「争奪」はこちら!
web拍手お礼文より
争奪 その後 ver.GIRLS
作 こたつ
1.秘密の会合
「なあ、結局魔女の書って何だったん?」
任務のない時恒例の、女SeeDだけの秘密の会合、とどのつまりお茶会が、セルフィの部屋で行われていた。
誰の部屋と決めている訳でなく、言い出した者の部屋が、そのまま会場となる。
今日は珍しく午後のお茶の時間に、茶会は開かれた。偶然空いた三人一緒のオフタイム。
所狭しと置かれた端末、撮影機器、その他怪しげな機械に囲まれ、「少しは片付けなさいよ」と眉を顰めるキスティスは、突然振られた話題に顔を上げた。
あの時、彼女は親友のシュウと対決した。
共に戦った事はあれど、敵対したことはなかったので、実力はどちらが上か判断はできかねたが、勝負がつく前に図書委員に勝利を持っていかれ、結局引き分けとなってしまった。
いつも毅然とした男勝りな友人が、実は「魔女の書」を密かに見たいと思っていたという事実に笑い出したくなったものの、それでも、自分にだけは言ってくれればよいのにと思わずにいられなかった。
(ホント、意地っ張りっていうか、見栄っ張りというか)
コンピュータ用の椅子に座るシュウと目が合う。
(あの時)を思い出すと、今もお互い気まずさ以上に恥ずかしさが込み上げる。
真剣勝負であった。
しかも、取り合った物は魔女のテクニックが書かれている(らしい)書物。
本気を出せば出すほど、己の女としての欲望を晒す結果となった。
あれから二人の間で、この話題を出したことはない。
お互いに早く話題を変えたいと思っていたら、紅茶を一口飲んだセルフィが言った。
「うちな、三つ編みちゃんに聞いたんよ」
「「それでっ?」」
即座に返って来た反応に、セルフィはカップを落としそうになるが、先輩二人の真剣な表情に気圧され、話の続きをする。
「何かなあ、内容なんかは教えてくれへんかったんやけど」
こう言ったんや、そう言うと、キスティスとシュウは身を乗り出した。
「私にはまだ必要ありませんでした、やて」
2.聞き込みと推理
どういう意味であろうか。
図書委員が仮定した「魔女の書」の内容は、魔女が騎士を自分に引き留めておくテクニックを歴代の魔女が書き記し次の代に伝えるもの。
しかし、その仮説を導き出した本人が、実際書に触れ、「自分には必要ない」と判断したという事はどう捉えたらよいのだろうか。
「という事は、私たちの想像(期待)していた内容ではないという事か?」
「ウチもわからないんよ」
黙って聞いていたキスティスが、遠慮がちに発言する。
「でも、(まだ)必要ないって言ったのでしょう。これから必要になるって意味がないかしら」
おおっ、とギャラリーから嘆息が洩れる。
セルフィは、三つ編みちゃんとのやり取りを思い起こす。
たわいもない話題から入り、ゼルの話で盛り上げ、そしてごく自然に魔女の書についての話題に触れた。
さすが、伝説のSeeDの一人である。
誘導尋問は得意分野であった。まあ関係ないのかもしれぬが。
あまりにさりげなく話題転換され、図書委員は少し顔を赤らめて、例の発言をこぼしたのである。
はっとして、己の失言に気づいた彼女は、別に学園長夫妻の想像なんて、あ本当に何でもありません〜と意味不明の言葉を残し脱兎の如く去っていった。
それ以来、目を合わせようとしてくれず、今に至る。
3.論争
「そういやあ、学園長夫妻がどうこう言ってたな。想像なんて、どうとか」
学園長夫妻というのは、先代の魔女と騎士である。
敵として対峙したイデアだったが、長い黒髪、深くカットされた襟元から覗く白い肌、そして成熟した女の匂い立つような色香で、女である自分たちも知れず魅入ってしまうほどであった。
(まあ、なんであんな小太りのおっさん選んだんかは知らへんけどな)
それはさておき。
「ご夫妻の想像か。一体何を想像したんだろうか、それによって内容が大体推測できると思うが」
「例えば、夫婦生活とかを想像したのかしら」
「ちょっ。キスティ、何かヤらしすぎ!」
何よ!茶化さないで、とデジャブを伴ったやり取りを見て、ため息を吐いたシュウが言った。
「図書委員の態度、今は必要ないという発言、学園長夫妻との関連、他に何か要素はないのか」
それを聞いた、キスティスは、そういえばと何かを思い起こす。
「リノアが言ってたのよ。何でこんなもの見たがるのかわからないって」
彼女たちは、どうしても結論を己の望む方向に持って行きたいのだ。
「魔女の書」は乙女の夢でなくてはならぬのだと。
図書委員の発言を解析すると、強引ながらそちらに結論を持って行くことができそうであった。
しかし、今のキスティスの発言で、また迷路から出られなくなった。
ふと窓を見ると、すでに夕刻の時間が近い。
「場所を移そう。食堂に行くぞ」
了解!と全員敬礼でもしかねない、きびきびした動きで席を立つ。
キスティスは足下の機材に足を取られそうになり「少しは片付けなさい」と忠告したが、セルフィからは了解の声は聞かれなかった。
4.憧れ
女子寮から食堂への道のりを、任務中ではないのに背筋を伸ばし歩いていく女SeeDたち。
きびきびした動きの彼女たちに、すれ違う候補生達は羨望の眼差しで、敬礼をしてその後ろ姿を見送る。
廊下の窓から、夕日が差し込んでおり、何気なく外に視線を向けたセルフィは、何かを見つけ、二人を呼び止める。
リノアとはんちょだ!
三人は、二人を観察するため、窓辺へと集う。
そこは、誰の目も届かぬ切り取られた空間であった。
この窓から見えるという事以外は。
ベンチに腰を下ろす二人。
スコールの背がなぜか小さく見えるのは、背もたれに身を預け寝ているのかもしれない。そういえば、しばらくドールで任務があったはずだ。いつの間に帰還したのだろうか。
三人に背を向け座っていたリノアだったが、横を向き彼の肩に手を伸ばした。
そのまま、彼の肩を抱き、その髪に顔を埋めた。
甘える仕草。
肩にあった手は、彼の髪に差し入れられ、優しく梳く。
それでも起きない彼の身体を、少し強引に自分の方に倒す。
ベンチの背で、彼の様子は見えない。
でも、俯くリノアの様子から、膝の上に身体を横たえたらしいと推測できる。
幸せそうに眠るスコールが想像できて、観客たちは一様に顔を赤らめる。
「なあ」
「そうね」
「行こうか」
魔女の書の内容はわからない。
だがそんなものを見るよりもまず、人を愛し、相手を思いやり、そして慈しむこと。
時には子供のように、また母親のように。
まずは、そこから始めなければならぬのだ、と。
すっかり毒気を抜かれた彼女たちは、互いの顔を見合わせ苦笑いした。
いつか好きな人ができたら、リノアのように愛することができればいいと。
「はんちょがリノアにぞっこんなのもわからんでもないな」
「まあな」
「アナタの場合、まずは部屋を片付ける事から始めたら?」
アレは仕事で使うから仕方ないんや、と膨れるセルフィを見て、二人は笑った。
終