この話は、書庫にある「決意」の頃のスコリノです。
魔女戦争から10年後くらいを設定しました。
彼らの娘の視点からみた話ですので、お嫌いな方は回避お願いします。
もうひとつの父と娘
作 こたつ
窓から差し込む朝日。
彼女は、ぱっと目を開け、目覚まし時計のスイッチを押す。
寝起きは幼い頃からよかった。彼女はその時計の呼び出し音を聞いた記憶がない。
最近彼女のために用意された部屋。
着替えを出して、速やかに身に纏う。脱いだ寝間着は洗濯のため大雑把に畳み、持ったままリビングに向かう。
部屋に入ると、すでに朝ご飯のいいにおいがする。
ふと台所を見やるが、母親の姿はない。
彼女はやれやれと首を振る。代わりに迎えたのは彼女の父親。
彼女はにっこりと笑って、元気に挨拶した。
「おはよう、お父さん」
髪は寝起きのままであったが、すでに仕事用のシャツに着替えた彼女の父親は優しく微笑む。
「おはよう」
普段から忙しい父であったが、昨日は珍しく家に帰ったようだ。
父のいる朝は、必ず母は寝坊する。
だから、寝起きの悪い母の代わりに、よく父が朝食を作ってくれる。彼の方が上手であるとは口が裂けても言えないが、彼女は父との二人っきりの静かな時間がとても好きであった。
手際よくナイフを扱う姿をじっと見る。
彼の手の中で、赤い林檎がかわいらしいウサギの形に変わる。
少し眉を上げて、どうだ?とばかりに悪戯っぽく微笑む父。
彼女は親指を立ててウインクした。
背が高く、細身なのにがっしりとした体つき。
額の傷があるものの、父はとても美しい顔立ちだと思う。
彼女は、厳格ながら娘には優しい父親が大好きであった。
残念ながら、容姿は母親に似てしまったが、性格は父ととてもよく似ていると思う。
実際、よく彼女の母親が頬を膨らませて言う。
「ほんとにもう、そういうとこスコールにそっくり」
彼女にはまだ幼い弟がいる。そちらは、父にそっくりながら、性格は母そのものであった。
甘えて姉を離さない弟が起きる前に、学校へ行かねば遅刻してしまう。
「お父さん、お腹すいたよ」
カウンターに手を掛け、背伸びして彼女は言った。
父は一つ頷いて、用意した朝食を並べるよう、彼女に手渡す。
熱いから気を付けろよ、という言葉とともに。
今朝は何の話をしようか。
彼女はいつだって父と話をしたかった。なのに、時間がそれを許さない。あまりにも多忙な父親。
だが、彼女の敵はそれだけではなかった。
話し好きな母と甘えんぼの弟。
愛情表現が苦手な彼女は、いつだって敵の攻撃に弾き出され、我慢の憂き目にあった。
しかし、朝のこんな時間は彼女に幸せをもたらす。
父と二人っきりの静かな時間。
彼女は、学校の事、ともだちの事を嬉しそうに話した。熱いコーヒーを飲みながら、微笑む父。
本当は、ガーデンの初等部に行きたかった。
父のいる学園。
なのに、幼い彼女の決意は、意外にも父の反対によって見事玉砕してしまった。
母親が魔女だということは知っていた。
父が母を守るために必死で戦っているという事も。
だから、自分も力になりたかった。ガーデンで勉強して、体を鍛え、強くなりたかった。
それなのに、珍しく強い口調で、娘の言葉を遮り、
「お前たちも守るから、心配しなくていい」
と言って、父親は泣き出す彼女の頭を優しく撫でた。
威厳のある父の姿に、幼い彼女は諦めざるを得なかった。
廊下をバタバタと走る音が響く。
程なくドアが開き、息を切らせた美しい黒髪の女性が入ってきた。
これが、彼女の母親だ。
おはよう、と明るく笑い、まず父にそして最後に娘の頬にくちづけを落とす。そして、椅子に置いてあった彼女の寝間着を掴み、「綺麗に畳んだね」と褒めてくれた。
お母さんよりも上手にできるんだけどな、と彼女は口をとがらせる。
やれやれ、父との静かな時間もこれまでかと、少女は深いため息を吐いた。
しかし、母の登場でその場がとても明るい雰囲気になる。見れば父は先ほどよりもずっと柔らかい笑顔になったようで、少しだけ彼女は拗ねた。
そんな娘に構うことなく、食事の終わった娘の髪を梳かしだした。
あまり構わない彼女の代わりに、丁寧にブラシで梳く。優しく声を掛けながら。
撫でつける優しい指の感触が、心地いい。
普段あまり子供扱いされるのは好きではないが、こうして母に髪を整えてもらうのは嫌ではなかった。
さらさらとした指通りの良い黒髪は母譲りだ。
次第に輝きだした髪の娘を見て、父親は少し眩しそうに見つめる。
蒼い瞳。母は海の色だと言った。
彼女には同意しかねる事が多かったが、それには賛同した。
小さなレディは、少し頬を染めて、ちいさなおねだりをする。
「お父さん、今日は送っていってくれる?」
ガレージに止めた車にエンジンを掛ける。
そして、玄関に置いた荷物を受け取りに父が戻ってきた。
またしばらく出かけてしまうのだろうか、少し大きな荷物に、彼女は落胆する。
そして、ちらりと両親の姿を見てため息を吐く。
玄関のドアの影で、出発前の長いながーい挨拶を交わす二人。
(もうっ、いい加減にして)
結婚すると、みんなこんなに長い時間挨拶するものだろうか?一度先生に聞いてみようと思った。
彼女はわざとらしい咳払いをして、注意を促す。
気付いた二人が、抱き合ったままこちらを見て笑った。
肩まで伸びたさらさらとした黒髪、白い肌に漆黒の瞳。
頬を膨らませ、腕を組んだまま拗ねている愛娘の姿に。
「ますます誰かに似てきたな」
「でも、中身はスコールなんだよ」
だから、二人だけで仲良くしないでよ、と彼女は勢いよく二人に飛びついた。
終
あとがき
ぱっと思いついて一気に書き上げたもの。ライバルは母親ですか。
名前がないので書くのが辛い。まあ、二度と出てくる事はないからいいか。