争 奪 その2

 

 作 こたつ

 

 

 

 

4.嵐の前

 

シュウのルール説明は簡潔だった。

 

「まず、今回は武器で戦うことは禁ずる。魔法のみ。アイテムも不可だ」

「今まで学習し、体得してきたすべての魔法術を今日ここに披露して欲しい」

「施設内のモンスターはそのまま残してある、エンカウントしたら戦ってもいいし逃げてもいい」

「時間制限はなし、800時になったらスタート。先に降参した者は敗者とし、速やかに他の勝者を探して戦え」

「最後まで残った者に、権利を与える」

 

以上だ!

それを合図として、参加者(ガーデンの女子ほとんどだが)はそれぞれ散った。

さすが傭兵学校。

SeeDもその卵たちもキリキリした動きで時を待つ。

こうして、ガーデン至上最大の魔法対戦開始の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

「ちょっ・・・・その話本当なん?」

キュートな緑の瞳を見開き、帰還したばかりのSeeDセルフィ=ティルミットが机を叩き立ち上がる。

ここは、キスティスの部屋。

先ほど司令室からの帰り道、図書委員の姿を見つけ声をかけたのだが、そこで思わぬ情報を得たシュウとキスティスはそれぞれの部屋へ戻らず、こうしてキスティスの部屋に集うこととなった。そこへ鼻のきくセルフィがちょうど帰って来たという具合だ。

 

「ああ。(仕方ないな)」

任務の疲れなどみじんも見せないセルフィは、両手を広げて絶叫した。

「見たいっ!ウチ、絶対見たい〜〜〜〜」

「静かに!」

冷静さを装った二人の先輩が彼女をたしなめるが、セルフィは興奮したままだ。

「って、アンタたち見たくないん?テクニックやで、テクニック!!」

声が大きいわと、キスティスは人差し指を唇に当てた。

 

「はあ〜燃えるわ。リノアが一体どんなテク使ってはんちょをって」

 

はじめはウンザリ顔のキスティスだったが、次第に押さえていたものが顔を出しはじめる。

 

そう言われればそうね、あんなに他人に無関心だったスコールがよ。就任式の時わたしが一体どんな扱いを受けたかってそんなことはもういいの。その冷血動物だったあの男をあそこまで熱く燃え上がらせるなんて。

わたしも見たい・・・かも。

 

キスティスは次第に顔が紅潮し始めるのを感じていた。

「まあ確かに見てみたい気はするわね」

それまで特に発言の無かったシュウがちくりと牽制する。

「とは言え、魔女の書なるものが存在するならば、簡単には見せられないんじゃないか」

「まあな!リノアの気持ちを無視するわけにはいかんやろな。でも・・・」

そこまで言って、セルフィは声をひそめる。

「でも、リノアがいいって言ったら話は別や!ウチ早速リノアに聞いて」

「スコールが明日から任務なのよ。今頃自分の部屋に・・・・いるわけないでしょ」

そこまで言って、ふと3人は黙り込んだ。

 

しばらく会えない二人、出発までの逢瀬を楽しむ二人、そして夜は始まったばかり。

本当はイヤなのだ、友人のそういう場面を想像するというのは。特に女の子の場合。

しかし、今宵の話題は「魔女の書」。無口で人に無関心だったあのスコールをあそこまで情熱的にしたリノア。どうしてもよからぬ方向に思考はさまよう。

 

「なあ〜やっぱりウチ見てみたいわ」

「そうねえっ」

「せやろ?キスティ。だってウチらだって恋する女の子なワケやし」

「ちょっと待ってくれ」

乙女モードに入りつつあった二人を、シュウはたしなめる。

「仮にリノアの了解を得てその書物を見たとしよう。全員でだ。だが、皆がその内容を知ってしまった時点で魔女の書の存在意味がなくなるんじゃないのか?」

「そりゃそうだわ。皆が知ったらそれはもう秘伝でもなければ秘技でもなくなる」

「ちょっ・・・キスティ!秘技って、ヤらし」

「何よっ。変なところつっこまないでよ」

いきなり言い争いになる二人に、シュウはニヤリと笑って提案する。

「そこでだ・・・・」

 

 

 

5.けだるい朝・熱い女たち

 

翌朝、早くに出立したスコールを見送ったリノアはSeeD3人娘に拘束された。

場所はまだ混み出す前の食堂。

「おハロー。みんなも早いね。ってどうしたの?」

 

昨夜は寝不足だった。そのまま出て行った恋人の尋常ではない体力を少し恨みたくなった。

「ちょっと眠いんだ、わたし」

髪をかき上げ、ふぅとため息を吐くその仕草。けだるい雰囲気。

(リノア・・・一応ココ学校なんだけどな)

朝の食堂に似つかわしくない彼女を見て、3人は少し顔を見合わせ、用件を切り出した。

 

「図書委員から話を聞いたんだが」

シュウの言葉を聞いて、ぴくりとリノアが反応する。

「単刀直入に言うわ、リノア!ウチらその書物が見たいねん」

 

(え〜)

だめだよ、だってママ先生直々の本だよ。歴代の魔女が書き記したとおっても貴重な本なんだよ。だって内容が・・・・

色々言いたかったが、とにかくリノアは眠かった。

 

「そうなんだあ」

「もしリノアの許可が得られるならば、希望する者の中でたった一人だけ読むことができる、というのはどうだ?」

眠くて途中の話が飛んでしまっている。リノアは早く話を終わらせたかった。

「(よく分かんないけど)いいよ。魔女の書だからさ〜、魔法が一番強い子にしよう」

 

「よっしゃ〜〜、そう来たか、リノア。ふふふ、燃えるでえ〜勝負や」

一番の元気娘が雄叫びをあげて、声が食堂内にこだまする。ただでさえ目立つこのメンツなのに、これで皆の注目を一心に浴びてしまった。

「セフィ、ちょっとあなた落ち着きなさい。それじゃあ、場所とかのセッティングは任せて頂戴」

取りあえず解放されたリノアは、緩慢な動作で立ち上がり、軽く手を挙げ食堂を出て行った。

(セッティングって何だろ?)

自分が何か大変な事を言ってしまった気がしたが、眠くて考えるのを諦めた。

 

「というワケだ。許可が下りた所で、あとは希望者だが・・・」

 

 

三つ編みちゃんの研究から端を発した一連の騒動。そう、それはまさにガーデンをゆるがす騒動といっても過言ではなかった。大々的に呼びかけた訳でもないのに、生徒から生徒への口コミによってあらゆる憶測が飛び交い、皆我こそはと名乗りを上げた。あの司令官を夢中にさせたリノアが持っているという書物。年頃の乙女ゴコロをくすぐるアイテムには違いなかったが、元々SeeDになりたくて入学した生徒ばかりだ。たちまち彼女たちの戦闘本能に火を付けた。

 

 

6.戦闘開始

 

「もうすぐ800時だな」

そう言って、シュウは手元の時計を見た。

「じゃあね。私も参加してくるわ。で、アナタは審査員か何かなの?」

そういえば、シュウはどうするのだろう?キスティスは疑問に思った事を口にした。

 

「ああ、アタシ?無論参加よ」

「!!」

 

ちょっと待って。アナタ今まですごく冷静に私やセルフィを見てたわよね。生徒達が向上心を持って立ち向かうのも訓練になっていいとか何とかエラそうに言ってなかったっけ?いえ、言ってたわ。それが何よっ。自分では興味なさそうな顔して

 

・・・何て人なの?

 

時計は800時を指した。

合図はない。エンカウントした時点で戦闘開始だ。

友人同士の二人は、クールな笑顔を見せ互いに向き合った。

 

「手加減はしなくてもよかったのよね」

「勿論だ」

 

 

三つ編みちゃんことサーシャは走った。あちこちで魔法が弾ける音がする。今回は苦手な武器の使用は認められていない。彼女にも勝機は残されている。持てる魔法は限られているから無駄なエンカウントは命取りだ。

かといって、モンスターも徘徊しているから、あまり人気のない場所もダメだ。

考えて、考えるのよ。私は見たいの。知らないことがあるのはイヤなの。

 

 

 

戦闘が始まったようだ。

リノアは施設内の通称ひみつの場所で、愛犬のアンジェロと一緒に座って勝者(とケガ人)が来るのをのんびりと待っている。手にしているのは件の書物だ。

実は、リノアは少ししか読んでいない。内容が内容だったのだ。スコールに言ったら、苦笑いされてしまった。

今度やったげるよ、と言ったら・・・思い出しながら、彼女は赤くなる。彼は若いから火がつきやすいのだ。

まあ、それはともかく。

何でこんなもの見たがるのか、彼女には解せなかった。

というのも、リノアは知らなかったのだ。女の子たちが盛大な勘違いをしていることに。

 

 

 

SeeDらしく上級者コースを選んだセルフィは、景気よく使ってしまったため少なくなってしまった魔法に頭を抱えていた。

「マズイよ。アルケノダイオスちょっと遊んでやったら結構強いんだもん」

彼女の最大の難関はキスティスであった。シュウはあんな調子だし、(参加せんのやろな)と勝手に思っていた。

もしここにキスティスとエンカウントしたら・・・

考えただけで歯ぎしりしたい思いだ。

と、そこへ誰かのうめき声が聞こえた。はっとしてその声の方向に向かいそして唖然とした。

 

力尽きて倒れるシュウとキスティス。

「大丈夫なん?」と駆け寄るが「来ないでっ」という二人の声に足が止まる。

 

「まだ終わってないわ」

「ああ」

 

・・・・なんや、大物二人がつぶし合いか。

 

笑い出したくなる自分を押さえて、(そんなん見られたら殺されるわ、二人に)セルフィは踵を返し、リノアの元へと急いだ。

♪いただきや、いただきや〜テクはあたしがイタダキや〜〜〜〜あはははは

人生最大のチャンス到来。

勝利の美酒に酔うセルフィだった。

 

 

 

その頃、食堂では一斉に消えた女生徒たちに、不審がる男子生徒たちが集まっていた。

珍しく同じオフの日程のアーヴァインとゼルは、同じテーブルで朝食をとっていた。

「ねえ、今日は女の子たち見ないけどさ〜何かあるのかい?」

少ない競争率で余裕で勝ち取ったパンを山ほど抱えたゼルは、顔を上げた。

「?そういやあ。って珍しいよな。ま、俺的には助かったけどな」

そう言って嬉しそうに戦利品を頬張った。熱いコーヒーを飲みながら、アーヴァインはある人を目で捜す。

「セフィ、今日はオフのはずなんだけどな〜、デート誘ったのにダメの一点張りなんだよ」

と、その時、隣のテーブルにいた男子の候補生が話しかけて来た。

「あの・・・SeeDキニアス、自分は噂を聞いたんですが・・・」

「ん〜?何ナニ」

「いえ、あの今訓練施設で女の子たちがあるものを巡って戦っているそうです」

「?」

戦う?あるものって何だろう、アーヴァインは穏やかな笑顔で、候補生に続きを促す。

「何でもリノアさんが持っている・・・いえ、あの」

少し言いにくそうにしている彼の言葉を辛抱強く待つ。さすが聞き上手な男である。

「小耳に挟んだだけなんですが、男を魅了するテクニックの本を争っているらしいです」

 

「「!!!!!」」

 

一斉に男子生徒たちがこちらを向く。目は驚愕のため大きく見開き、心なしかギラつく視線を向けて・・・

それも一瞬の事で、表面上は何事もなかったかのように静まった。

だが、まだまだ10代の若い男子たちである。頭の中は沸騰しそうな程、色々な妄想が渦巻いていた。

 

(テクニックって・・・じゃあそれ読んで実践するって事なのか)

(そんなに僕のこと・・・そこまでしなくても僕の心は君のものなのに。ありがとう)

(リノアさんってあの司令官のだよな。普段すごく怖い人なのに彼女には甘いんだよな)

(カノジョがゲットしてきたら、どうしよう〜)

 

まあ、どれも似たり寄ったりなものだったが。

まるで花の咲き誇る春のような空気になった食堂であった。

 

 

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