子の頭の中は7割?くらいはえっちい事で占められると。
消灯間際まで図書室で片付けをし、悶々とした気持ちで女子寮に向かう途中だった。前方に2つの人影が見えた。
「遅くまで仕事か?ごくろう」
シュウ先輩と傍らで微笑んでいるのはトゥリープ先生だ。
この二人に憧れぬ候補生はいないだろう。男子も女子も。サーシャも自然と笑顔になる。
「いえ、違うんです。ちょっと調べ物を・・・」
リノアの役に立ちたいと、常に魔女の研究を怠らない事を知っているキスティスは、優しい笑顔で言った。
「ご苦労様。スコールが肉体的な魔女の騎士なら、あなたは精神的な騎士かもね」
何気ない一言、でも。
肉体的な・・その言葉に深い意味などないはずだ。リノアに迫る危険は常に彼が目を光らせている。勿論、ガーデン内の安全には他の仲間達やSeeD、候補生たちが一体になって守っているのだが。精神とは対の言葉。そういう意味でキスティスは言ったはずである。
が、しかし、今日のサーシャには全く別の捉え方をしてしまったのも無理はない。
ずっと悶々と魔女の書に囚われていたからだ。顔をすっかり真っ赤にした彼女に、シュウは声をかける。
「どうした?具合でも悪いのか」
「いえ、あの・・・あの、ただ・・・・」
自分の仮説を知られたくなかった。
あんなはしたない事。うやむやに誤魔化して部屋に帰ろうと思っていたのに相手が悪かった。
最強の女SeeD。この二人に隠し事をしたまま解放されるはずがなかった。
「あまり自分一人で抱えるとつらいぞ、私たちでよければ話を聞くが」
「そうよ。これでも私たちあなたよりも少しだけ多くの事を経験して、乗り越えてきた自信があるわ」
キスティス教官は美しい顔に憂いを浮かべて優しく言った。
「何でもいいのよ、話してみない?」
再度言う、この二人に隠し事をしたまま解放されるはずもなく・・・・