「争奪」はこちら!
web拍手お礼文より
争奪 その後 ver.BOYS
作 こたつ
「ねえ、ゼル。結局リノアの本って何だったかわかったかい?」
先ほど、緊急の任務が入って飛んでいったセルフィにもらったパンを頬張っていたゼルは、げほげほとむせた。あ〜あ〜気をつけて、とのんびりとした声でアーヴァインはコップの水を差し出す。
ガーデンの女子、ほとんど全員が争ったという本。
結局誰が勝者だったのか、それとなくセルフィに尋ねたものの、彼女は憮然として答えようとしなかった。
他の女子も然り。
情報源の候補生は「男を魅了する本」と言っていた。内容は想像するしかないものの、多分実際の内容とさほど違わないのであろう、と彼は思う。
女はとても好奇心旺盛である。特にこの年頃の少女は異性に対してそれはいかんなく発揮される。そのエネルギーを何か他の物に転化できたならきっと、世の中の全てを女が握ることが可能であろうに。
まあ、それが出来るのにしない所がかわいいんだけどね。
ある特定の少女の顔を思い浮かべ、彼は微笑む。
そして、隣のテーブルで遅い夕食を取っている司令官に視線を移した。
会議が長引きそうなので、先に食事を済ませようと、ここ食堂に皆集まっている最中であった。
彼は、仲間の中で一番変わったと思う。
ろくに挨拶もせず、握手を求められても、返そうともしなかった彼。
本当は人の面倒を見るのが嫌いではないくせに、そんな自分を苦々しく思っている。
普段は落ち着いた雰囲気のアーヴァインであったが、魔女暗殺の時には、彼の前で醜態をさらしてしまった。
狙いを定め引き金を引く。
いつもなら、考えずとも体は動くのに、ここ一番という時に腰砕けになってしまった。
そんな彼を激励し(彼にはそう思えた)、吹っ切れさせたのも、スコールであった。
時々、「今日は足が震えないのか」と何の感情もない声で冷やかされるのだが。
軽口を叩くくらいになったスコール。そんな風に彼を変えたリノア。彼女の持つ魔女の本。
アーヴァインは、込み上げる好奇心が抑えられず、司令官に尋ねてみた。
「ねえ、リノアの本って」
たちどころに彼は反応した。
「無駄口を叩かず早く食え。まだまだ片付いてない仕事は山ほどある」
そう言って、眉間に皺を寄せた。
あれ?
何かを感じた。いつものスコールではないと。
もしかして彼は。
彼は照れている。
アーヴァインはそう確信した。
多分自分以外の誰かが見ても気づかないだろう。だが、彼はいつもとは違うと感じた。
その時、ようやく落ち着いたゼルが言った。
「結局図書委員が勝ったんだぜ」と。
それを聞いたアーヴァインは、彼の言う少女の姿を思い浮かべ驚愕した。
図書室へ行くと必ず会う彼女。禁欲的に髪を三つ編みにし、頭のよさそうな大人しい彼女を。
その図書委員が他のSeeDを押さえて勝ったということより、その本を見たがったということに驚いた。
そして、あることに思い至り、ゼルに言った。
「っていうか、ソレって君の彼女じゃない」
魔女戦争の後、二人はつきあい始めたらしい。見かけの割に純なゼルと図書委員のカップルは端から見ていても爽やかさすら感じるほど初々しかった。今はどの程度の付き合いなのかは分からないが、魔女と騎士のそれより遙かに大人しい付き合いなのだろうと思っていたのに。
「じゃあ、君はそのテクニックの手ほどきを受けたワケ?」
アーヴァインの想像するリノアの本はこうだった。
魔女であるリノア。どうやらその本はママ先生こと元魔女イデアから受け継いだものらしい。これは彼の女友だちに根気強く聞き出していた。そして、その話題を振られて照れる?スコール。本を欲しがる女生徒たち。
「となりのカノジョ」愛読者として、どうやっても導かれる結論。
男を惑わすテクニックが書かれている。(スコール←惑わされた男)
彼は、ゼルの顔をまじまじと見つめる。
子供だと思っていたのに。何か裏切られた気分であった。
ゼルは意味不明ながら、言葉の端々に感じる冷やかしというより、猥談めいた響きに不快感を持った。
んだよ、テクニックって変なことを言うなよ。スコールが怖い顔してんじゃねえか。
彼とて、最強のSeeDの一人であったのだが、それは攻撃力特に力が他を抜きん出ているからであった。
彼が苦手とするもの、それは魔法である。
皆が楽々ドローしているのに自分は失敗の確率が高かった。
今でも、リノアにこっそり分けてもらっているのは、司令官には内緒だ。
そして、その威力も弱く、仕方なく補助や回復魔法を使用することはあるものの、滅多に使うことは無い。
彼はそれがとてもコンプレックスであった。
だから、ゼルは「彼女」が魔法対戦で学園一の座を奪ったと聞いて、とても喜んだ。
彼女にだったら、誰にも知られず魔法の手ほどきを受けられると。
現在密かに彼女の指導を仰ごうと頼んでいるのだが、なぜかサーシャは顔を赤らめて「あれはまぐれです。無理です」と言って断られている最中であった。
だから、ゼルはアーヴァインの台詞に不快感を持った。
何だよ、俺だってなんとか苦手なの克服しようとは思ってんだよ、と。
スコールの表情が、未熟な魔法の使い手の自分を責めている、そう彼は錯覚した。
それにしても、いつも自分を子供扱いして余裕のあるアーヴァインがこの様に狼狽えている姿を見ていると、少し悪戯心が湧き上がってくる。
女にもてるというのを自慢にしているが、何のことはない。女子が話しやすいから、声を掛けられるだけ、という事に気づいてないのだ。
彼は滅多にない機会に、すこし小馬鹿にした態度で、適当に言ってみた。
「まあな。そりゃもうスゴかったぜ(魔法が)。これからの(魔法を使う)俺を見てびっくりするなよ」
食堂には数人のSeeDと候補生がいた。時間も遅く男子ばかりであったが、ゼルの発言の後、波を打ったような静けさに包まれた。
異変を感じたゼルは、周囲を見回し言葉をなくす。
そこにいる男達全員が彼を見ていた。
まさに、恐怖におののくような顔、そう言っても過言ではないほどに。
彼の本意とは別に、この発言は、この場にいるもの全てに衝撃を与えた。
アーヴァインを見ると、わなわなと手が震えている。
状況が掴めず、取りあえず落ち着こうといつも冷静な司令官を見やると、何と!その彼も目を見開いて驚いている(ようだった)。
お前ら、一体どうしちゃったんだよ。
ゼルは、一連の魔女対戦で女子が「何」を争っていたのか知らなかった。
純粋に学園一の魔法使いを決める、ただそれだけだと思っていたのに。
違うのか?
スコールは非常に不機嫌であった。
特に、リノアの事が男たちの話題に上るのを嫌がった。自分だけのもの、そんな独占欲に嫌気が差すが、ダメなものはダメだった。
だから、アーヴァインの口から彼女の名前、あまつさえ「魔女の書」と彼女が言っていた本についての話題が出た時は、持っていたフォークを曲げるほど手に力が入った。
お前たち、一体どんな本だと思っているんだ。
男として唯一目にしている彼としては、彼らの勘違いに苦々しい思いだった。一言言ってやりたいものの、リノアに固く口止めされていたので我慢し、深く息を吐いた。いずれにせよ、読んだ後の自分たちの醜態を思い起こすことになるので、とても言えなかったのだが。
だが、そんな努力も虚しく、結局彼はその本を見た時の事を思い出す羽目になる。
湯上がりでほんのり桜色の頬を膨らませて、彼が手に掲げた本を取り返そうと必死になっている彼女。
本を読んでいる自分の耳元で囁く声。
薄暗い明かりの中で、彼のシャツのみを纏い、誘うように笑う姿。
いかんっ!
彼は、任務中や学園で仕事している時でさえ、彼女の事を考えるのを極力避けていた。まあ無駄な努力であったのだが。そういえば、彼女の顔を見たのはいつだったろう。触れたのはいつだった?
そう思った途端、禁断症状が出てきそうになり、彼は理性をかき集め必死でそれを押さえる。
コイツらが、くだらない事言うから。
少し座ったような目で、ぎゃあぎゃあ言い合う二人を見据える。
「ゼル!子供だと思っていたのに〜。ひどいよ」
「何だよ、ワケ分かんねえな。ああ、そうだよ。俺だって(魔法が)うまくなりたいと思ってるんだよ」
「!!ちょっとみんな、聞いたかい?」
「バッバカ。人に言うなよ」
・・・・いい加減にしてくれ。
ガタンと席を立った司令官は、騒がしい二人に言い放つ。
「お前たち、随分余裕があるな。次の任務を楽しみにしとけよ」
終