First kiss

作 こたつ      

2.戸惑い

 

 

ガーデンはミサイルの回避に成功する。

シドの秘策は功を奏した。しかし・・・

 

 

ガーデンを救おうと、スコールは奮闘する。とにかく、MD層最深部の「何かの制御スイッチ」を発見する事に全力を注いだ。

ところが、地下に潜むモンスターを倒し、ようやくスイッチを見つけたものの、次に「何」をすればいいのか皆目見当が付かなかった。

ここから先は、自分で考えなくてはならぬ。

指示した本人ですら、どういう目的のスイッチなのか分からないというのに。

つくづく命令された事しか従えぬ、己のSeeDとしての限界を思い知らされた。

 

キスティスとリノアが、縋るような目でスコールを見ている。

彼は心がざわざわするのを感じた。

何をすべきか分からないのは彼も一緒だ。なのに、何かを期待されるというのが耐えられなくなった。

 

どうして俺が

俺だって何も知らないんだ。そんな目で見るのは止めてくれ。

 

 

 

 

そして今。

飛び立ちミサイルを回避したガーデンは、操作の方法も分からず、海上を当て所のない航海に出た。

つまり、波任せ風任せという遭難にも近い状態で海を漂っている。

 

 

 

最後まで戦おうとするシドを見て、心の底から湧き上がったあの感情は、何と名を付ければよかったのだろうか。今までのスコールの中にはなかった感情。

 

いや。もしかして元々あったかもしれぬのに、忘れていたもの。

 

自室のベッドに横たわり、彼は髪を掻き上げた。

窓から外の世界は、非日常的な光景が広がる。

もう見たくもなかった。一体どれほどの日数が経ったのか数えるのも億劫であった。何も進展せず、時が止まってしまったような錯覚を覚える。

彼はこんな時間が嫌いだった。

何もする事がないと、考えたくない事を思い出してしまう。

 

収監されていた巨大な監獄から脱出し、ガルバディア兵を振りきり監視の目をかいくぐってガーデンに戻ってきた。死と隣り合わせの緊迫した状況では、何かを考えずとも体が勝手に動いた。

 

しかし、学園長を見つけ、MD層最深部でスイッチを発見した途端、目的を果たしてしまった彼は、どうすればいいのか分からなかった。

それなのに、他人から頼られる状況。

 

どうして俺なんだ。

 

再びこの疑問が湧き上がり、彼はその重さに耐えられなくなる。

だからこうして、全てを放棄し自室に籠もった。

 

それなのに、なぜだろう。

何だか満たされぬのを感じる。ぽっかり空いた穴を何かで埋めたい、そんな渇望。

 

 

その時、ドアが開く音がして彼は顔を顰めた。

カギをロックしてない事に舌打ちしたい気分であったが、誰が来たのか分かっていたので開き直った。

忠実な家来を伴った侵入者は、小さな足音をさせ、背を向け横たわる彼の傍まで歩いてきた。

ベッドの空いた所に腰を下ろし、手を突いて覗き込む。

軋む音と、長い黒髪が流れる乾いた音がしたが、彼は敢えて無視した。

 

何の断りもなく入り、男の部屋だというのに警戒心の欠片もない彼女。

初めて部屋に来た時は、驚き焦って知れず不機嫌な態度を露わにしたが、海上を漂っている間、頻繁にこうしてやって来る彼女に、諦めの境地であった。

 

「わっ」

不躾な視線に耐えきれず目を開けると、不意を突かれたリノアが驚きの声を上げる。

「ノックくらいしろ」

「起きてたの?かわいい寝顔だったのにな」

眉間に皺が寄ったのを見て、リノアは姿勢を正し背中を向けた。

怠そうに身を起こしたスコールは、深い溜め息を吐く。

 

一度はっきり言わなくては分かって貰えない。何よりも今は放っておいて欲しかった。

誰にも会いたくない。

 

彼は意を決し、男の部屋に平気で足を踏み入れる彼女を諫めようとしたら、目の前に紙袋を突きつけられた。

袋の横から、にっこり笑ったリノアが顔を出す。

 

「お腹空いたでしょ。一緒に食べようよ」

 

そう言えば、と夜から何も食べていない事に気付く。

先程の勇みも忘れ、袋から取り出したサンドウィッチを大人しく受け取った。

「食堂のおばさんに頼んで作ってもらったんだ」

そう言って、自分も美味しそうに頬張った。

 

なぜだろう。リノアといると調子が狂う、と彼は思った。

実際彼女の発言は、彼を苛立たせるものが多い。反発しあった事は一度や二度ではない。

シドとの対話中にも、それは感じた。

 

他人との繋がりを拒んでいたのは、面倒くさかったからだ。頼ることができないのならば、頼られる事を拒むことは何の不都合もない。だから、彼は全てを自分だけの力で成し遂げようとしてきた。

手助けなど必要ない、と。

 

なのに、スコールは彼女を拒絶しなかった。

 

 

不意にリノアが言った。

「食堂のパンってゼルの大好きなものなんでしょ?」

スコールはハッとして彼女を見た。リノアは、少しだけ寂しそうな顔で、スコールの方を向く。

 

彼は失念していた。

チームに分かれて行動していた仲間たちの事を。

ガーデンがこんな調子で、未だ彼らの安否が掴めない事にようやく気付く。

 

いや、本当は知っていたのに、考える事を回避していたのだ。

 

全てを投げ出し部屋に籠もるスコールを諫める訳でなく、リノアは遠回しに彼を現実に引き戻す。

優しい心遣いと共に。

「帰ってきたら、食べさせてあげようね」

そう言って、残りの入った袋を彼の手に持たせた。

 

「まあ、コレは助けていただいたお礼って事で」

 

 

スコールは戸惑い始めた。

今まで彼が考えていた事は、本当に正しかったのか?

大人になれば、人は一人で生きて行けると疑いもしなかった。

目の前には優しく微笑むリノアがいる。

前に彼女を助けた事に対する謝礼だと言う。あれは依頼人を守る為、当然の事だったというのに。

 

放っておいて欲しいと思う反面、その優しさに縋りたいと思う自分がいる事に驚きを隠せない。

 

だが。

今は何も考えたくない。

・・・・パスだ。

 

 

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